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番外編
有り得たかもしれない道6
しおりを挟む結果から言って、私は徹底的に伯爵を断罪する事に成功した。
彼は散々抵抗していたが、覆る事はなく。然るべき処罰を受け…ラサーニュ家は無くなった。
領地も爵位も国に返還し、父上が立て直しの真っ最中。そして…
「……ごほん。ランドール、どこかおかしくないか…?」
「いつもと変わんねえよ」
姉妹とリオは現在、皇宮に滞在している。私がそう願ったからだ。
セレスタンが女性である事も公表し…今後の身の振り方を考える必要がある。その前に…。
私はきっちりと正装し、花束を持ち。セレスタンに…求婚する!
………ふう、深呼吸。覚悟を決めて、彼女のいる部屋をノックした。
「どうぞ……ルキウス様!」
ここ最近私は後処理に奔走していて、彼女と顔を合わせるのも久しぶりだ。
彼女は普段使いのドレス姿で…私を確認すると、パアァッ!と目を輝かせた。
「あらあら、何かご用ですか?私達ご覧の通り、姉妹水入らずで過ごしているのですが?」
「ロッティ~、だめでしょ」
「きゃっ♡ごめんねお姉様♡♡♡」
…えーと。この通りシャルロット嬢は…大変なシスコンへと変貌を遂げた。最初から兄大好きではあったが、その比でない。
今もセレスタンを扉から引き剥がし、ずるずるとソファーに戻し…
「待って、待ちなさい!私はセレスタンに用があるんだ!!」
「……………ハァ。じゃあお姉様、隣の部屋にいるから、何かあったら叫んでね!」
「え、あ、うん?」
何かしてたまるか!!
まあいい…リオとランドールも追い出し、これで2人きり。
「あの…ルキウス様?わたしに何か…?」
「………………セレスタン」
「は、はいっ」
まずソファーに並んで座り…激しく暴れる心臓を落ち着かせて。
「私は…君が好きだ」
「……!」
「愛してる…これから先の未来、ずっと側にいて欲しい」
「それは…つまり」
「今すぐではないけれど。どうか私と…結婚してください」
花束を差し出してそう言えば、セレスタンは真っ赤になって目に涙を溜めた。
「う…嬉しい、です。けど…わたしのような者に、皇后様が務まるのでしょうか…?」
「ああ、出来る。困難にぶつかったら、一緒に乗り越えよう。私はもう、君以外の妻は考えられない。
私はこの国を守る。君は…そんな私を支えて、手を取り合い隣を歩いてくれないか?」
私も負けず劣らず赤くなっているだろう、顔に熱が集中する。が…これが私の願い。
セレスタンは一筋の涙を流し。がばっ!と私に飛び付いた!
「はいっ!!わたしも貴方が好きです、大好きです!これから…末永くお願いします!」
「セレスタン…!」
まるで夢を見ているようだ!セレスタンは私の首に両腕を回し、私は彼女の腰と肩を抱き締めた。
ずっとこうしていたかったが…扉がミシミシ鳴っている。シャルロット嬢だな…私達は顔を見合わせて、小さく吹き出した。
「……………ルキウス様」
「ん?」
私が立ち上がろうとしたら…控えめに袖を引かれた。どうしたんだ?と視線を同じ高さにすると。
「……ちゅ~…」
「………………」
「……したいなぁ~…って…」
可愛い…可愛い。ちょ、もう…ハアァ~~~…。我慢してたのに…。
彼女の両肩に手を置き、軽いキスをした。彼女は頬に手を当てて、本当に幸せそうに笑った…。
※
さて、問題の姉妹の今後だが。私の提案に2人共了承してくれた。
「頼んだ叔父上」
「なんで俺?」
「セレスティアが懐いているからな」
叔父上を皇宮に呼び出して、養父となるようお願いする。会議室に私、父上、叔父上、姉妹、リオが集まった。
ちなみにセレスタンの名前はセレスティアになった。本人の希望でな。
「まあ…ラサーニュなら…いいっちゃいいけど。俺は今の立場を変える気はねえぞ?」
叔父上は皇弟だが、世間的には養護教諭で子爵だ(伯爵以上になると領地を持たなくてはならないので、断固拒否したと聞いている)。
それで充分だ。叔父上は前向きそうだが、もう一押し必要か…!?
「…お姉様。こしょこしょ…」
「え、何?…ふんふん」
「「「「?」」」」
シャルロットが、セレスティアに何か耳打ちをしている。男性陣は首を傾げた。
そして…セレスティアは頬を染めて。両手を握り締め…
「こ…これからよろしくねっ!…パパっ!!」
「…………ぱぱ…?」シュウゥン…
あ。叔父上が…セレスティアから吹く癒しの風に浄化されていく。
「(パパ…俺が、お父さん…)」
─パパ~!見てみて、テスト頑張ったの!褒めて褒めてっ!─
─えへへ…焦がしちゃった。パパに美味しいお菓子食べて欲しかったのに…─
─わーん!パパのばかっ、もう嫌い!─
─パパ…今まで育ててくれてありがとう。わたしこれから、愛する人と幸せになるね…大好き、パパ─
「…くぅ…っ」
え、何?叔父上は目頭を押さえて…泣いてる…?何があった…怖っ。
「おい…ルキウス…」
「なんだ…?」
叔父上は姉妹の後ろに移動して。2人の肩に手を置いて…私を睨み。
「テメエに娘はやんねえぞ…!」
「阿呆が!!」
こうして双子は叔父上の娘になり、全て丸く収まったのだった。
※
新学期が始まり、色々と落ち着いてきた頃。
私はいつも通り生徒会活動中。
「剣術大会も近い、皆気を引き締めるように」ちらっと時計を見る
「「………………」」
「それでは各々仕事に取り掛かってくれ」そわそわしながら頬を緩める
「なあルクトル、ルキウスの締まりのない顔何?」
「この後セレスさんとデートなんですよ」
「ああ…でれ~っとしちゃって、まあ…」
何度も時計を確認し、生徒会が終わる10分前になったところで。
「誰か廊下を映してくれ」
「え?はい…」
ランドールが魔道具の電源を入れると。
パッとセレスティアが映った。
『…早かったか。まだかなー…』
彼女は腕時計を見て。壁に寄り掛かったのか、姿が見切れてしまった。私を待っている…健気…可愛い。
『あ…セレス…』
「ん?」
仕事を放り投げたい気持ちを抑えつつ、可愛さを堪能していたら。誰か…彼女に接近する?
『ジスラン?どうしたの、生徒会に用事?』
『……いや、お前を探していた。今…少し時間いいか?』
『ん~…』
声しか聞こえないが、相手はブラジリエか…!セレスティアは腕時計を確認して、「人待ってるから、ここでいい?」と答える。
私は仕事を放棄して、2人の会話に集中する。生徒会メンバーも全員聞き耳を立てている。
『人…?ナハト先輩か?』
『違うよ、ルキウス様』
『え…殿下?なんで…』
『えへへ~。実はね、公式発表はまだだけど…わたし、ルキウス様と婚約してるのっ』
『……………え…』
ひゃーっ!とセレスティアの弾んだ声がする。
メンバーも私の恋心は知っていたが、婚約は初耳だったので「そうなの?」といった視線を私に向けてきた。…ふふっ。
『婚約…?そ…そう、だったのか。いつから…?』
『ルキウス様が…ラサーニュ伯爵を断罪してくれた後、休暇中にね』
『…………お前は…殿下を好いているのか?』
「………………」
薄々感づいてはいたが、やはり。
ブラジリエは…セレスティアの事が好きだったのだろう。声だけで、彼の切羽詰まった様子が窺える。
彼の目には私が、略奪者のように見えるかもしれない。
『うん…大好き!皇太子妃になるのはすっごく大変だろうけど…それでも、お隣にいたいって思うの』
『……うん、よかった。じゃあ、俺はこれで』
『え、用事は…?』
『すまない、忘れてしまった。
…俺、将来騎士になって。皇后陛下となられたお前を…守りたい。…殿下と幸せにな』
