転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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1巻

1-9

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 妖精のミムは薬草であるマクリナの生育環境に詳しかったため、俺が聞いてガルボやマルコに説明することになった。あとは作業のみなので、ヒスイとコクヨウには控えてもらっている。

「騎士に、急いで川に流れてくる鉱石を拾って来てって頼んでる。届くまでは、大変だけど川から水を運んでもらって。鉱石を運んだら城の溜池ためいけに入れて、それを薬草用の水に使うから」
「わかりやした!」

 ガルボは勢いよく返事して、ドドドドと音を立てながら温室を出ていった。ミムもなぜかガルボの肩に乗ったままだ。どうもガルボはミムにとって居心地がいいらしい。

「土と砂利の配分はどうしましょう」

 砂利袋の山を積み上げ終わったマルコが、汗を拭いながらやってきた。

「砂利と土を三対七の割合で混ぜるんだって。マクリナの周りを掘り起こして、マクリナを囲うようにこの土砂を入れて、あとはまた土を被せなきゃならないんだけど……」

 俺は広い温室に植えられたマクリナ達を見渡す。

「これ、一回移動させないとダメじゃない?」

 これじゃいくら何でも人手が足りない。しかし騎士達は今、鉱石運びに行かされてしまっている。
 マジかー、これをこの少人数でやるの?
 俺がげんなりしていると、マルコは笑った。

「大丈夫ですよ。私の召喚獣がいますから。メイベル!」

 マルコが呼ぶと、マルコの前に一匹のモグラが現れた。だが、俺の知っているモグラよりふた回りくらい大きいし、器用に二足歩行している。目はつぶらで、ちゃんと見えているようだ。
 メイベルはマルコのもとに駆けてきて、足にり寄る。

【ああぁっ!! マルコ様っ! 半日ぶりのマルコ様っ! お会いしたかったっ!!】

「土モグラっていうんですけど、苗の植え替えとかをやってくれるんです」

 マルコがメイベルを抱き上げると、メイベルは胸にペッタリ貼りつく。

【人前でなんて大胆なっ!! ああぁっ!! でも、そんなあなたも好きっっ!!】

 メイベルの熱烈ぶりにちょっと引きながら、俺は「へぇ、そうなんだ」と呟く。

「メイベル、苗を傷つけないよう掘り起こせ」

【あなたのためなら喜んで!!】

 マルコの命令に食い気味で返事をする。マルコがメイベルを地面に下ろすと、土モグラが何十匹も現れた。

「何っ!?」

 ビックリして俺は身構える。

「大丈夫です。私が召喚獣にしているのはメイベルだけなんですが、土モグラはグループになっていて、リーダーを召喚獣にすると自動的にグループもくっついてくるんです」

 それは便利だなー。
 じゃあ、これはメイベルの手下か。三十匹くらいいる。これなら作業も速いかもしれない。
 そう思っていると、手下を見据えるメイベルの目つきが急に変わった。

【てめぇらっ! 苗を傷つけないように掘り起こせとのマルコ様のお言葉だ! 傷ひとつでもつけてみな、承知しないよっ!!】

 メイベルがドスをかせて怒鳴ると、土モグラ達は軍隊のようにビシッと直立して返事をした。

【わかりましたっ! 姐御あねごっ!】
【わかったらさっさと作業しなっ!!】

 その号令とともに、土モグラ達は土を掘り起こしていく。器用に素早くやってくれるので、苗への影響も少なそうだ。

「メイベル、これが終わったら、この混ぜた土砂を入れて、マクリナを植え直してくれ」

【あなたのためなら喜んで! 今のお言葉聞いていたかいっ? 終わったらその作業に入るんだよっ!】
【わかりましたっ! 姐御っ!】

 何か……メイベル、マルコと手下への対応の差が激しいんだけど。恋した女番長って感じだ……。
 俺がジッとメイベルを見ているのに気づいたのだろう。マルコはメイベルを撫でてから俺の前に出す。

「あ、じゃあ改めまして、私の召喚獣を紹介します。メイベル、こちらはフィル王子様だよ」
「こんにちは、メイベル」

【マルコ様の召喚獣のメイベルです。私のマルコ様がいつもお世話になっております】

 丁寧にお辞儀をする。奥さん気取りである。

「いや、マルコがいないとマクリナは作れないからね。こちらこそお世話になっているよ」

 そう言うと、メイベルは嬉しそうに飛び跳ねながら語り出した。

【よくわかってらっしゃる! マルコ様は本当に素晴らしいんです! 優しく、時に厳しく、礼儀正しくて。つぶらな瞳がキュートだけど、実は筋肉がムキムキっていうギャップが、もうたまらなくてっ!! それから……】

