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第1章
21話、信頼の厚い侍女
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小鳥のさえずりが聞こえる。
カーテンの隙間から朝日が顔を照らし、薄く開いた瞼もその眩しさで閉じてしまう。
「お嬢様、朝で御座います。起きて下さい。」
侍女のコレッタが起床のベルを鳴らしながら部屋に入ってきた。
(うぅん~、昨日は夜更かししてしまい中々身体が起こせませんわ…。ん?待って、昨日?夜更かし?)
「うひゃあああ!!」
「お嬢様!?どうなさったのですか!?」
私の奇声に驚いたコレッタが直ぐに駆け寄ってくる。
意識がしっかりしてきたところで、昨夜の記憶が止めどなく頭の中を流れてきた。
「い、いえ、大丈夫よ…。何もないわ。ええ、本当に何も、そう、何も無かったわ、なにも…。」
そんな私の様子を何か気が触れでもしたのかと、コレッタが不気味そうに見つめてくる。
私は侍女の可哀想な人を見る視線を無視して早急に考えに耽りにはいる。
昨日は、確かベランダに不審者が。夢?では無いわよね、だって羽織りものを着ながら寝てたんですもの。
あの後、就寝の挨拶をして互いに別れたのだ。
私はとんでもない、危険な橋を渡っていたのではなかろうか。
よくよく考えればおかしな事だ。昨日の自分はまともでは無かった。やすやすと侵入者を受け入れ、友達になってくれと頼みこんだ。やはり気が触れでもしていたのだろうか…。
「お嬢様、ティーで御座います。」
「ありがとう。」
私はカップの端に口を付け、ゆっくりと紅茶を口に流し込むと、その渇いた喉を潤した。
しかし、このまま昨日のことを、お友達ができたわ、で済ますほど危機感が無い間抜けでは無いのだ。
「ねぇ、コレッタ。少し調べたいことがあるのだけれど。」
(まず、彼が本当に家の使用人か調べなければいけ無いわ…。)
「調べ物ですか?」
「ええ、家で働く使用人の履歴書を見たいのだけれど。」
「履歴書?ですか?何かにお使いになられるのですか?」
「少し、気になることがあるだけなの。」
「少々お待ちください。」
そう言えば、随分あっさりとコレッタはその履歴書を持ってきた。
こんなに簡単に見せてもいい書類なのかと心配になるが今は都合がいいと、それを受け取る。
けれど私は庭師達の履歴書が見たいとは言っただろうか?
手渡された書類は不思議なことに庭師についてのものだけだったのだ。
さほど気にすることでも無いかと、一枚一枚目を通し、ヴィルと言った彼についての履歴書を探す。
(あった…。本当にあの方は庭師だったのね。)
その紙には名前も経歴も事細かに記載されていた。
それでもまだ彼への不信感は取れない。
なにせ状況が状況だった。誰がどう見ても侵入者に見られる他なく、忘れ物にしてもどうも口から出たでまかせにしか見えなかった。
それに、まだ疑問はある。あの日はなぜあの様な横暴な態度で家を訪れたのかだ。
「その者がどうかしたのですか?」
「え、ええ、コレッタはこの方をご存知?」
「知っておりますとも。彼は一年前ほどから侯爵邸で雇った優秀な庭師にございます。」
一年も前から?
「元々、貴族階級をお持ちの方で家の没落とともに職も失ったところを旦那様に拾われ庭師となった人なのです。」
お父様が?そんな珍しいことがあるのか。
しかし、コレッタが言うのなら間違い無いだろう。
それに、父が招き入れた使用人が危険人物であるはずがない。元貴族であったことには驚きだが、然るに横暴な態度も、敬語に慣れないのも、納得がいくと言うものだ。
「そうなの…。」
不信感が拭われたところで、それならば友として接しても良いのだと、心が弾んだことは秘密だ。
私は侍女に世話を焼かれながら身支度を整えると、ダイニングルームに降りた。
テーブルにはもう兄がついており、朝食に手をつけていないあたり、自分を待っていただろう事が分かった。
「お兄様、おはようございます。」
「おはよう、シルフィ。」
侍女が甲斐甲斐しく椅子を引いてくれ、そこに腰かけた。
「昨日はいつ頃お戻りになられたのですか?」
「昨日は八時ぐらいには帰って来たよ。」
「てっきり今日の朝ごろに戻られたのかと思いましたわ。」
兄はいつもなら就寝の挨拶だと、あまり遅い時間でなければ私の部屋を訪れるのだが、昨夜はそれが無かった。
「実は昨日お前に就寝の挨拶に行こうとしたのだが、お前付きの侍女にシルは今日のことで随分とお疲れで熟睡なさっているだろうと言われて、何故か挨拶を止められたのだ。」
コレッタのことだろうか?彼女なりの気遣いだろうが、昨日は熟睡などしていない。
しかし、まて、昨夜は誰が見ても不審者に見間違えられるヴィルが来ていたのだ。もし、彼と兄が遭遇すればヴィルはただではいられなかっただろう。そう思うとコレッタの配慮は随分と助かった。
「シル、冷めないうちに食べてしまおう。」
「ええ、お兄様。」
私と兄は食べる前の祈りを捧げてから、和やかに朝食を楽しんだ。
カーテンの隙間から朝日が顔を照らし、薄く開いた瞼もその眩しさで閉じてしまう。
「お嬢様、朝で御座います。起きて下さい。」
侍女のコレッタが起床のベルを鳴らしながら部屋に入ってきた。
(うぅん~、昨日は夜更かししてしまい中々身体が起こせませんわ…。ん?待って、昨日?夜更かし?)
