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番外編

有り得たかもしれない道7

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 それからも時間は流れて…セレスティア5年生。
 すっかり美しく成長した彼女は…会う度に私の心を騒つかせる…。

 今日はずっと前から約束していた、お忍びで街をデートする日。私はルクトルに貰った雑誌を参考にしたり、2人を巻き込んで徹底的にデートプランを組んだ。
 庶民的な格好をして、叔父上の家に迎えに行くと…。


「お迎えありがとう!」

「………………」

 私は絶句した。あの…スカート、短くないか…?肩も出して…そっと自分の上着を掛けた。

「なんでー!?」

「なんでって…私以外の男に、そのような姿を見せたくないからだが?」

 そう答えれば、セレスティアは口籠った。

「………ルキウス様に、見せる為なのに…」

「……………………」

 ……私だって、色々我慢しているのに…この子は、もう。
 なんとか精神統一をして、街の中心部まで馬車で移動した。



 私服の護衛もこっそりついて来ているので、私達は楽しく過ごした。
 だが、露天商の通りを出た直後。怪しい影が2つ近付いてき…た……?


「よーよー、ねえちゃん。俺らと遊ばねー?」

「面白い遊びを教えてあげてま…あげるぜー?」

「「ぶっっっ!!」」

 私達は同時にジュースを噴き出した。セレスティアをナンパしてきたのは…チャラチャラとした格好の、サングラスを掛けたランドールとルクトルだったのだ。

「ぶ……っあはは!」

「なー?行こうぜー」

「えー?ふふっ、どうしよっかな~?」

 セレスティアの腕を掴むランドール。セレスティアは満面の笑みで、私をチラチラ見る。
 よし…ここは…!


「残念だが彼女は私の恋人だ。なので諦めてもらおうか」

 キリッ!と言い放ったのだが。

「「彼氏不合格!!!」」

「何がだ!!!」

 奴らは腕でバツを作り、私にダメ出しをする!完璧な回答だろうが!!?

「駄目駄目ですねー。ここは…「私の子猫ちゃん」くらい言わないとー」

「言ってたまるか!?」

 お前は何を言っている!?我が弟ながら、思考がまるで理解出来ん。
 だが…セレスティアは、ぷくっと頬を膨らませた。

「ふーんだ。わたし、このお兄さん達と遊びに行っちゃおうかなー」

「んな…!」

 いや、何か心配している訳でもないけれど。え…言うべき?
 私は散々考えた挙句…


「………その子は、私の可愛い…子猫ちゃん、だから。その手を離して…もらおうか」

「「「もう一声!」」」

「なんで息ぴったりなんだ!」

 よほど私は変な顔をしていたのか、3人は声を揃えて笑った。
 結局2人共諦めて帰って行き。はあ…やっとデートの続きを



「ねえねえ、そこのオニイサ~ン?」

「私達と遊びませんこと?」

「…あははははっ!!?」

 今度はなんだ!?………は?
 私の腕を引っ張るのは…これまた軽薄な服装で、大きなサングラスを掛けたシャルロット嬢とルネ嬢だ。そういえばこの3人娘は親友だったか…私とルクトルとランドールのような感じで。

 セレスティアはひとしきり笑った後、深呼吸して咳払い。

「この人はわたしの……んーと…ダーリンなのっ!連れてっちゃだめー!!」

 私の腕を取り、キリリッと告げたのだが。

「はーい、ごめんなさいお姉さん♡じゃあこっちのオニーサンはいいから、お姉さん私達と遊びましょ♡♡♡」

「「えっ?」」

「おぐっ」

 シャルロット嬢は私を突き飛ばし、セレスティアに抱き着いた。
 待って…!私のデートが!練りに練ったプランがぁ…!


「ちょっとシャルちゃん(※シャルロット)、台本と違いますわよ?」

「えー?んもう…(まあお姉様の幸せを妨害するのは嫌だわ…)こほん。
 何よー、ノリ悪いわねー。行きましょ、ルネ」

 なんだったんだ…彼女らも諦めて帰って行った。
 だがまあ流石に、もうネタが尽きただろう…そう思い歩きを再開したが。



 誰か…私に肩をドン!と打つけてきた?


「あーーーいててててっ!折れたわこれ!!」

「おうおうそこのあんちゃん、治療費寄越さんかい!!!もしくはそこの姉ちゃんに払ってもらおうか!!」

「きゃーっ♡助けてルキウス様~!」

「いい加減にしろーーーっ!!!」

 肩を押さえて蹲る…ファロ男爵と。私に詰め寄る叔父上(2人も黒スーツにサングラス装備)!!なんだこの台本、誰が書いているんだ!!?
 セレスティアは腹を抱えて爆笑していたので…まあ許すが。



 今日は穏やかな1日を過ごす予定だったのに。何人もの襲撃を受けて…疲れ切ってしまった。
 それでもセレスティアが楽しそうだったから。こんな日も悪くないな…と思えるのだ。


