異世界弓師~作るおっさんと、射るエルフ~

蒼乃ロゼ

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弓師、異世界へ

七話 弓師、連想する

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 風の精霊と呼ばれた者は、ミラウッドさんとはまた違う顔立ちの整った男だった。
 銀色の長い髪と、ところどころメッシュのように緑色に染まる髪が、風が吹いたわけでもないのにふわふわと揺れている。

 左の耳元には鳥の羽根のような装飾。
 たしかに『風』を連想させる。
 精霊がどういった存在かは分からないが、いたずらに笑う様子からは人懐っこい性格に思えた。

「?」

 彼はゆっくりと目の前に近づいてくると、俺の顔をのぞきこんで不思議そうな顔をする。

「なんだぁ? 変な魔力だな……」
「え、えっと」

 一応、俺にも魔力とやらはあるみたいだ。
 なぜか変らしいが。

「ふーん……?」
「先触れの音を届ける者よ」

 どう声を掛けたものかと迷っていると、ミラウッドさんが助け舟を出してくれた。

「あん?」
「貴方に呼び掛けたのはこちらのコーヤ。……ですが、どうか私たちエルフの声も聞いてはくれまいか」
「エルフ、ねぇ」

 今度はミラウッドさんをじろじろと見つめる風の精霊。

「わりぃがオレはこっちの音に応えた。あんたらの話なんざ聞く義理はないね」
「!?」

 ミラウッドさんの申し出をためらうことなくバッサリ。
 せ、精霊ってのはみんなこんな感じなんだろうか……?

「っ、失礼なのは充分に承知しております。ですが──!」
「オレはこの森に棲んでるワケじゃねぇからなぁ。他を当たってくれよ」
「え? この辺に棲む精霊じゃないのか……っと、ですか?」

 てっきり、森に棲む精霊かと。

「風の者ってのは自由だからな」
「へぇ」
「……」

 ミラウッドさんはぐっと何かを堪えると、引き下がった。

「で? オマエなに?」
「なに、と問われるとちょっと……。人間です……?」
「人間ねぇ?」

 さらにじっと見つめてくる。
 美形にじろじろ見られると緊張するのもそうだが、精霊とどう会話したらいいものか考えがまとまらない。

「離れたところにいるオレを呼ぶなんざ、ふつうはムリだろうがなぁ」
「ど、どちらからお見えで?」
「二つ山を越えた先だな」
「ええええ!!??」

 ただでさえ素引きの弦音はそれほど大きくはない。
 アンプを通した楽器の音ですら二つ山を越えた先に届けるのは無理だろう。
 やっぱり魔法のような、不思議な力ってやつなのか……?

「よっぽどのか、それとも……」

 うーんと頭を悩ませる風の精霊。
 その隙に俺は精霊への対応というものを考えた。

 さきほど願った精霊との接触。
 その祈りは分解すると、
 自分がなぜここに居るのか。
 エルフたちのいう、トラブルの原因はなんなのか。
 自分に何か力はあるのか。

 こうした疑問の答えを求めた結果とも言える。

 エルフたちのいうトラブルについては、どうやらこの森に棲む精霊じゃないのでよく分からないようだ。

 なら、あとは俺に関すること。

 聖樹については知らないかもしれないから、『自分に何か力があるのか』。
 それを聞いてみよう。

「うーん」
「……あの」
「ん?」
「一つ、おうかがいしても?」
「なんだ?」
「変な魔力っていうのは、具体的にどのような感じでしょう……?」
「そうだなぁ。たとえるなら、オマエたち人の魔力と、オレたちの魔力。そのどちらでもない的な?」
「どちらでも、ない」

 やっぱり異世界人ってのが関係しているんだろうか。

「かと言って見知った魔力な気もするし……。とにかく変、だな」

 変は変だが、特別な力というほどでもないのか?

