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第4話:元の国からの必死の懇願
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リリアナが去って一月ほど経った頃、アルトリア王国では異変が起き始めていた。
最初に現れたのは、セラフィナの中級ヒールでは対処しきれない疫病の大流行だった。
「なぜ治らないの...!?どうして私の力が効かないの!?」
セラフィナが青ざめた顔で治療を試みるが、患者の容体は一向に改善しない。それどころか、日に日に悪化していく一方だった。
リリアナなら一瞬で治していた症状が、まったく改善されない。セラフィナの治療を受けた患者たちからは、失望と不満の声が上がり始めていた。
「前の聖女様なら、すぐに治してくださったのに...」
「セラフィナ様では力が足りないのでは?」
続いて国境の魔獣たちが暴れ出し、軍隊では太刀打ちできない事態に発展した。
「リリアナ様がいれば、魔獣たちとも話し合いができたのに...」
騎士たちが嘆息する。魔獣討伐隊は次々と犠牲者を出していたが、魔獣たちの攻撃は止まることがなかった。
そして農作物の病気。癒しの力でしか治せない土壌病が発生し、大飢饉の兆候が見え始めた。
「もはやこれまでか...」
アルトリア国王は玉座で頭を抱えていた。かつて威厳に満ちていた王の顔には、深い疲労と絶望が刻まれている。
「陛下、リリアナ様にお戻りいただくしか...」
宮廷魔法使いが恐る恐る進言する。
「しかし、我々があの娘を追放したのだぞ。今更戻ってくれと言って、聞いてくれるだろうか」
「頼むしかありません」
王太子エドワードが苦渋の表情を見せた。かつてリリアナを「危険な存在」と断じた彼も、今では後悔に苛まれていた。
「頼む、どんな条件でも聞く。どんな屈辱でも受け入れる。リリアナを連れ戻してくれ」
国王は使者をベルガリア王国に派遣することを決めた。
数日後、アルトリアの使者一行がベルガリア王国に到着した。
私は応接室で彼らと向き合った。かつて私を嘲笑した貴族たちの代理人が、今度は懇願しに来たのだ。
使者の団長は、アルトリア王国の宰相代理を務めるグレアム伯爵だった。五十代の男性で、以前は私に対してあからさまに軽蔑の態度を示していた人物だ。
「リリアナ様にお目にかかりたく参りました」
使者が深々と頭を下げる。その姿は、かつて私を見下していた時とは打って変わって卑屈ですらあった。
「リリアナ様、国が滅亡の危機です!どうかお戻りください!」
グレアム伯爵が必死に訴える。その声は震えていた。しかし私の表情は変わらない。
「私を『異常』『悪魔的』と言って捨てた国に、今更用はありません」
「それは...あの時は我々が間違っておりました!」
使者の一人が慌てたように言い訳を始める。
「王太子様も深く後悔しておられます!セラフィナ様も泣いて謝罪を!」
「後悔するのが遅すぎました」
私の声は氷のように冷たかった。
「私はもう、ここが私の居場所です。あなた方が選んだ道の責任は、ご自分で取ってください」
使者たちは青ざめた。まさかこれほど冷淡に断られるとは思っていなかったのだろう。
「お願いです!国民が苦しんでいるのです!子供たちが病気で倒れ、老人たちが飢えで死んでいくのです!」
「国民?」
私は冷笑した。
「私を『不気味』と言っていたあの国民たちですか?私の力を恐れていたあの人たちのことですか?」
「それは...」
「私を理解してくれなかった人たちのために、なぜ私が犠牲になる必要があるのでしょうか」
使者たちは言葉を失った。反論できるはずもなかった。彼らも含めて、アルトリア王国の人々は皆、リリアナを疎んじていたのだから。
その時、アレクシス王子が部屋に入ってきた。
「何か騒がしいようだが」
王子の登場に、使者たちは慌てて立ち上がって頭を下げた。
「アルトリア王国からの使者です」
私が説明する。
「私に戻ってくるよう懇願しに来たようですが」
王子の表情が厳しくなった。
「君の決断を支持する」
アレクシス王子がきっぱりと宣言した。
「君を大切にしなかった者たちに、君を渡すつもりはない」
「王子様...」
私は感謝の気持ちを込めて王子を見つめた。
