私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
104 / 164
学園

17

しおりを挟む

 一瞬にしてディスター城に到着!!
 みんなお邪魔しまーすと挨拶をして、城を興味深そうに眺める。お父様は仕事ガンバッテね。「そんなー!」


「ガイラードさん。お久しぶりです!」
「ああ、アシュレイ。鍛錬は続けているか?」
「はい!後ほどお手合わせお願いします!!」

 おっとガイラード登場。折角なので男性陣は兵士の訓練に参加するらしい。では女性陣はこちら、私のお部屋にご案内!


「わあ…お部屋の装飾も、王国とは全然違いますね!」

 目を輝かせるミーナの影をじっと見つめる。動いた…いるな?そろっと近寄り、影を繋げる。

『ミーナ様いる所に影いますでーす!ていうかなんでシャリオン家に来てくれなかったんですかー!?』

 だってー。まあ好きに見て回ってよ。
 アンリエッタとドロシーも入り、こちらは女子トークを楽しむ。主に水着の相談だが。


「何よこれ!?ほとんど下着じゃないの!」
「水着だもん。リリーはこっちのビキニ似合うと思うよ~」

 うーん、赤面するリリー可愛い。というかここには現在、タイプの違う美女美少女大集合で眼福眼福。それぞれに似合いそうな水着を用意するのたーのしーい!


 海に向かうのは明日、滞在予定は2週間。それ以上は転移の魔法陣を維持してる人が干からびかねない。



 お昼の時間になり男子チームと合流。みんなボロボロになっており、アルは魂が抜けている。

「僕、武術は専門外なのに…」
「アルビー、大丈夫…?」
「うん♪」

 いやリリーに膝枕されてめっちゃ鼻の下伸ばしてる。放っておこう。
 ってトレイシーは?デメトリアスとティモも見当たらないけど。

「会長ならガイラードさんに捕まってる。デメトリアス殿下は自主的に残ってるみたいだな」

 ふむ…気になるので、みんなにはランチにしてもらって1人で練武場に向かった。そこには…



「うおっ!?やべっ、はええ!!」
「…!重い、やるな!!」

 トレイシーは自慢の戦斧を振り回し、短剣のガイラードと一進一退の攻防を繰り広げている。頑丈だな、あの短剣。

 ガギン!ヒュッ、ガァンッ!と、斧を振る度風圧が凄まじい。トレイシーって本当に人間かな?
 …逞しい太い腕、長い四肢。戦闘時の獣のような目に、汗を拭う仕草…格好いいと思ってしまう。…っといかん、見惚れてる場合じゃないわ。


「…………」

 離れた所にデメトリアス発見。背中にティモをくっ付け拳を握り、2人を睨んでいる。


「ひー、魔族半端ねえ」
「いや、お前も人間とは思えない強さだった」

 ガイラード達は健闘を称え合う。ん…そこにデメトリアスが近付き…トレイシーに何か言って…すごすご去って行く…?


「彼、今なんて言ってたの?」
「ん、お嬢か。いや…強さを求める理由を聞かれた」

 まだ聞いて回ってんのかい。で、なんて答えた?

「生きるため」

 …そっか。


「しかしアシュリィ様。やはり彼は惜しいですね。自分の強みが分かれば、もっと強くなれるでしょうに」

 え、デメトリアスの事?どうやら彼は基礎や体力、身体能力は素晴らしいと。
 そしてガイラードの見立てでは…剣よりも、槍なんかの長物の方が合っているのではないかとな?

 でもなー。目立ちたがりで格好つけの奴だ。槍は地味とか思ってんじゃ…………そうだ!!


 思い付いた、デメトリアスにぴったりな武器!!ようし、壊れた剣とか集めて…錬成!


「これは…槍ですか?」
「こっち側は斧っぽいな」


 うっふっふ。これは…ハルバードだ!!!


