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6巻

6-2

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 後ろでコソコソする二つの気配に溜息をつきそうになりながら、俺はガラス戸を開いた。

「ごめんくださーい」

 中で待機していたのは、緑の髪のお兄さんと桃色の髪のお兄さん。机に向かい、二人とも何かしらの事務処理をしているみたいだ。
 俺が扉を開けると、桃髪のお兄さんがすぐに顔を上げた。

「あれ? 坊や、どうした? 迷子?」

 ぼ……坊や……だと! もう俺八歳なんだけど! 八歳って坊やっていう歳かな? ……歳だね。
 しかし、俺は別の衝撃を受けていた。

「いや、あの……」

 顔を上げたお兄さん――だと思っていた人が、ひげづらのすっげームキムキマッチョのおっさんで、恐ろしいほどにピンクの髪が似合っていなかったためである。しかも極めつけに、結構濃く生えているひげまでピンク。ばっさり生えたまつまでピンク!
 ピンクのおっさんは、手前に座る緑髪のお兄さんの陰に隠れていたから、よく見えていなかった。こんな強烈な人物だったとは。
 緑の髪のお兄さんもピンクのおっさんに反応してこちらを見たけど、それどころではない。
 しかし、その緑髪の人がイワンさんだったとは――って、ええ!? イワンさん!? 


 ……。
 ちょっと色々驚きがありすぎて、逆に落ち着いてきた。
 うん。ただ、ピンク色が似合わないごついおっさんがいただけだ。
 そしてヒッツェ皇国の兵士を辞めてエイズームに来たイワンさんだって、白騎士として正式採用されたって話だった。ここにいるのも不思議じゃない。
 俺の心が台風一過な状態になったところで、ようやくイワンさんは俺のことを認識したらしい。驚いた顔で立ち上がると、倒れ込みそうな勢いでこちらに駆け寄ってきた。

「ば、馬鹿! スコット! こちらにおわすお方はウィリアムス=ベリル様だぞ! ベリル領の騎士ならご子息様のご尊顔くらい把握しとけ! 申し訳ありません、ウィリアムス様。こいつ馬鹿で」

 ご……ごそんがん……イワンさん、なんかちょっと見ないうちにやたら丁寧になってる!?
 しかもシュタッと効果音がつきそうな素早さで、俺のもとに馳せ参じたイワンさんは、片膝をついて頭をれている。
 いや、前からすっげー俺には優しかったけど、なんていうか、これは優しいとかそんなんじゃないぞ……。
 なんだろう、こう、国王陛下と対面したときのジルコさん的なテンションを感じる。
 え? それを俺に向けるの?
 ……俺、国王陛下ほど立派でもなければ尊敬されるような人物でもないんだけどぉー!? 地位的にもまだ公爵家ちゃくなんってだけで、実質これといった地位は持っていないんですけどぉー!?

「へ!? ウィリアムス様!? 気づかなかった! ももも申し訳ありません!!」

 俺がイワンさんの劇的すぎるビフォーアフターに固まっている間に、ピンクのおっさん――いや、この言い方はダメだ、なんか違う意味に聞こえる――もとい、スコットと呼ばれたおっさんも俺の近くにやってきて頭を下げていた。
 や、やばい。これでは俺が父さんの権威を笠に着てふんぞり返っている、糞ガキのようではないか。

「や、全然、本当に何にも気にしてませんから顔を上げてください! イワンさんも! 普通に、お願いですから普通に接してください!」

 俺の言葉でスコットさんは立ち上がってくれたのだが。
 おい、イワンさん。本当どうしちゃったの。
 片膝をついたままでいるイワンさんの手を握って、立ち上がらせる。

「うぃ……ウィリアムス様……!」
「前みたいに、ウィルって呼んでください」

 立ち上がったイワンさんを見ながら笑うと、なぜかイワンさんはぴしりと固まった。
 だから、どうしたイワンさん!

「いや、あの……ふぁい」

 なぜか頭から煙を出しそうなくらい、真っ赤になっているが。
 そんなに緊張しているのだろうか。
 あ、もしかして、ヒッツェで会ったときには公爵家がどんな地位なのか理解できてなくて、エイズーム王国で初めて知ったから対応に困っているとか?