「リリアナは我が国の大切な聖女だ。二度と手放すつもりはない」
王子の言葉に、使者たちは絶望的な表情を浮かべた。最後の希望が絶たれたのだ。
「それに」
王子が続ける。
「君たちが追放したリリアナのおかげで、我が国はどれほど繁栄したか分かっているのか?疫病は根絶され、魔獣たちとは平和な共存関係を築き、国民の健康状態は飛躍的に向上した」
使者たちの顔が更に青ざめる。
「そんな宝のような人材を、『異常』だと言って追放した愚かな国に、もう一度渡すと思うか?」
「お願いです!」
グレアム伯爵が土下座した。
「どんな条件でも、どんな代償でも支払います!リリアナ様だけが我が国を救えるのです!」
「代償?」
私は立ち上がった。
「では伺いましょう。私を『悪魔的』と言ったセラフィナの処罰は?私を『異常』と断じた王太子の謝罪は?私を嘲笑した貴族たちの償いは?」
「それは...」
「何もないのでしょう?口先だけの謝罪で、私が戻ってくると思っているのですか?」
私は窓の外を見やった。ベルガリア王国の美しい街並みが広がっている。
「ここには私を理解してくれる人たちがいます。私の力を『奇跡』と呼んでくれる人たちが。なぜそれを捨てて、私を傷つけた国に戻らなければならないのでしょうか」
「分かりました...」
グレアム伯爵が重い声で呟いた。
「お邪魔いたしました」
使者たちは重い足取りで立ち去っていく。
私は窓から彼らの後ろ姿を見送りながら、心の中で呟いた。
「これで完全に、過去と決別できた」
アレクシス王子が私の隣に立った。
「後悔はないか?」
「全くありません」
私は振り返って微笑んだ。
「あの国は、自分で自分の運命を選んだのです。私はもう、前を向いて歩いていきます」
王子も微笑み返した。
「君がそう言ってくれて、安心した」
夕日が応接室を染めている。金色の光が、私たちの新しい関係を祝福しているかのようだった。
アルトリア王国への最後の扉が、静かに閉じられた瞬間だった。
一方、王宮を後にする使者たちの馬車では、重苦しい沈黙が続いていた。
「もう終わりだな...」
グレアム伯爵が力なく呟く。
「リリアナ様を失った我が国に、もはや希望はない」
馬車はゆっくりとベルガリア王国を後にしていく。彼らが持ち帰るのは、絶望的な現実だけだった。
そして、遠くアルトリア王国では、さらなる災いが待ち受けているのだった。
最初に現れたのは、セラフィナの中級ヒールでは対処しきれない疫病の大流行だった。
「なぜ治らないの...!?どうして私の力が効かないの!?」
セラフィナが青ざめた顔で治療を試みるが、患者の容体は一向に改善しない。それどころか、日に日に悪化していく一方だった。
リリアナなら一瞬で治していた症状が、まったく改善されない。セラフィナの治療を受けた患者たちからは、失望と不満の声が上がり始めていた。
「前の聖女様なら、すぐに治してくださったのに...」
「セラフィナ様では力が足りないのでは?」
続いて国境の魔獣たちが暴れ出し、軍隊では太刀打ちできない事態に発展した。
「リリアナ様がいれば、魔獣たちとも話し合いができたのに...」
騎士たちが嘆息する。魔獣討伐隊は次々と犠牲者を出していたが、魔獣たちの攻撃は止まることがなかった。
そして農作物の病気。癒しの力でしか治せない土壌病が発生し、大飢饉の兆候が見え始めた。
「もはやこれまでか...」
アルトリア国王は玉座で頭を抱えていた。かつて威厳に満ちていた王の顔には、深い疲労と絶望が刻まれている。
「陛下、リリアナ様にお戻りいただくしか...」
宮廷魔法使いが恐る恐る進言する。
「しかし、我々があの娘を追放したのだぞ。今更戻ってくれと言って、聞いてくれるだろうか」
「頼むしかありません」
王太子エドワードが苦渋の表情を見せた。かつてリリアナを「危険な存在」と断じた彼も、今では後悔に苛まれていた。
「頼む、どんな条件でも聞く。どんな屈辱でも受け入れる。リリアナを連れ戻してくれ」
国王は使者をベルガリア王国に派遣することを決めた。
数日後、アルトリアの使者一行がベルガリア王国に到着した。
私は応接室で彼らと向き合った。かつて私を嘲笑した貴族たちの代理人が、今度は懇願しに来たのだ。
使者の団長は、アルトリア王国の宰相代理を務めるグレアム伯爵だった。五十代の男性で、以前は私に対してあからさまに軽蔑の態度を示していた人物だ。
