侯爵令嬢は婚約者(仮)がお嫌い

ハシモト

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第1章

17話、攻撃的な侍女(ネヴィル視点)

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シルフィは突然、糸が切れたように意識を失った。

この状況にどうすれば良いか考えあぐねいているとカチャリと彼女の部屋のドアを開ける音が聞こえた。

(終わったな…。)

絶望的な状況に肩を落としかけるが、しかしそれはよく見知った顔だった。

「ネヴィル坊ちゃん、私です、コレッタです。」

「コレッタか!助かった!本当に誰かと思ったぞ!」

そこに現れたのは元、僕付きの侍女をしていたコレッタであった。

「先ほどぶりですね。」

「ああ、それよりシルフィが気を失ってしまってっ!!!」

その刹那、短剣が僕の喉を掠める。反射で日頃隠し持っているジャックナイフで次に来る攻撃に応戦した。

「なんのつもりだ!コレッタ!!」

「それはこちらのセリフです。お嬢様に何をなさったのですか?殺しますよ。」

「何もしてなどいない!少しは人の話を聞け!!しかも殺すとはなんだ!殺すとは!」

僕がそう叫ぶとコレッタはさっと後ろに下がり、短剣をスカートの中にしまい込んだ。

(ったく、何処にスカートの中に短剣を忍び込ませているメイドがいるんだ…。)

「で、して、その弁明とは?理由によっては殺します。」

「えらく短絡的な…。見切り発車で行動するのはお前の悪い癖だぞ。本当にお前といいロバートといい、なんでこうも主人に対して横柄な態度が取れるんだ?」

「元、ですけどね。今はお嬢様が主人です。主人に害なすものは殺します。後ロバートと私を一緒にしないで下さい。」

コレッタは昔から一途?なところがある。手段を選ばないため非情な節が見られるが、ここまで忠誠を誓うような人間でもなかったと思う。侯爵邸に来て一体何があった?

「その…シルフィは、僕を見た瞬間、昼間来た不審者だと叫んで気を失ったんだ…。」

僕が事情を話すとコレッタは横を向いてフッと笑った後、僕に向き直った。

「大方予想はつきました。今回のことは坊ちゃんを無害と判断します、、ふっ、ふふっ。」

(こいつ笑いやがった…。)

「はぁ、コレッタ。僕はお前がこのくだらない片思いに協力してくれる理由が益々分からない。お前は僕を殺しかけたり平気でするし、元主人だからというわけでもなさそうだが…。」

「そうですね…。好奇心?という奴なのでしょうか?」

「なんで疑問形なんだ。それに理由が浅い。お前はそんなことで動くやつじゃないだろ。」

「そう見えますか。ではその理由を探すために私はきっと貴方に協力しているのでしょう。」

意味深に、相変わらず感情のこもらない目で見返してくるこのメイドは何を言いたいのだろうか。

その時、ガラガラと馬車を走らす音が聞こえた。そしてそれは侯爵邸の門の前で止まる。

「こんなに早く帰ってくるとは私の不手際です。坊ちゃん、ヴィンセント様が帰ってこられたようです。足止めしてこちらに来ないように仕向けてきます。」

「いきなり怖いほど協力的になるな…。」

「お嬢様はお任せします。何かあれば一番に坊ちゃんを即座に抹殺させていただきますのでご容赦を。」

妙に恐ろしい言葉を残しコレッタは足早にシルフィの部屋を出て行った。
色々不安要素は残るものの、コレッタが協力的で心強いことは確かだ。

「んっ、うぅん~」

唸り声が聞こえ、その声の主を探せばシルフィが目を覚ましかけていた。

「お、おい、大丈夫か?」

「お、にい、さま?」

ゆっくりと開かれる彼女の宝石のような瞳に僕が映り込む。
ボーッとするのもつかの間シルフィは目をカッと見開いた。

「いっ、いや、いや、」

シルフィは地面に手をつきながら首を振って後ずさる。
地味に傷つくな…いや、僕に傷つく資格など無いが。

「お願い、だれにも手を出さないで!」

その形の良い唇で何をいうのかと思えば、彼女には僕が危害を加える人間に見えるようだ。

「いや、だからな、別に危害を加えようとかでは無いんだ…。」

「では、何が目的なのですか!!」

もくてき…。
君に会うためだ!何て言える訳もない。しかし目的なんて…。それよりこんなところで口ごもっては余計怪しく思われる。兎に角、先に警戒を解いてもらうために身元を明かそう。しかし、今ネヴィルハーフォードとバレればそれはそれでまずいだろう。ここはっ、

「その、なんだ、そう、僕は庭師なんだ!!」

「へ?」

「昼間、庭の手入れに来たのだが、わ、忘れ物をしたんだ!」

咄嗟に思いついた職業を口に出した。

「そうして来てみれば、誰かこんな夜にベランダにでているものだから、ふ、不審者かと思って排除しようとしたまでだ!」

(馬鹿か僕は…。誰がこんな嘘に騙されるんだ…。)
しかし一度ついてしまった嘘に今更取り返しはつけられない。僕は後からコレッタに言って偽の経歴書でも作ってもらおうと決意する。
それよりこの事態に収集をつけなければ。
怪しげな目を向けるシルフィに焦りが募る。

「だから、不審者とかではなくだな!正当な理由があって!!」

滅茶苦茶なことを言っている自覚はある。しかし、ここは何としても乗り越えたいところだ。
恐る恐るシルフィに目をやれば困惑して頭をパンクさせているようであった。
それに都合が良いことに彼女はさっき意識を取り戻したばかりで脳の方の働きが鈍い。
よし、このまま乗り切るぞ!

「そ、そうでしたの。申し訳ありませんわ、お邪魔してしまったようで。どうぞお庭の方にお戻りになって。私はもう寝ますので。」

なんとか乗り切ったのだろう。
しかし、シルフィはもう限界だと片手で頭を抑え、フラフラと部屋の中へ戻ろうとする。それを僕は、いけないと、呼び止めた。

「ちょと待て!話はまだ終わってないぞ!」

シルフィは扉にかけていた手を止めこちらを振り返った。そのなんと迷惑そうな顔か。だが、そんな顔も僕にとっては褒美でしかないのだ。
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