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第七話 清風の森②
しおりを挟む地面が花であふれかえり、謎の声が聞こえると、ソードプラントは突風により吹き飛ばされ木に打ち付けられた。
その様子を見たオスは何かを悟ると、森へと帰っていく。
「た、……助かったぁ」
「なんだ?」
『あらぁ、モルド? ひさしいわねぇ』
「!? ウィンディア!」
翠の髪が美しい精霊。
それは以前会った風の大精霊だった。
『懐かしい魔力だとは思ったけれど、あなただったなんてねぇ』
同じ大精霊であるシャウラより、やや気だるげな雰囲気の彼女は久しく会っていなかった。彼女は宙に浮いたまま横たわっている。
「え、なに? また精霊?」
「……あぁ、風の大精霊だ」
「うっそおおお!!?? やっぱエセ魔導師なんて、ウソだったんだな!?」
『……エセ?』
一瞬ウィンディアの表情が険しくなる。
「なんでもないぞ。それより、どうしてここに?」
ウィンディアが現れたと同時に花々も現れた。
ということは、ここ一帯は彼女の箱庭だったのだろう。
『風の精霊が困っていたものだから……休息ついでに立ち寄ったの』
「ソードプラントか?」
『そう。討伐される数が減ると、こういうこともあるのよねぇ』
「なになに?」
「ソードプラントの数が増えるにつれ、風舞の花の数が減っていったんだろう。
良質な風の魔力は、特にメスのソードプラントが取り込むには充分すぎるものだからな」
『そういうことぉ』
「あ、あの! 大精霊さま!」
『あらぁ』
「ウィンディア、よかったら姿を見せてあげてくれないか?」
『いいわよぉ』
頼めば美しい彼女はウィンクをし、ギースの目にも映るよう配慮した。
「う、わっ、え!? うつくし……!?」
『おもしろいのねぇ』
「ギース。気持ちはわかるが……」
「あっ、すいません! その、大精霊さま、俺たちに風舞の花を採取することをお許しいただけませんか!」
『んー、いいけどぉ。あんまり採りすぎちゃダメよ?』
「もちろんです! えーっと、モルドは10、……あ。10数本? 必要で、俺は2本ほど頂いてもよろしいでしょうか!?」
足元を見回せば、色とりどりの花の中に、緑の花も混ざっていた。
「それだけでいいのか?」
「あぁ!」
『モルドは相変わらずやさしいのねぇ』
「べ、べつに優しくはないが……」
「珍しい、あのモルドが照れてる」
「気のせいだ」
『ここの領主に進言した甲斐があったわぁ』
「! 依頼は、あなたが?」
『そう。わたくしってば、一応この地方では有名でしょう?』
たしかにウィンドローズ領は風の精霊を奉る集落が多い。
ライネリオ殿は、もしかすれば風の魔法に精通しているのかもしれないな。
「世界的に有名だと思いますけど……」
『ふふ。なんだか魔法を教える者をどうするかって困っている様子だったから、最高の魔法師の名を挙げたんだけど採用されたのね。ところで、……エセってどういうこと?』
一度はかわせた話題が、再燃する。
「いや、それは」
「俺も詳しくは知らないんですけど、今日ギルドで他の冒険者がモルドをそう呼んでたんですよね」
『ふぅん?』
「き、気にしないでくれ。人間関係で、その……色々あってだな」
俺は大精霊相手になんでこんな言い訳をしているんだ?
『まぁ、困ったことがあったらまた言ってちょうだい。加護を授けた貴方の元へなら、すぐに飛んでいくからぁ』
「あ、あぁ。助かる」
「ええええええ!? 大精霊の加護おぉぉ!?」
「ギース、うるさいぞ……」
「さすが魔導師!」
『じゃあ、またねぇ』
「恩に着る」
「ありがとうございます!!」
別れを告げると、ウィンディアはあくびをし、風のように跡形もなく去っていった。
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