「メイベルは……マルコへの愛が溢れて止まらない感じだね」

 思わず口元がヒクつく。あんまりにすごくて、それしか言えない。
 メイベルの耳に俺の言葉などもう入ってはいないだろう。体をくねくねさせながら、いかにマルコが素晴らしいかをとめどなく語り続けている。

「あの……もしかしたらなんですが……さきほどからそうかなぁと思っていたんですけど……」

 マルコは言いにくそうに聞いてきた。なんだか前置きが長い。

「うん?」
「フィル王子は、メイベルの言っていること、わかるんですか?」

 ん? 質問の意味がわからない。
 眉根を寄せて首を捻る。

「何言ってるの。めちゃくちゃマルコの素晴らしいところあげているじゃない。マルコも話しかけてるでしょう?」

 マルコが固まる。やがて、呼吸を思い出したらしく息を吐き出すと、かすかに頷いた。

「ええ、確かに話しかけたりします。コミュニケーションをはかったほうが使役しやすいですから。ですが……会話はできません」
「え?」

 え……あれ?
 会話……誰もしてなかったっけ?
 今までの記憶を思い起こす。召喚獣がいる時、会話が成立していた人はいただろうか?
 あれ……もしかして、いない?
 皆、話しかけたりはしていたけれど、会話はしていなかった。人語を話せるヒスイは別として。
 俺はこの世界の獣は喋るもんだと普通に受け入れていたが……。まさか、皆聞こえてない?
 やばいじゃん! じゃあ……俺、動物に話しかけるめっちゃ怪しい子になってたわけ!?
 それ、「まだ小さいから……」で許される範囲内? ねぇ!
 あまりの事実に頭を抱え込む。

「妖精が見えて、声まで聞こえることに驚きました。ですが、それも妖精の上位である精霊様を使役しているから可能なのかと思ったんです。いや、思い込もうとしました」

 マルコはゆっくり膝を折って俺の前に座り込む。メイベルもマルコの様子がいつもと違うと気づき、喋るのを止めてしまった。
 え、どうした? どうしたマルコ! 何で俺の前で正座する!?

「でも、メイベルの言ってることがわかっているようでしたし……フィル王子、あなたは一体、何者なんですか?」

 そんなの、こっちが聞きたいですっ!
 もともと持っていた能力なのか、頭打ったからなのか、前世の記憶が復活したからなのか、まったくわからない。だって普通に聞こえるんだもん!
 それに、そのこと以外は普通の幼児。大学行くくらいの知能と知識はあるけれど、それも大人になればただの凡人だ。
 だから、マルコに言った。

「ただの、普通の子供だよ!」
「そんなわけありません!」

 一蹴された。だったら初めから聞かないでほしい。
 それからマルコは、俺をあがめるように頭を下げる。

「きっと、神の子です!」

 なっ!! そんなわけあるかー! やめてほしい。そんなこと言って、誰か他の人に聞かれたらどうするんだ! また変な噂が立ってしまう。

「お願いだからやめてくださいっ!」

 俺も頭を下げる。
 こうしてお互いに土下座し合う、変な構図になってしまった……。




 6


 書類を読み終わって机に置く。そうして出たため息は、自分のものかと疑うくらい深かった。
 書類はマクリナの資料だ。これからの栽培計画書と生産の見込み量、薬草としてだけではなく予防薬としてのお茶を定着させる案も打ち出している。
 計画によると、水や土の改良によって栽培は安定するので、そう時を置かずして供給できるとのことだった。

「すごいですね、王様。フィル王子の手腕は」

 側に控えていた宰相のダグラスが静かに言った。書類を読み終わる頃合いを見計らって話しかけてきたらしい。
 ダグラスと私は幼馴染おさななじみだ。母親同士が親友ということもあって、赤ん坊の時から一緒にいた。私には兄弟がいなかったから、ダグラスは私にとって親友であり兄弟であると思っている。
 通常であれば王の友という立場に自惚うぬぼれる者もいるだろう。だが、ダグラスは違う。自分が王の友である意味を誰よりもわかっていた。

