侯爵令嬢は婚約者(仮)がお嫌い

ハシモト

文字の大きさ
24 / 34
第1章

21話、信頼の厚い侍女

しおりを挟む
小鳥のさえずりが聞こえる。
カーテンの隙間から朝日が顔を照らし、薄く開いた瞼もその眩しさで閉じてしまう。

「お嬢様、朝で御座います。起きて下さい。」
侍女のコレッタが起床のベルを鳴らしながら部屋に入ってきた。

(うぅん~、昨日は夜更かししてしまい中々身体が起こせませんわ…。ん?待って、昨日?夜更かし?)

「うひゃあああ!!」

「お嬢様!?どうなさったのですか!?」

私の奇声に驚いたコレッタが直ぐに駆け寄ってくる。

意識がしっかりしてきたところで、昨夜の記憶が止めどなく頭の中を流れてきた。

「い、いえ、大丈夫よ…。何もないわ。ええ、本当に何も、そう、何も無かったわ、なにも…。」

そんな私の様子を何か気が触れでもしたのかと、コレッタが不気味そうに見つめてくる。

私は侍女の可哀想な人を見る視線を無視して早急に考えに耽りにはいる。

昨日は、確かベランダに不審者が。夢?では無いわよね、だって羽織りものを着ながら寝てたんですもの。

あの後、就寝の挨拶をして互いに別れたのだ。

私はとんでもない、危険な橋を渡っていたのではなかろうか。
よくよく考えればおかしな事だ。昨日の自分はまともでは無かった。やすやすと侵入者を受け入れ、友達になってくれと頼みこんだ。やはり気が触れでもしていたのだろうか…。

「お嬢様、ティーで御座います。」

「ありがとう。」

私はカップの端に口を付け、ゆっくりと紅茶を口に流し込むと、その渇いた喉を潤した。

しかし、このまま昨日のことを、お友達ができたわ、で済ますほど危機感が無い間抜けでは無いのだ。

「ねぇ、コレッタ。少し調べたいことがあるのだけれど。」

(まず、彼が本当に家の使用人か調べなければいけ無いわ…。)

「調べ物ですか?」

「ええ、家で働く使用人の履歴書を見たいのだけれど。」

「履歴書?ですか?何かにお使いになられるのですか?」

「少し、気になることがあるだけなの。」

「少々お待ちください。」

そう言えば、随分あっさりとコレッタはその履歴書を持ってきた。
こんなに簡単に見せてもいい書類なのかと心配になるが今は都合がいいと、それを受け取る。

けれど私は庭師達の履歴書が見たいとは言っただろうか?
手渡された書類は不思議なことに庭師についてのものだけだったのだ。

さほど気にすることでも無いかと、一枚一枚目を通し、ヴィルと言った彼についての履歴書を探す。

(あった…。本当にあの方は庭師だったのね。)

その紙には名前も経歴も事細かに記載されていた。

それでもまだ彼への不信感は取れない。
なにせ状況が状況だった。誰がどう見ても侵入者に見られる他なく、忘れ物にしてもどうも口から出たでまかせにしか見えなかった。
それに、まだ疑問はある。あの日はなぜあの様な横暴な態度で家を訪れたのかだ。

「その者がどうかしたのですか?」

「え、ええ、コレッタはこの方をご存知?」

「知っておりますとも。彼は一年前ほどから侯爵邸で雇った優秀な庭師にございます。」

一年も前から?

「元々、貴族階級をお持ちの方で家の没落とともに職も失ったところを旦那様に拾われ庭師となった人なのです。」

お父様が?そんな珍しいことがあるのか。
しかし、コレッタが言うのなら間違い無いだろう。
それに、父が招き入れた使用人が危険人物であるはずがない。元貴族であったことには驚きだが、然るに横暴な態度も、敬語に慣れないのも、納得がいくと言うものだ。

「そうなの…。」

不信感が拭われたところで、それならば友として接しても良いのだと、心が弾んだことは秘密だ。

私は侍女に世話を焼かれながら身支度を整えると、ダイニングルームに降りた。
テーブルにはもう兄がついており、朝食に手をつけていないあたり、自分を待っていただろう事が分かった。

「お兄様、おはようございます。」

「おはよう、シルフィ。」

侍女が甲斐甲斐しく椅子を引いてくれ、そこに腰かけた。

「昨日はいつ頃お戻りになられたのですか?」

「昨日は八時ぐらいには帰って来たよ。」

「てっきり今日の朝ごろに戻られたのかと思いましたわ。」

兄はいつもなら就寝の挨拶だと、あまり遅い時間でなければ私の部屋を訪れるのだが、昨夜はそれが無かった。

「実は昨日お前に就寝の挨拶に行こうとしたのだが、お前付きの侍女にシルは今日のことで随分とお疲れで熟睡なさっているだろうと言われて、何故か挨拶を止められたのだ。」

コレッタのことだろうか?彼女なりの気遣いだろうが、昨日は熟睡などしていない。
しかし、まて、昨夜は誰が見ても不審者に見間違えられるヴィルが来ていたのだ。もし、彼と兄が遭遇すればヴィルはただではいられなかっただろう。そう思うとコレッタの配慮は随分と助かった。

「シル、冷めないうちに食べてしまおう。」

「ええ、お兄様。」

私と兄は食べる前の祈りを捧げてから、和やかに朝食を楽しんだ。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも
恋愛
「今回で最後だ。誓うよ」 これは二度目の『結婚式キャンセル』の時に言われた言葉。 四年間、愛する婚約者ディートリッヒのため尽くし続けてきたイリス。 だがディートリッヒは、イリスの献身を当然のものとし、やがて初恋の令嬢エレノアを優先するようになる。 裏切り、誤解、そして理不尽な糾弾。 心も身体も限界を迎えた夜、イリスは静かに決意した。 ──もう、終わらせよう。 ディートリッヒが「脅しのつもり」で差し出した婚約解消の書類を、イリスは本当に提出してしまう。 すべてを失ってから、ようやく自分の愛に気づいたディートリッヒ。 しかしもう、イリスは振り返らない。 まだ完結まで執筆が終わっていません。 20話以降は不定期更新になります。 設定はゆるいです。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...