『あ…ありがと…?』
たたたた…と足音が遠去かる。
「…4時半だな、今日の活動はここまで。
ランドール、戸締り頼むぞ」
「…はい」
全員気まずそうに咳払いしたり、ソワソワしている。思いがけず…少年の失恋を見物してしまったからな。
私も僅かに胸が痛む。何故なら今の状況は…ブラジリエと私は、逆でもおかしくなかったからな…。
「セレスティア」
「ルキウス様!お仕事お疲れさまです」
セレスティアは無邪気に笑った。この笑顔を守ったブラジリエに私は、密かに尊敬の念を抱いた。
※
時間は流れ、私は卒業を迎える。
「ルキウス様、卒業おめでとうございます。わたし…毎週会いに行きます」
「ありがとう。私も君に会いに来る…元気でな」
セレスティアは涙を堪えながら、私に花束を渡してくれた。
彼女はすっかり伸びた髪と、私が送ったドレスを靡かせて。私達はパーティーで何曲も踊った。
俺が踊れねえ、と愚痴を溢すランドールと渋々交代。セレスティアはその後も数人と踊り、私はその様子を眺めていた。
ブラジリエと笑顔で踊っている…不思議と私の心は落ち着いていた。
パーティーも終盤になり。私はセレスティアの手を引いて、少々テラスに出た。
「セレスティア。早く…君と暮らせるようになりたい」
「え…」
「君が卒業したら…すぐに籍を入れよう」
「ひゃい…でも、教育が…」
「母上は君の事をとても褒めていた。確かに長年男性として生きていたから、優雅さはまだぎこちないけれど。
それを補って有り余る程、君は一生懸命学んでいると聞く。むしろもっと休んで欲しい…と心配するくらいだと」
「本当ですか…?わたし、まだまだ駄目で…んっ」
セレスティアはいつまで経っても自己評価が低い。
嫌だ、私の愛する女性を貶すのは、たとえ本人であっても許せない。
だから…唇を重ねて、何も言えないようにする。セレスティアは真っ赤になるも、私に身を委ねてくれた。
「うん、これはいい方法だ。君が自分の悪口を言う度に、私が塞いであげようか?」
もちろん冗談だが。セレスティアはもじもじと体を揺らして…私の右手を両手で包んで?
「……わたしってば失敗ばかりで。勉強も1回で理解出来なかったり…ロッティと比べると駄目な子で」
ん…?チラッ チラッ と私を見上げる。
全く…仕方のない子だ。
「どんくさいし、令嬢として…あっ」
「そこまでお仕置きが欲しいのなら仕方ないな。さあ、口を開けなさい」
「ひょえ…」
目をぐるぐる泳がせるセレスティアを、柵まで追い込んで。がっちりと捕まえて逃げられないようにして…開いた口に舌を滑り込ませて、何度も口付けを交わす。
「(こ…ここまで濃厚なのは望んでなかった…!この変態皇子~~~!!!)」
最終的にセレスティアは腰を抜かして、私は笑いながら叔父上の家まで届けたのだった。
私がいなくなった後、セレスティアに近付く男がいないとも限らない。そう危惧して叔父上とルクトルとルシアンに、よくよくお願いしていたのだが…。
意外にもそういった輩は、ブラジリエが撃退しているとの事だった。…ありがとう。
※
セレスティアは3年生になり、幼さが抜けてきて…段々と大人の女性になってきた。
それでも揶揄えば、面白い反応をしてくれるので…
「ん…?セレスティア、首のところが赤いぞ。まさか…そんな扇情的な姿を、昨日からずっと披露していたのか?」
皇宮にて皇太子妃としての授業終了後、遊びに来たセレスティアに耳打ちすれば。
彼女は一瞬で真っ赤になり、首を押さえて慌てた。昨日…心当たりがあるものな?
