上 下
222 / 224
番外編

有り得たかもしれない道6

しおりを挟む

 結果から言って、私は徹底的に伯爵を断罪する事に成功した。
 彼は散々抵抗していたが、覆る事はなく。然るべき処罰を受け…ラサーニュ家は無くなった。
 領地も爵位も国に返還し、父上が立て直しの真っ最中。そして…



「……ごほん。ランドール、どこかおかしくないか…?」

「いつもと変わんねえよ」

 姉妹とリオは現在、皇宮に滞在している。私がそう願ったからだ。
 セレスタンが女性である事も公表し…今後の身の振り方を考える必要がある。その前に…。

 私はきっちりと正装し、花束を持ち。セレスタンに…求婚する!




 ………ふう、深呼吸。覚悟を決めて、彼女のいる部屋をノックした。

「どうぞ……ルキウス様!」

 ここ最近私は後処理に奔走していて、彼女と顔を合わせるのも久しぶりだ。
 彼女は普段使いのドレス姿で…私を確認すると、パアァッ!と目を輝かせた。

「あらあら、何かご用ですか?私達ご覧の通り、姉妹水入らずで過ごしているのですが?」

「ロッティ~、だめでしょ」

「きゃっ♡ごめんねお姉様♡♡♡」


 …えーと。この通りシャルロット嬢は…大変なシスコンへと変貌を遂げた。最初から兄大好きではあったが、その比でない。
 今もセレスタンを扉から引き剥がし、ずるずるとソファーに戻し…

「待って、待ちなさい!私はセレスタンに用があるんだ!!」

「……………ハァ。じゃあお姉様、隣の部屋にいるから、何かあったら叫んでね!」

「え、あ、うん?」

 何かしてたまるか!!
 まあいい…リオとランドールも追い出し、これで2人きり。



「あの…ルキウス様?わたしに何か…?」

「………………セレスタン」

「は、はいっ」

 まずソファーに並んで座り…激しく暴れる心臓を落ち着かせて。



「私は…君が好きだ」

「……!」

「愛してる…これから先の未来、ずっと側にいて欲しい」

「それは…つまり」

「今すぐではないけれど。どうか私と…結婚してください」

 花束を差し出してそう言えば、セレスタンは真っ赤になって目に涙を溜めた。


「う…嬉しい、です。けど…わたしのような者に、皇后様が務まるのでしょうか…?」

「ああ、出来る。困難にぶつかったら、一緒に乗り越えよう。私はもう、君以外の妻は考えられない。
 私はこの国を守る。君は…そんな私を支えて、手を取り合い隣を歩いてくれないか?」


 私も負けず劣らず赤くなっているだろう、顔に熱が集中する。が…これが私の願い。


 セレスタンは一筋の涙を流し。がばっ!と私に飛び付いた!

「はいっ!!わたしも貴方が好きです、大好きです!これから…末永くお願いします!」

「セレスタン…!」

 まるで夢を見ているようだ!セレスタンは私の首に両腕を回し、私は彼女の腰と肩を抱き締めた。
 ずっとこうしていたかったが…扉がミシミシ鳴っている。シャルロット嬢だな…私達は顔を見合わせて、小さく吹き出した。


「……………ルキウス様」

「ん?」

 私が立ち上がろうとしたら…控えめに袖を引かれた。どうしたんだ?と視線を同じ高さにすると。


「……ちゅ~…」

「………………」

「……したいなぁ~…って…」


 可愛い…可愛い。ちょ、もう…ハアァ~~~…。我慢してたのに…。
 彼女の両肩に手を置き、軽いキスをした。彼女は頬に手を当てて、本当に幸せそうに笑った…。




 ※



 さて、問題の姉妹の今後だが。私の提案に2人共了承してくれた。


「頼んだ叔父上」

「なんで俺?」

「セレスティアが懐いているからな」

 叔父上を皇宮に呼び出して、養父となるようお願いする。会議室に私、父上、叔父上、姉妹、リオが集まった。
 ちなみにセレスタンの名前はセレスティアになった。本人の希望でな。


「まあ…ラサーニュなら…いいっちゃいいけど。俺は今の立場を変える気はねえぞ?」

 叔父上は皇弟だが、世間的には養護教諭で子爵だ(伯爵以上になると領地を持たなくてはならないので、断固拒否したと聞いている)。
 それで充分だ。叔父上は前向きそうだが、もう一押し必要か…!?


