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第5章 流来
第19話 帰還
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力を束ねた輝く矢はペルスヴァルを避けるように光の筋を残して後方へと抜けてゆく。
エステラは指示を重ねた。
「……三本収斂――天落とし」
(――準備完了。――星落とし)
エステラは天に向けて更に収斂を重ねた一本の矢を放つ。
矢は天高く打ち上げられた。
エステラが持つヴィジャヤには特別な機能がある。
音速で発射された矢は徐々に加速する。
つまり――距離があればあるほど加速度と共に威力が増す。
成層圏まで打ちあがった矢は重力すら味方に更に速度を上げた。
対象への攻撃調整はタラリアが行う。
大気との摩擦で――矢の光がいや増した。
秒速8kmに達した一撃は光の残像だけを空に描く。
それは流星の衝撃となりペルスヴァルの脳天を貫き――その勢いのまま地面を打ち抜いた。
一瞬で黒い霧となるペルスヴァル。
そして――地響きが振動を伴い広範囲に広がった。
「――あれっ? ……強すぎた」
エステラは困ったように眉を寄せた。
§
男はダンジョン出口からゲートキーパーが出てくるのを見届けた。
「おっと出て来たな。ほう。ほうぅ。ほうっ! ――ペルスヴァルか? へっへっへ。あいつは固いぞ。いけいけっ! 嬢ちゃんをぶっ殺せっ!」
エステラの攻撃がペルスヴァルの表面を滑る。
「――は~い。残念っ! 効きません! どうするっ! どうすんのっ! ヒャッハァー!」
男は嫌らしい笑みで喜び囃し立てた。
その時、彼の眼にエステラが天に向かって矢を放つのが映る。
「――なぁにトチ狂ってやがる?」
暫しの空白の後、天を流れる光の残像と伴にペルスヴァルが霧散する。
「おい。おい。おいっ! どうなってやがる。……あんなのと戦わなきゃいけない戦闘班は大変だ。くわばら、くわばら。ヤサに戻らずこのまま移動だな」
隠蔽に長けた男はひっそりと移動を開始した。
――次の任務開始に向けて。
§
――――西門
そこへ到着していたギルド長のユストゥスは目を細め戦局を見つめる。
尤も、何もここからは伺い知れないのだが。
スタンピード中とは思えない静かな小康状態だ。
――すると。
眼前の天空を昼間なのに流星が線を描き瞬く間に消えた。
続いて地響きが辺りに広がり、遅れて振動が足を震わせる。
騒然とする冒険者達。
状況が分からない混乱の中で、しばらくするとエステラがのんびり歩いて近づいて来た。
ユストゥスは声を張り上げてエステラに尋ねる。
「エステラ君。――スタンピードは片付いたのかい?」
エステラは口を開くが声が小さくユストゥスには届かない。
「すまない。――声が聞こえない。どうなったのだい?」
それを聞いたエステラは無手だった両手で腰に佩いた長ナイフを逆手で抜くと頭上に掲げ、それをゆっくりと鞘に納めた。
――戦いは終わったと示すように。
そして少し微笑みもう大丈夫だと片手をひらひらと可愛らしく震わせた。
――西門上で歓喜の雄叫びが上がる。
単騎でスタンピードを殲滅したB級冒険者。
閃蒼のエステラの名は衝撃となりこの街に拡散された。
今まさに生まれ出でた英雄の名として。
エステラは指示を重ねた。
「……三本収斂――天落とし」
(――準備完了。――星落とし)
エステラは天に向けて更に収斂を重ねた一本の矢を放つ。
矢は天高く打ち上げられた。
エステラが持つヴィジャヤには特別な機能がある。
音速で発射された矢は徐々に加速する。
つまり――距離があればあるほど加速度と共に威力が増す。
成層圏まで打ちあがった矢は重力すら味方に更に速度を上げた。
対象への攻撃調整はタラリアが行う。
大気との摩擦で――矢の光がいや増した。
秒速8kmに達した一撃は光の残像だけを空に描く。
それは流星の衝撃となりペルスヴァルの脳天を貫き――その勢いのまま地面を打ち抜いた。
一瞬で黒い霧となるペルスヴァル。
そして――地響きが振動を伴い広範囲に広がった。
「――あれっ? ……強すぎた」
エステラは困ったように眉を寄せた。
§
男はダンジョン出口からゲートキーパーが出てくるのを見届けた。
「おっと出て来たな。ほう。ほうぅ。ほうっ! ――ペルスヴァルか? へっへっへ。あいつは固いぞ。いけいけっ! 嬢ちゃんをぶっ殺せっ!」
エステラの攻撃がペルスヴァルの表面を滑る。
「――は~い。残念っ! 効きません! どうするっ! どうすんのっ! ヒャッハァー!」
男は嫌らしい笑みで喜び囃し立てた。
その時、彼の眼にエステラが天に向かって矢を放つのが映る。
「――なぁにトチ狂ってやがる?」
暫しの空白の後、天を流れる光の残像と伴にペルスヴァルが霧散する。
「おい。おい。おいっ! どうなってやがる。……あんなのと戦わなきゃいけない戦闘班は大変だ。くわばら、くわばら。ヤサに戻らずこのまま移動だな」
隠蔽に長けた男はひっそりと移動を開始した。
――次の任務開始に向けて。
§
――――西門
そこへ到着していたギルド長のユストゥスは目を細め戦局を見つめる。
尤も、何もここからは伺い知れないのだが。
スタンピード中とは思えない静かな小康状態だ。
――すると。
眼前の天空を昼間なのに流星が線を描き瞬く間に消えた。
続いて地響きが辺りに広がり、遅れて振動が足を震わせる。
騒然とする冒険者達。
状況が分からない混乱の中で、しばらくするとエステラがのんびり歩いて近づいて来た。
ユストゥスは声を張り上げてエステラに尋ねる。
「エステラ君。――スタンピードは片付いたのかい?」
エステラは口を開くが声が小さくユストゥスには届かない。
「すまない。――声が聞こえない。どうなったのだい?」
それを聞いたエステラは無手だった両手で腰に佩いた長ナイフを逆手で抜くと頭上に掲げ、それをゆっくりと鞘に納めた。
――戦いは終わったと示すように。
そして少し微笑みもう大丈夫だと片手をひらひらと可愛らしく震わせた。
――西門上で歓喜の雄叫びが上がる。
単騎でスタンピードを殲滅したB級冒険者。
閃蒼のエステラの名は衝撃となりこの街に拡散された。
今まさに生まれ出でた英雄の名として。
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