「うひゃあああ!!」
「お嬢様!?どうなさったのですか!?」
私の奇声に驚いたコレッタが直ぐに駆け寄ってくる。
意識がしっかりしてきたところで、昨夜の記憶が止めどなく頭の中を流れてきた。
「い、いえ、大丈夫よ…。何もないわ。ええ、本当に何も、そう、何も無かったわ、なにも…。」
そんな私の様子を何か気が触れでもしたのかと、コレッタが不気味そうに見つめてくる。
私は侍女の可哀想な人を見る視線を無視して早急に考えに耽りにはいる。
昨日は、確かベランダに不審者が。夢?では無いわよね、だって羽織りものを着ながら寝てたんですもの。
あの後、就寝の挨拶をして互いに別れたのだ。
私はとんでもない、危険な橋を渡っていたのではなかろうか。
よくよく考えればおかしな事だ。昨日の自分はまともでは無かった。やすやすと侵入者を受け入れ、友達になってくれと頼みこんだ。やはり気が触れでもしていたのだろうか…。
「お嬢様、ティーで御座います。」
「ありがとう。」
私はカップの端に口を付け、ゆっくりと紅茶を口に流し込むと、その渇いた喉を潤した。
しかし、このまま昨日のことを、お友達ができたわ、で済ますほど危機感が無い間抜けでは無いのだ。
「ねぇ、コレッタ。少し調べたいことがあるのだけれど。」
(まず、彼が本当に家の使用人か調べなければいけ無いわ…。)
「調べ物ですか?」
「ええ、家で働く使用人の履歴書を見たいのだけれど。」
「履歴書?ですか?何かにお使いになられるのですか?」
「少し、気になることがあるだけなの。」
「少々お待ちください。」
そう言えば、随分あっさりとコレッタはその履歴書を持ってきた。
こんなに簡単に見せてもいい書類なのかと心配になるが今は都合がいいと、それを受け取る。
けれど私は庭師達の履歴書が見たいとは言っただろうか?
手渡された書類は不思議なことに庭師についてのものだけだったのだ。
さほど気にすることでも無いかと、一枚一枚目を通し、ヴィルと言った彼についての履歴書を探す。
(あった…。本当にあの方は庭師だったのね。)
その紙には名前も経歴も事細かに記載されていた。
それでもまだ彼への不信感は取れない。
なにせ状況が状況だった。誰がどう見ても侵入者に見られる他なく、忘れ物にしてもどうも口から出たでまかせにしか見えなかった。
それに、まだ疑問はある。あの日はなぜあの様な横暴な態度で家を訪れたのかだ。
「その者がどうかしたのですか?」
「え、ええ、コレッタはこの方をご存知?」
「知っておりますとも。彼は一年前ほどから侯爵邸で雇った優秀な庭師にございます。」
一年も前から?
「元々、貴族階級をお持ちの方で家の没落とともに職も失ったところを旦那様に拾われ庭師となった人なのです。」
お父様が?そんな珍しいことがあるのか。
しかし、コレッタが言うのなら間違い無いだろう。
それに、父が招き入れた使用人が危険人物であるはずがない。元貴族であったことには驚きだが、然るに横暴な態度も、敬語に慣れないのも、納得がいくと言うものだ。
「そうなの…。」
不信感が拭われたところで、それならば友として接しても良いのだと、心が弾んだことは秘密だ。
私は侍女に世話を焼かれながら身支度を整えると、ダイニングルームに降りた。
テーブルにはもう兄がついており、朝食に手をつけていないあたり、自分を待っていただろう事が分かった。
「お兄様、おはようございます。」
「おはよう、シルフィ。」
侍女が甲斐甲斐しく椅子を引いてくれ、そこに腰かけた。
「昨日はいつ頃お戻りになられたのですか?」
「昨日は八時ぐらいには帰って来たよ。」
「てっきり今日の朝ごろに戻られたのかと思いましたわ。」
兄はいつもなら就寝の挨拶だと、あまり遅い時間でなければ私の部屋を訪れるのだが、昨夜はそれが無かった。
「実は昨日お前に就寝の挨拶に行こうとしたのだが、お前付きの侍女にシルは今日のことで随分とお疲れで熟睡なさっているだろうと言われて、何故か挨拶を止められたのだ。」
コレッタのことだろうか?彼女なりの気遣いだろうが、昨日は熟睡などしていない。
しかし、まて、昨夜は誰が見ても不審者に見間違えられるヴィルが来ていたのだ。もし、彼と兄が遭遇すればヴィルはただではいられなかっただろう。そう思うとコレッタの配慮は随分と助かった。
「シル、冷めないうちに食べてしまおう。」
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