「…お姉様。こしょこしょ…」

「え、何?…ふんふん」

「「「「?」」」」

 シャルロットが、セレスティアに何か耳打ちをしている。男性陣は首を傾げた。


 そして…セレスティアは頬を染めて。両手を握り締め…

「こ…これからよろしくねっ!…パパっ!!」

「…………ぱぱ…?」シュウゥン…


 あ。叔父上が…セレスティアから吹く癒しの風に浄化されていく。



「(パパ…俺が、お父さん…)」



─パパ~!見てみて、テスト頑張ったの!褒めて褒めてっ!─

─えへへ…焦がしちゃった。パパに美味しいお菓子食べて欲しかったのに…─

─わーん!パパのばかっ、もう嫌い!─

─パパ…今まで育ててくれてありがとう。わたしこれから、愛する人と幸せになるね…大好き、パパ─



「…くぅ…っ」

 え、何?叔父上は目頭を押さえて…泣いてる…?何があった…怖っ。



「おい…ルキウス…」

「なんだ…?」

 叔父上は姉妹の後ろに移動して。2人の肩に手を置いて…私を睨み。


「テメエに娘はやんねえぞ…!」

「阿呆が!!」


 こうして双子は叔父上の娘になり、全て丸く収まったのだった。



 ※



 新学期が始まり、色々と落ち着いてきた頃。

 私はいつも通り生徒会活動中。

「剣術大会も近い、皆気を引き締めるように」ちらっと時計を見る

「「………………」」

「それでは各々仕事に取り掛かってくれ」そわそわしながら頬を緩める



「なあルクトル、ルキウスの締まりのない顔何?」

「この後セレスさんとデートなんですよ」

「ああ…でれ~っとしちゃって、まあ…」


 何度も時計を確認し、生徒会が終わる10分前になったところで。

「誰か廊下を映してくれ」

「え?はい…」

 ランドールが魔道具の電源を入れると。
 パッとセレスティアが映った。


『…早かったか。まだかなー…』

 彼女は腕時計を見て。壁に寄り掛かったのか、姿が見切れてしまった。私を待っている…健気…可愛い。




『あ…セレス…』

「ん?」

 仕事を放り投げたい気持ちを抑えつつ、可愛さを堪能していたら。誰か…彼女に接近する?

『ジスラン?どうしたの、生徒会に用事?』

『……いや、お前を探していた。今…少し時間いいか?』

『ん~…』

 声しか聞こえないが、相手はブラジリエか…!セレスティアは腕時計を確認して、「人待ってるから、ここでいい?」と答える。
 私は仕事を放棄して、2人の会話に集中する。生徒会メンバーも全員聞き耳を立てている。


『人…?ナハト先輩か?』

『違うよ、ルキウス様』

『え…殿下?なんで…』

『えへへ~。実はね、公式発表はまだだけど…わたし、ルキウス様と婚約してるのっ』

『……………え…』

 ひゃーっ!とセレスティアの弾んだ声がする。
 メンバーも私の恋心は知っていたが、婚約は初耳だったので「そうなの?」といった視線を私に向けてきた。…ふふっ。


『婚約…?そ…そう、だったのか。いつから…?』

『ルキウス様が…ラサーニュ伯爵を断罪してくれた後、休暇中にね』

『…………お前は…殿下を好いているのか?』

「………………」


 薄々感づいてはいたが、やはり。
 ブラジリエは…セレスティアの事が好きだったのだろう。声だけで、彼の切羽詰まった様子が窺える。
 彼の目には私が、略奪者のように見えるかもしれない。

『うん…大好き!皇太子妃になるのはすっごく大変だろうけど…それでも、お隣にいたいって思うの』

『……うん、よかった。じゃあ、俺はこれで』

『え、用事は…?』

『すまない、忘れてしまった。
 …俺、将来騎士になって。皇后陛下となられたお前を…守りたい。…殿下と幸せにな』

『あ…ありがと…?』


 たたたた…と足音が遠去かる。

「…4時半だな、今日の活動はここまで。
 ランドール、戸締り頼むぞ」

「…はい」

 全員気まずそうに咳払いしたり、ソワソワしている。思いがけず…少年の失恋を見物してしまったからな。
 私も僅かに胸が痛む。何故なら今の状況は…ブラジリエと私は、逆でもおかしくなかったからな…。



