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21.おじいちゃまが大好きです

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 念入りに念入りに、化粧を施す。
 ムラなく無駄なくファンデを塗り、そばかすの場所も正確に。もじゃもじゃ髪もほんの少しのオイルをつけて、質感を整える。
 と、静かに扉が開くのが鏡越しに見えて、クロエはぱっと振り返った。

「クロエ!」

 ノックもせずに入ってくるのは、ポール=ゴドルフィン。
 弾かれるように椅子から飛び出して、大きく腕を広げて待っている大好きな祖父の胸に飛び込んだ。
「おじいちゃま! お帰りなさい!」
「おや、クロエ。しばらく見ない間にまた綺麗になって」
 にこにこしながら、頬を両手で挟んでぐりぐりと撫で回す。乱暴なようで温かい大きな手は、少しかさついている。
 
 今回の買い付け旅行は、少し期間が長かった。2か月ほどかかっただろうか。船で海外を周ると聞いていたから、正直帰ってくるまでは安心できなかった。
 無事に帰ってきてくれた祖父に抱きしめられて、クロエはじわりと涙を浮かべた。

「遅かったです、おじいちゃま。もっと早く帰ってきてくださると思っていたのに」
「おじいちゃまももう年だから、そんなに無理はできないんだよ」

 船乗りよりも猟師よりも屈強な体を持つ祖父。年だとは言っても、もしかしたらユーゴよりも体力はあるだろう。
 でも。
「冗談はやめてよ」
「怒った顔も素敵だぞ、クロエ。わしの若葉」

 緑色に輝くクロエの瞳は、特にゴドルフィンのお気に入りだった。
「濡れた若葉も綺麗だが」
 クロエの目じりを指で拭うと、手を取って小さな包みを握らせた。
「これで機嫌を直してくれると嬉しいのだが」
「? ……ブローチ!」

 異国の小鳥を模した、緑の輝石のブローチ。ゴドルフィンが太い指で器用にそれをクロエの胸元へ飾った。
 
「ありがとう、おじいちゃま!」
「とてもよく似合うぞ! ……で、おしゃれをしてどこかに行くのかい、クロエ」
「あ、忘れてた」

 慌てて鏡に向き直り、そばかす描きに戻る。
 その様子を珍しそうに見つめる祖父を鏡越しに見つめて、クロエは答えた。

「お客様が来るのよ、おじいちゃま」
「そうか! お友達かい?」
「んー……」
「クロエに求婚してきた、ノヴァック辺境伯のご子息ですよ」

 ユーゴが書類ケースを持って入ってきた。早速ゴドルフィンに報告することが盛りだくさんのようだ。祖父の不在時に家業を回しているため、決済をもらいたいものもたくさんあるらしい。

「クロエに求婚!? もうそんな年になったのか、クロエは」
「16歳なのよ」
「まだ早いじゃないか、おじいちゃまのところにずっといたらいいじゃないか」
「わたしもそう思うのだけど」
「僕は早くお嫁に行ってしまってほしい気がしてきたけれど。クロエが家にいたんじゃ、気が休まらない」
「それってどういう、」

「ねえさま!」

 フィンの声が廊下を近づいてくる。
「ラインハートさん来たよー!」
 訪問を伝えに来たフィンは、祖父の土産の図鑑を抱えてクロエを見つめた。
 弟を見つめ返し、一つ頷く。

 さて、どう話をつけるか。

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