侯爵令嬢は婚約者(仮)がお嫌い

ハシモト

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第1章

28話、仮面の男

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挨拶まわりが済み、今回の主催者である国王の挨拶が始まった。お見かけするのは遠目から数度ほどしか無かったが、荘厳なる佇まいからは彼が王であると思わせるには十分であった。
この挨拶が終わればダンスが始まる。
招待客の中で最も地位が高い貴人がこの会場にいる婦女を指名して一曲目を踊るのだが、いまホールの中心に出て王にお辞儀をする男は誰だろうか?仮面を付けているようで顔が見えない。仮面舞踏会でも無いだろうにどうした事かと顔を傾げる。

「お兄様あの方はどなたでしょうか?」

「公爵家の人間だろうな。まあ、仮面も珍しいことでは無い。」

確かに顔に傷があるなどの理由として仮面をつけて社交界に赴く人もいないわけでは無い。
勿論、王宮の出入りで本人証明のために一度仮面は取らなければならないが。

(なぜかこちらに近づいて来ていませんこと?)

考えているうちに気付けば見上げる形で仮面の男が目の前に突っ立っていた。
この状況であればダンスの誘いであると思うのだが、彼は一向に口を開かない。
しかし、もしそうだとして、私を誘う理由が分からない。知り合いだったりするのだろうか?

確かめる為にチラリと兄を見れば、みるみるうちに穏やかだった顔が険しいものに変わっていくのが見えた。本当にどうした事か。
少しおろおろしかけたところで手を差し出される。ダンスの誘いであることは分かるのだが、一向に口を開かない男に不信感が募った。しかし今の優先順位は彼のダンスを受けること。貴族のマナーは守らなければならない。戸惑いながらも差し出される手にそっと手を添えた。
しかし、ホールの中心に行こうとしたところで兄に手を掴まれた。周囲からは、ほー!や、きゃー!と声が上がるが、私を取り合うかのように見えているのかもしれない。

「お兄様?どうかなさいましたか?」

「いってはいけない…。」

声が小さく聞き取れない。

「お兄様?」

そのときパッと兄の手が離れた。

「シル、ダンスが終わり次第俺の所にすぐ戻ってくるんだぞ…。」

返事する暇もなく、仮面の男にホールの中心の方に引っ張られる。だんだん小さくなる兄を見つめるが唇を噛み締めてはいないだろうか?

(本当に誰ですの?この方。少し強引な気もしますし、喋りませんし、私を誘うのにもそれなりの理由があるはずですわ。)

曲が始まった。この日の為にレッスンを重ねてきたが、いざ本番となると足がすくむ。それにプラスしてこれだけ注目されるとは思っても見なかった。
しかしこれは逆に都合がいい。本来の目的は婚約者探し。これは自己アピールに繋がるだろう。

(誰か奇特なお方!私を次のダンス相手に!あわよくば婚約者に!)

兄以外の男性をダンス相手にすることがなく緊張が走った。
腰に手が添えられる。それに合わせ私も手を乗せる。

ゾワリ

ん??

曲に合わせステップが続く。

ゾワゾワ

ん???

近頃同じような感覚を味わった。

(いえ、ダンスに集中、集中!ここで踏み間違えでもしたら救いようがありませんことよ!)

あと少しでこの曲も終わりを迎える。安堵が広がり少し余裕が出て来た。
それなら終わる前に真意を聞こうと私の方から口を開いた。

「あ、あの失礼とは十分承知なのですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?私をダンスにお誘いになった理由もよく分かりませんし…。」

「……」

無言。彼はどういうつもりだろうか…

「すまない…」

「え?」

彼は軽く私にお辞儀すると、二曲目に入る前に早足で背を向け去っていった。

(あの声…いえ、没落したとか聞いておりますし!人違いですわねきっと…。でも背丈とか似ていませんこと?)

そう思うと気が気ではなかった。私は仮面の男の後を追う為、会場を後にした。





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