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第7章  獄窟

第34話  急告

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 ケィンリッドはノアから受けた、いつになく真剣な言葉を守り化成肥料だけの栽培を行わなかった。

『ケンちゃん。いいかい。化成肥料は生育を促進させるけど土壌環境を壊す。だから、有機質を一作ごとに入れないといけないんだ。化成を使い続けた畑は、砂漠より微生物が少なくなるんだぜ』という言葉は忘れないでくれとの願いを込めてノアには珍しく真摯に伝えられた。

 そして、黒と白のペッパー。ベーキングパウダー。これらは今では高値で取引される戦略商品となり、外交交渉のカードになるほどの破壊力だ。

 ノアの懸案が予言のように問題を解決させて行く。

 その立役者とされるケィンリッドは、今では慣れない夜会に招待されて大汗をかく日々だ。

 招待を避ける口実に、栽培指導を名目として、近隣都市を歴訪しているが、そこでも歓待されて閉口しているらしい。

 くつろぐように紅茶で喉を潤したレオカディオの元へ着信音とともに、その報せは届けられた。


 ――緊急連絡相手はガンソ。黒い筐体から少しくぐもった声が発せられる。

『ダンデス殿。――応答願う』

「はい。ここに居ります。何事かうけたまわる」

『――例の動きがあった。……だが。これは……』

「――どうされた?」

『一〇を超えるダンジョンでまがが使用された。……そして報告が今も放射状に上がっている。いや、待て、……外縁からも新たな報告が、これは……。このままだと、王国全土を……覆うのか?』

 ガンソの下へ王都を中心に放射状に広がりを見せていた一門からの報告は、不意に外縁部からの多発的な発生の報せとあいまって王国を浸食してゆく。 

「――全土を?」

『――まさか。いやしかし。……あり得ない』

「……何か分かりましたか?」

『――王国で今起きているのは、全てのダンジョンへの氾濫促進……の可能性だ。現時点で確定度の高い、と言わざるを得ない』

「……」

 レオカディオは沈黙する。王国は未曽有の危機を目前に束の間の平穏を過ごす。
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