「リリアナ様にお目にかかりたく参りました」
使者が深々と頭を下げる。その姿は、かつて私を見下していた時とは打って変わって卑屈ですらあった。
「リリアナ様、国が滅亡の危機です!どうかお戻りください!」
グレアム伯爵が必死に訴える。その声は震えていた。しかし私の表情は変わらない。
「私を『異常』『悪魔的』と言って捨てた国に、今更用はありません」
「それは...あの時は我々が間違っておりました!」
使者の一人が慌てたように言い訳を始める。
「王太子様も深く後悔しておられます!セラフィナ様も泣いて謝罪を!」
「後悔するのが遅すぎました」
私の声は氷のように冷たかった。
「私はもう、ここが私の居場所です。あなた方が選んだ道の責任は、ご自分で取ってください」
使者たちは青ざめた。まさかこれほど冷淡に断られるとは思っていなかったのだろう。
「お願いです!国民が苦しんでいるのです!子供たちが病気で倒れ、老人たちが飢えで死んでいくのです!」
「国民?」
私は冷笑した。
「私を『不気味』と言っていたあの国民たちですか?私の力を恐れていたあの人たちのことですか?」
「それは...」
「私を理解してくれなかった人たちのために、なぜ私が犠牲になる必要があるのでしょうか」
使者たちは言葉を失った。反論できるはずもなかった。彼らも含めて、アルトリア王国の人々は皆、リリアナを疎んじていたのだから。
その時、アレクシス王子が部屋に入ってきた。
「何か騒がしいようだが」
王子の登場に、使者たちは慌てて立ち上がって頭を下げた。
「アルトリア王国からの使者です」
私が説明する。
「私に戻ってくるよう懇願しに来たようですが」
王子の表情が厳しくなった。
「君の決断を支持する」
アレクシス王子がきっぱりと宣言した。
「君を大切にしなかった者たちに、君を渡すつもりはない」
「王子様...」
私は感謝の気持ちを込めて王子を見つめた。
「リリアナは我が国の大切な聖女だ。二度と手放すつもりはない」
王子の言葉に、使者たちは絶望的な表情を浮かべた。最後の希望が絶たれたのだ。
「それに」
王子が続ける。
「君たちが追放したリリアナのおかげで、我が国はどれほど繁栄したか分かっているのか?疫病は根絶され、魔獣たちとは平和な共存関係を築き、国民の健康状態は飛躍的に向上した」
使者たちの顔が更に青ざめる。
「そんな宝のような人材を、『異常』だと言って追放した愚かな国に、もう一度渡すと思うか?」
「お願いです!」
グレアム伯爵が土下座した。
「どんな条件でも、どんな代償でも支払います!リリアナ様だけが我が国を救えるのです!」
「代償?」
私は立ち上がった。
「では伺いましょう。私を『悪魔的』と言ったセラフィナの処罰は?私を『異常』と断じた王太子の謝罪は?私を嘲笑した貴族たちの償いは?」
「それは...」
「何もないのでしょう?口先だけの謝罪で、私が戻ってくると思っているのですか?」
私は窓の外を見やった。ベルガリア王国の美しい街並みが広がっている。
「ここには私を理解してくれる人たちがいます。私の力を『奇跡』と呼んでくれる人たちが。なぜそれを捨てて、私を傷つけた国に戻らなければならないのでしょうか」
「分かりました...」
グレアム伯爵が重い声で呟いた。
「お邪魔いたしました」
使者たちは重い足取りで立ち去っていく。
私は窓から彼らの後ろ姿を見送りながら、心の中で呟いた。
「これで完全に、過去と決別できた」
アレクシス王子が私の隣に立った。
「後悔はないか?」
「全くありません」
私は振り返って微笑んだ。
「あの国は、自分で自分の運命を選んだのです。私はもう、前を向いて歩いていきます」
王子も微笑み返した。
「君がそう言ってくれて、安心した」
夕日が応接室を染めている。金色の光が、私たちの新しい関係を祝福しているかのようだった。
アルトリア王国への最後の扉が、静かに閉じられた瞬間だった。
一方、王宮を後にする使者たちの馬車では、重苦しい沈黙が続いていた。
「もう終わりだな...」
グレアム伯爵が力なく呟く。
「リリアナ様を失った我が国に、もはや希望はない」
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