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二章 吸血鬼の花嫁

1night

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「魔女殿、元気か?」
「ええ、元気です。商人さんはいいこととかありました?」
「ああ。いい貿易ができてな。」
どうやら、旅人さんは商人さんだったらしい。
「兄上昨日も来て元気かってなんだよ!!来すぎだろ!てか商人って無理ありすぎだろ……。」
「ほう、商人だからあのいわく付きのランプを持っていたんだろう?ん?」
「はいはい、そーですね兄上……付き合う僕のみにもなれよ……たく。なんでアーサーも兄上も隠したがるんかわかんねぇな……。」
ちなみに前にダニエルが彼女の前でファルークのことを一国の王とか言ったことがあるが、運良く聞こえていなかった。
「え?なにか二人はかくしてるの…?」
「えっ?あー、なんか宝さがししてるらしい!僕も付き合わされちゃって、はは!僕は部屋で魔法の勉強でもしてるよ!」
意外と宝さがしは流行るらしい。というのも、私がこういう遊びがあるんです、と雑談ついでにお医者様に話したからだ。それまでそんな遊びはなかったらしい。
「……ああ、ファルーク殿もいたのか。ここはいつも愉快だな。」
「あら、騎士さん。こんにちは、ちょうどアップルパイが焼けたの、食べていきません?」
「ああ……頂こう。そうだ、アーサーを知らないか?少し相談があってな。」
「アーサーさんならば、昨日、ダニエルさんと遠出にいくと話してましたよ。」
「……ジェイ殿か。情報提供助かる。」
掻き込むようにして騎士さんはアップルパイを口にいれる。そして、ご馳走になったと告げでていってしまった。
「あらま……最近、様子がへんね……疲れたような顔してるし……そんなにお仕事忙しいのかしら……。」
独り言を呟きながらお皿を片付けていると、椅子に座っていたファルークさんとジェイさんがガタ、と音をならしながら立ち上がり、こちらを目を見開いてみてきた。
「そんなまさか……いや、言われてみれば……。」
「なるほど……ですがいつから……。お嬢様に見向きもなさらないのはおかしいと思っておりましたが……。」
私は思っていたわ。
(え、なにごと?)
と。師匠ー!こんな奴らにかまってないで僕の新作の魔術をみろー!と部屋に呼ばれたため聞けなかったけど。


「様子が……憑かれたよう……。」
扉をでていくヴィンスさんをみながら、お嬢様はそう呟く。ファルークさんとともに、すぐさま立ち上がった。
「そんなまさか……ヴィンス殿が、取り憑かれているだと……?魔のものか……?信じられん。」
「なるほど……ですがいつから……お嬢様に見向きもなさらないのはおかしいと思っておりましたが……私には、魔の気配を感じ取れませんでした。」
「だが彼女の言葉には妙に信憑性がある……。人を見抜くのに長けているからな……。」
「ええ。お嬢様に害をなす可能性がある魔のものは警戒するに越したことはありません。」
ファルークさんと目を合わせ、うなずき合う。
「ならばアーサー殿たちもどうかわからんな。」
「ええ。私でさえ、気を抜いていたとは言え見抜けないなんて……よほど強力な魔物のでしょう。シアンにも話して、魔物が取り憑いてるか見てみましょう。あなたは……私が思い切り力を込めても魔物は見えないので大丈夫そうですね。」
「ああ。私は正気だ。こんど城に来てくれ。国の方は一段落したから、休暇としてあと一ヶ月ほど滞在する予定だからな。その間に魔物の目的などをさぐろう。」
「ええ、期限は一ヶ月……承知しました。魔物が分身体を作る可能性もありますから、くれぐれも魔物に取り憑かれた人間と二人きりにならないでくださいね。」
「ああ、わかった。警告助かる。まて、ヴィンス殿はアーサー殿を探していたな……!?」
ファルークさんは、私にご馳走になった、美味だったと伝えてくれと私に告げた。彼女の手作りアップルパイ、私だけが独占したかったと言うのに……お嬢様が優しいから……。
私の恨みがましげな視線に気づいたのか、ブル、と体を震わせてから出ていった。
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