『あなたが王になった時、王を励まし、いさめるのは友である自分の役目です。だから私は将来、誰より正直で、誰より清廉潔白せいれんけっぱくな宰相となりましょう』

 子供の頃のこの約束は、今も健在だ。
 心を開ける友として、宰相として、よき相談相手になってくれている。

「しかし今回の件、無理かと思っていました」

 そのダグラスは、驚きを隠しきれない様子だ。

「そうだな」

 もちろん私も同じ気持ちだった。
 マクリナの栽培を成功させることは、国にとっての大事業である。ドラーギ国への牽制けんせいになるだけでなく、自国民の健康まで確保できるのだから。
 しかしマクリナは森に自生する植物。生育方法がまるでわからなかった。
 その上、あのガルボだ。知識も実績もあるのに、あの頑固者は自分のテリトリーに誰も入れようとしない。もちろんガルボのことは信頼している。だが、ドラーギ国が薬草の価格を高騰させている中、半年任せてもいい結果が出せないのでは、大臣達の心象は悪くなる一方だった。
 そこでアルフォンスやヒューバートを送って状況を打開させようと思ったのだが……ダメだった。アルフォンスは「ひょろひょろのお坊ちゃんの来るとこじゃない」と追い返されるし、ヒューバートは肥料運びに使われておしまい。その後にダメもとで送った、ステラやレイラもまた同じだ。

「王様は、フィル王子ならできるとのお考えだったんですか?」

 ダグラスの問いに首を振る。

「いや、フィルに頼んだのは別の意図があってのことだが……」

 書類にトンと指を置いて、ダグラスを見た。

「この書類に目を通しただろう? どう思った?」
「よくできていると思います。現状の問題点、これから行うべきこと、それらの利点、行う上での注意点や、何か問題が起こった時の対処方法。その上、マクリナの栽培が成功した後の供給場所や手段まで書かれてあって……。非の打ちどころのない、見事な資料です」

 根っからの文官であるダグラスにとって、感激を覚える出来だったのだろう。頬が紅潮している。
 それを見て私は苦笑する。まるで子供に戻ったみたいな顔だ。
 すると、ダグラスはハッとして私を見た。

「あ! あー……もしかしてフィル王子がこれを書いたのでしょうか?」

 思い当たるところがあったのか、聞きながらも、どこか確信したような顔をしている。私はそれに静かに頷いた。

「おそらくな。提出者名がマルコになっていたが、筆跡が違う。これはフィルのだろう。だがダグラス、よくわかったな」

 ダグラスは馬鹿にするなと言わんばかりに、片方の眉を吊り上げる。

「書類の素晴らしさに我を忘れてしまいましたが、考えてみれば筆跡の違いだけじゃありませんよ。ガルボ親子に何度か書類を提出させていますが、彼らがこのように完璧な資料を作ってきたことはありません。それに、大事な箇所で文章の段を変えたり空白を作ったり……これほど読みやすい形式の書類は、見たことがありませんから」

 確かに、こんなに読みやすい書類があるのかと驚いた。これを見てしまうと、今までの書類がいかに読みにくいものだったかわかる。

「確信したのはそれだけが理由ではありません。ここでドラーギ国の書類をフィル王子にお見せした時のことを思い出したのです」

 ダグラスはひとつ息を吐く。

「私は五歳の子供が字を読めたとしても、まさか理解はできないだろうと思っていました。しかしあの方は一瞬で書類を読み、理解し、先のことにまで考えを及ばせておられた。あのように聡明な方なら、可能だろうと思ったのです」

 それを聞いて、頷くとともに苦い気持ちがこみ上げてくる。
 そう、フィルは聡明だ。聡明すぎるほどである。
 しかもまだ五歳。将来、どんな成長を見せるのかと楽しみであり……不安でもある。
 私の顔が曇ったことに、ダグラスも気づいたようだ。

「さきほど、フィル王子に役をつけたのは別の意図があった……そうおっしゃいましたよね? 聡明であることと、関係があるのですか?」

 ダグラスから目をそらしながら呟く。

「野心があるのかどうか、見たかったのだ」

 ダグラスが息を呑んだのがわかった。

「まだ……五歳ですよ?」

 躊躇ためらいがちにダグラスが言う。

「だが、驚くほど優秀だ。大人でも手を焼く薬草の研究を、数日で解決するくらいにな」
「しかし、アルフォンス様も、大変ご立派なお方です」

 そうだ。アルフォンスは賢く、どこに出しても恥ずかしくない。だが……フィルはまた違う。
 ひらめきも、先を見通す目もあり、この国だけではなく世界をも視界に捉えている感がある。

「兄弟の仲もよろしいです」

 確かに……ありがたいことに兄弟仲はいい。だが……。

「私はアルフォンスとフィルの周りが派閥はばつに分かれ、当人達の仲など関係なく争うのが怖いのだ」

 こんなことを考えたくはないのに……。フィルはあまりにも優秀すぎる。
 額に手を当て、深いため息を吐く。ダグラスの手が私の肩にそっと置かれた。それだけで少しだけ落ち込んでいた気がまぎれる。

「こう思うようになったのも、フィルがディアロスや精霊を使役しているからかもしれぬな。私の理解の範疇はんちゅうをあまりに超えているのだ! あの子は」

 わざと、少しだけ立腹したような口調で言うと、ダグラスも大きく頷く。

「あー確かに規格外ですよね。もう何度、腰を抜かすほどビックリさせられたことか」
「そうであろう? 私はディアロスを初めて見た時には、本気で失神しかけたぞ」

 舌打ちしながら言うと、納得したようにポンと手を叩く。

「マティアスは子供の頃、ディアロスの伝承を聞いて、眠れなくなったことありましたもんね」
「そのことには二度と触れるな、と言ったであろうが!」

 次の瞬間、私達は顔を見合わせて笑ってしまった。
 それからもうひと笑いすると、ダグラスは真面目な顔で話し始めた。

「私の見立てでは、フィル王子は派閥の傀儡かいらいになるほど愚かでもありませんし、本人は目立ちたくないと思っていらっしゃるようです。マルコの名で書類を出しているのもそのせいでしょう。野心どころか、注目されることを避けているのだと思います」

 その言葉に、私は肩をすくめる。

「そうだな。私に『お忍びで遊びたいから外出許可が欲しい』と願い出たくらいだしな」

 何の冗談かと思うたわ。
 あの時のやり取りを思い出してフッと笑みがこぼれる。

「だが、フィルは望まなくとも、また何か起こりそうな気がしてならん。もう少しだけ、可愛いあの子を手元に置いておきたいものだが……」

 もしかしたら、我が手どころか、我が国にも収まらぬかもしれない……そう思い、少し寂しい気持ちになった。


   ◇ ◇ ◇


 ようやく貰った……外出許可!
 ただいま、憧れの城下町に来ております。
 本当はボディガードのコクヨウもいるし、ヒスイも行きたがっていたから森に行こうかと思ったんだけど。最近、何かとトラブル続きの俺。外出初回は、大人しく城下町見学にしといた。活気溢れる市場やレストランもあるし、他国の行商人などの出店もあるらしい。
 中身日本人の俺にとっちゃ、海外の城下町みたいなものだからな。楽しみでしょうがない。

「それにしても……暑い」

 はふぅと額の汗を拭う。城から出て街に来るだけで汗をかいてしまった。ぽかぽかの陽気で半袖を着ている人が多い中、俺は膝丈のコートを着て、頭からすっぽりフードを被っている。
 懐に持つ小さいバッグの中にはコクヨウがいる。バッグから頭を出し、コートの隙間から外を覗いていた。


「コクヨウ、なんで黒い色の獣を根絶やしにしちゃったんだよ~」

 コートの中にパタパタと空気を送り込みながら文句を言う。
 伝承の獣は黒い毛並みである、というのは有名な話。そして、それ以外に黒い毛並みの獣がいないということも。
 三百年前の伝承だから、この小さな愛らしい狼がディアロスだとバレることはないと思う。実際、城でもわからない人もたくさんいたし。
 だが、万が一バレたら、街どころか大陸中がパニックになってしまうだろう。それだけは避けるようにと、父さんから再三言われたのだ。
 というわけで、コクヨウを隠しながらのお忍び観光であった。
 そのコクヨウは、フンと鼻で笑いながら言う。

【我が根絶やしにしたわけではないわ】

 俺はコートを覗き込む。

「えー、じゃあ、何であんなふうに言われてるわけ?」

 するとコクヨウは意地の悪そうな顔でニヤリと笑った。

【黒い獣の種を好んで根絶やしにしていたのがいてな。最後の首として我を狙ってきたのを、返り討ちにしてやっただけのことよ。あれは実に愉快であった】

 思い出したのか、カッカッカと悪魔みたいに笑い出す。
 うわぁ……。見た目キュートなのに、可愛くない笑い方するなぁ。

「第一こんなことしなくても。ヒスイみたいに控えていて、僕が呼んだら出てきてくれればそれでいいんだけど」

 城を出ようとした俺のバッグに、コクヨウが駄々をこねて潜り込んできた時は参った。ヒスイと違って、コクヨウは自分で姿を消すことができない。だから大人しく控えていてほしかった。

【長い時を生きてきたが、人の街に来るのは初めてなのだ。こんな愉快そうなこと、見逃せるか】

 そう言ってウキウキしながらコートの隙間から外を覗いている。こういう姿を見ていると、伝承の獣のイメージと全然一致しない。というか、めっちゃ可愛い。
 まぁ、確かに。街にディアロスが現れたら「世紀末かっ!」て感じだもんな。
 人なんて、蜘蛛の子散らすみたいに逃げてしまうだろう。
 だからこうやって街に入り込むなんて、コクヨウにとっては信じられないことなんだ。
 俺は諦めることにした。こんなにウキウキしているのに、無理に控えさせるのもかわいそうだし。
 そう思って観光を始めようとしたら、コクヨウが余計なことを言ってきた。

【それに、隠れるのは我のせいばかりではあるまい】

 揶揄やゆするような響きに、思わず苦々しい顔になる。
 ムカつく。
 そう。頭まですっぽりローブを被っているのは、コクヨウのせいばかりじゃない。
 俺の、髪の色だ。
 青みがかったこの銀髪は、大変稀らしい。聞いたところ、この国じゃ俺しかいないのだという。オレンジ色とか緑色した髪の人がけっこういるから、俺の髪色もありふれていると思ってたよ。
 何でも青みがかった銀髪は、非常に神聖な色なのだとか。別の国じゃ、平民でその髪色で生まれてくると、すぐ神子として育てられるんだそうだ。
 けど、そんなのどーでもいい。それを聞いた時の俺のショックわかる? 膝から崩れ落ちたよ!
 つまり、この髪の色で、すぐ俺だとバレちゃうってこと。平民の格好して街をうろうろしようと思っていた俺の計画が、一瞬でポシャってしまった。
 そんなわけで、こうして頭からフードを被っているというわけだ。

「とりあえず、こっそり観光するからね。大人しくしているように」

 そう釘を刺して、街を歩き出す。
 やはり活気があるな。農耕の国であるグレスハート王国だが、最近俺が名産として作った干物などを売り出し始めたので他国との貿易も増えている。それとともに、流行りに敏感な行商人も多く来ていると聞いていた。

「確かにうちの国とは違った服を着てる人がいるなぁ」

【フィル、あれが食べたい】

 鼻をくんくんさせながらコクヨウが言う。
 さっそくグルメかい。ま、俺も興味あるけど。

「わ!!」

 見て驚いた。屋台で肉を売っていたのだが、ただの肉ではない。マンガ肉だ。骨に肉の塊がついてるっ!

「く、くださいっ!!」
「あいよー。小・中・大・特大とありやすよ。どれにしやすか?」

 マンガのイメージじゃ特大だけど、あれ……ボウリングの玉くらいあるぞ。
 いくらなんでも食べられないよなぁ。

「中、ください! いくらですか?」
「二十ダイルになりやす」

 一ダイルが、日本円にして約十円だから……二百円? 安い!

「はいっ!」

 興奮気味にお金を出す。
 ……しまった。一も二もなく買ってしまった。
 だが仕方ないと思う。これは男のロマンだ。避けられない宿命なんだ。
 こんなのが目に入って、買わずにいられるか?

【フィル、肉っ!】

 コクヨウがフードの下からフガフガ顔を出す。

「わかってるよ。まずは先に一口」

 俺は肉にかぶりつく。
 美味いっ! ジューシーで柔らかくて、塩だけで充分だ。
 その後、肉を裂いてコクヨウにもあげながら、あっという間に完食してしまった。
 こっちの肉は美味しいなぁ。ソーセージとかも作りたい。ペロリと指先を舐めながら考える。
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