 懐かしいなあ、愛斗がハマったバトル漫画の主人公が使ってたんだよなあ。
 基本的には先端の槍部分による突きで、状況によって横の斧の部分で叩き割る戦法も。斧の反対側、鎌で敵を引っ掛ける事も可能。
 しかし扱いが難しいらしく、作ったはいいが使えるかなあ?一応刃は潰してある。

「貸してみ。…ふーん、こりゃいい」

 トレイシーが奪い、ヒュンヒュン振ってみせる。簡単に使い方を説明するが、結構サマになってるわ。

「うし。ガイラード、いっちょ相手頼む。お嬢は殿下を呼んで来てくれ」


 任せろ。彼が去って行った方向を追うと…いた。人気の無い洗濯場の裏で、剣を振り回している。
 特訓を見られたくないだろうし、ここは演技しますかね。


「デメトリアス~、どーこー?デ~メ~メーデーメーデー」


 わざと大声で呼べば、彼は剣を放り投げて平静を装った。
 頃合いを見て「いた!」と近付く。なんか用かと睨まれたので、有無を言わさず連行した。

「貴様、なんのつもりだ!?」
「いーから来なさいっての」


 練武場に戻るとトレイシーはすぐ気付き、ちょっと見てろと言う。
 お?ガイラードは剣に持ち替え…2人は同時に地面を蹴った。

「はっ!」
「っくぅ…!」

 トレイシーの鋭い突きをガイラードが剣で受け止め、素早く回り込み距離を詰める。
 だが柄をぶん回し剣を払い、そのまま後退った。
 もう1度ガイラードが迫るも、今度は斧のように振り下ろす。間一髪避け、剣がトレイシーの喉元に…!

「おっとお!」

 す、すげえ!避けて突いて薙いで飛んで殴って、ハイレベルな戦いが目の前で!思わず手に汗握る名試合!!
 最終的にはガイラードの勝利に終わるも、大健闘だよトレイシー!?


「すごい…!」

 デメトリアスも目を輝かせている。これは…いい傾向か…!?

「ふー」

 トレイシーは荒れた呼吸を整えてから、デメトリアスに武器を差し出した。

「殿下。こちらの武器は…アシュリィ様が貴方へとこしらえた物です」
「は…?貴様が、俺様に…?」

 イエス。余計な事するな!とか文句でも言われるかと思ったけど…デメトリアスは素直に受け取った。ちょっとびっくり。


「…これはハルバードって武器だよ。使い方は…」

 私が説明して、トレイシーが実際に振ってみせる。
 次、振ってみるよう渡すと…


「ふっ!!…はあっ!」
「「おお~~~!」」

 パチパチパチ、思わず拍手してしまう。すごいじゃん、形になってる!
 ランチを終えた面子もやって来て、ハルバードを見てテンションアゲアゲ、男の子よの~。
 アシュレイが相手して、ルーデンも指導してくれて。アルはあっさり負けて、女の子は応援をする。

 少し仲良くなれた気がする。実は無理矢理連れて来ちゃったの、悪かったなーと思ってたけど。予定あったかもしれないのに来てくれて、本当は優しい人なのかな…?

「ん?」

 ティモが袖を引っ張る。筆談か、何…


【ありがとうございます。デムのあんなに楽しそうな顔は初めて見ました】


 デム?彼はそれだけ見せると、頭を下げて離れた。
 ただの従者にしては…随分と砕けてるな…?