「セレスティア」

「ルキウス様!お仕事お疲れさまです」

 セレスティアは無邪気に笑った。この笑顔を守ったブラジリエに私は、密かに尊敬の念を抱いた。



 ※



 時間は流れ、私は卒業を迎える。

「ルキウス様、卒業おめでとうございます。わたし…毎週会いに行きます」

「ありがとう。私も君に会いに来る…元気でな」

 セレスティアは涙を堪えながら、私に花束を渡してくれた。
 彼女はすっかり伸びた髪と、私が送ったドレスを靡かせて。私達はパーティーで何曲も踊った。
 俺が踊れねえ、と愚痴を溢すランドールと渋々交代。セレスティアはその後も数人と踊り、私はその様子を眺めていた。
 ブラジリエと笑顔で踊っている…不思議と私の心は落ち着いていた。


 パーティーも終盤になり。私はセレスティアの手を引いて、少々テラスに出た。

「セレスティア。早く…君と暮らせるようになりたい」

「え…」

「君が卒業したら…すぐに籍を入れよう」

「ひゃい…でも、教育が…」

「母上は君の事をとても褒めていた。確かに長年男性として生きていたから、優雅さはまだぎこちないけれど。
 それを補って有り余る程、君は一生懸命学んでいると聞く。むしろもっと休んで欲しい…と心配するくらいだと」

「本当ですか…?わたし、まだまだ駄目で…んっ」

 セレスティアはいつまで経っても自己評価が低い。
 嫌だ、私の愛する女性を貶すのは、たとえ本人であっても許せない。

 だから…唇を重ねて、何も言えないようにする。セレスティアは真っ赤になるも、私に身を委ねてくれた。


「うん、これはいい方法だ。君が自分の悪口を言う度に、私が塞いであげようか?」

 もちろん冗談だが。セレスティアはもじもじと体を揺らして…私の右手を両手で包んで?

「……わたしってば失敗ばかりで。勉強も1回で理解出来なかったり…ロッティと比べると駄目な子で」

 ん…?チラッ チラッ と私を見上げる。
 全く…仕方のない子だ。

「どんくさいし、令嬢として…あっ」

「そこまでお仕置きが欲しいのなら仕方ないな。さあ、口を開けなさい」

「ひょえ…」

 目をぐるぐる泳がせるセレスティアを、柵まで追い込んで。がっちりと捕まえて逃げられないようにして…開いた口に舌を滑り込ませて、何度も口付けを交わす。



「(こ…ここまで濃厚なのは望んでなかった…!この変態皇子~~~!!!)」


 最終的にセレスティアは腰を抜かして、私は笑いながら叔父上の家まで届けたのだった。



 私がいなくなった後、セレスティアに近付く男がいないとも限らない。そう危惧して叔父上とルクトルとルシアンに、よくよくお願いしていたのだが…。
 意外にもそういった輩は、ブラジリエが撃退しているとの事だった。…ありがとう。



 ※



 セレスティアは3年生になり、幼さが抜けてきて…段々と大人の女性になってきた。
 それでも揶揄えば、面白い反応をしてくれるので…

「ん…?セレスティア、首のところが赤いぞ。まさか…そんな扇情的な姿を、昨日からずっと披露していたのか?」

 皇宮にて皇太子妃としての授業終了後、遊びに来たセレスティアに耳打ちすれば。
 彼女は一瞬で真っ赤になり、首を押さえて慌てた。昨日…心当たりがあるものな?