 ちなみに全ての元凶…台本は父上作だと、後に判明する。



 ※



「ルキウス様。ちょっと騎士団に顔出していい?」

 ん?セレスティアは、幼少期から剣を振っていた事もあり…普通の令嬢より、騎士に興味があるようだ。
 だが婚約者がいる身だからな、見学の時は私も同行する。


「こんにちは~」

「お!いらっしゃいませ、セレスティア嬢!と殿下!」

 私はついでか。ハーヴェイ卿を皮切りに、鍛錬していた騎士がワラワラと寄って来た。セレスティアは騎士達にとってアイドル的な扱いを受けているからな…。


「セレス、ちょっと振って行くかい?」

「うん!お相手お願いします、ガス様!」

 柔和な笑顔を浮かべて剣を差し出すのは、近衛副団長のギュスターヴ卿。まあ…彼は愛妻家の子煩悩だし…セレスティアに邪な感情を抱いていないし…よかろう。



 キィンッ ガガカッ!

「やあっ!」

「ふふっ」

「むーーーっ!!」

「「「頑張れーっ!!」」」

 ギュスターヴ卿に軽くあしらわれているように見えるが…かなり善戦している。
 騎士は皆彼女を応援するが、最終的に剣を弾かれて負けてしまった。


「あうー」

「お疲れ様」

 タオルで汗を拭くセレスティア。私は何度も聞こうと思っていた事を…ついに口にした。

「……君は今も、毎日剣を振っているんだろう?無理は…していないか?」

 彼女は目をまん丸にして、私を見上げた。
 お節介とは、思うけれど。今は…君を守る剣は大勢いる。望むのならば、近衛騎士だろうと誰だろうと、専属の護衛にしてもいい。
 だがセレスティアは、その提案を一蹴した。


「…確かに、嫌々やってた時期もあるけど。今は全然。
 強くなるのが楽しいし、何より…。
 貴方はこの国を統治する。だから…そんな貴方を、私が守ってあげるの!」

 えへっ、と照れながら言い切る彼女に…私の胸は、何度目かわからない高鳴りを刻んだ。


 繋がれた手を強く握る。初めて会ったあの時から…私が守っているつもりだったのだが。
 そうか、気付かないうちに…私は守られていたんだな。

「…ありがとう」

「うんっ!この子もいるしね!」

「「「?」」」

 あれ?セレスティアはいつの間にか、両手で毛玉を抱えている。子犬…?飼い始めたのか?
 騎士も集まり、何それ~?と興味津々。


「えへへ~、子犬じゃないよ、精霊フェンリルのセレネだよっ」

「「「えっ?」」」

「最近契約したの。ねー、セレネ~?」

「そうだぞ。お前ら、シャーリィのお願いだから、ついでに守ってやるぞ」

「「「しゃべった!?」」」


 その場は騒然となるも、本物のフェンリルだと判明して。更にセレスティアは…フェンリルの勧めで、ベヒモス、ドライアド、エンシェントドラゴンとも契約していた…。

「リヴァイアサンは人間と契約しないって言ってるし。フェニックスは刻印済みだし、クロノスと死神は無理だからな。
 シャーリィの立場は敵が多いんだろう?これで安心だぞ!!」



 こうして「グランツの皇太子妃は、精霊に愛されている娘」と噂が広く伝わり。
 彼女を否定していた僅かな貴族もいたが…完全に消えて。グランツは大国ではあるが、近隣国から顕著に一目置かれるようになってしまった…。
 国際精霊研究会が何度も足を運んだり。テノーから精霊マニアの男が突撃してきたり。ああ…なんとも賑やかで、忙しい日々だろうか…。



 ※



「セレスティア。来月、ここに行かないか?」

「え………」

 ん?提案したのは紅葉が綺麗だという場所なんだが…何故か彼女は真っ赤になって硬直した。

「(ここ…距離的にお泊まりだよね。そ、それって、そういう事…!?)行き、ます」

「良かった。では手配をしておく」

「はい…(どうしよう…可愛い下着あったかな…!?)」プシュウゥ…

 ?この日彼女は、ずっと上の空だった。



 ばたばたばた…

「ただいまーっ!!パパー!ロッティ!バジル!おじいちゃん!
 聞いて、今度ルキウス様とお泊まりデートするのっ!!」

「「何ィッ!!?」」ガタッ!

