恋愛感情が乏しい魔女は背徳王太子のお妃さま~森に迷い込んだ少年を気まぐれで助けたら、十年後に彼と結婚することになりました~

虎柄トラ

文字の大きさ
22 / 29

第22話 先生との再会

しおりを挟む
 内装は外壁同様に基本はレンガで構築されていた。ただ所々リノベーションされているのが垣間見えた。
 天井の蛍光灯もそうだけど、建物内にある蛇口は全て冷水と温水を切り替えられるようになっていたり、空調はもちろん冷蔵庫や電子レンジなど、大半の家電製品も完備されていた。浴室に備わっていた自動風呂沸かし機能やエレベーターがあるのには本当に驚いた。

 つい最近カサンドラ姉さんが開発した技術がもうここに取り入れられている。

 この建物は私の家よりも遥かに進んでいる。姉さんが協力しない限り、こんなことあり得ない。

 ということは……もしかしてカサンドラ姉さんはニールの協力者? たった一か月で姉さんからここまでの信頼を得られるはずがない。もっと昔から知り合いだった可能性が非常に高いんじゃないだろうか……。

 まさか外堀を埋めてくるなんて思ってもみなかったわ。だけど、そのおかげで先生をはじめ修道女の子たちが人として暮らせていけるのであれば……ぐぬぬ……ニールのやつ上手いことしたわね。

 外観から判断して八階建てぐらいだと思っていたが、実際は六階建てだった。他の建物に比べて天井を高くしているらしい。一階は広々したエントランスホールに応接室、待合室、会議室といった居室が用意されていた。二階は祭儀を執り行うのにピッタリな大広間が広がっていて、三階から最上階は居住区となっていた。部屋数は三十戸ほどあり、各個室には荷物は置かれていたが、その持ち主は見当たらなかった。

 最後に私はエレベーターで一階に降りると応接室に通された。先生は私に座るように促すと、私をひとり残して部屋を出て行った。

 大人しくイスに座って先生の帰りを待っていると、部屋の外からとある香りが漂ってきた。
 私はその正体にすぐに気づいた。芳醇な茶葉の香りと甘ったるい牛乳の香り、教会にいた頃に何度も飲んできたミルクティーの香りだ。

 ドアが開くと同時に私は振り向いた。身体のことをガン無視して振り向いたことで、わき腹に多大なダメージを負ってしまった。

 私はわき腹を抑え痛みに耐えながらも、先生を目で追った……正確には先生が手にしているカップなんですけどね。

 先生は私の前に音も波の一つも立たせることもなくカップを手早く置いた。先生の所作はいつ見ても神業の一言に尽きる。

 先生は対面に座り「さあアリシャ温かいうちにどうぞお飲みなさい」と優しい声で勧めてくれた。

 私は教会から逃げ出したあの日以来、約九十年ぶりに先生のミルクティーを口にした。

 食事とは不思議のものだ……それを口にするだけで、つい昨日の出来事のように記憶がよみがえってくる。だけど、いまはその思い出に浸っているわけにはいかない。

 私はまだ飲みたい衝動に駆られながらもカップをテーブルに置くと、背筋を伸ばし先生に視線を向けた。

「先生……大変ご無沙汰しております。色々とお尋ねしたいことはあるのですが、どうして先生がこちらにいらっしゃるのでしょうか?」

「ふふふ、アリシャ。そんなに畏まらなくてもいいのですよ? そこまで他人行儀な態度をとられては私……悲しくなってしまいます。うるる……おろろ……」

 先生はそれはもうわざとらしい泣きまねを披露してくれた。

「あっ、そうですよね……そうよね。それで先生はどうしてこちらへ? 私はニール……人間の知り合いからここに行ってほしいと頼まれて来たんだけど?」

 私がそう質問すると、先生は「長い話になるから、飲みながら聞きなさい」と言って、湯気立つカップを目の前に置いてくれた。

 私がついさっきまで飲んでいたはずのミルクティーはどこに消えたのか……そしていつどのタイミングでミルクティーを淹れなおしたのか……考えても仕方ない、だって先生だもの。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...