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弓師、異世界へ
六話 弓師、精霊に問う
しおりを挟む俺の鑑定魔法とやらは、未だ安定しない。
ぼんやり情報が視えることもあれば、まったく視えないことも。
だいたい俺に魔力なんてものがあるかも分からないんだから、当たり前といえば当たり前だ。
ただ、エルフの皆さんが持つ弓に関する物は他よりもハッキリと視える割合が多い。
これも弓師の経験から成るものだろうか?
「こっちだ」
「は、はい」
俺はミラウッドさんと護衛のエルフさんたちに再び引き連れられ、聖樹の元へと戻った。
腰のベルトに刺した聖樹の枝が、『ただいま』と言っている気がする。
この木から落っこちてきたのはつい先ほどのことなのに、緊張と不安のせいでずいぶん前のことのようにも思えた。
「……」
「……」
「……」
「……」
聖樹の前に到着すると、ミラウッドさんは考え事を始める。
口数が元々多い方ではないとはいえ、それにしたってなにも言わない。
俺に精霊と対話するよう望むなら、どうすればいいかだけでも教えてほしい──!
護衛の皆さんは各自周辺を警備するような形で散開した。
「……」
「……」
「……あの」
「なんだ?」
「俺は、どうすればいい……んですか?」
「それを今考えているところだ」
真面目か。
真剣に考えこんで口数が少ないだけかい。
エルフの皆さんでも最近応えないという精霊たち。
仮に俺が特別だというなら、ふつうに話しかければいいんだろうか?
……どんな存在かも知らないのに?
こういうのはやっぱり、その存在を信じているからこそ応えてもらえるものだと思う。
二度目ましてならまだしも、初めてその存在を認知するのは難しいんじゃないか?
霊的な何かと交信……か。
なにか方法は──
「! そうだ!」
「?」
俺はふと視界に映った、ミラウッドさんの背にあるものを見て閃く。
「もしイヤでなければだが……。弓を、貸してもらえないか?」
「弓?」
心底不思議そうなミラウッドさん。
こっちの世界でどうかは分からないが、少なくとも日本において『弓』というのは厄払いの観点があった。
破魔矢や破魔弓がよく聞く事例だろう。
そしてツルネとも言われる、弦音。
それにも魔除けの効果があるといわれている。
日本の儀礼にもある。
鳴弦の儀、あるいは弦打の儀とも呼ばれ、大河ドラマでもそういうシーンが出てくる。
弓に矢をつがえずに引いて放ち、魔除けとして弦音を響かせるのだ。
俺はあいにく矢をつがえて弓を引くことができない。
だからもし俺に霊的な何かを信じ、そしてそれを発揮する方法があるとすれば……。
弦音を鳴らして精霊と共鳴する。
これしか方法がないはずだ。
「……?」
ミラウッドさんは俺の意図が分からないのだろう。首を傾げている。
それもそうだ。
矢も一緒に所望するならまだしも、弓だけを貸してと言われてもピンとこないだろう。
「えーっと……ミラウッドさんの弓を見て思い出したんだが、弓の音にはなにか不思議な力があるようなことを信じていたような気が……するような……しないような……」
我ながら記憶があいまいという苦しい設定のおかげで、動機付けにも相応の理由が必要になる。
ものすごく不自然な理由だが……、何とかなれ──!!
「ほう? 物によって記憶が呼び起こされたのか」
「そ、そうみたいで」
「ふむ……」
「もちろん大切なものだろうし、無理にとは言わないが……」
遠目に見ても分かる。
よく手入れされた弓だ。
それも、俺たちの感覚とは違う『大切な』もの。
彼らにとっては文字通り、命を預ける道具だ。
そう易々と他人、それも怪しい人物に触れさせることはないだろう。
「……いや。出来ることがあるのなら、試さないわけにはいかない」
そういうと、ミラウッドさんはためらいもなく自身の弓を俺に預けてくれた。
「──!」
俺は宝石を扱うような気持ちで静かに受け取る。
同じだ
手に感じる重さは、師と俺が作ってきた弓とそう大差はなかった。
弓の長さは短いが、その分弓自体の太さが和弓よりもやや太い。
総合的な重さはほぼ同じくらいなんだろう。
……いや。
自分たちが魂を込めて弓を作るように、彼らの道具にも彼らの気が込められている。
そういう認識が、もしかすると俺に同じ重さだと錯覚させているのかもしれないな。
「ありがとう」
噛みしめるように言うと、俺はミラウッドさんの誠意に応えるためさっそく深呼吸。
正直、できるとは思わない。
でもミラウッドさんも言ってくれた。
『出来ることがあるのなら、試さないわけにはいかない』。
もし出来なくても、ミラウッドさんがきっといい方法を考えてくれるはず。
まずはやってみること。それが大事だ。
「……──」
瞼を閉じて集中する。
ここは、さながら弓道場。
深い森に座す聖樹は、エルフでなくとも神聖なものとして目に映る。
聖樹が弓道場における神棚とすれば、まずは神拝を行わねばならない。
心の中で聖樹の精霊、あるいは森の精霊らに一礼する。
そうして弓道場は自分の一部となった。
自分と弓は、弓道場の一部となった。
ゆっくりと瞼を開いて、目の前の大いなる存在を見上げる。
弓道とは、心身弓の一体だ。
この弦の音に自分の想いを託す。
──どうか、応えてほしい
自分がなぜここに居るのか。
エルフたちのいう、トラブルの原因はなんなのか。
自分に何か力はあるのか。
あらゆる疑問を今は一つの気と捉え、祈りの根源である『精霊との接触』、それを願った。
自分がまるで弓に張られた弦のように心をピンと落ち着ける。
的に狙いを定めるように自分と弓の感覚を合わせると、ぐっと弦を引いて離した。
パシッ。
もう一度、
パシッ。
「────いい音だ」
「!!」
二回打ったのち、聞き慣れない男の声が聞こえた。
若い男のような声。
大声ではないというのになぜかハッキリと聞こえ、この場において大きな存在感を醸し出す。
声の方へ目線を上げると、しっかりとした聖樹の枝に片足を乗せて座る人物がいた。
「?」
誰だ?
「! あれは……!!」
ミラウッドさんは何かに気付き声を挙げる。
ただならぬ気配に、警備のエルフたちも息をのむ。
「よっと」
「あ、あぶなっ──!」
二階の屋根ほどの高さから飛び降りようとする男を、俺は焦って止めた。
だがそれは杞憂に終わり、男はふんわりとした軌道を描いて静かに着地した。
……ふつうの人間が飛び降りた時の軌道じゃないのは明らかだ。
「先触れの音を届ける者……、風の精霊だ」
ミラウッドさんはやや驚きを含んだ声色で、俺の後ろから耳元へ口を寄せて教えてくれる。
「風の、……精霊」
まさか、本当に成功するとは。
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