「えっ!嘘っ!?」
「ああ、嘘だ」
「…………やーらーれーたー!!!」
むきーっ!と憤慨する姿に、私の頬は緩んでしまう。
だが膝に乗せて頭を撫でれば、段々と機嫌を直してくれるのだ。
それから暫くして…。
「ルキウス様~…」
「ん?どうした?」
「………んーん、なんでも~」
「???」
と、仕事中の私を訪ねては…何もせずに戻る事が増えた。
何か言いづらい事でも…?と少々不安になり、いつものメンバー(私、ランドール、ルクトル)で会議。
「そういえば彼女、最近僕に「ルキウス様はお昼寝とかしないんですか?」って聞いてきた事がありましたね」
「昼寝…?」
何故昼寝。まさか一緒に寝たいとか…?なんてな。
「お前それセクハラだぞ」
「やかましい!…ランドール、さり気なく本人に聞いてみてくれ」
「へいへい」
で、その結果だが。
「要するに…「いつも揶揄われてばかりだから、わたしもなんか仕返しする!」って思ったみたいだな。寝顔に落書きしようと思ってるらしい…」
「「………………」」
私達は3人揃って肩を震わせる。そうか…よし、分かった!
次の休日、作戦決行の日。
「兄上!セレスさんが本日の授業終了、執務室に向かって歩いているそうです!」
来たか…!全員スタンバイ!!
「……ルキウス様~…?」ひょこっ
「…………………」
私は仕事中、ついうたた寝を…というスタンスで。机に頬杖を突き、右手にはペンを持つ。
周りの者は笑顔で「しーっ」とセレスティアに合図してみせた。私は薄目を開けているのだが…。
「………!」パアァ…!
セレスティアは目を輝かせ、抜き足差し足忍び足で机に近寄る。
笑いを堪えきれないように、私の机からペンを取り…おっと目を閉じねば。
「にひひっ。何描こうかな~?」
私は必死に口の端が震えるのを抑えて、されるがまま。
そのうち…顔に細い物が当たる感覚が。髭か…?あと、眉毛が繋がったような…。
「んふふ…っふふっ、ふぅんっ…!」
度々笑い声が漏れており、完成を楽しみにする私。
すると気配が離れ…「内緒にしてね!」とランドール達に告げる声がして、扉が閉まる音に目を開けた。
秘書が笑いながら鏡を差し出してくれて、自分の顔を見ると。
予想通り髭と眉毛と…頬に花丸、その他色々。何より一番目を引いたのが…
額に大きく、「わたしの!」と書かれている事。こんな宣言せずとも…私の全ては君のものだと言うのに…愛らしい。
折角なので消さずにおこう。え、何故かって?
「………!!?(ルキウス様…まさか気付いてない!?あわわ、こここのままじゃ…!)」
私はその顔のままで、セレスティアもいる夕飯の席に座ったのだ。ルクトルは知っているので平静で、父上とルシアンは噴き出し、母上は全て悟ったのか笑いを堪えていて。
セレスティアは…オロオロと落ち着かない。あえてすっとぼけて「どうした?」と聞いてみた。
「えっと…その…。
ル…ルキウス様。あの…顔を洗わない…?」
「ん?何か付いているのか?」髭の部分を撫でる
「付いていると、言うか。えーと…汚れが…ね?」
「なんと、それは大変だ。誰か、鏡を…」
「!!!いいから、わたしが拭いてあげるから!!」
「そうか?」
セレスティアは慌てて濡れタオルで私の顔を拭く。
「随分と長いな…そんなに汚れていたのか」
「も、もうちょっと…!」
ごしごしごし。終わった後、彼女はやり切った…!という晴れやかな顔をした。
ああ…笑顔はもちろん、怒っている顔も慌てている顔も、全ての表情が愛おしい。
私はもう、彼女と出会えなかった自分を想像できない程…セレスティアに惹かれているんだな。
「ありがとう、セレスティア」
「(ふう、危なかった…)えへへ、どういたしまして」
彼女は真っ黒に汚れたタオルを背に隠し、冷や汗を拭っている。
さあ、次はどんな悪戯をしてくれるのかな?私は全てを受け入れよう。
******
「シャルロットお嬢様はパパと呼ばないのですか?」
「柄じゃないもの。見たいの?」
「………ぶふっ」
「…………うふふ♡」そっと鞭を取り出す
応援ありがとうございます!
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