「本当、前と同じように扱ってくださって大丈夫ですからね?」

 イワンさんを見上げながら、念押しをさせてもらおう。
 かしこまられすぎても居心地が悪いし、俺の魂はしょせん平々凡々な庶民なのである。三つ子の魂百まで。いくら今世で貴族としてたたえられたところで、前世でつちかわれた庶民的精神は変わらない。

「ひゃい」

 変な声で返事をする挙動不審なイワンさんは放っておこう。多分、時間が経てば慣れてくれるはずだ。
 混乱して、どういう態度を取ればいいのか分からなくなったときには、黙って何もしないでおいてもらうのが一番嬉しい。少なくとも、俺の場合は。
 なので、とりあえずピンクのスコットさんとお話ししよう。
 父さんに、抜き打ち視察って何をすればいいのと聞いたら、「遊びに来た少年が普通に雑談する感じで」と言われたのだ。
 雑談。
 少年が普通にする雑談って何。
 さすがに自分が一般的な少年と違っていることくらいは自覚している。
 それに、俺のコミュ力のなさをめんじゃあねえぞ。伊達だてに前世でぼっちオブぼっちの称号をほしいままにしていたわけじゃない。ぼっちキングと呼ばれた転生者の俺が、ごく普通の雑談など振れるだろうか、いや、振れない。

「あ、おっさ……お兄さんのことは、スコットさんと呼んでいいですか?」

 でも、今の俺は純粋な八歳の少年である。
 何を隠そう、今世の俺は乳児期の過酷な修業によって新たなスキルを手に入れていた。
 そう、演技力である!
 なりきってしまえば、その場はなんとかなる! あとから思い出してしゅうの念に襲われ、ぼっこぼこのフルぼっこになったとしても。
 実際、ヒッツェに潜入した際に演じた『ウィリア』ちゃんは、結構上手うまくいっていたはずだ。
 話しかけられたスコットさんは、真っ赤になって震えるイワンさんに不気味なものを見るような目を向けていたが、俺の方へ視線を戻した。

「ありがとうございます! なんなりとお呼びくださいッス!」

 スコットさんは満面の笑み。
 ええ人や。
 さすが騎士の職についているだけあって、人相は悪くても子供にフレンドリーである。

「じゃあスコットさんも僕のことはウィル、とお呼びください」
「はいッス!」

 しかし、その体育会系のノリらしき敬語はどうにかならないものか。
 とりあえず『ッス!』ってつけときゃオッケーみたいな?
 いや、実際にはこの世界の言葉だから、別に『ッス!』って言っているわけではないけどさ。俺の受ける印象的にそんな感じなんですよね。
 はあ、むしろ小学生相手に話すように、くだけた言葉で気軽に話してほしい。だって、人相の悪いおっさんに敬語で話しかけられるとちょっと怖い。

「あの、初めみたいに普段の口調でお話ししてくださいよ。僕は今日、暇をもてあまして騎士のお兄さんたちのところに遊びに来ただけの、ただの低学園生ですから」
「いえいえいえ、そんなそんなまさか!」
「そこをなんとか」
「いくらウィル様の頼みだとしても聞けないッス」

 かたくなに拒否されてしまった。むう。
 ジト目を向けながら、溜息をつく。
 仕方ないか。いくら俺自身が自分を庶民だと思っても、世間で言えば一応貴族の令息だ。気を遣うなと言われても無理なものは無理なのだろう。
 俺は未だに固まっているイワンさんと、ニコニコと笑みを浮かべているスコットさんを見て考える。
 自然な雑談……つまり自然な切り出し方……少年といえばフレンドリー……初対面でフレンドリーに話すと言えば、大阪……!

