私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 開始の合図なんてない。互いに名乗りをした直後、オレはアルの強化を受けて地面を蹴った。

「おおおおおっ!!!!」
「(これは…)ふっ!!」

 流石に惑わされねえか!!
 オレが突っ込むと見せかけてリリーが魔法で先制攻撃!!


 ガガガガガッ!!!


 ディーデリックの足下から、鋭利な岩がいくつも飛び出るが、軽やかに飛んで逃げられた。

「やるわね。アルビー!」
「オッケー!『時の鎖』!」

 空中に逃げたディーデリックを、アルが生み出した黄金の鎖が拘束する。
 だが…いとも簡単に砕いてしまう、予想内だ!

 元より魔族を捕らえられると思っちゃいねえ。一瞬でも動きを止められりゃ、やりようはある!!
 オレも空を飛び、ディーデリックの懐に入る。

「遅い!!」
「知ってらあっ!!」

 双剣がオレを捉える。盾で受け止めるが、空中戦は圧倒的に不利!
 でも…!オレは引けねえ…!
 辛うじて横に流したが、向こうはすぐに体勢を立て直す。まず右からの剣を盾で受け、左を剣で弾く!

「(重い…!称号の効果は予想以上だな、だが!)」
「ぐ、ぅ…!」

 これは…重力操作か、地面に叩き付けられる…!


「リリス、お願い!」
「『ブルークッション』!」

 地面に青くてデカい塊が出現、オレはソイツに落下、ぼよよんと受け止められた。
 直後…ディーデリックが動いた。リリーに狙いを定め…彼女の腕を掴もうと手を伸ばす!

「させねえ!!」
「っ!!!」


 ガギィンッ!! 斧と双剣が打つかり火花が散る。

「そうか、お前もいたか」
「おうよっ!!」

 トレイシーはその巨大な斧を、まるで木の枝のように振り回す。
 激しい剣戟に、離れているオレまで肌が刺激される。

 短期決戦型のトレイシーは息が切れ始めている…が。
 彼がディーデリックを釘付けにしてくれたお陰で、アルの魔法が準備できた。


「行くよ…『神光決裁』!!」

 言霊と同時に、グラウンドを眩い光が包む。

「ぎゃあああ!目があああ!!」
「なんでレイもダメージ受けてんの!!このお馬鹿っ!」

 だって、うっかり2人の戦いに魅入ってて…!
 この魔法は最上級で、術者が光に触れた者の中で対象を選んで攻撃する。ビームみたい!…ってアシュリィが言っていたな。
 だからオレにとっては、ただ眩しいだけ。でも目ぇ閉じんの忘れてた!


「…中々やるな」
「うっそー、僕の全力だったのに」

 光が落ち着いた頃か…ディーデリックの変わらない声が響いた。
 霞む目でなんとか見ると…服は多少破けているが、ピンピンしてる…!

 対してアルは大量の汗をかき、肩で息をしている。

「無傷ではない、直前に同等の魔法を使って相殺しただけだ。殺しきれなかったけどな」

 よし復活!アルの前に移動、盾を構える。
 がディーデリックの強力な蹴りにより、揃って真後ろに吹っ飛ばされた。


「ぐ…!うりゃっ!!」

 アルを潰さねえよう身体を捻り場所を移動、盾を後ろに突き出す。
 結界にぶち当たり停止したが、やば、腕を痛めた!

「待ってて」

 アルは魔力回復の丸薬を齧り、治癒を掛けてくれる。礼を言う暇もねえ、リリーとトレイシーが危ねえ!


「うらああああっ!!!」

 わっぷ!トレイシーの斧が、地面を抉っている。
 彼も丸薬を食ったのか、再びフルパワーで斧を振るっていた。

「スキル:捕捉追跡発動!ターゲット『ディーデリック』、『糊アタック』!!」


 魔法でディーデリックを倒すのは不可、そう判断し。魔法担当アルとリリーはオレ達のサポートに回る。

 なんとも間抜けな言霊だが、効果は絶大だ。
 大量の糊がディーデリックの身体を包み、動きを鈍らせる…その隙にオレが…!


