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25.そうだ、街に出よう

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 翌日。
 もやもやしていた気持ちを吹き飛ばすようなすっきりと晴れた空に、クロエは大きく伸びをした。
 髪に櫛を通していると、そばでフィンがにこにこしながら鼻歌を歌っている。

「ご機嫌ね、フィン」
「ねえさまが元気で綺麗なら、ぼくはいつだってご機嫌なんだよ」
「もう14歳なんだから、そろそろ姉離れして好きな女の子でも探しに行ったら? ――じゃぁ、行ってきます」

 カバンを掴んで部屋を出ると、フィンが慌ててついてくる。
「え、どこに行くの?」
「街のほうに」
「ひとりで? 危ないよ、ぼくも一緒に行くよ」
「大丈夫よ」
 振り返ると、さらさらした髪がふわりと舞う。
「遅くならないように帰ってくるわ!」

 何かぶつぶつ言っている弟を残して、意気揚々と屋敷を出た。

 会えないかもしれない、けど会えるかもしれない。
 このまま家で待つよりも、きっと街のほうが会える気がする。
 ラインハートの去り際の顔を思い出すと、もう会いに来てくれないような気がしてならなかった。


 
 クロエが後悔と自責でぐちゃぐちゃになっている間、ラインハートからは一度手紙が来た。怖くて読めなかったので、悩んだ末に兄に読んでもらっていた。
「しばらくここには来られないって」
 あぁ、やっぱり。と。
 しばらく、っていってもずっとなんでしょ。
 こんな失礼なドブスには会いたくないわよね、普通。
 それから、とさらに何か言おうとするユーゴを制して、クロエはその手紙をカバンにしまっていた。

 傷つくような言葉がもし書いてあったら、元気になれない気がしたから。
 あとで自分でちゃんと読むよ、と兄には伝えたけれど、いまだにその勇気は出ないでいた。

 街をぶらぶら歩く。本屋の前で一瞬足を止めて、ラインハートからもらった本のこと、素敵な栞のことを思い出す。
 ちょっと可笑しかった。
 いつもだったら、本屋の前で物思いにふけるなんてことはない。
 さっと入ってじっくりほしい本を吟味して、店員さんにアナスタシア先生の本の新刊発売日を訊いて、と満喫するのに。

 頭の中が、自分で思っているよりもずっとラインハートのことでいっぱいだった。
 自分が自分でなくなるような、なんて陳腐な言葉でしか表現できないくらい。

 本屋を外からのぞいたけれど、彼の姿はなかった。
 うん、大丈夫。すぐに見つかるなんて思っていないから。


 街の散策は、気分転換にもちょうどいい。
 ぼんやりしていた数日間で身体は相当なまっていたようで、ずっと歩き通しでいたら怠くなってきた。
 花壇のレンガに腰を下ろして、行きかう人の流れを眺める。
 仲のよさそうな親子、男女、犬とおじいさん。

 ふと、その中に見たことのある人影が横切った。
 
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