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誕生2

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 それは、突然だった。
 現れた異形の化け物を倒し、連合軍の面々が歓声をあげた……その後。
 突如次元の狭間に現れたひび割れが連合軍の面々を呑み込んでいったのだ。
 それを「何者かの罠か」と警戒するよりも、どちらかといえば「倒したせいで次元の狭間が崩壊するのだろうか」という考えを抱く者が多かったのは次元の狭間を照らす極彩色の光がそれより以前に消失したのが異形の敵の力の減衰と連動したように見えたからだろう。
 事情を知らない者は現状与えられた情報での推測を真実と思い込む事がある……という事例の定番のようなものだが、「そんな事になるなら勇者リューヤの時に崩壊していたのではないだろうか」などという「冷静な指摘」など届くはずも無い。
 一部の者の冷静な驚愕と、大勢の歓声は一瞬の後に元の平原まで転移されていたことで、歓声が大多数となって怒号のように響き渡る。

「連合軍万歳!」
「勇者様万歳!」

 やはりあの異形の化け物こそがグリードリースだったのだと叫ぶ兵士達に静止の声など届くはずも無く、しっかりと整列できているわけもない今の状況では尚更だ。
 ファイネルならば電撃砲ボルテニクスを空中に一発でも放ってやることで止める事も可能かもしれないが、アルムが手を軽く押さえて首を横に振っているのを見てファイネルは「静観」の態勢に入ってしまう。
「冷静にさせる」というのは一見良い事にも思えるが、「冷静である」という事は現状に疑問を抱く思考能力を与えるのと同義であり、現在疑問を抱いている少数の将はともかく大多数の兵士に「それ」を与えては色々と面倒だ。
 だがそんな状況も空中に再びの亀裂が現れたことで、しんとした静寂へ導かれてしまう。

「うおおおっ!?」
「わああっ」

 少しばかり情けない声をあげてドサドサと地面に落ちる者達と、空中での機動になれているかのような冷静さで降り立つ二人の女の姿。

「……」
「チッ、情けねえ男共だね」

 一人はあまり連合軍の面々には判断がつかなかったようだが別働隊……表向きには「冒険者カインの仲間」のアイン。
 もう一人は大体の者が知っている「二代目ソードマスター」のアゾートである。
 アインとアゾートは辺りを見回すと、此処が元の場所であること、そして「本隊」の面々も此処に来ている事を理解し……アゾートはつまらなそうに鼻を鳴らす。

「でっかい子守をしてる間に決着がついた……か?」
「さてな。状況を判断できるほど俯瞰した状況に居たわけでもなかろう」
「あの小娘共と一緒に、あのドラゴンに乗れば文字通り俯瞰できたんじゃないかい?」

 肩をすくめるアゾートにアインはしばらく黙り込み……ぽつりと「私に頼る癖がついても困る」と答える。
 次元の狭間で上空のアルヴァを片付けたラクターが飛んできたのは町の各所で戦っていた別働隊の面々を回収しようと走り回っていたアゾートとセイラ達が合流した直後であったが……そこでアインはセイラ達をラクターに預けたのだ。
 すでにルーティが背に乗っていたこともあるが「別働隊がヴェルムドール達以外全滅」などという状況になっては困るという思考がアインにはあり……しかし、それを堂々と表に出すわけにはいかなかった以上、まさに「良いタイミング」であったのだ。

 勿論セイラ達は事情をある程度知っているのでそれを話しても納得するだろうが、他の別働隊の面々はそうはいかないだろう。
 まさか別働隊の面々全員に「実は私は魔族で勇者カインの監視の為に一緒にいるんです。他の別働隊の面々が死んじゃうと「見捨てた」とかいう不名誉な噂が流れるかもしれないし、かといって魔王様には魔王様の目的があるんで私が独自に動いて問題解決しておきたいんです」などと説明して回るわけにもいかない。

 なので「頼りになるお姉さん」ポジションを不本意ながら得ている状況を不本意ながら利用しつつ語るアインに、アゾートは納得したように頷く。

「ふーん。まあ、あのドラゴンのおっさんとルゥおばさんがいれば命の心配はなかっただろうけど」

 自分達に視線が降り注いでいる事を自覚しながら、アゾートとアインは我関せずとばかりに喋り続ける。
 それは「今忙しいから話しかけるな」という無言の障壁であり、並の者であれば話しかけようなどとは思いもしない。
 結局「それなりの戦果」であった他の別働隊の面々もなんでもないといった風を装うのが精一杯であり話の邪魔をしようなどと思うはずも無い。

 ……が、「話しかけないでください」と看板が立っていなければ話しかけてもいいとばかりに「空気」を叩き壊す者もまた存在する。

「どいてどいて……あ、すみません! アゾートさんと……げっ! あ、いや。えーと」
「げっ、だってよお前。なんかしたの?」
「私はしていない」

 むしろ「された」方だし、そのせいで未だに魔獣化が出来ない。
 もっとも、そんな事を一々解説する義理もなく……アインはジロリと空気読めない男代表選手のトールを睨みつける。
 一応「和解した」ことになっているが、このトールなる男を信用したわけではない。
 そんな二人の様子を見ていたアゾートはふむと頷くと、トールへと視線を向ける。

「で、どーした勇者。言っておくけど、アタイ達もそんなに状況に詳しくは無いぜ?」
「うっ、そうなのか……。そういえば他の別働隊の人達は」

 トールが尚も何かを言おうとしたその時。

「おっと、此処かよ」
「いきなりすぎるでしょ、もう……」

 その「他の別働隊」の面々がトール達の近くに現れる。

「何見てんのよ、見てんじゃないわよ」

 何かを言う前にイクスラースからの辛辣な言葉のジャブを受けたトールは「ぐっ」と黙り込む。
 そのまま何も言えないままに、しかし言わねばならないとトールが再び決意を固めるより前に……転移光と思われる光が、群集からも三人からも更に離れた先に集まり始めた。
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