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学園1年生編
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しおりを挟むそれから数日、相変わらず僕らは普通にもてなされてる…。
「セレス…」
「ん?」
一応僕は自主的に部屋にいる。ロッティは動きまくってるし、バジルに至っては街まで行っちゃってるけど…うん、一応ね!
暇なので勉強をしていたらエリゼが訪ねて来た。ここに来る時は大体誰かと一緒だから、1人ってのは珍しいな。
しかも何やら周囲を警戒している?部屋に誰もいないのを確認し、扉をきっちり閉める。なんか飲む?
「いや、今はいい。それより…手短に説明する。
クリスマスの夜、ボクとエレナが一緒のところをパスカルに見られた。
奴にはエレナはボクの婚約者で、エレナとセレスも友人同士だと説明した。なんか聞かれたらそのつもりで!」
「いや待って!?どうして君はそんな事言っちゃったのかなあ!?」
「仕方ないだろうが!!!」
何がだよ!?
え、クリスマスに男女で手を繋いで歩いていたら、特別な関係だと思われてもしょうがない?なるほど…。
…じゃあ、やっぱりパスカルとゼルマン令嬢は恋人同士なんじゃん…。
でもお祖父さんの命だってラディ兄様は言ってたし…本人に確認したくても、パスカルは全然会いに来てくれないし。
いっそ僕も、ロッティ達に倣って自由に動き回ってしまうか…?でも母上は謹慎状態だって聞くし。それなのに子供達は全員フリーダムだと…うーん…。
「誰だよゼルマンて。ゼルマ・サルマンが融合してるぞ。
それに関して、これを聞いて欲し…はっっっ!?さらば!!!」
「おいいいいぃぃ!!!?」
エリゼは懐から何かを取り出そうとしたのだが…突然血相を変え窓から飛び出してった!?ここ4階ですがー!?
「お姉様♡美味しいお菓子があるの、一緒に食べましょ!
…………ところで、そこに誰かいるの?」
「………………ダレモ、イナイヨ…?」
「そう、よかった!」
僕が窓の下を覗き込んだ瞬間、扉が開きロッティが笑顔で現れた。
その可愛い笑顔に少し恐怖を覚え…僕は誤魔化す事にした…。エリゼの姿も見えないし、きっと無事だろう。
そういえば…ロッティとバジルに、僕が女だって知ってる人が他にいるって言ってないな。言ったら当然、「どうしてバレたのか」という話になるだろう。
…エリゼとゲルシェ先生は…きっかけが酷かったからな…。言いづらいんだよなあ。
……さっき何考えてたんだっけ?ま、いっか!
「(全く…!なんなんだ、最近のシャルロットは!セレスへのガードが固すぎて、2人きりになれない!!
当のパスカルはジスランと一緒に立ち入り禁止食らってるし…!なんでボクがこんな面倒な事を…でもランドール先輩と約束したし……あああもう!!!)」
その後、ルクトル殿下が僕の部屋にやって来た。
ロッティは「殿下なら安心ね」と謎の言葉を呟いて出て行った。この後用事があるらしい。
「ラサーニュ君、以前箏に頼んでおいた品が届きましたよ」
「以前…?あ!!指南書に手入れ道具その他!!」
やったー!僕はにっこにこで荷物を受け取った。ってデカッ、重っ。箱の中は…また箱!じゃなくて葛籠!!
床に置き、ガサゴソと漁る。殿下も一緒に見ているぞ。
「うーん…竹刀は無いのかあ。そのものが無いんだな。木刀5本ある!?
と…あれっ、刀もう一本!?それとこっちは…刃の潰れた練習用?すっごーい!!」
ぴゃー!!予想以上に色々入ってる!!
やっぱミカさん以外の刀は少し重く感じるな。でも普段の剣と同じくらいだし、いける!
しかもコレ…袴!おお格好いい!!扇子や番傘も!?格好いい、全部装備したら少女剣士って感じ?いやん。…って頼んでないが…?
「どうやら頼んでいない分は贈り物みたいですよ。
君のように若い子が箏の文化に興味を持ってくれる事が嬉しいみたいです。
その服を着て、写真を撮って送ってみましょうか」
「おお…ではありがたく!写真は…裁判が、終わってからにします」
「…はい、分かりました」
本当はこんなに浮かれてる場合じゃないしね!
僕は早速お久しぶりのミカさんを取り出した。
普段はヨミの力で、僕の影の中に入ってるんだよね。ある意味収納っぽい、便利だわ~。
まあ僕には取り出せないから、精霊に取ってとお願いするのだが。
スラッと抜き、説明書通りに手入れする。
「お待たせ、ミカさん。どこかお痒い所はございませんか~?なんてね!」
【ふむ…鯉口が少々】
「あはははっ!」
ルンルン気分で手入れする僕を、殿下はにこにこと見ている。そんなに面白い?
「いえ…君が喜んでいるお顔が可愛らしくて」
「でん、か…そういう口説き文句は、他の令嬢にしてもらえます…!?」
「僕は思ったままに口にしただけですよ」
それがタチが悪いんだってーの!