「きゃあっ!!」

 あっ!あれは以前見た…地面をせり上げ、リリーが捕らえられた!!

「悪いな、お前は寝てなさい」
「あ…」
「リリスッ!!!」

 ディーデリックが土の塊を走ってリリーの元へ辿り着き、彼女の額を撫でた。
 するとフッ…と意識を失い、ディーデリックの腕の中に倒れ込む。


「リリスを返して、ディーデリック!!」
「もちろん」

 アルが飛びかかろうとするのをなんとか阻止。リリーは寝てるだけだ!と落ち着かせる。

 確か眠りの魔法は…術者よりレベルが低い者にしか効かない。
 ただ発動には、相手の肌に触れる必要がある。だからこそ気を付けてたんだが、仕方ない。


「グレフィール様、彼女を頼む」
「よかろう」

 ディーデリックはリリーをドラゴンに託し、次はアルを狙う!
 リリーに対するのと違い、容赦なく攻撃かましてくるがな!!双剣がアルの頬を掠め、ヒュッと喉を鳴らしている。

「っぶな~!レイ、トレイシー!」
「「おう!!!」」

 ここでアルも脱落したら、オレ達に勝ち目は無え!!
 オレが間に入り、ディーデリックの攻撃を全て受ける!


「アシュレイ!!お前の耐久は厄介だが、所詮人の範疇だ!」

 くぁ…!アルは双剣に風を纏わせ、一撃がまるで竜巻レベルだ。
 アルが後ろから魔法をぶつけて威力を抑えてなけりゃ、オレとトレイシーはとっくに八つ裂きだ。
 それでも防ぎきれずに、全身を細かい刃で刻まれている感覚がする。


「そうだ…オレはただの人間だからな!」

 
 1人では魔族にも立ち向かえない、弱い存在だ。だからこそ…仲間の力を借りてあんたを倒す!!

 双剣から繰り出される斬撃。まるで…あの時アシュリィと魔王陛下と共に、リンベルドを相手した日を思い出す。
 アシュリィ…いつも強い彼女の涙を初めて見た。


「もう泣かせたくない…オレは彼女を支えられる男になりたい…!!」

 守れる男、と言えないのは情けないが!


 体力が半分を切り、耐久スキルが発動し防御が強化された。

「トレイシー!!攻撃は全てオレとアルが受ける、ぶちかませっ!!」
「はいよっ!!」
「……!!」

 回復はしない、したら圧されちまう!!
 トレイシーもある程度は自衛しているが、オレが踏ん張らねえと…!


 長いようで一瞬の攻防。

「があっ!!?」
「会長っ!!」

 トレイシーの、腕が斬り落とされた!まずい、下がれ!!

「…はっ!冗談、ここからが本番だ…!」

 何が…うわっ!?
 斧を掴んだままの腕が、ディーデリックに向かう!?怖っ!


「スキル:仇討ち発動だ。行け大将!!」

 !!トレイシーは歯を食い縛って耐えている…待ってろ!
 剣を置いて飛び、斧を掴む!軽い…借りるぞ!



「な…っ!」
「おらあああぁっ!!!」


 なんだ…?攻撃1000上昇の剣を捨てたのに、むしろ威力が上がっているような。
 あ…これ、斧のパワーにトレイシーの攻撃値が上乗せされてる。スキルの効果か…!


「チッ!」

 ディーデリックが顔を歪めた、もうひと押し!!
 だがアルはオレを守るので手一杯だ。なら…



「『強化』」


 これは…!

「私ばっかり…寝てられないでしょ…っ!」
「リリー!」

 更に体力が20%を切り、素早さが上昇。これが、最後だ!!


「行くぞディーデリック!!」
「ああ…来いっ!!」


 オレはすでに満身創痍、だが奴も汗をかき呼吸を乱している。
 最初で最後のチャンスだ。大きく斧を振りかぶり…


 ディード目掛けて、オレたちの全てを叩き込んだ。

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