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二部 序章

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 日差しを受けながら輝く銀色の髪と、そこに生える白い二本の角。紫水晶の瞳にみえる瞳孔は縦長で、それは目があった者を凍り付かせるような圧力があった。
 美しさを表現するには色々な言葉があるとは思うが、この男──セルデア・サリダートには怖い程に美しいという表現がぴったりに思える。

「助かったよ、セルデア」
「今のは危なかったと理解しているのか?」

 眉を顰め、鋭い目つきがこちらを睨む。相も変わらず悪役顔のセルデアだが、何も知らない他人がこのやり取りを見えれば、俺が厳しく責められているように見えるだろう。
 しかし俺から言わせれば、この顔はただ俺を心配しているだけだ。その証拠にちょっとだけ眉尻が垂れさがっている。

「あー、してるしてる」
「……来る前にも言ったが、私は貴方一人くらいならば問題なく抱えられる」
「やめてくれ。またお姫様だっこだけはいやだ」

 一度抱えられて移動した時、通り過ぎる神官たちの視線に耐えるのがどれだけ大変だったか。
 あれは、三十過ぎた男がされるには拷問に近い。それなら肩に担ぎ上げられた方が幾分かマシだ。
 しかし、セルデアが俺に対して、そんな扱いをしないことはわかりきっている。

「大丈夫だ。少し泥濘を踏みつけただけだ、体調はすっかりいい」
「……」

 セルデアは俺の言葉を聞いて、下唇をぎゅっと噛みしめた。本当に化身という存在は愛が深い。愛する人間が少しでも傷付くことが許せないだろう。
 これぐらいの事でも人生の終わりのような顔をするセルデアに眉尻が垂れる

「ったく。ほら、さっさと終わらせるから、良かったら手伝ってくれ」

 そういって俺が掲げるのは、小さな木箱だ。
 俺がここにいる理由が、この箱だった。何の変哲もない木箱、ただその中に入っているのは────元神様が入っていた小鳥の死骸だった。
 全ての元凶だった元神様は、俺の目の前で消えていった。アイツが最後にどういう考えに至ったのかはわからないが、嬉しそうな声だけは未だに俺の頭に焼き付いている。
 どうにも俺は、この小鳥を適当に放置しておくことは出来なかった。
 だからこそメルディに頼んで、埋める場所を探してもらい、ここに墓を作りに来たのだ。
 俺とセルデアは、花畑の中で適当な場所を捜して、二人で屈んで土を掘り返す。もちろん、花まで掘り返さないように慎重に小さな穴を作っていく。

「悪いな、セルデア。こんなことに付き合わせて」

 セルデアには、元神様のことをほぼ話した。正確にはセルデアだけでなく、メルディやルーカス達にも伝わっているだろう。
 元神様は、セルデアを苦しめた元凶だ。その墓作りに付き合わせるというのは、罪悪感を感じる。
 しかし、それに対してセルデアはすぐに首を振った。

「構わない。それに、今の私にとっては他人事にように思えなかった」

 元神様の末路は愛が深かったせいで起きた悲劇だ。そして、化身であるセルデアもまた、それが起こり得ると感じているのだろう。
 セルデアは少し苦しそうに眉を顰め、唇を深く閉じた。
 その後暫くは、黙々と穴を掘り続ける。そうすると、木箱が入るくらいの穴があっという間に出来上がる。
 俺とセルデアは出来上がったと同時に目を合わせ、互いに小さく笑い合った。

「よし、これで完成だ」 
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