「もうかりまっか?」

 ぼちぼちでんなぁ。そんな返しを期待して思わず口をついて出たセリフであったが――

「は……はあ?」

 返ってきたのは、心からの困惑でありました……。
 スコットさんはまだ困惑の極みを口から裏返った音として発してくれたからよかったけど、イワンさんに至っては不思議そうな、それでいて少々申し訳なさそうな表情で俺をじーっと見ている。純粋に知識が足りないせいで意味が分からないだけだと、自分の不勉強を反省しているような雰囲気。俺の方こそ、超申し訳ない。

「す、すいません。何でもないです。その、最近お仕事どうですか? なんだか大変だったとか友達に聞いたんですけど」

 ウソです。大変だったなんて情報は得てないです。第一、ベリル領に同世代の友人なんていません。
 でもたぶん、自然な会話の切り出しってこんな感じだと思う。それでいて、聞き取り調査的なこともできているし。いいんだよね?
 ついつい、後ろに待機してる二つの気配の方を振り返って確認したくなるけど、たぶん父さんの気配が必死で頷いているから正解だと思う。

「ああ、やっぱ街でも噂になってるんスかぁ……」

 俺の鎌掛けのような質問に、スコットさんは何の疑問も持たずにしみじみとしている。

「やはりまだまだ、我々は鍛錬不足だったと証明されてしまいましたよね」

 イワンさんも同様の反応。
 って、適当に聞いてみたけど、本当に何かあったんですね。
 その大変だったこととは何なのだろう。
 知っているていで話しかけた以上、こちらからはかつに尋ねられない。向こうから話してもらえんかといくばくかの期待をしながら二人を見ると、イワンさんが続けて口を開いた。

「……来年も花火大会するらしいので、何か対策を考えなきゃいけないと思います」

 分かりやすい回答をありがとう!
 しかし、花火大会か。俺が企画に携わっていた祭りだけに、何か問題があったとなると困るぞ。迷惑をかけてしまったのではないかと、ちょっと罪悪感が、が、が。

「花火大会、すごい人でしたもんね……」

 あいづちを打って、チラチラと様子をうかがう。なんか具体的なでも話してくれないかなぁ……。

「いや、マジ死ぬかと思ったッスヨ……」

 と、俺の期待に応えたかのように、スコットさんが壮大なるを披露してくださったのだった。



 3


 スコットさんが、この間の『花火大会』での仕事は、それはもう大変だったと言っていた。
 詳しく聞いてみると、警備・巡回を行おうにも人が多すぎて、白騎士同士の情報共有がままならなかったとか。
 何やらイワンさんが遠い目をしているのが気になるが、スコットさんの語る祭りでの民衆の恐ろしさに実感がこもりすぎていて、その光景がありありと思い浮かんでしまう。
 日本代表のサッカー試合後のどっかの交差点とか。
 各地の花火大会の帰りの電車とか。
 興奮状態にある超満員の民衆に囲まれるって、めっちゃ恐ろしいと思う。この世界の人口密度はそんなに高くないし、経験したこともないからなおさら恐怖を感じたことだろう。

「屋台の飯はおいしかったし、花火は綺麗だったけど、マジ大変だったッス! 人間怖いッス! あんなに人を集めるなんて頭おかしいッス!」
「おいこらスコット!」

 熱弁をふるうスコットの頭を、イワンさんがスパーンッと叩いた。
 俺は思わず苦笑する。たぶん、イワンさんは俺が企画者だから気を遣っているんだろう。
 まあ、でも確かに大変だよな。
 人がゴミゴミしすぎて騎士同士の情報共有ができないせいで誘導もままならないし、迷子の情報も分からないから詰め所には子供が溢れる。
 大規模な『祭り』の文化のないところで、いきなり『花火大会』を開催したらどうなるか。その見込みが甘かった。
 そりゃあ拡声器もトランシーバーもないのに、群集整理に慣れた日本警察と同じ働きをしろと言われてもね。
 一人納得しながら頷いていると、イワンさんが今度はスコットさんをチョークスリーパーし始めたので、慌てて止めようとしたところで――

「確かにその手の報告は私のところにも上がってきているな」
「「キアン様!?」」

 背後からいきなり現れた父さんに二人が飛び上がった。
 俺は気配が近づいてきて、後ろに父さんが隠れていることに気がついていたから驚かなかったが、やはりお二人は父さんの気配を察知できていなかったらしい。