「そうですか……」
「──よし。なら、こうしよう」
「?」
「そこのエルフ」
「! はっ、はい」
「今からコイツと契約するから。オマエたちが何か知りたいことがあるなら、コイツを通じてオレの力を使え。言っておくが、現時点でオレはこの森のことはなにも知らねぇからな」
「!?」
「……?」

 ん? 今なんか、コイツと契約とかなんとか……。

「つーワケで、オレはセロムエラス。セローでいいぞ」
「精霊が、自ら名乗りを……!?」
「これはご丁寧に……えっと、俺は真中侯矢。コウヤと呼んでいただけると」

 名乗られたからには、名乗り返す。
 これは一般的なマナーだろう。

 なぜかミラウッドさんと周りのエルフたちはざわついているが、異世界ではこういうのはマナーじゃないんだろうか。

「よし。契約成立な」
「へ?」

 いつ? どこで? なにが契約?

 と狼狽えていると、パァッと一瞬セローさん? の身体が光る。

「じゃ、しばらくよろしく。コーヤ」
「???」
「まさか……上位精霊が人と契約するとは」

 この人、上位精霊なの!?

「ずっと人の姿ってのも疲れるなぁ」

 いつの間にか俺と契約したことになったセローさんは、腕をぐるぐると回したり、首をコキッと鳴らしたりと、疲れた様子を見せた。

「えっと、セローさん」
「セローでいいって」
「じゃ、じゃあセロー。その、契約っていうのは……」
「ん? オマエ、あれだろ? エルフに言われてオレを呼んだんだろ? オレはオマエの声に応えたわけだから、オマエを通じてじゃねぇとエルフの力にゃなれねぇよ」
「そ、そうですか……」

 あんまり理由になっていないが、精霊にもいろいろとあるんだろう。

「それより、動きやすい体になりてぇんだが……なんかアイデアあるか?」
「アイデア?」
「動物とかさ。これより小さい体。人の多い場所に行くだけでも疲れるってのに、一応エルフに協力する手前、常時風になっとくワケにもいかんだろ」
「なるほど……小回りの利く姿……」
あるじのオマエが想像した姿になってやるよ」

 いつの間に主に……。
 しかし、そうだなぁ。風の精霊か。

 今の姿も十分にそれっぽいが、小さい姿となると……。
 うーん。動物。
 そよ風、つむじ風。

 ……あ! かまいたち?

 妖怪のイラストでよく見るのは手が鎌になってる姿だが、エルフの村を一緒に歩くなら危ないか。

 イタチかぁ。

 可愛いが実は凶暴。
 見た目が美形で言葉は荒いところがセローに似ている気もするな。

 よし! モチーフはイタチだ。
 細長い胴体に短い手足。
 日本のイタチは茶色いが、セローの髪色のように体は銀色、ところどころ緑色の毛でどうだろう?

 つぶらな黒い瞳はセローだと紅い瞳になるな。
 うん、なんか精霊っぽいぞ。

 あとは丸くて短い耳を彼の耳飾りっぽく、羽根のような形状にして……。
 手じゃなくて尻尾から風を繰り出すとしたら、尻尾は長い方がいいよな。

 彼をイタチ風にすると、こんな姿かな。

 イメージし終えると、セローの身体は風にしゅるしゅると包まれ始めた。
 いや、彼自身が風なのだとしたら俺のイメージに合わせて体を作り変えているのだろう。

「うんうん」
「「「……」」」
『………………』

 よし、イメージ通りだ!!
 背の高いスラッとした美形の男は、かわいらしい風のイタチへと変貌を遂げた。

『──なんっっっだこのチンチクリンな姿はーーーー!!??』

 なぜか怒らせてしまった。

『他にもっとあるだろ! 小さくとも草原を翔ける雄々しき獣! 天をも駆る優美な竜! いろいろあるだろがーーーー!!??』
「え、かわいいと思うんだが……気に入らなかったか。そうか……」
『!? ぐっ……ぐぬぬ』
「「「……」」」

 エルフたちは、めちゃめちゃ複雑そうな顔をしている。


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