 私の困惑など関係なく、デメトリアス達は楽しそう。
 どうやら今後はトレイシーを師とする方向のようで、アシュレイと兄弟弟子ですね!と笑い合っている。


「素敵です、デメトリアス殿下」
「リリーナラリス嬢。どうだ?俺様に惚れ直したか?」
「最初っから惚れてないよっ!!」

 あっ。アルの踵落としが炸裂した!その時、デメトリアスと目が合った。なんとなく、逸らさずにいたら…


 ありがとう


 と、彼の唇が動いた。
 見間違いかと思ったが、珍しく赤面しているので正しいのだろう。

「…何笑ってんだ、お前?」
「んー?ひみつ!」




 夜、デメトリアスが1人でいるのを発見した。
 星を眺めているようで、寝巻き姿で外にいたのだ。

 わざと足音を立てながら近付く。一瞥されるも、彼は動かない。

「「…………」」

 並んで空を見上げる。今までなら「用が無ければ失せろ」くらい言われてたろうに。



「…美しい星空だな」
「うん、私もそう思う。
 …前にも聞いたけどさ。どうして貴方は強くなりたいの?」


 今なら素直に教えてくれそうな気がした。
 彼は剣だけでなく、魔法でも1番を目指そうとしている。んなモン土台無理な話。超強いトレイシーだって魔法はからっきし。どうして、そこまで?


「…俺様からも質問だ。お前は従者達をどう思っている」

 なんじゃそら。前にも言ったけど、馬鹿にするなら貴方相手でも許さない。私にとって大切な部下で、家族で、友人なんだから。


「…俺様はな。最初貴様は奴隷を好む女だと思った」
「はあっ!?」

 見直したと思ったら、何を言うか!!
 反射的に胸倉を掴むも、デメトリアスは一切表情を変えない。
 ……落ち着け、私。もういい大人なんだから…冷静に続きを促す。


「知っているだろう。獣憑きとは迫害されるか、ほぼ愛玩用の奴隷だ。
 だから…貴様は他人から趣味だと思われているぞ」
「…あ!貴方初めてパリスを見た時に顔を歪めたの…そのせい!?」
「よく覚えているな」


 ま じ か !
 じゃあ私、奴隷を連れ歩く嫌な女だと思われてる!?

「少なくとも俺様はそう感じた。魔族殿は随分悪趣味だな、と」
 
 うわ、へこむ…!街を歩いてる時、たまーに嫌な視線を感じたのもそのせいか!!
 パリスには不快な思いをさせていたんだな…謝らないと…

 でもあの子を隠すような真似をしたくなかった。私の…可愛い従者なんだもの。

「守っているつもりだったけど…自己満足だったのかな…」
「…俺も…」
「え?」
「最初は。ただ…ティモを守れる強さが欲しかった。それだけだった、はずなんだ」

 それがどうしてこうなったんだろうな、と彼は自嘲気味に笑った。その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。

 それ以上は何も語らず城に入って行った。ほんの少しだけ…彼の本心が垣間見えた、かな…
 私も戻ろう…




「パリス~!!今までごめん!!」
「へあ?どうしたんですか…?」

 寝る前に、パリスを抱き締めながら謝罪する。事情を話すとパリスは軽快に笑った。なんで!?

「…貴女と出会うまでは、沢山嫌な思いをしてきました。苦しい、死にたい、生まれてきたくなかった。そんな事ばかり。
 でも今は…貴女が可愛いと言ってくれるから。この姿で生まれて良かったとすら思っています。
 それに不快感なんて一切ありません。他人の視線なんてどうでもいいんです。
 ぼくを守ってくれる貴女が。一緒にいてくれるアイルちゃんとララちゃんがいるから。ぼくは今、とっても幸せです!」
「パ、パリスぅ~!」

 うわあああん!と情けなくも泣いてしまった。
 まだまだ子供だと思ってたけど…こんなに立派になってえ~!!

 ありがとう、私の大好きな友達。これからもよろしくね!

 それに客観的視点を教えてくれたデメトリアスにも、お礼を言わなきゃね。きっと「なんの事だ?」ってとぼけるかもしれないけど。


 次の日、早速デメトリアス発見!


「おはよう、デメトリアス」
「ああ、おはようアシュリィ」
「…昨日はありがとう。」
「ふん、なんの事か分からないな」


 やっぱり!分かりやすいな貴方は!

 …ん?今、初めて名前を呼ばれた気がする。



「な、なな…!アシュリィ、いつの間に殿下と…!?」


 あ、いたんだアシュレイ。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...