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本章
2 カーラの修行はアスパラガス
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◇ ◇ ◇
カーラが自分の能力に最初に目覚めたのは、四年前の六歳のときだった。
母が妊娠中ということもあり、たくさん甘えたかったけれど我慢しないといけないと分かっていたから、寂しいのが我慢出来なくなると、アーサーと一緒にアクアオッジ家にやってきた雌牛のミョルダのところに行って一緒に寝たりもした。
大好物のアスパラガス畑で遊ぶのは日課になった。父が家庭教師を受け持つ兄のアーサーやレイファは勉強時間も長く、必然的に暇な時間が多いカーラは一人で遊ぶことが多かったからだ。
料理長のアーバンが調理するためにアスパラガスを収穫しにくると、そのあとをカーラがピョンピョン飛び越え始めた。
アスパラガスもカーラに付き合ってくれているかのように生長する。ぎりぎり限界点の高さを毎日毎日飛び越えていると、飛ぶ高さが記録更新されるたびにカーラのスキルがピコンと鳴る。どうやらそれが楽しいらしい。
カーラの余りの跳躍ぶりに最初こそ仰天して腰を抜かしかけた料理長アーバンだったけれど、数日経つと当たり前の光景のように慣れ親しんでしまった。
食事の予算が少なくてほとんど肉を出せなかったから、このアスパラガスが食卓の主役だった。茹でたり焼いたり。毎日ものすごい量を収穫するけれどすぐにニョキニョキ萌芽して食べ頃になってくれる頼れる食材。
次にカーラが跳躍している場面に出くわしたのは両親と兄たちだった。みんながみんな、かつての料理長と同じように腰を抜かしかけたが、今や料理長はといえばピョンピョンとカーラが飛び越える傍ら、何食わぬ顔でアスパラガスを収穫していて、驚いているほうが何だか大げさな気がしてくる。
「まるでこの前おじい様にもらった絵本に出てくる『ニンジャー』みたいだよね、カーラは」
びっくりから立ち直ったアーサーがのんびりと口にするとレイファが頷いた。
「そうだね。非現実的なお話だと思ってたけど、あの絵本の『ニンジャー』の育成に使われていた麻と、カーラの成長過程に一役買ったアスパラガスが、奇しくも同じ効果を生み出してる?」
二人がしゃべっていると、母ののんびりした声が聞こえてくる。
「あらあら。どうしましょう」
お腹の大きい母が困ったように首を傾げた。ぎょっとしたのは父ザカリ―だ。もう五人も自分の子供を産んでくれている妻のアドリアナのお腹は、今までにない大きさだったからだ。
「どっどっどぅうしたんだ!?」
「母さま?大丈夫!?」
「あらあら。そんなに慌てないで?陣痛が始まっちゃったみたい」
男衆が全員固まった。カチンコチンになってしまった。
カーラはアスパラガスを飛び越える遊びに夢中で気が付いていないし。
「だっだっだっから、横になっておけと……」
「あらあら。だって妊娠は別に病気じゃないもの。まだ破水はしてないわ。じゃあゆっくり部屋に戻るわね。あなた手を貸して?アーサー、レイファ、カーラを頼むわね?アーバンはみんなのご飯よろしくね」
「「はいっ母さま」」
「はっ、はい奥様」
侍女兼メイド長のソフロニアと夫に手を取られながら、気丈に自室に戻った母アドリアナはこのあとすんなり双子を産んだ。産んだあとはちょっと寝たきりになっちゃったりもしたけれど。
きっとメリルがカニのように動きまくってじっとしてなかったから母さまも大変だったんだろう、ってベビーベッドに一人で寝かされているメリルを見ながら兄姉は思った。
赤ちゃんは天使だっていうけど、メリルの場合は……
( ^ω^)・・・カニにしか見えない。
最初双子は一つのベッドに寝かされていたんだけれど、寝てても起きててもメリルはずっとジタバタしていて、ゴツンゴツンぶつかられてウィルフレッドが泣き通しだったからだ。
