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本章
8 モフモフ天国
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「やあカーラ。香草はどうだったかな?」
「エルネステイル。昨日ぶりー。香草茶飲んでみたらとっても美味しかったよー。苗のほうは温室で育てるって庭師さんが言ってた」
エルネステイルと呼ばれた長身の男がカーラに極上の微笑みを投げかける。真っすぐで長い銀髪を持ち透き通る蒼い目をした、誰もが目を奪われる美形だった。
背後には道具屋と書かれた看板付きの小屋が見える。
いつもそうだった。彼が現れると急勾配の大きな三角屋根の建物も一緒に出現する。納屋付きの割と立派な建物だ。直前まで森の中には人工物など見当たらなかったのに。
仕組みは分からないけれど、何かしらの結界が張られているんだろうか。いやいや、それ以前にこんなところに道具屋開いたってお客さん来ないんじゃない?あ、でもわたしが来てるか。
「皆カーラを待ってたよ。お入り」
「ありがとうー」
エルネステイルが入口の扉を開いてくれたので、カーラは室内に足を踏み入れる。
板張りの床には絨毯が敷かれていて雰囲気がとても優しい。大きい窓から日の光が入ってきて室内はとても明るく、窓の下には年代物の重厚なチェストがあって、果物籠や読めない文字で書かれた本が何冊か置かれ、銀器とガラスの花瓶もあって、アクアオッジ領では見かけない花が活けてあった。
室内でまず目に入るのは大きな暖炉だ。今は夏なので火は入っていないけれど、そのそばには間接照明のライトとサイドテーブルがあって、鳥かごが置いてある。かごの中にはとても鮮やかな美しい青い鳥が、まるでカーラに挨拶するかのようにさえずっていた。
「セラフィーナ昨日ぶりー」
鳥かごに近づいてカーラが青い鳥に挨拶していると、黒猫がニャーンと鳴いて匂いをくんくん嗅ぎながら脚にすりすりとすり寄ってくる。
「あはは、シャルタン。くすぐったーい。あとで遊ぼ―」
暖炉の反対側の壁は一面棚になっていて、沢山の薬瓶が所狭しと並んでいる。薬屋といっても差し支えないレベルの品揃えだった。
横の調合台にはいろんな秤やハーブクラッシャーやすり鉢、水差しが置かれていて、どの道具も使い込まれているのがよく分かる。
カウンターには薬包紙の入っている収納箱があり、棚の一部にはお得意さんの名前らしきものがいくつか書かれ、カーラの心配をよそにちゃんとお客さんも来ているらしい。
「お茶を淹れるから適当に座ってて」
「はあーい」
エルネステイルが奥の台所に行って姿が見えなくなると、カーラは円形の大きなテーブルの周りに置かれている布張りのソファの一つにうんしょと腰かける。大人用の椅子なので座るのには少しコツがいった。いかにも年代物のソファだけれど張ってある布は新品でスベスベしてるし座り心地はとてもよくて、すっかりお気に入りの椅子だった。
すると天井から手のひらくらいの大きさの、フワフワモコモコした白いものが下りてきて、肩に器用に乗っかって止まった。
「毛玉ちゃん、今日もふわっふわのモッコモコだねー」
カーラの言葉に気を良くしたのか、肩を起点にフワフワと浮いては肩に戻るのを繰り返す。タンポポの綿毛のような毛がその都度頬にふんわり当たって、カーラは笑ってしまう。
「あはは、くすぐったいー」
そのときロッキングチェアがギィときしむ音を立てて揺れた。
フンフンと匂いを嗅ぎながらチェアに置かれたクッションの上に白い一角ウサギが乗っかって身体をひねりながら毛づくろいをし始める。
「レベッカ、いたんだねー」
そりゃいますよ。そう言わんばかりに鼻を鳴らしながらも一角ウサギは毛づくろいを続けた。