「ほっほ…」

「(多分…部屋は別だと思うけど…)」




 という訳で、紅葉を見に来たのだが。澄んだ空気に綺麗な景色。

「わあ…!ねえルキウス様、一緒に写真撮ろっ!」

「ああ」

 私は楽しむセレスティアの姿を楽しむ。ルクトルとランドールを巻き込んで、仕事の合間に会議を重ねた甲斐があったな。叔父上とシャルロット嬢の襲撃も…。
 途中のカフェで休憩。すると…

「…ルキウス様。あーん…」

 と、セレスティアがクッキーをつまんで私の顔の近くに持ってきた。
 じんわりと、胸に温かいものが広がる…いつまでも待たせては悪いので、いただきます。

「でゃあっ!?」

 おっとうっかり、指ごと食べてしまった。申し訳ないので、しっかりと舐め取ってクッキーを咀嚼する。
 セレスティアは自分の手を、はわわと言いながら見つめている。はあ…可愛い。ではお返しに…

「ほら、あーん」

「!!!」

 どうした?ほらほら。
 セレスティアは逡巡した後…そっとクッキーを咥えた。残念…はい次。
 護衛が遠い目をしているが、構わず食べさせ続けた。


 さて、その後も観光を楽しみ。本日の宿に向かい、夕食を済ませて…もう寝る時間だ。

「おやすみ、セレスティア」

「…………………」


 ………なんだ?彼女の部屋の前まで送り。私も自分の部屋に入ろうと思っているのに。
 セレスティアは…過去最高潮に頬を膨らませ、風が吹けば空も飛べそうだ。そして私の服を掴んで離さない、私は何か間違えたか…?


「…………………………」

「どうした…?」

「…………おやすみ!!!」

 ???
 バタンッ! ガチャ!! ドスドス…
 何を怒っている…?護衛のハーヴェイ卿とジェルマン卿は、片手で口元を覆って震えている?

「殿下~、相手は16歳の乙女っすよ?」

「それは知っているが?」

「あー…ですから、つまり。セレスは…殿下と同じ部屋がよかったのかと…」

「……………は!?」

 な、何を言っている!?相手はまだ未成年だ!!そもそも私は、ただ彼女に楽しい旅行を提案したくてだな…!

「再来月には成人ですけどね」

「てか殿下、一緒に寝る=ヤるって訳でもないと思うんですけど?」

「言葉を選びなさい!!」

「「(むっつり皇子め…)」」




 寝支度を済ませて、横になり目を閉じて。セレスティアは…本当に、私と同衾したかったのかな…など考えていたら。


「……ルキウス様。起きてる…?」

 !!扉が開かれ…セレスティアが部屋に入って来て。
 いけません、戻りなさい!と言っても聞かず、ベッドに片足を乗せて。

「ルキウス様。わたしもう、子供じゃないよ…?」

 と…羽織っていたガウンを脱ぐと…その下は、何も着ていなくて…
 私の目は彼女の肢体に釘付けになり。プツン…と何かが切れる音がして。


「きゃあっ!?」


 布団を蹴り捨てて、セレスティアをベッドに押し倒して。
 ああもう…私を煽った君が悪い。明日は観光出来ると思うな…!など言いながら、彼女の身体を……




 ───という夢を見た。
 その後は自己嫌悪で、セレスティアの顔をまともに見れなかった…。



 ※



 セレスティアは成人を迎え、双子の社交界デビューは皇宮で大々的に行い。
 綺麗なドレスに煌びやかな装飾品。弾ける笑顔の彼女は…とても魅力的だ…。


「……ルキウス様~。今夜は一緒に…寝よ?」

「………1人で寝なさい」

「ぶーーーーー!」

 そんなにむくれても駄目。私は口から溢れたシャンパンを拭いながら、セレスティアから目を逸らす。
 あの旅行以来…何度か彼女の淫夢を見てしまっている所為…で。彼女に迫られる度、色々妄想する自分が嫌になる…。


「………………」

 セレスティアは今…叔父上と手を取り、楽しげにダンスをしている。
 その姿を見て…数年前を思い出す。私と会う度に怯え、しょっ中怪我をしていて。今にも…どこかへ消えてしまいそうな儚さがあったのだが。
 それが、こんなにも生命力溢れる女性へと成長して。胸を張って私の隣に立つ!と宣言し、勉強も頑張っている。


「ルキウス」

「何してるんですか?」

「ランドール…ルクトル…」

 壁にもたれて感慨深くなっていたら、両側に2人が立った。そのまま並んで、ぽつぽつと会話する。


「いやー、俺らも大忙しだったよな」

「本当ですね。兄上が…突然「今度デート行くんだが!」「何を贈ればいいと思う!?」なんて、もう数えきれないですし」

 その節はまあ、お世話になった。多分この2人がいなければ…この結果は得られなかったと思う。


「……ありがとう」

「「どういたしまして」」


 そして3人、誰からともなく笑った。





「ルキウス様っ!」

 私に抱き着いてくるセレスティアを受け止めて。

「セレスティア…愛してる」

「!はい…わたしも」

 横抱きにして、人目も憚らずキスをする。


 結婚まで、あと数ヶ月。未来を語るセレスティアは、とても穏やかで愛らしい。

 この笑顔を…死ぬまで守ると、私は何度でも誓おう。




 ******


 これにてルキウスとセレスティアのifは終わりです。
 最初はジスランの話にしようと思ってたんですが、長くなりそうだったんでやめました。もしもご要望あれば書くかもしれません~。




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