「えっ!嘘っ!?」

「ああ、嘘だ」

「…………やーらーれーたー!!!」

 むきーっ!と憤慨する姿に、私の頬は緩んでしまう。
 だが膝に乗せて頭を撫でれば、段々と機嫌を直してくれるのだ。


 それから暫くして…。

「ルキウス様~…」

「ん?どうした?」

「………んーん、なんでも~」

「???」

 と、仕事中の私を訪ねては…何もせずに戻る事が増えた。
 何か言いづらい事でも…?と少々不安になり、いつものメンバー(私、ランドール、ルクトル)で会議。


「そういえば彼女、最近僕に「ルキウス様はお昼寝とかしないんですか?」って聞いてきた事がありましたね」

「昼寝…?」

 何故昼寝。まさか一緒に寝たいとか…?なんてな。

「お前それセクハラだぞ」

「やかましい!…ランドール、さり気なく本人に聞いてみてくれ」

「へいへい」

 で、その結果だが。


「要するに…「いつも揶揄われてばかりだから、わたしもなんか仕返しする!」って思ったみたいだな。寝顔に落書きしようと思ってるらしい…」

「「………………」」

 私達は3人揃って肩を震わせる。そうか…よし、分かった!
 次の休日、作戦決行の日。


「兄上!セレスさんが本日の授業終了、執務室に向かって歩いているそうです!」

 来たか…!全員スタンバイ!!


「……ルキウス様~…?」ひょこっ

「…………………」

 私は仕事中、ついうたた寝を…というスタンスで。机に頬杖を突き、右手にはペンを持つ。
 周りの者は笑顔で「しーっ」とセレスティアに合図してみせた。私は薄目を開けているのだが…。

「………!」パアァ…!

 セレスティアは目を輝かせ、抜き足差し足忍び足で机に近寄る。
 笑いを堪えきれないように、私の机からペンを取り…おっと目を閉じねば。

「にひひっ。何描こうかな~?」

 私は必死に口の端が震えるのを抑えて、されるがまま。
 そのうち…顔に細い物が当たる感覚が。髭か…?あと、眉毛が繋がったような…。

「んふふ…っふふっ、ふぅんっ…!」

 度々笑い声が漏れており、完成を楽しみにする私。
 すると気配が離れ…「内緒にしてね!」とランドール達に告げる声がして、扉が閉まる音に目を開けた。

 秘書が笑いながら鏡を差し出してくれて、自分の顔を見ると。
 予想通り髭と眉毛と…頬に花丸、その他色々。何より一番目を引いたのが…

 額に大きく、「わたしの!」と書かれている事。こんな宣言せずとも…私の全ては君のものだと言うのに…愛らしい。
 折角なので消さずにおこう。え、何故かって?


「………!!?(ルキウス様…まさか気付いてない!?あわわ、こここのままじゃ…!)」

 私はその顔のままで、セレスティアもいる夕飯の席に座ったのだ。ルクトルは知っているので平静で、父上とルシアンは噴き出し、母上は全て悟ったのか笑いを堪えていて。
 セレスティアは…オロオロと落ち着かない。あえてすっとぼけて「どうした?」と聞いてみた。

「えっと…その…。
 ル…ルキウス様。あの…顔を洗わない…?」

「ん?何か付いているのか?」髭の部分を撫でる

「付いていると、言うか。えーと…汚れが…ね?」

「なんと、それは大変だ。誰か、鏡を…」

「!!!いいから、わたしが拭いてあげるから!!」

「そうか?」

 セレスティアは慌てて濡れタオルで私の顔を拭く。

「随分と長いな…そんなに汚れていたのか」

「も、もうちょっと…!」

 ごしごしごし。終わった後、彼女はやり切った…!という晴れやかな顔をした。

 ああ…笑顔はもちろん、怒っている顔も慌てている顔も、全ての表情が愛おしい。
 私はもう、彼女と出会えなかった自分を想像できない程…セレスティアに惹かれているんだな。

「ありがとう、セレスティア」

「(ふう、危なかった…)えへへ、どういたしまして」

 彼女は真っ黒に汚れたタオルを背に隠し、冷や汗を拭っている。
 さあ、次はどんな悪戯をしてくれるのかな?私は全てを受け入れよう。
 


 ******


「シャルロットお嬢様はパパと呼ばないのですか?」
「柄じゃないもの。見たいの?」
「………ぶふっ」
「…………うふふ♡」そっと鞭を取り出す

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

チェンジ

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

ラグナロク・ノア

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:3

ぼくの淫魔ちゃん

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:4

不撓不屈

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:1

イケメンの婚約者が浮気相手と家出しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:21

潰れた瞳で僕を見ろ

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:21

処理中です...