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第7章  獄窟

第36話  寝顔

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「レオ? あなたのお母さまも王族よね? それでは王子と呼びましょうか?」

「母上は継承権が無かったからね。それは無理があるよ」

 レオ。――レオカディオは、肩をすくめるように余裕で答えた。一瞬の睨み合いの間を縫って、指導者の彼が言葉を差し挟む。

「リパオラディーテ様。――姫には、王族の女性以外にも意味があります。それは――」

 リパオラディーテの瞳が彼を静かに映す。

「――可愛らしい女性を表す言葉です。リパオラディーテ様にぴったりの表現ですね」

 息をのみリパオラディーテの頬が桃色に染まった。そして、嬉しそうにそれに答えた。

「はい。嬉しく存じます。そのように思っていただけるなんて」

 彼はそっと息を吐く。愛称呼びなど大公の耳に入ればどのような危機がその身に降りかかるか分からない。かと言って、案外頑固なリパオラディーテを納得させないと指導が始められない。

 幸い大公家の家臣からは、既に姫と呼ばれていて通りが良い。あとは納得させる理由があれば良かった。彼にとって呼び方など、どうでも良いのだ。

 チラリとレオカディオと眼が合った。その眼が上手くやりましたねと語っている。

(分かっているならおあんなよ!)

 彼は苦笑いを心ですり潰した。切り替えて魔法の指導に入る。

「魔法は想像をコントロールする力です。結果は想像を超えません。呪文や仕草で発動を促す手法もありますが、それはルーティンによる簡素化だと私は考えます。――それは、少し異端な考えですが、その効果は実証済みです。ですので、引き続き創造とコントロールを訓練致しましょう」

 そう言うと彼は複数の魔法を展開する。水で出来たイルカが空中を飛び回り火の輪を潜る。極彩の小さな花火が天を飾る。

 土で柱が造られそれを風が切り裂く。今までの王国の魔法の常識を覆す異端の魔術。それ故に彼は最年少で宮廷魔法使いに就任出来た。

 二人とも眼を輝かせてその様子に釘付けだ。

 呪文や仕草で魔法を発動する既存の手法から、無詠唱かつ同時に複数の属性を展開する技術体系を確立した人物。

 彼は透徹の魔術師と呼ばれている。その才能を乞われ王都へ招かれ、リパオラディーテとレオカディオの指導者となった。

「先生。わたくしにもそのような魔法が出来るようになりますか?」

 リパオラディーテはそう願うように問う。

「属性の多さは賑やかしです。……姫は火属性に適性が高くございます。この訓練を続ければいずれ焔術えんじゅつ魔法まで到達する稀代の魔法使いとなられるでしょう」

 そう言って彼は春の陽気を思わせる笑みを浮かべた。


§


 クランマスターの寝顔を見つめパオラは子供の頃を少し思い出していた。 
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