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第二十九話 VSオーガ

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「ゼヤ、影に入ってるか?」
「いや、いい」
「我慢するなって」

 ゼヤがこんなに具合わるそうなのは、初めて会った時以来だな。
 あの時は、たしか侵蝕に苦しんでいて……。

「! ゼヤ、右手見せてみろ」
「……」
「やっぱりか。……魔力残滓が原因なのか?」

 落ち着いていたはずのそれは、禍々しい黒の輝きを増していた。

「……待てよ。ニーズヘッグって、まさか──、!?」

 あの時のことを思い出していると、上から衝撃が降ってきた。

『グガァッ!!』
「とりあえず、こいつだな」

 オーガか。動きは遅い分、防御力は異様に高い。
 おまけに魔力残滓ざんしの影響で、魔力感知から察するに魔法耐性も高そうだ。
 ……となれば。

 魔力感知をさらに働かせ、内なる魔力を全身に巡らせる。
 俺はもともとの身体能力が高いわけではない。
 その有り余る魔力をもって、『滅竜めつりゅう』に貢献してきた。

 魔力を体の一部あるいは全身へと駆け巡らせ、身体能力を向上させる。
 無属性にあたるそれは、『創造』を伴わないため、魔法師以外がよく使う魔法だ。

「よし」

 平時より数倍もの速さで駆けだせば、オーガは案の定視界から消えた俺を見失った。

『!?』
「こっちだ」

 真横から氷魔法でつららをぶっ放す。

『グラァッ』

 かろうじて到達前に気付いたオーガは、丸太でつららの側面をたたき割った。

「さすがのパワーだな」

 さっさと終わらせるには、やはりアレがいい。

「ヴァルロード、力借りるぞ」

 加護を授かった時、ヴァルロードに「こうすると一番イイぞ!」と教えてもらった火の精霊魔法。

 精霊魔法のいいところは、内なる魔力は体へのバフにそのまま使えるというところ。
 単純に戦力が倍になる。

 掌に満ちる魔力を集めるイメージ。
 そこに在るのは、燦然さんぜんと輝く炎の剣──。
 敵を切り裂き、その存在すらも燃やし尽くすほどの。

「よっ」

 ヴァルロードの力を借りて創りだしたそれは、刃に炎を纏っているというのに不思議なほど熱くはない。

『グ!』

 何らかの異変を感じたオーガは、先手必勝とばかりに丸太でフルスイングしてきた。

 それを飛んでかわし、着地すると同時にまた上へと飛ぶ。

「ゼヤ!」

 ゼヤの闇魔法がオーガの影からにょきにょきと無数の手となり伸びていく。

『グガ?!』

 うっとうしそうに振り払っても取れないそれは、完璧な拘束具となった。

「じゃあな」

 丸太も避ける必要がなくなった俺は、上から真っ二つにオーガを切り裂く。
 切り裂いた切り口から業火が身を焼き尽くし、俺の手の中の剣が消えると共にオーガは消失した。
 文字通り、消し炭だ。

「ふん」
「拗ねるなよ、ゼヤ」

 ヴァルロードが気に喰わないゼヤにとっては、面白くない展開だったらしい。

「侵蝕はどうだ?」
「……問題ない」

 オーガが消えると同時に止まったみたいだ。
 じゃぁ、やっぱり。

「なぁ、ゼヤ。あの時、ニーズヘッグを倒したから侵蝕が止まったんだよな?」
「そうだ」
「でも、ニーズヘッグなんて伝説級の魔物がそうそういるわけもない。前回の出現記録なんて、十年よりも前だ。……もしかしてなんだが、あれは精霊の侵蝕が進んだ姿だったのか……?」
「……」

 そうすれば辻褄が合う。
 ゼヤがたまたまあの場に居合わせたのは、俺の魔力に惹かれたからではなく……眷属の闇の精霊が姿を変えた魔竜を、自分でどうにかしようとしていたんじゃないだろうか。
 ただ、魔力残滓の影響でゼヤも思う様に力が出せなかった……。
 それで代わりに倒した俺たちの前に姿を現したんじゃないだろうか。

「言えないならいいよ。……エルフたちは詳しいんだろうか」

 精霊碑を奉るくらいだ。
 侵蝕や魔力残滓についても詳しいのかもしれないな。

「──あ、あの!!」
「ん?」

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