上 下
163 / 297

161.司馬府の白黒(1)

しおりを挟む
ひと眠りした後、剣士府けんしふから名を改めた司馬府しばふにフェイロンさんとヤーモンを訪ねた。

名を改めたのは、軍事をつかさどる『司馬しば』の役職にいたフェイロンさんの強い意向だ。

剣士たちのスペースを少しけずり、兵士団に割譲かつじょうされている。

「剣士だけがかえっていて、それで良い状況ではなくなりましたからな」

と、フェイロンさんはこともなげに言った。

剣士たちのプライドを傷付けるんじゃないかと、少し心配だったけど、フェイロンさんの判断に従っている。

「マレビト様はジーウォ公の地位に登られたのです。呼び付けていただいてよろしいのですぞ」

と、執務室でフェイロンさんが言った。

「いえ、皆さんの顔も見たかったですし」

「マレビト様は変わりませんな」

やがてヤーモンが姿を見せ、本題に入った。

「捕らえた北の蛮族を兵士団に加えたい」

と、俺が言うと、フェイロンさんはニヤリと笑った。

おっしゃると思っておりました」

俺はアスマたちの境遇きょうぐう、リヴァント聖堂王国の話、そして追放された女王であることなどを2人に説明した。

そして、彼女たちと話し合いを重ね、ジーウォへの臣従しんじゅうを申し出てくれていることも。

ヤーモンは絶句ぜっくしていたけど、フェイロンさんは穏やかにみを浮かべた。

「感情を抜きにすれば、今の状況で考えられる限り、最強の援軍えんぐんでしょうな」

「そうです。感情を抜きにすれば」

「今回はどう乗り越えられる?」

フェイロンさんは少し楽しげでさえある。

もう。俺が苦労してるの面白がって。

「まずは【重臣じゅうしん会同かいどう】です。そこで、重臣の皆さんに彼女たち3人のことを知ってもらいます」

「ほう……」

「北の蛮族という大きな名前ではなく、アスマ、ラハマ、マリームという名前の、一人の人間であることを知ってもらわないと、始まりません」

「マレビト様らしいアプローチですな。ヤーモンはどうだ?」

「俺は……。いや、俺も会ってみたいです」

「うん。いい返事だ」

と、フェイロンさんは満足気まんぞくげに笑った。

「マレビト様。わしも話してみたい。これまで、斬るか斬られるかだけ、本当にそれのみの関係でした」

俺は深くうなずいた。

「先日、抵抗ていこうするでもなく、城壁で待たれるマレビト様のところまで連行れんこういたした。確かにあんな振る舞いをする北の蛮族は見たことがない」

「そうなんですね……」

「500年間、いや儂が剣士となってからの25年ほどの間、ただの1人も、捕虜ほりょにも生捕いけどりにも出来てはおりません。ただただ凶悪きょうあく残忍ざんにん凶暴きょうぼう。まさか、国らしき国をかまえているとさえ、気付かぬほどです。そんな者たちが何をしゃべるのか、聞きたくないはずありますまい」

……こ、こえぇぇぇぇ。北の蛮族。

狂戦士バーサーカー、という言葉が頭に浮かんだ。

俺も出会い方によっては、ただただ怖いだけの存在と認識してしまっていたかもしれない。

明日にでも【重臣会同】を開き、3人を引き合わせることを約束し、あとは雑談が始まった。

「ヤーモンに恋人ができましてな」

と、フェイロンさんが嬉しそうに言った。

「な……、剣士長。そんな、いきなり……」

と、ヤーモンはアワアワと慌てて見せた。フェイロンさんは剣士長も兼任けんにんしている。まだまだ呼び馴染なじみがあるのは当然だ。

「へぇ! 良かったですね」

あの剣士府の演説でコンイェンに暴露ばくろされて、イーリンさんに失恋してから20日あまり。

そうか……。ヤーモンは新しい恋に踏み出したのかぁ……。

フェイロンさんが、ニヤッと笑ってヤーモンを見た。

「どうだ? 純潔じゅんけつを捨てた感想は?」

え?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

踏み出した一歩の行方

BL / 完結 24h.ポイント:434pt お気に入り:66

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:65,604pt お気に入り:648

大好きなあなたを忘れる方法

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:13,274pt お気に入り:1,024

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:511pt お気に入り:38

【完】生まれ変わる瞬間

BL / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:114

ファントムペイン

BL / 完結 24h.ポイント:269pt お気に入り:40

処理中です...