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カイル【 1 】
しおりを挟むふと何かを感じ視線を上げれば左上の方に神聖な優しい魔力を感じる。視線をそのままにしていると魔力はやがて光った後に手紙の形になり、最後に手紙を残して消えた。
「これは……」
思わず呟くと、部屋に控えていた侍従から
「どうかされましたか」
と聞かれた。
「何でもないよ」
微笑みながら言えば侍従は
「何かありましたらお呼びください」
一礼した後、また元の場所に戻った。
この手紙は、送り先の人物以外には見えないようにされているな。聖女様はこちらの世界に来られてから魔法を使い始めたそうだが、よく使いこなされている。
さて、何が書かれているのだろうか。
不思議に思いながら開けた手紙の内容に、読み終わった後思わず頭を抱えた。
そうか私は聖女様にとって自分に興味の無い安全圏な存在だと思われているな。これは聖女様への接し方に失敗したか。
いや、しかしだからこそこうして手紙を送ってくださったのだ。むしろ成功したのか?
思わず遠い目になりながら思考に沈む。
私は南の大国カルデッド国の皇太子だ。
帝王学は幼い頃から学んでいたし、王族としての責務として立ち振る舞いにも気を付けている。
正直、聖女様に初めてお会いした時、目を奪われた。美しすぎる容貌は神々しく、貴族達との顔合わせの際 リップサービスとして令嬢達に掛けていた言葉のどれもが軽く思えて、不覚ながら言葉が出て来なかった。
聖女様の容姿に惹かれたのはもちろん私だけでなく、周りに集っていた者たちも熱い視線で聖女様を見ていた。
当然、聖女様の周りには常に人が群がり、皆聖女様の夫になるべく行動を開始していた。
私も同じく行動するべきかと思われたが、私が最初に聖女様が降臨されるとの情報を聞いた当初の目的である、聖女様の人柄を知ることはそれでは駄目だと思い自重した。
この大陸において女神信仰は唯一の信仰であり、神殿は重要な位置にある。
そして史上初の聖女様の降臨。温厚な人物ならいいが、あまり苛烈な性格であったり、または大神殿の中で何か偏った情報ばかり与えられて問題のある人物になってしまったら……という可能性もある為、できれば側でその人となりを見極めたい。
そう考えた私は陛下に進言し、大神殿に向かう事になった。
大神殿は聖女様の為に宮殿を建てていて、そこに滞在する為には何か名目が必要か……と思ったが、すんなりと滞在を許可された。
大国の皇太子の身分と、精霊と契約していることで許可されたらしい。
私が契約しているのは下位精霊だが、精霊に対して女神様の眷属として信仰している神殿側としては、私の滞在要請は無下に出来なかったようだ。
精霊は契約すると魔力を増幅させてくれたりといった恩恵が受けられるが、反対に大変な事もある。
契約した者によってそれぞれ違うが、私の場合は交渉の際、相手を観察して意図を推しはかろうとするせいか、人の心情の機敏に対して色のオーラで視えるようになってしまった。
あまり邪な考えな者だと赤黒い色が体に纏わりついている。
上に立つものとして非常に役立つ反面、貴族女性の傲慢やお互いへの嫉妬心などもわかってしまうため、貴族令嬢との顔合わせや茶会などは地獄だった。
顔ではお互い笑顔で会話をしつつ、心の中では醜い心で攻撃し合っている令嬢達には本当にうんざりだった。
そんな私だが、聖女様と対面したらそんな感情は感じられない。
そもそも聖女様自体が高位精霊との契約者だ。
私は聖女様に対して、生まれて初めての心を奪われる、人に恋するといった感情を覚えたが、常に人に弱みを見せないよう振る舞っていた長年の経験から聖女様に対してどう接したらいいかわからない。
対面して話す際も、当たり障りない会話しか出来ず 部屋に戻って来てから落ち込む、といった本当に情けない日々を送っていた。
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