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水の踊り子が愛する人
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「返事はしばらく考えてからでも……」
「はい」
「え?」
「私……結婚、したいです。碧さんと」
感極まって、波音の声が震える。碧もすぐに返事がもらえるとは思っていなかったらしく、しばし硬直した後に我に返り、波音をぎゅっと抱きしめた。波音も力を込めて抱きしめ返す。
「今日の公演が終わったら、ちゃんとお話しましょうね?」
「……ああ」
「それ、私の髪につけてください。水に入るので、外れないようにしっかり」
「……ああ」
「ふふ。さっきから、『ああ』しか言ってませんよ」
「分かってる。からかうな……」
碧の手が波音の頬と髪に触れ、髪飾りを左耳の上に固定した。そのまま顔を持ち上げられ、軽く触れるだけのキスをする。今までは疑問ともやもやが残ったそれも、恋人同士になった今は、ときめくだけだ。
「もうちょっと、キスしたいです……」
「アホか。煽るな」
「いたっ」
名残惜しさのあまり、波音が勇気を出してねだったというのに、碧は照れてしまい受け入れてくれなかった。そのうえで額を指で弾くのだから、意地悪なのは変わりない。
開演一分前の着席を促すアナウンスが流れ、波音は慌てて気持ちを入れ替えた。
「緊張はするだろうが、最初から完成形なんて意識しなくていい。思いっきり楽しんでこい」
「はい! 見ていてくださいね!」
「ああ」
波音は高台に登り、反対側に待機している美海と宇海に、身振り手振りで「頑張りましょう」というサインを送った。二人からも同じようなサインが帰ってきて、波音は笑顔で頷く。碧にもらった髪飾りに触れ、心臓の高鳴りを感じながら開演を待つ。
「――大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、開演いたします」
アナウンスの後、観客たちの拍手とともに、ステージ中央に巨大水槽が現れる。優雅な音楽が流れ始め、リズムをとって、波音たちは次々と水槽へと飛び込んだ。
水の中は、外の音がほとんど聞こえない。飛び込む前のリズムを把握したまま、動くしかないのだ。
(ワン、ツー、スリー、フォー……)
だが、それは何千回と練習したお陰で、波音たちの息はぴったりだった。地上ほど簡単には動けない水の中で、一定の場所に留まりながら踊るのには、とてつもない体力と肺活量が要る。特に、美海と宇海は水中で自由に動く訓練から始め、先日やっとその水準に達したのだ。
(碧さん見てて。私、楽しむから!)
人魚のように軽やかに旋回し、互いを押し上げて水上をジャンプする。双子のシンクロした動きに負けじと、波音も指先からつま先まで、その動く早さも角度も全て練習通りに揃えていく。
中盤は、水槽の中を踊りながら移動し、外側を向いて全ての観客に見えるようにダンスを披露する。水で屈折した景色の向こうで、観客が曲に合わせて手を叩いているのが分かり、波音はにっこりした。楽しくてたまらない。
最後に、三人で手を取り合ってポーズを決め、曲が終わるまでの約四分間を波音たちは踊りきった。
歓声が巻き起こっているのが、水槽の中まで振動で伝わってくる。波音たちが水面へと顔を出すと、「わー!」という声と拍手が耳をつんざいた。観客の前だというのにも関わらず、三人は互いを抱きしめて、成功を喜び合う。
「やったー! 成功ですよ!」
「楽しかった!」
「すごい! 鳥肌立ってる!」
照明が落とされ、水槽がリフトによって下降していく。それでもずっと、会場の拍手は鳴り止まなかった。
「はい」
「え?」
「私……結婚、したいです。碧さんと」
感極まって、波音の声が震える。碧もすぐに返事がもらえるとは思っていなかったらしく、しばし硬直した後に我に返り、波音をぎゅっと抱きしめた。波音も力を込めて抱きしめ返す。
「今日の公演が終わったら、ちゃんとお話しましょうね?」
「……ああ」
「それ、私の髪につけてください。水に入るので、外れないようにしっかり」
「……ああ」
「ふふ。さっきから、『ああ』しか言ってませんよ」
「分かってる。からかうな……」
碧の手が波音の頬と髪に触れ、髪飾りを左耳の上に固定した。そのまま顔を持ち上げられ、軽く触れるだけのキスをする。今までは疑問ともやもやが残ったそれも、恋人同士になった今は、ときめくだけだ。
「もうちょっと、キスしたいです……」
「アホか。煽るな」
「いたっ」
名残惜しさのあまり、波音が勇気を出してねだったというのに、碧は照れてしまい受け入れてくれなかった。そのうえで額を指で弾くのだから、意地悪なのは変わりない。
開演一分前の着席を促すアナウンスが流れ、波音は慌てて気持ちを入れ替えた。
「緊張はするだろうが、最初から完成形なんて意識しなくていい。思いっきり楽しんでこい」
「はい! 見ていてくださいね!」
「ああ」
波音は高台に登り、反対側に待機している美海と宇海に、身振り手振りで「頑張りましょう」というサインを送った。二人からも同じようなサインが帰ってきて、波音は笑顔で頷く。碧にもらった髪飾りに触れ、心臓の高鳴りを感じながら開演を待つ。
「――大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、開演いたします」
アナウンスの後、観客たちの拍手とともに、ステージ中央に巨大水槽が現れる。優雅な音楽が流れ始め、リズムをとって、波音たちは次々と水槽へと飛び込んだ。
水の中は、外の音がほとんど聞こえない。飛び込む前のリズムを把握したまま、動くしかないのだ。
(ワン、ツー、スリー、フォー……)
だが、それは何千回と練習したお陰で、波音たちの息はぴったりだった。地上ほど簡単には動けない水の中で、一定の場所に留まりながら踊るのには、とてつもない体力と肺活量が要る。特に、美海と宇海は水中で自由に動く訓練から始め、先日やっとその水準に達したのだ。
(碧さん見てて。私、楽しむから!)
人魚のように軽やかに旋回し、互いを押し上げて水上をジャンプする。双子のシンクロした動きに負けじと、波音も指先からつま先まで、その動く早さも角度も全て練習通りに揃えていく。
中盤は、水槽の中を踊りながら移動し、外側を向いて全ての観客に見えるようにダンスを披露する。水で屈折した景色の向こうで、観客が曲に合わせて手を叩いているのが分かり、波音はにっこりした。楽しくてたまらない。
最後に、三人で手を取り合ってポーズを決め、曲が終わるまでの約四分間を波音たちは踊りきった。
歓声が巻き起こっているのが、水槽の中まで振動で伝わってくる。波音たちが水面へと顔を出すと、「わー!」という声と拍手が耳をつんざいた。観客の前だというのにも関わらず、三人は互いを抱きしめて、成功を喜び合う。
「やったー! 成功ですよ!」
「楽しかった!」
「すごい! 鳥肌立ってる!」
照明が落とされ、水槽がリフトによって下降していく。それでもずっと、会場の拍手は鳴り止まなかった。
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