47 / 58
異界の国のアリス
困難だけれども、それでも
しおりを挟む
そんな会話を交わした後。もう少し家を見たいと騒ぐハーヴェイを追い出して、私はジョゴダの町に転移するべくドアに触れようとして。スッと姿を現したアルヴァへと振り向く。
「あら、何処行ってたのアルヴァ」
「俺はあの魔王とあまり顔を合わせたくなくてな」
「そうなの? 昨日は仲良さそうにしてたけど」
私がそう問えば、アルヴァはなんだか微妙そうな顔になってしまう。
「あの男、昨日のあの会話の間中も俺に探査の魔力をぶつけてきていた」
「あー、そういえばなんか常時放ってるって言ってたけど」
「ソレとは別だ。俺の事を探ろうとしていた……表面上の人のよさや軽さに騙されていると、痛い目を見るぞ」
別に、騙されてるつもりはない。ハーヴェイが結構冷酷だってことは初見で知ってるし。
ただ、それ込みで真面目な問題に関しては信用していいんじゃないかとも思ってる。
ま……これは私の勘だけどね。
「問題ないわよ。私は魔族に敵対しようとは思ってないもの」
「ま、そうだろうな。お前は人間の中で暮らすには目立ちすぎる」
「美少女だから?」
「一般的人間の基準に照らし合わせれば、その可能性も含むな」
「自分の基準で語るのを避けるんじゃないわよ」
「そうは言うが、言えば機嫌を損ねると思うが?」
このやろう……いいけど、そういう奴だってのは分かってるし。
「ともかく、そういう意味ではお前は魔族の中で暮らした方が望む平穏を得られるだろうことは間違いないな」
「でしょ? だからこそ、その平穏は守らなきゃね」
「……まあ、納得はする。思うようにやってみればいいだろう」
そう言って、アルヴァは私の腕輪に変わる。何よ、手伝ってくれないの?
『前にも言ったと思うが、俺は目立つつもりはない。いざという時は手を貸してやるから、思うようにやってみろ』
「ふーん?」
『なんだ、不満か』
「別に? ただ、望むところは一緒なんだなってね」
私が言えば、アルヴァから届く念話が途切れる。どうしたのかしら?
しばらくの無言の後……アルヴァから届いた念話は、含み笑いのようなもの。
『く、くくく……っ、このブラックメイガスたるアルヴァが望むのが平穏、か』
「何よ、そんなに変な事?」
『ああ、変だとも。魔道の真理を追究し闇に堕ちたる俺が、平穏だぞ。これを笑わずして何とする」
うーん、なんかなー。なんだろなー。
私は頬を軽く掻くと「バーカ」と声をあげる。
「平穏望んで何が悪いってのよ。中二病に目覚めたてのガキじゃあるまいに、波乱と苦悩とかそーゆーのを望むのは馬鹿よ馬鹿。貴方風に言うならエンペラー・オブ・馬鹿よね」
『ちゅ、ちゅうに病……?』
「知的生命体に生まれた以上はね、誰もが平穏に生きたいのよ! 頂点に立ちたいんだとかそういうガキ大将みたいな事言ってる奴も世界を変えるんだとか言ってる中二病もね、みーんな平穏に生きるためにやってんの! 魔道の真理だっけ? それだってその先に平穏があるから目指したんでしょ⁉」
『む……いや、それは。いや、違うのではないか?』
「違わないわよ! そうしたら貴方の中に平穏が訪れるからやってんのよ! 誰だってユートピアに行きたいのよ! で、私は今でも結構満足してる! 何しろ私完璧だからね!」
『貴様それは……いや、まあいい』
何言いかけたこの野郎。今は流すけど後で許さん。
「だからこそ、私は平穏を乱す奴を許さない……全力でブッ潰すわ! それが知的生命体に生まれた私の生きる道!」
『その理屈で言うのであれば、奴隷商人達も平穏の為にやっているのだろうな』
「そりゃそうでしょ。ま、私の道を邪魔しようとした以上、潰すんだけどね」
『そうか、潰すか』
「そりゃそうよ。昨日一晩考えたけどさ、結局ソレしかないでしょ?」
違法な奴隷商人なんかやってるんだもの。半端にやっつけた所でなんか面倒なことになるのは目に見えてる。一撃で完璧に潰さないとね。
『だが……目立つぞ?』
「そうしない為にグレイたちに会いに行くんじゃない」
そう、グレイたちの持っている情報が私には必要だ。
見える端からやっつけて、やがて奴隷商人に辿り着く……なんて地味かつ名声を上げていくような事はしたくない。
闇から闇へ飛ぶ仕事人の如く、狙うは一撃必殺。私の名前が表に出ないままに全てが解決しているのが理想だ。
「私はね……英雄だ勇者だ、みたいな騒動には巻き込まれたくないの。やりたい人がいるなら、勝手にやればいいんだわ」
もしどうしても誰かが功績を持って表に出る必要があるなら、グレイたちがそれを受ければいい。
彼等にはその権利があるもの。
「……フッ」
含み笑いと共に、アルヴァは再び人型となって私の前に現れる。その表情は……なんだか、今までで一番自然な笑顔だった。
「実に強欲だ。貴様の望む道は、それこそ英雄よりも困難だろうよ」
「望むところよ。これでも数多の人が諦めた世界を救いかけたのよ?」
ま、ゲームの話だけど。
「そうか。ならば今一度困難に挑め。俺はギリギリまで手を貸さん」
「はああああああ⁉」
再び腕輪になったアルヴァを叩いてみるけど、何の反応もない。
こ、このやろう……なんて奴なの。
ええい、もう! こうなったらやるしかないわ!