はうあ~……どうです、ここがモフモフ天国です。誰が聞いているわけでもないのだが、カーラはむふーんとひとりごちる。こんな天国あったら場所に難点があっても来ちゃうよねえ。
「エルネステイル。昨日ぶりー。香草茶飲んでみたらとっても美味しかったよー。苗のほうは温室で育てるって庭師さんが言ってた」
エルネステイルと呼ばれた長身の男がカーラに極上の微笑みを投げかける。真っすぐで長い銀髪を持ち透き通る蒼い目をした、誰もが目を奪われる美形だった。
背後には道具屋と書かれた看板付きの小屋が見える。
いつもそうだった。彼が現れると急勾配の大きな三角屋根の建物も一緒に出現する。納屋付きの割と立派な建物だ。直前まで森の中には人工物など見当たらなかったのに。
仕組みは分からないけれど、何かしらの結界が張られているんだろうか。いやいや、それ以前にこんなところに道具屋開いたってお客さん来ないんじゃない?あ、でもわたしが来てるか。
「皆カーラを待ってたよ。お入り」
「ありがとうー」
エルネステイルが入口の扉を開いてくれたので、カーラは室内に足を踏み入れる。
板張りの床には絨毯が敷かれていて雰囲気がとても優しい。大きい窓から日の光が入ってきて室内はとても明るく、窓の下には年代物の重厚なチェストがあって、果物籠や読めない文字で書かれた本が何冊か置かれ、銀器とガラスの花瓶もあって、アクアオッジ領では見かけない花が活けてあった。
室内でまず目に入るのは大きな暖炉だ。今は夏なので火は入っていないけれど、そのそばには間接照明のライトとサイドテーブルがあって、鳥かごが置いてある。かごの中にはとても鮮やかな美しい青い鳥が、まるでカーラに挨拶するかのようにさえずっていた。
「セラフィーナ昨日ぶりー」
鳥かごに近づいてカーラが青い鳥に挨拶していると、黒猫がニャーンと鳴いて匂いをくんくん嗅ぎながら脚にすりすりとすり寄ってくる。
「あはは、シャルタン。くすぐったーい。あとで遊ぼ―」
暖炉の反対側の壁は一面棚になっていて、沢山の薬瓶が所狭しと並んでいる。薬屋といっても差し支えないレベルの品揃えだった。
横の調合台にはいろんな秤やハーブクラッシャーやすり鉢、水差しが置かれていて、どの道具も使い込まれているのがよく分かる。
カウンターには薬包紙の入っている収納箱があり、棚の一部にはお得意さんの名前らしきものがいくつか書かれ、カーラの心配をよそにちゃんとお客さんも来ているらしい。
「お茶を淹れるから適当に座ってて」
「はあーい」
エルネステイルが奥の台所に行って姿が見えなくなると、カーラは円形の大きなテーブルの周りに置かれている布張りのソファの一つにうんしょと腰かける。大人用の椅子なので座るのには少しコツがいった。いかにも年代物のソファだけれど張ってある布は新品でスベスベしてるし座り心地はとてもよくて、すっかりお気に入りの椅子だった。
すると天井から手のひらくらいの大きさの、フワフワモコモコした白いものが下りてきて、肩に器用に乗っかって止まった。
「毛玉ちゃん、今日もふわっふわのモッコモコだねー」
カーラの言葉に気を良くしたのか、肩を起点にフワフワと浮いては肩に戻るのを繰り返す。タンポポの綿毛のような毛がその都度頬にふんわり当たって、カーラは笑ってしまう。
「あはは、くすぐったいー」
そのときロッキングチェアがギィときしむ音を立てて揺れた。
フンフンと匂いを嗅ぎながらチェアに置かれたクッションの上に白い一角ウサギが乗っかって身体をひねりながら毛づくろいをし始める。
「レベッカ、いたんだねー」
そりゃいますよ。そう言わんばかりに鼻を鳴らしながらも一角ウサギは毛づくろいを続けた。
はうあ~……どうです、ここがモフモフ天国です。誰が聞いているわけでもないのだが、カーラはむふーんとひとりごちる。こんな天国あったら場所に難点があっても来ちゃうよねえ。
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