「ベリル領の人口は常に増加しています。花火大会に限らず、将来的には確実に問題になる事項ですので、早急に今からでも対策を始めておくべきでしょうね」

 父さんの後ろからロイスさんまでも顔を出して、イワンさんとスコットさんは完全に飛び上がった。つまり、比喩的な表現ではなく文字通り物理的に飛び上がった。
 おお、すげ。人間って驚くと本当にこんな反応になるんだな。
 しかし、ロイスさんの言うことももっともだ。前世の日本の状況を知っているだけに、より鮮明にイメージが浮かんでくる。
 資料を見る限り、ベリル領の人口は増え続けているし、経済や産業の観点から予測しても増加傾向はずっと続くだろう。
 もちろん、俺の代になっても、ここベリル領をずっと発展させていくつもりだ。
 人口密度が上がっていくと、祭りの日に限らず、この街の通りにだって人が溢れるようになるに違いない。
 前世のラッシュアワーの苦しさがフラッシュバックした。いやね、初めて東京に行ったとき、電車の中で足が浮いて恐ろしいって思いましたからね。手品やマジックなんて目じゃなかったよ。
 すぐにあんな状況になるわけではないにしても、文化が発展していったら最終的には行きつきそうだよなぁ……。
 突然現れた白騎士団ベリル領部隊ツートップの姿に、イワンさんとスコットさんは口をぱくぱくさせて驚きから立ち直れないでいる。
 けれど、イワンさんたちの驚きの声を聞きつけてやってきた二人の先輩らしき騎士は、平然としていた。

「こんなことでいちいち驚いてたら、ここでやってけねえぞ。キアン様の抜き打ち視察とか恒例行事だから」

 恒例行事なのか……。
 振り返って父さんを見てしまう。この人、国の行く末を左右する重職を兼務してるくせに、やることは無茶苦茶だよな。

「まあ、そんな未来の話以前に、これから毎年『花火大会』は行うわけだしな」

 父さんの言葉に俺は頷く。

「いずれにせよ、対策は今から考えておかないといけませんね。対策……対策かぁ」

 とは言っても、今どういう風に活動しているのかが詳しく分かんないから、どうしようもないよなぁ……。
 そう思いながらふと振り返ると、父さんと目が合った。で、にっこりと微笑まれた。

「現場を知らんと事務仕事もできんぞ。そのための視察だ」

 俺が考えていることなんて、父さんにはバレバレだったらしい。

「じゃあ、父さん。僕、普段のけいの様子を見てみたいんだけど、いいですか?」

 父さんが嬉しそうに頷く。
 そんなわけで、俺はちょうどこれからけいに向かうというイワンさんとスコットさんの二人組についていくこととなった。


  ◆  ◆


 イワンさんたちの後を追って、街に繰り出す。
 新人は巡回も二人一組で行うらしい。捜査やめ事などの収拾に当たるときには、常に二人組が原則らしいが。所謂いわゆる相棒ってやつだよな。
 ……ん? って、新人?

「視察って、ウィル様も一緒にけいについてくるって感じッスか?」

 スコットさんが振り返って尋ねてきた。
 思わず、じーっと彼の顔を観察してしまう。
 新人二人ってことは、イワンさんだけじゃなくて、スコットさんも新人ってことだよね?
 もしかして転職で入隊したんだろうか。騎士に転職ってできるんだな。
 おっと、今はスコットさんに質問されたところであった。
 えっと、視察の方法ね……。俺がいると、普段通りというわけにはいきませんよね。
 子供連れじゃあ神経を遣うだろうし、一応俺も領主の息子。護衛しなきゃとか思ったら、気が気じゃないだろう。

「あ、僕は気配を消してついていきますんで、お気になさらず」
「えっ?」

 困惑の声を上げるスコットさんには悪いが、八歳の子供がいくら気配を消せると説明したところで真実味はないだろうから、百聞は一見にしかずってことで。

《気配消滅》

 自分から発せられる音と魔力、姿を外界からシャットアウトするイメージで魔法を発動。
 俺はどろんと姿と気配を消して、建物の屋根の上に飛び乗った。もちろん、音を消して着地だ。
 俺の姿を無事見失ってくれたようで、スコットさんとイワンさんは周囲をきょろきょろと見回している。
 イワンさんは俺と旅をしたことがあるから、すぐに気配を消してどこかに隠れたのだと見当がついたようだが、スコットさんは目を見開いてうろたえたまま。

