130 / 164
学園
43
しおりを挟む開始の合図なんてない。互いに名乗りをした直後、オレはアルの強化を受けて地面を蹴った。
「おおおおおっ!!!!」
「(これは…)ふっ!!」
流石に惑わされねえか!!
オレが突っ込むと見せかけてリリーが魔法で先制攻撃!!
ガガガガガッ!!!
ディーデリックの足下から、鋭利な岩がいくつも飛び出るが、軽やかに飛んで逃げられた。
「やるわね。アルビー!」
「オッケー!『時の鎖』!」
空中に逃げたディーデリックを、アルが生み出した黄金の鎖が拘束する。
だが…いとも簡単に砕いてしまう、予想内だ!
元より魔族を捕らえられると思っちゃいねえ。一瞬でも動きを止められりゃ、やりようはある!!
オレも空を飛び、ディーデリックの懐に入る。
「遅い!!」
「知ってらあっ!!」
双剣がオレを捉える。盾で受け止めるが、空中戦は圧倒的に不利!
でも…!オレは引けねえ…!
辛うじて横に流したが、向こうはすぐに体勢を立て直す。まず右からの剣を盾で受け、左を剣で弾く!
「(重い…!称号の効果は予想以上だな、だが!)」
「ぐ、ぅ…!」
これは…重力操作か、地面に叩き付けられる…!
「リリス、お願い!」
「『ブルークッション』!」
地面に青くてデカい塊が出現、オレはソイツに落下、ぼよよんと受け止められた。
直後…ディーデリックが動いた。リリーに狙いを定め…彼女の腕を掴もうと手を伸ばす!
「させねえ!!」
「っ!!!」
ガギィンッ!! 斧と双剣が打つかり火花が散る。
「そうか、お前もいたか」
「おうよっ!!」
トレイシーはその巨大な斧を、まるで木の枝のように振り回す。
激しい剣戟に、離れているオレまで肌が刺激される。
短期決戦型のトレイシーは息が切れ始めている…が。
彼がディーデリックを釘付けにしてくれたお陰で、アルの魔法が準備できた。
「行くよ…『神光決裁』!!」
言霊と同時に、グラウンドを眩い光が包む。
「ぎゃあああ!目があああ!!」
「なんでレイもダメージ受けてんの!!このお馬鹿っ!」
だって、うっかり2人の戦いに魅入ってて…!
この魔法は最上級で、術者が光に触れた者の中で対象を選んで攻撃する。ビームみたい!…ってアシュリィが言っていたな。
だからオレにとっては、ただ眩しいだけ。でも目ぇ閉じんの忘れてた!
「…中々やるな」
「うっそー、僕の全力だったのに」
光が落ち着いた頃か…ディーデリックの変わらない声が響いた。
霞む目でなんとか見ると…服は多少破けているが、ピンピンしてる…!
対してアルは大量の汗をかき、肩で息をしている。
「無傷ではない、直前に同等の魔法を使って相殺しただけだ。殺しきれなかったけどな」
よし復活!アルの前に移動、盾を構える。
がディーデリックの強力な蹴りにより、揃って真後ろに吹っ飛ばされた。
「ぐ…!うりゃっ!!」
アルを潰さねえよう身体を捻り場所を移動、盾を後ろに突き出す。
結界にぶち当たり停止したが、やば、腕を痛めた!
「待ってて」
アルは魔力回復の丸薬を齧り、治癒を掛けてくれる。礼を言う暇もねえ、リリーとトレイシーが危ねえ!
「うらああああっ!!!」
わっぷ!トレイシーの斧が、地面を抉っている。
彼も丸薬を食ったのか、再びフルパワーで斧を振るっていた。
「スキル:捕捉追跡発動!ターゲット『ディーデリック』、『糊アタック』!!」
魔法でディーデリックを倒すのは不可、そう判断し。魔法担当はオレ達のサポートに回る。
なんとも間抜けな言霊だが、効果は絶大だ。
大量の糊がディーデリックの身体を包み、動きを鈍らせる…その隙にオレが…!
「きゃあっ!!」
あっ!あれは以前見た…地面をせり上げ、リリーが捕らえられた!!
「悪いな、お前は寝てなさい」
「あ…」
「リリスッ!!!」
ディーデリックが土の塊を走ってリリーの元へ辿り着き、彼女の額を撫でた。
するとフッ…と意識を失い、ディーデリックの腕の中に倒れ込む。
「リリスを返して、ディーデリック!!」
「もちろん」
アルが飛びかかろうとするのをなんとか阻止。リリーは寝てるだけだ!と落ち着かせる。
確か眠りの魔法は…術者よりレベルが低い者にしか効かない。
ただ発動には、相手の肌に触れる必要がある。だからこそ気を付けてたんだが、仕方ない。
「グレフィール様、彼女を頼む」
「よかろう」
ディーデリックはリリーをドラゴンに託し、次はアルを狙う!
リリーに対するのと違い、容赦なく攻撃かましてくるがな!!双剣がアルの頬を掠め、ヒュッと喉を鳴らしている。
「っぶな~!レイ、トレイシー!」
「「おう!!!」」
ここでアルも脱落したら、オレ達に勝ち目は無え!!
オレが間に入り、ディーデリックの攻撃を全て受ける!
「アシュレイ!!お前の耐久は厄介だが、所詮人の範疇だ!」
くぁ…!アルは双剣に風を纏わせ、一撃がまるで竜巻レベルだ。
アルが後ろから魔法をぶつけて威力を抑えてなけりゃ、オレとトレイシーはとっくに八つ裂きだ。
それでも防ぎきれずに、全身を細かい刃で刻まれている感覚がする。
「そうだ…オレはただの人間だからな!」
1人では魔族にも立ち向かえない、弱い存在だ。だからこそ…仲間の力を借りてあんたを倒す!!
双剣から繰り出される斬撃。まるで…あの時アシュリィと魔王陛下と共に、リンベルドを相手した日を思い出す。
アシュリィ…いつも強い彼女の涙を初めて見た。
「もう泣かせたくない…オレは彼女を支えられる男になりたい…!!」
守れる男、と言えないのは情けないが!
体力が半分を切り、耐久スキルが発動し防御が強化された。
「トレイシー!!攻撃は全てオレとアルが受ける、ぶちかませっ!!」
「はいよっ!!」
「……!!」
回復はしない、したら圧されちまう!!
トレイシーもある程度は自衛しているが、オレが踏ん張らねえと…!
長いようで一瞬の攻防。
「があっ!!?」
「会長っ!!」
トレイシーの、腕が斬り落とされた!まずい、下がれ!!
「…はっ!冗談、ここからが本番だ…!」
何が…うわっ!?
斧を掴んだままの腕が、ディーデリックに向かう!?怖っ!
「スキル:仇討ち発動だ。行け大将!!」
!!トレイシーは歯を食い縛って耐えている…待ってろ!
剣を置いて飛び、斧を掴む!軽い…借りるぞ!
「な…っ!」
「おらあああぁっ!!!」
なんだ…?攻撃1000上昇の剣を捨てたのに、むしろ威力が上がっているような。
あ…これ、斧のパワーにトレイシーの攻撃値が上乗せされてる。スキルの効果か…!
「チッ!」
ディーデリックが顔を歪めた、もうひと押し!!
だがアルはオレを守るので手一杯だ。なら…
「『強化』」
これは…!
「私ばっかり…寝てられないでしょ…っ!」
「リリー!」
更に体力が20%を切り、素早さが上昇。これが、最後だ!!
「行くぞディーデリック!!」
「ああ…来いっ!!」
オレはすでに満身創痍、だが奴も汗をかき呼吸を乱している。
最初で最後のチャンスだ。大きく斧を振りかぶり…
ディード目掛けて、オレたちの全てを叩き込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる