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本編

70.獣の正体

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楼透の話だとやはり本来は消滅する筈が副作用で首輪に取り込まれてしまったことで魔力の消耗が激しいのかもしれないと、だから時折出てきては数分話をするとまた首輪の中に消えてしまうらしい。


『···リカ、その獣は何だ?お前の守護獣か?』
「んー」
「どーしたの?律花?」
「え、えっと」

どうしよう···千秋にはコクヨウの姿が見えないんだった。
もう既に兄貴や蓮家の人達には俺が視えるべきモノで無いものが視えていることは何となく知られているが、千秋にも伝えておくべきだろうか···でも俺と楼透にしか視えないんだから疎外感を与えてしまうんじゃ······。

「千秋には話しましたよね、今俺の頭にコクヨウが止まってます」
「楼透のカラス!いーなー!僕も触りたい!」
『触れられるものなら触れてみるといい』
「千秋。これがコクヨウですよ」
「わーい!うわぁもふもふしてるね!」
「·······今は俺の頭の上ですけどね」

俺の心配は何処へやら···楼透は既に千秋に話をしてあったらしい。楼透の空の腕の中に千秋が両手で触れた······思わずはだかの王様か!とツッコミたくなったが楼透が真実を言ったことで頬を餅のように膨らませた千秋が楼透と鬼ごっこを始めた。
全く、こいつらは···。





鬼ごっこが落ち着いた後、立ち話は···と学園の休憩室を借りた。時間帯、期間的に休憩室には俺たちしか居ない。まぁ、運良く演習場を借りれた生徒は各自借りた演習場にいるだろうし、練習室と演習場そのどちらも借りれなかった生徒は学園に残るよりも早く帰って自分の家又は練習出来る所へ向かうだろうしこの期間、遅くまで学園に残る生徒は少ない。


「じゃあ、こくよう?はこの子が守護獣なの?って聞いてるの?」

『その獣はピェスリスと呼ばれていたか、坊の前の前の前···今から何百年と前には見かけていたが代を重ねるごとに見なくなった。恐らくそのまた何百年前にフェニクスの数が減少したからな···守護獣となっていても可笑しくは無い』


俺は千秋に通訳しながら話す。守護獣って言うのはだいたいが親から子へと相続される魔法で、俺は仕組みも詳しい事も知らないが昔の人が個体数の少なくなった魔物を幻獣化の魔法で半永久的に召喚出来るようにしたらしい。だから兄貴のフェニックスも太古の魔獣だ、まぁローガ北東部のティエリゴ山脈にあるダンジョンの最奥にはまだ現存してるって聞いたこともあるけど···。ピェスリスなんて名前の魔物は聞いたことないな。


『そうだな、一番近いのは魔犬か、彼奴らの先祖はピェスリスだったと記憶している。······まぁ何代も前の記憶だから正しいか保証は出来ないがもしもその子がピェスリスならば守護獣としか考えられないと私は思うぞ?第一にその子本来のものと別の二種類の魔力が僅かだが感じるからな』


この子の正体が分かって安堵し、それと同時にとても驚いたが続けたコクヨウの言葉に更に驚く。別に二種類の魔力···という事は守護獣として継承したばかりなのか、それともそんな話を聞いたことは無いが二人の人物がこの子の主なのか······ん?でも魔力を僅かに感じるって──。


『ピェスリスは決して強くない魔物だ。現代の魔物の強さで言えばスライム三匹と一度に戦闘を行う程度、それなりに魔法が使えれば素人であれ倒せるだろうなぁ』

「·······それはつまり継承を放棄した、と言うことですか」

『私に言われてもそれは分からない。が、既に守護の繋がりは断たれているように見える···しかし何故この場に消えることなく存在出来ているのか、それも謎だ』


確かに弱い守護獣の継承を放棄する事が一時期話題になったことがある。でも結局継承すれば、継承継続控除って言う制度で少し国家に納める税金が安くなる事になったと思う。だから殆どの貴族は継承を続けてる筈だ。
······それでもこいつは捨てられたのか、、?
継承を放棄するって言うのは簡単に言えばそういうことだ。継承するだけなら一生その召喚魔法を使わなくたっていい、つまりは魔力消費だって無いし、自分が損する訳でもないのに──。

俺の腕で丸くなっているピェスリス、こんなに可愛いのに捨てたやつがいるのか?それともこいつの主だった奴に何かあったんだろうか。


「守護獣なら確かにケージを用意する必要なんてありませんし、武市家の継承守護獣でしょうかね。···おかしいですね、だったら何故俺達に片付けろ等と······」


楼透の言う通りだ。例え怪我をして使い物にならないと判断したとしても、自分の守護獣なら送還すればいい。移動手段が必要という事は守護獣ではない······?

コクヨウの話で分かったのはこの子がピェスリスと言う魔犬の先祖であったという事。正体が判明して安心したものの、この子が何処から来たのかが分かっていない。もしかしたらこの子の主人が召喚或いは送還して急に消えてしまうかもしれないし、既に守護の関係が無くこの子は必要な魔力を与えられず消えてしまうかもしれない···。


「なぁ、楼透」

病み上がりの楼透に無理を強いるかもしれない。
でもこの考えは情弱な俺だけじゃ絶対に無理だ。


「何なりと」
「···至急だ、この子の情報が欲しい、主人がいるならそれでいい。でももしいないなら、消えてしまうかもしれない。情報に弱い俺だけじゃ時間がかかる···お前に無理をさせるのは分かってるが手伝って欲しい。···いや、手伝ってくれ」


俺がそう言うと楼透は微かに口角を上げ頷く。
そして恭しく頭を下げた。


「···律花様の御心のままに」
















次の日、俺はケージに入れたピェスリス──呼びずらいからピスって呼んでる──を学園へ連れていった。昨日のうちに学園の事務員さん、及び教職員の皆さんには伺いを立てていた。学びの場に動物を持ち込むことには反対される事を覚悟していたが、何故か事務員さんも先生方も好感触。不安になって理由を聞けばピスを学園内で保護・手当して、さらに飼い主を探していると言う理由と俺の日頃の授業での態度や内申がかなり良かったらしく特例でという事だった。俺自身実技成績が良くなかったのは自覚してたから、せめて座学ではと真面目に授業を受けていたのが幸いした。

教室へ連れていくと俺の周りを男共が囲む。案の定どうしたのか聞かれる→俺が答える→周囲の奴ら知らない→友達に聞いてみるの繰り返し。勿論そんな直ぐに欲しい情報に行きつくかなんて期待してない。俺は出来るだけ愛想良く情報提供をお願いした。

楼透は今日は俺を教室まで送り届けると中等部へ向かった。俺が昨日手伝うようお願いしたからだ。兄貴に楼透を無理させるなと言った手前罪悪感があったが、楼透はいつもより機嫌が良いようで俺が何も無いとこでコケてもいつもみたいに「何も無い所で転ぶなんて大変ですね」とか「注意力散漫って言葉、聞いたことあります?」とか言わないで「気をつけてくださいね···別に、心配してる訳じゃないです。フォローするのが面倒なだけです」ってバカにされなかった、かなり機嫌良いようだ。


「···早く見つかるといいな?」

「きゅぅ」

「どうした?···可愛いな、お前」


円な瞳がケージの中から俺を見てくる。
俺、ワンコよりにゃんこ派だったんだけどな···。
こう···もふもふしてると、な。

危ない危ない···思わず両手が怪しく動き出してた。こんな手の動き、傍から見れば変態みたいじゃないか···。俺はキョロキョロと挙動不審になりつつ誰にも見られていないことを確認しホッと胸を撫で下ろした。

このケージは昨日話を聞いた兄貴が買ってきてくれて、ちょっと特殊な魔道具で外から見るより中はピスが走り回れるほど広いらしい。だから外から見えない時はケージの奥にいる。確認する方法は専用のゴーグルがあって、それを着用すればケージの扉とゴーグルが連動しているため内部を確認出来る。これは結構な高級品だろうと兄貴を問い詰めると、俺の誕生日にスライムでも飼わせてやろうと思って用意していたものらしい。
なお、俺の誕生日は両親が行方不明となったり、楼透を連れ戻したりとバタバタしていたことや喪中に大規模な祝い事は出来ないから有耶無耶になっていた。俺もそれどころじゃ無かったし、祝われる気分でも無かったから別に気にしてなかった。改めて兄貴にはおめでとうと言われた、問題が落ち着いたら本当はささやかでも俺の誕生日を祝いたかったがまだ片付いていない領地の事や厳島の魔人化の事もあり、今年中には難しいかもしれないからと。忙しいのに俺の誕生日の事を考えてくれていてだけでも十分だし、こんなに俺が愛されていいのかって凄く嬉しかった。

兄貴もピスの事を片手間に調べてくれるって。俺達で調べるって言ったんだけど、暇があったらだからと強調して言ってくるから本当に出来たらで良いと念を押したけどどうだろ?



「律花様···申し訳ありません。私が無能なばかりに···うぅ」

「禅羽さん、落ち着いて?」

「やはり腹を切って私の命を持って──」

「だーかーら!あんたの命は俺の物なんだってば!勝手に切腹しないで!?」



授業中は事務員さんがピスを預かってくれることになっている。そろそろ一限目が始まる十分前だと、俺はピスを事務員さんに託し事務室前で待っていた禅羽さんと合流した。

禅羽さんは楼透の代わりに動いてるって事は楼透から聞いてたから俺は別に気にしてない。それに消臭コロンも欠かさずつけているからか千秋も楼透も今のところは不審な様子は見られない。魔人化の件で世間がザワついてて確かに護衛の面での不安が無いとは言えないけど···。禅羽さん曰く、自分がもっと早く仕事を片付けられれば俺の護衛として動けるのにとの事。



「大丈夫。禅羽さんだって、俺の為に陰で動いてくれてるんでしょ?」

「従者として主人への不穏要素を排除するのは当然です」

「······うん、有難いけど無理はしなくていいから」


顔を輝かせてそう言う禅羽さん。
なんだろ······蓮家の人って変た──ごほん、きっと従者気質と言うかそう言う性格なのかもしれないな。俺はそう思うようにした。禅羽さんは「時間も限られていますので簡潔に申し上げます」と前置きすると話を続けた。



「この件は燈夜様には既にご報告済みです、小豆男爵──小豆親子が監獄島から脱獄した件ですがどうやら近年勢力が高まっていたある組織と関わっていたようなのです」
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