「うぃ、うぃるさまが消えた!? お、おい、どうするイワン!! ははは早く戻ってキアン様にお伝えしないと!」

 走り出そうとしたスコットさんを見て俺は一瞬慌てたが、すぐにイワンさんが彼の腕を捕まえてくれた。
 よかった。

「落ち着け! ウィル様は気配を消して隠れているだけだ。でしょう? ウィル様!」

 イワンさんがあらぬ方向を見て、確認してきた。
 えーっと、今の状態だと俺から発する声が聞こえなくなってしまっているから……。

《声だけ他の人にも聞こえるように》

 無詠唱でもう一つ魔法を発動させてから口を開く。

「ええ、隠れているだけですよ。僕がいてはけいなどしづらいでしょうから、こっそり見守ることにします」
「う、上から声が!? とと飛んでる!?」
「バッカ、屋根があるだろうが!」

 説明したことでまた驚かれるとは……。
 今は屋根の上にいるけど、実際に飛べるって言ったらスコットさんの心臓が爆発するんじゃなかろうか。
 旅の途中、馬車の中で浮かんでいたことを知っているイワンさんは俺と同じようなことを思ったのか、微妙な表情をしていた。

「ほら、スコット。行くぞ」
「お……おう」

 スコットさんの背中を小突いて、イワンさんは歩き出す。我に返ったスコットさんは、一瞬遅れて慌ててその後を追いかけた。
 二人は横に並んで歩き始める。詰め所の前の大通りから見ていくらしい。
 何気なく歩いているように思えるが、きちんとその視線はいろんなところに向けられ、二人とも怪しい者がいないか目を光らせている。
 きっとこれを続けていると、前世の二十四時間密着取材する警察モノの番組に出てくる警官みたいに、見ただけで犯罪者かどうか分かっちゃうレベルになるんだろうな。
 まあ、仮に犯罪者を見分けられなくても、騎士が街中を歩いているというだけで治安の向上に役立つはず。

「おう、スコット坊。元気でやってるか! 今日はトトンが安いぜえ」

 歩いていると、スコットさんは街の人に次々と声をかけられる。彼は、ここベリルの街出身みたいだ。今も八百屋のおっちゃんに野菜を薦められている。
 トトンと呼ばれた野菜は、トマトに似た色合いと張りで、形は大根のようだった。
 どんな味なんだ、あれ。初めて見たかも。脳内要チェックリストに書き足しておこう。
 しかし、スコット『坊』……?
 八百屋のおっちゃんとスコットさんはあんまり年齢が変わらない気がするんだが、下町の感覚だと少しでも年下なら、小さい頃に面倒を見ていた名残で『坊』呼びを続けていたりするんだろうか。
 わずかに疑問を覚えつつも、観察を続ける。
 スコットさんは八百屋のおっちゃんに別れを告げ、さらに歩を進めた。
 すると、前方にある広場で人だかりができているのが見えてきた。大人たちが慌てたような顔をして、何かを取り囲んでいる。

「今日って何かあったっけ?」
「いや、屋台とか出し物の予定は入っていなかったはずだ」

 スコットさんとイワンさんが顔を見合わせて首を傾げた。
 やっぱり別に催し物があったわけじゃないんだな。一瞬、祭りか何かかと思ったけど、それにしては街の人たちの表情が楽しそうじゃないし、どうも変だ。
 二人も同じように考えたのか、少し早足になって人だかりに近づいていった。

「どうかしたんスか!」
「ああ、スコット坊。それが……」

 駆け寄ったスコットさんが何事かと声をかけると、振り返ったお姉さんが心配そうな顔をしたまま話しだす。
 む、ここでもスコット『坊』か。もしかして、坊やの坊じゃなくて、もうニックネームになっているとか? 
 って、今はそうじゃなくて、この人だかりの真相だ。

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