お世辞だと分かっていても、嬉し恥ずかし僕は顔が熱くなっちゃうのです。
「んもう…コレ、全部でおいくらですか?」
「お代はもう貰ってますよ」
「へ?いや、払ってませんが…?」
殿下はにこにこ笑うばかりで、何も教えてくれない。
払ったって、誰が?あ、もしかして国に預けてある金貨からかな?それ以外思いつかないし…。ぶっちゃけコレ、頼んだ事忘れてたから…そっから引いてもらえれば助かる。
彼は教えてくれそうにないので、無理矢理そう納得する事にしました。
「ところで…僕達の扱い、よすぎません?僕ら罪人では?」
「何を言っているんですか?君達は客人として招かれているんですよ」
「はい?」
なんで???
荷物を整理しながら聞いてみたら、そんな答えが。
「まあ詳しい事はいずれ明らかになりますよ」
「え、あ、はい」
…なんかおかしい。僕の知らない動きがありそう?ルクトル殿下だけじゃなく、ルシアンも能天気なのだ。
「まあ、なんとかなるって」ですってよ。他の友人達は、僕らの事を心配してくれているというのに。
伯爵の裁判は2日後。その日僕らの今後も決まるはず。
殿下はそれ以上何も言わず部屋を出た。
※※※
僕の部屋にモーリス様がやってきた。ロッティとバジルも集めて…何事?
「へ。押収品が足りない…?」
どうやら怪しげ買い物リストに載っている物で、いくつか行方不明な魔道具があるらしい。
しかし屋敷内は隈なく捜索済みだし…何か収納場所なんかに心当たりが無いかと訊ねて来たのだ。
「ああ。例えばこの『姿眩ましの霊薬』は、あの時リオ君が破壊した物だろうが…他にもいくつか。
特に気になるのが『精霊封じの宝玉』。恐らくだが、ラサーニュ君の精霊殿を警戒して購入したと思われる」
何それ?封じって…封印されちゃうの?
「魔物が精霊の天敵というのは知ってるね?」
「ああ…はい。精霊は普通、死=自然に還る事だけど…魔物に殺されると、存在が完全に消滅しちゃうんですよね?」
「そう。そして一部の魔物の死骸から取れる素材を使って造られたのが、この宝玉。
宝玉を砕くと発動し、範囲内にいる精霊は中級までなら消滅してしまう。そして上級になると姿を保てず精霊界に強制送還される。
最上級には然程効果はあるまいが…資料によると暫くの間無力化されてしまうらしい」
はあ…。
なんで…そんなもん創った???
と思ったら、数百年前の魔術師が…最上級精霊を意のままに操れるような魔道具を開発しようとしたらしいのだと説明された。
だが宝玉を創り上げた魔術師は結局、精霊の怒りに触れて殺されたらしいけど…。
殺されてまで創った物は精霊を操れはしない不完全な出来。それでも…相当強力で危険な物である事に違いは無い。
「ああ…それ聞いた事ある。その犯人ヘルクリスだよ…」
「はぇ?」
「ん?呼んだか?」
ヨミの言葉に、外を飛んでいたはずのヘルクリスが、窓からニュッと顔を覗かせた。
犯人て…魔術師を殺したのが?
「む……ああ、いつだったかそのような事もあったな。用はそれだけか?では私はまた一っ飛びして来よう」
いってらっしゃい…まじか。
ヨミが詳しく教えてくれたが…ヘルクリスはその宝玉の実験台として召喚されたらしい。
彼はすぐに回復して、当然怒って魔術師を殺した。その後現場である王城で大暴れし、王都を瓦礫の山に変えたとか…。
こわ…犠牲は最小に抑えたと言うが、それでも0ではあるまいよ…。
ヘルクリスは日常でも口うるさかったり邪魔だったりウザかったり面倒くさかったりするが…決して人間を傷付ける真似はしない。
そんな彼が怒り狂う程って…やっぱ超危険なんじゃん…!何買ってくれてんの伯爵!?
「ヘルクリスだからそのくらいの被害で済んだんだよ…。他の最上級精霊だったらその国の人間皆殺しだよ…。
彼は…人間の避難が終わるまで半日程待っていて、大体済んでから無人の都で暴れ始めたんだ…」
それは…なんとコメントしたらいいのやら…ね?
「こほん…そして宝玉は1つでは無い。その事件後すぐに全て破壊するよう、国王が命じたらしいが…いくつか闇に紛れて出回ってしまったらしい。
まあ殆どは偽物なのだが。伯爵が最近購入した宝玉が本物か偽物かなど、実物が無ければ判別がつかない。
宝玉の外見はただの宝石だ。当然屋敷内と、夫人や君達の所持している宝石類は全て調べたが出て来ないんだ」
僕達は顔を見合わせたが、心当たりなんて無いよう。そもそも僕は宝石なんてロクに持ってないけど。
そう言うと、モーリス様はため息をつく。
「そうか…せめて、その宝玉が偽物である事を願うよ。
本物であったら非常に危険だ。被害が出る前に速やかに破棄しなくては…」
モーリス様……。
こんな見事なフラグ建てる人、初めて見たよ…。
それ絶対本物フラグですよね?伯爵が隠し持っていた宝玉をガツーンとやって、ヨミやヘルクリス、セレネが怒り狂う未来が見えるよ?
ああ…そうならないように、僕とパスカルがコントロールしないと…!
そして次の日。伯爵の裁判が行われる。
******
数百年前
「人間如きが…!この私を操ろうだと!?ああ、少し甘い顔をしてやればつけ上がりおって!!!許さん、皆殺し…は、関係ない人間は、ちょっと…だがこのままでは気が済まぬ。よし!人間がいなくなった後、この街を破壊してくれるわ!!!」
応援ありがとうございます!
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