そしてアクアオッジ家に双子がやってきたのは、カーラがアスパラガスを飛び越えていたせいだと、後々まで言われることになる。
カーラが自分の能力に最初に目覚めたのは、四年前の六歳のときだった。
母が妊娠中ということもあり、たくさん甘えたかったけれど我慢しないといけないと分かっていたから、寂しいのが我慢出来なくなると、アーサーと一緒にアクアオッジ家にやってきた雌牛のミョルダのところに行って一緒に寝たりもした。
大好物のアスパラガス畑で遊ぶのは日課になった。父が家庭教師を受け持つ兄のアーサーやレイファは勉強時間も長く、必然的に暇な時間が多いカーラは一人で遊ぶことが多かったからだ。
料理長のアーバンが調理するためにアスパラガスを収穫しにくると、そのあとをカーラがピョンピョン飛び越え始めた。
アスパラガスもカーラに付き合ってくれているかのように生長する。ぎりぎり限界点の高さを毎日毎日飛び越えていると、飛ぶ高さが記録更新されるたびにカーラのスキルがピコンと鳴る。どうやらそれが楽しいらしい。
カーラの余りの跳躍ぶりに最初こそ仰天して腰を抜かしかけた料理長アーバンだったけれど、数日経つと当たり前の光景のように慣れ親しんでしまった。
食事の予算が少なくてほとんど肉を出せなかったから、このアスパラガスが食卓の主役だった。茹でたり焼いたり。毎日ものすごい量を収穫するけれどすぐにニョキニョキ萌芽して食べ頃になってくれる頼れる食材。
次にカーラが跳躍している場面に出くわしたのは両親と兄たちだった。みんながみんな、かつての料理長と同じように腰を抜かしかけたが、今や料理長はといえばピョンピョンとカーラが飛び越える傍ら、何食わぬ顔でアスパラガスを収穫していて、驚いているほうが何だか大げさな気がしてくる。
「まるでこの前おじい様にもらった絵本に出てくる『ニンジャー』みたいだよね、カーラは」
びっくりから立ち直ったアーサーがのんびりと口にするとレイファが頷いた。
「そうだね。非現実的なお話だと思ってたけど、あの絵本の『ニンジャー』の育成に使われていた麻と、カーラの成長過程に一役買ったアスパラガスが、奇しくも同じ効果を生み出してる?」
二人がしゃべっていると、母ののんびりした声が聞こえてくる。
「あらあら。どうしましょう」
お腹の大きい母が困ったように首を傾げた。ぎょっとしたのは父ザカリ―だ。もう五人も自分の子供を産んでくれている妻のアドリアナのお腹は、今までにない大きさだったからだ。
「どっどっどぅうしたんだ!?」
「母さま?大丈夫!?」
「あらあら。そんなに慌てないで?陣痛が始まっちゃったみたい」
男衆が全員固まった。カチンコチンになってしまった。
カーラはアスパラガスを飛び越える遊びに夢中で気が付いていないし。
「だっだっだっから、横になっておけと……」
「あらあら。だって妊娠は別に病気じゃないもの。まだ破水はしてないわ。じゃあゆっくり部屋に戻るわね。あなた手を貸して?アーサー、レイファ、カーラを頼むわね?アーバンはみんなのご飯よろしくね」
「「はいっ母さま」」
「はっ、はい奥様」
侍女兼メイド長のソフロニアと夫に手を取られながら、気丈に自室に戻った母アドリアナはこのあとすんなり双子を産んだ。産んだあとはちょっと寝たきりになっちゃったりもしたけれど。
きっとメリルがカニのように動きまくってじっとしてなかったから母さまも大変だったんだろう、ってベビーベッドに一人で寝かされているメリルを見ながら兄姉は思った。
赤ちゃんは天使だっていうけど、メリルの場合は……
( ^ω^)・・・カニにしか見えない。
最初双子は一つのベッドに寝かされていたんだけれど、寝てても起きててもメリルはずっとジタバタしていて、ゴツンゴツンぶつかられてウィルフレッドが泣き通しだったからだ。
そしてアクアオッジ家に双子がやってきたのは、カーラがアスパラガスを飛び越えていたせいだと、後々まで言われることになる。
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