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連載
たとえ、この身は滅ぶとも8
しおりを挟むラクター、そしてファイネル。
二人の放った攻撃の魔力を感じ、ヴェルムドールは立ち止まる。
「派手にやってるようだな」
「止めますか?」
イチカに問われ、ヴェルムドールは構わんと言って再び歩き出す。
派手にやっているとは言ったが。どの攻撃も「祈りの壁」を超えるほどではない。
無駄に高く造られた祈りの壁は、多少の空中戦程度であれば覆い隠してしまう。
ひょっとするとウインドエレメントからの攻撃を想定したのかもしれないが、今回はそれが役に立っている。
そして音に関しても、エレメントとの戦闘音だと思われるだけだ。
どれがどちらの攻撃であるかなど、わざわざ確かめる物好きがいるとも思えない。
「俺の言った事を守っている以上、止める理由も無い。向こうは向こうに任せて、こちらなりにやるとしよう」
「そうね。連中は放っておくのが一番いい使い方だわ。ラクターもファイネルも、戦いに関しては天才的だもの」
政務にもその才覚を見せてくれればいいんだけどね……と呟くロクナだが、すぐに思考を切り替えて周囲の建物へと視線を巡らせる。
「しっかし、エレメントってのは随分と魔法に長けていたのね。見てよヴェルっち、この辺の建物全部保存の魔法かかってるわよ?」
「ああ。霊王国の遺産だなんだというが、この街自体が遺産のような気もするな」
保存の魔法。
それは現在の人類領域においてもポピュラーな魔法だが、ここまでのレベルのものとなると使い手がいるかどうかも怪しい。
それに気付く研究者がこの建物をどれでもいいから研究すれば、人類の保存の魔法は一歩先へと進むかもしれない。
……まあ、すぐにエレメントの湧き出るこの街では、そんなことは難しいのかもしれないが。
「それについては否定しないわ。エレメントにとって街造りは、その当時の思いつく最高の魔法を駆使したものだもの。このレプシドラはまさに、エレメントの魔法史の記録であり遺産であるとも言えるかもしれないわね……まあ、呪都なんて呼んでるようじゃ、人類がそれを理解するのは無理かもしれないけど」
「まあ、そう言うな。理解しようにも、この状況では無理だろう」
ヴェルムドール達の眼前で、小さな火が燃え上がる。
それは一瞬のうちに広がっていき、大人程の大きさに成長し人型となる。
その背後では地面から生えるようにアースエレメントが出現する。
「イチカ。後ろのだ」
「お任せを……火よ!」
ヴェルムドールが魔剣に手をかけ、引き抜く。
それと同時にイチカは一陣の風を残してアースエレメントの眼前へと到達する。
その手にあるのは、火の魔力を宿した魔法剣。
「ガッ」
それにアースエレメントが気付いた、その瞬間に……すでに、イチカの攻撃は終わっている。
イチカが剣を鞘に収める甲高い音と共にアースエレメントは縦に割れ……ざらりと崩れて地面に落ちる。
「水撃」
ヴェルムドールの向けた魔剣の先からファイアエレメントを覆い尽くすような大きさの水撃が放たれ、ファイアエレメントが放とうとしていた何かの攻撃ごと飲み込む。
膨大な魔力を込めて放たれた水撃にファイアエレメントが耐え切れるはずもなく消滅し……遮るもののなくなった道を見て、ヴェルムドールは満足そうに頷く。
「……出鱈目な威力の魔法を使うわね」
「まあな」
水撃のような基本的な魔法は元々詠唱が存在せず、使用者の魔力に依存するところが大きい。
ヴェルムドールの場合は扱える魔力が魔族と比べても極端に大きい為、やろうと思えば基本魔法のみでかなりの威力を出すのも可能である。
そうした能力はヴェルムドールの魔法使いとしての有利な部分であり……しかし、危惧する部分でもあった。
「基本魔法で威力を出せるのはいいんだがな。それ頼りというのも、怠惰を招く要因になりかねん。あまり応用の効く魔法でもないしな」
「そりゃそうよ。普通はそこのロクナみたいに状況に応じた魔法を選択するのが基本だもの」
「基本でいうなら、今のはヴェルっちの選択が正しいわよ。単体相手に凝った魔法使うくらいなら、基本魔法でブッ飛ばしたほうが早いもの」
ロクナはそう言って、空へ杖を向ける。
「閃光矢」
放たれた光の矢が襲いかかろうとしていたウインドエレメントを貫き四散させ、ロクナは杖で地面をトンと叩く。
「魔法を選択するっていうのは、こういう場面よ。今みたいに速攻が求められる状況では、光撃よりも閃光矢のほうが対象への到達速度は短い。あたしの見た限りでは、ヴェルっちはそのあたりの判断は出来てると思うわよ?」
「そうか」
「そうよ」
ロクナが頷き、ヴェルムドールは小さく微笑む。
「お前が言うならば安心だな、ロクナ」
「ええ、間違ってたらいつでも言ってあげるわよ?」
ロクナもヴェルムドールへ向けて微笑み……そのヴェルムドールの腕を、イクスラースがくいと引っ張る。
「遊んでるんじゃないわよ、ヴェルムドール」
「別にそんなつもりはないんだがな……」
「つもりじゃなかろうと、そう見えたらそうなの……なによ」
そう言って再度イクスラースはヴェルムドールの腕を引っ張ろうとして……イチカの視線に気付き、手をぱっと離す。
「いえ、別に何も思うところはありませんが」
「思うところがないって視線じゃなかったわよ……」
射殺すような視線だった……とは流石に言わないが、イクスラースはふうと息を吐く。
「……まあ、いいわ。確か私の記憶だと、この先は小さな広場になっていたはずよ。そこから三方に分かれているから、まずはそこまで行きましょ」
「広場、か」
「ええ。いざという時の避難所……というよりはまあ、憩いの場ね」
役に立っていたかどうかは結局分からなかったけど。
そう呟いて、イクスラースは先導するように道を歩いていく。
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