―何処へ行きますか?―
ドアに触れ現れるウインドウから私は「ジョゴダの町」を選び……飛ぶ。
「あら、何処行ってたのアルヴァ」
「俺はあの魔王とあまり顔を合わせたくなくてな」
「そうなの? 昨日は仲良さそうにしてたけど」
私がそう問えば、アルヴァはなんだか微妙そうな顔になってしまう。
「あの男、昨日のあの会話の間中も俺に探査の魔力をぶつけてきていた」
「あー、そういえばなんか常時放ってるって言ってたけど」
「ソレとは別だ。俺の事を探ろうとしていた……表面上の人のよさや軽さに騙されていると、痛い目を見るぞ」
別に、騙されてるつもりはない。ハーヴェイが結構冷酷だってことは初見で知ってるし。
ただ、それ込みで真面目な問題に関しては信用していいんじゃないかとも思ってる。
ま……これは私の勘だけどね。
「問題ないわよ。私は魔族に敵対しようとは思ってないもの」
「ま、そうだろうな。お前は人間の中で暮らすには目立ちすぎる」
「美少女だから?」
「一般的人間の基準に照らし合わせれば、その可能性も含むな」
「自分の基準で語るのを避けるんじゃないわよ」
「そうは言うが、言えば機嫌を損ねると思うが?」
このやろう……いいけど、そういう奴だってのは分かってるし。
「ともかく、そういう意味ではお前は魔族の中で暮らした方が望む平穏を得られるだろうことは間違いないな」
「でしょ? だからこそ、その平穏は守らなきゃね」
「……まあ、納得はする。思うようにやってみればいいだろう」
そう言って、アルヴァは私の腕輪に変わる。何よ、手伝ってくれないの?
『前にも言ったと思うが、俺は目立つつもりはない。いざという時は手を貸してやるから、思うようにやってみろ』
「ふーん?」
『なんだ、不満か』
「別に? ただ、望むところは一緒なんだなってね」
私が言えば、アルヴァから届く念話が途切れる。どうしたのかしら?
しばらくの無言の後……アルヴァから届いた念話は、含み笑いのようなもの。
『く、くくく……っ、このブラックメイガスたるアルヴァが望むのが平穏、か』
「何よ、そんなに変な事?」
『ああ、変だとも。魔道の真理を追究し闇に堕ちたる俺が、平穏だぞ。これを笑わずして何とする」
うーん、なんかなー。なんだろなー。
私は頬を軽く掻くと「バーカ」と声をあげる。
「平穏望んで何が悪いってのよ。中二病に目覚めたてのガキじゃあるまいに、波乱と苦悩とかそーゆーのを望むのは馬鹿よ馬鹿。貴方風に言うならエンペラー・オブ・馬鹿よね」
『ちゅ、ちゅうに病……?』
「知的生命体に生まれた以上はね、誰もが平穏に生きたいのよ! 頂点に立ちたいんだとかそういうガキ大将みたいな事言ってる奴も世界を変えるんだとか言ってる中二病もね、みーんな平穏に生きるためにやってんの! 魔道の真理だっけ? それだってその先に平穏があるから目指したんでしょ⁉」
『む……いや、それは。いや、違うのではないか?』
「違わないわよ! そうしたら貴方の中に平穏が訪れるからやってんのよ! 誰だってユートピアに行きたいのよ! で、私は今でも結構満足してる! 何しろ私完璧だからね!」
『貴様それは……いや、まあいい』
何言いかけたこの野郎。今は流すけど後で許さん。
「だからこそ、私は平穏を乱す奴を許さない……全力でブッ潰すわ! それが知的生命体に生まれた私の生きる道!」
『その理屈で言うのであれば、奴隷商人達も平穏の為にやっているのだろうな』
「そりゃそうでしょ。ま、私の道を邪魔しようとした以上、潰すんだけどね」
『そうか、潰すか』
「そりゃそうよ。昨日一晩考えたけどさ、結局ソレしかないでしょ?」
違法な奴隷商人なんかやってるんだもの。半端にやっつけた所でなんか面倒なことになるのは目に見えてる。一撃で完璧に潰さないとね。
『だが……目立つぞ?』
「そうしない為にグレイたちに会いに行くんじゃない」
そう、グレイたちの持っている情報が私には必要だ。
見える端からやっつけて、やがて奴隷商人に辿り着く……なんて地味かつ名声を上げていくような事はしたくない。
闇から闇へ飛ぶ仕事人の如く、狙うは一撃必殺。私の名前が表に出ないままに全てが解決しているのが理想だ。
「私はね……英雄だ勇者だ、みたいな騒動には巻き込まれたくないの。やりたい人がいるなら、勝手にやればいいんだわ」
もしどうしても誰かが功績を持って表に出る必要があるなら、グレイたちがそれを受ければいい。
彼等にはその権利があるもの。
「……フッ」
含み笑いと共に、アルヴァは再び人型となって私の前に現れる。その表情は……なんだか、今までで一番自然な笑顔だった。
「実に強欲だ。貴様の望む道は、それこそ英雄よりも困難だろうよ」
「望むところよ。これでも数多の人が諦めた世界を救いかけたのよ?」
ま、ゲームの話だけど。
「そうか。ならば今一度困難に挑め。俺はギリギリまで手を貸さん」
「はああああああ⁉」
再び腕輪になったアルヴァを叩いてみるけど、何の反応もない。
こ、このやろう……なんて奴なの。
ええい、もう! こうなったらやるしかないわ!
―何処へ行きますか?―
ドアに触れ現れるウインドウから私は「ジョゴダの町」を選び……飛ぶ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる