リア=リローランと黒の鷹

橙乃紅瑚

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第一章

12.〈赤い髪の姫君〉

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 エルフ。尖り耳の種族。

 総じて背が高く、美しい外見を持つ者が多い。得てして肉体的な強さを持ち、生まれながらにして膨大な魔力を操る才にも恵まれる。強健かつ長命。エルフこそ、神に愛された種族なのだと。そう驕った俺の先祖たちは、かつて世界の覇権を巡って人間を始めとした他種族に争いを仕掛け、その結果惨敗した。

 天候を変え、地形を変え、海の波さえ自由に操るエルフが負けたのは、その数の少なさからだと云われている。
 番い、子を殖やす早さは、人間を始めとした他種族に対しエルフという種は遥かに劣っていた。

 エルフは美と強さ、長命に恵まれた代わりに、生殖能力が著しく低かった。

 個々が強健で長命であるが故に、子孫を残して種を繁栄させようという本能が薄い。日常に於いて、強い性欲を覚えることは殆ど無く、異性に好意を抱くことは一生に一度あるかないか。そしてエルフ同士が交配したとしても、男の精は薄く、女は孕みにくい。

 お互いに恋愛感情を抱いて番い、奇跡的に子を持つことのできた夫婦もいるが、それはエルフという種族全体から見て、ごく少ない数だった。

 しかし、エルフの持つ強い力は魅力的なものだった。多くのエルフを擁する国は、周辺国に向けて国力を誇示することができた。そのような理由から、純血のエルフは政府の中枢に重用され、生まれも育ちも、政府に管理されることとなった。

 齢百五十を超えたエルフから精子と卵子を採取し、硝子瓶の中で混ぜ合わせ強制的にエルフの子を作る。そうして生まれてきたエルフの子供に対し、画一的な教育を施して、教育課程が終われば国の仕事に従事させる。

 ゼルドリック=ブラッドスター。

 俺も、そうやって生まれ育ってきた。

 幼い頃の俺は、ダークエルフとして生を受けたことに強い矜持を抱いていた。魔力は神に与えられた力で、望めば何だって叶えることができそうな気がした。

 俺は不思議に思った。エルフは最上位に位置する種族のはずで、先祖がなぜ争いに負けたのか理解することができなかった。数の少なさが人間に遅れを取った原因だとは思えなかった。知識欲が強かった俺は、争いに負けた本当の理由を知りたかった。

 師に聞けば、本を読みなさいと言う答えを貰った。俺は人間の考えを理解するために、よく人間が書いた本を読んだ。読書は、俺に様々な知識を与えてくれた。

 家族。恋と肉欲。子に対する親からの無償の愛。愛する者の喪失の悲しみ。契り。結婚。離別。
 小説も、歴史も、人の感情抜きでは語れない。特に「愛」については、どの本を読んでも頻繁に語られていた。

 愛の為に人は喜び悲しむ。
 愛の為に人は命を賭ける。
 愛の為に人は生きる。
 愛の為に人は死ぬ。

 俺は結論付けた。先祖は、人間が持つ愛の力に敗北したのだと。何を賭しても愛する者を守るという人間の強い意志に、俺の先祖たちはきっと打ち砕かれたのだ。

 エルフである俺は、家族や恋愛、肉欲といった概念があるとは理解できても、真の意味でそれがどのようなものか噛み砕くことはできなかった。

 本に登場する人間たちは、自分が理解しえない衝動を持ち、そのために命を賭ける。脆弱で短命な種は、魔力をも凌駕する愛という力を持っていたのだ。

 そしてそれは、自分には得られない力なのかもしれない。長く長く生きたとしても、恋愛感情も性欲も殆ど持たぬエルフとして生まれたからには、愛を手に入れられぬまま死ぬのかもしれない。

 愛に対して強く興味が湧いた。理解したいと思った。
 自分に理解できない力がある事が許せなかった。愛に親しむ種族が羨ましかった。

 いつか自分も、命を賭して愛を得たい。
 それが、若き俺が持った唯一の願望だった。


 ――――――――――


 幼き頃に抱いた全能感は消え、俺はエルフとして生きていくことに早くも飽いた。

 生まれも育ちも政府に管理され、将来は国の仕事に携わることになる。遺伝上の父母を知らされることはあれど、それ以上の関係はなく、家族の温かみは知らない。国力低下を招く故、エルフは外国に住むことは許されていないし、齢百五十を超えて独り身の場合、毎月精子を提供しなければならない。

 随分と制約の課された種族だと思った。
 短命でも生きたいように生きられる他の種族が羨ましい。自分の願望を叶えることは難しいと知っていたから、俺は日々を投げやりに生きていた。

 青年期を迎えた頃、中央政府の役人として働くようになった。仕事は特に楽しくもなかったが、飽きを振り払うように取り組んだ。

 仕事ぶりを評価され、大量の給金を貰い、王都の一等地に立派な屋敷を建てても、特に満たされることはなかった。音楽や芸術に親しんでも、心の底から感情を揺さぶられたことはない。ただ何もかもが、自分の表層を滑っていくだけ。

 世界が色を無くしかけていた。このまま無感動に生きていれば、何もかもが色褪せて見えるだろう。

 自分を突き動かす強い力が欲しい。何を賭してもこれだけは得たい、そんな風に思えるものが欲しい。


 ――――――――――


 ある日、興味深い本に出会った。

 中年の冴えない醜男は、孤独から逃れるように絵を描いた。自分の理想とする女を描き、その女を現実にいるものとして、毎日話しかけ可愛がった。そうしている内に、本当に絵の中の女を愛してしまう。

 男は毎日、神に女と添い遂げられる様に祈った。神は男の願いを聞き入れ、絵の中の女は紙から抜け出し、死ぬまで男と連れ添った。そんな小説だった。

 特別面白い小説でもなかったが、男がした「自分の理想とする女を描く」という行為に興味を持った。

 そういえば、自分自身の理想の女というものを、俺は考えたことがなかった。愛を得たいと思うのならば、自分の理想の女くらいは、はっきりさせておくべきではないだろうか?

 そう考えて、俺は男の真似事をしてみることにした。
 実際に絵を描いて可愛がる訳にはいかないから、理想の女は、心の内に住まわせることにした。


 理想の女を形作る作業は、存外難しかった。

 何せ、俺はまだ女に対して性欲を抱いたこともなく、性交をしたこともない。女の何が自分の心を惹きつけうるのか、自分自身でも分からなかった。

 だから、自分が生きてきた中で好ましいと思うものを、粘土を弄るように、どんどん理想の女にぶつけた。毎日毎日、理想の女を追求し続けた。それは生に飽いていた俺にとって、良い慰みになった。

(手始めに、赤が色の中では一番好ましいと思うから、髪と瞳が真っ赤な女にしてみよう)

(声は少し高い方が良いと思う。でも落ち着きもあった方が好ましい)

(自分と違う髪質の方が面白いのではないか。パルシファーの綿毛は柔らかくて好ましいと思う。それなら綿毛の様な、波打ってふわふわとした髪にしてみてはどうだろうか)

(女の身体は脂肪分が多いゆえに柔らかいと聞く。特別柔らかい女の方が触っていて飽きないかもしれない。胸部と臀部にもっと肉を付けてみよう)

(この前読んだ小説に登場する、貴族の女は鬱陶しかった。何もかも他人に委ねる生き方は、制約の多いエルフの生き方に重なるようで気が滅入る。自由に生き、自立した女が良い)

(俺の鼻は骨がしっかりとしていて固い。相手も同じ様だと、おそらく口付けの時に邪魔になるかもしれない。なら、鼻が低い方が都合が良いのではないか?)

(王都で見た手乗りネズミは少しだけ可愛らしいと感じられた。それなら目が大きければ、俺も可愛らしい女だと感じられるかもしれない。ついでに睫毛も伸ばしてみよう)

(出来すぎた造形は不自然だ。何か、自然な生を感じられるものが欲しい。そうだ、顔にそばかすを付けてみよう)

(俺は背が高い方だ。なら相手は背が低い方が、接していて面白いのかもしれない)

 こうして、俺は理想の女を創っていった。我ながら注文が多いものだと思った。

 理想の女を磨き上げる為に、何が好ましくて、何が好ましくないのか、世の色々なことに目を向けるようになった。そして好ましいと思うものがあれば、細緻に至るまで想像を巡らせて、すぐに理想の女にぶつけた。

 そうして、俺の理想の女は、やがてはっきりとした形を伴って心に住むようになった。

 赤毛の女。特別美人でも何でもないが、自分が苦心して作り上げたのだと思うと、満足感があった。

 俺は毎日、心の内に住むその女のことを考えた。


 ――――――――――


 俺はおかしくなってしまったらしい。

 ここまで真似をするつもりはなかったのだが、小説に登場する醜男が絵の中の女を愛してしまったように、俺もまた、心の内に住む女に恋心を抱いてしまったようだった。

 赤いふわふわとした髪を持ち、同じく赤い大きな目を持つ、背が低く豊満な体型の女。
 自立心が強く、落ち着きがあり、優しい。
 鼻は低くて、そばかすを気にしている。
 少しだけ恥ずかしがり屋で、すぐに顔を赤らめる。

 俺だけの女。
 俺だけの、赤い髪の姫君。

 妄想が過ぎると自分でも思う。だが、彼女のことを思うと、自分の胸が締め上げられる気がするのだ。

 彼女に会いたい。だが彼女は俺の生きる世界にはいないから、その望みは叶わない。悲しい。もどかしい。
 もし彼女と会えるのなら、共に笑い合いたい。手を繋いでみたい。添い遂げて、温かな家族を作ってみたい。想像してみると、心が踊った。

 ああ、これが恋なのだ。

 誰かを想い、喜んだり悲しんだりすること。
 自分が求めて止まなかった感情。やがて愛に変わりうる、尊い感情。

 そうか。これが……恋……。
 あの小説の男も、絵の中の女に対して、ずっとこんな気持ちを抱いていたのだろうか?


 ――――――――――


 それからは、生に飽くことはなくなったが、心の内に住む女と添い遂げたいという願望が日に日に強くなり、俺は苦しんだ。

 髪も目も赤い女など、世界中のものが集まる王都で暮らしていても中々見つけられるものではなかった。そして、髪が赤くても直毛であったり、背が高かったり、体付きが細かったりして、俺の理想の女とは全く重ならないものばかりだった。

 長き生の間に一度だけ、恋愛感情を抱くか抱かないかと言われているエルフ。俺はその一度だけの恋愛感情を、心の内の女にすっかり捧げてしまったのだ。我ながら愚かで恥ずべきことだと思うが、もうこうなっては彼女以外を愛せる気がしなかった。

 だから、俺はここでも小説の男を真似した。

 毎日毎日、本気で心の内に住む女と会える様に神に祈った。
 エルフの祖であると云われる女神に、どうか彼女を自分のもとに巡り合わせて下さいと、必死で祈った。

 湧き上がる願望に我慢が出来なくなった時は、俺の魔力を鍵としてしか向かうことのできない精神世界に、大きな城を作った。

 精神世界。
 自分の精神に描いたものを、魔力を用いて物体として反映させる高等魔術領域。
 誰からも踏み入れられることのない己の精神という世界に、誰からも害されることなく暮らすための安全な城を建てた。

 建築に長い時間をかけ俺の魔力で満たしたそれは、俺と彼女の愛の巣とするにはぴったりだった。
 俺はその城で赤い髪の姫君と住む想像をし、自らの心を慰め、熱心に彼女を想い続けた。

 寂しい行為、寂しい時間だった。だがそれくらいしか、この渇望から逃れる術はなかった。

 そうして時は経っていった。彼女に対する妄執に囚われて、凡そ百年余りが経った。

 赤い髪の姫君は、未だ俺の前に現れない。熱心に思い続けても顕現することはない。ただ心の内で、優しげな微笑みを俺に見せるだけ。

 声を聞きたい。手を握りたい。
 寂しい。
 会いたい。


 ――――――――――


 数年前に発覚した中央政府絡みの汚職のせいで、俺は毎日忙しく過ごしていた。全くやる気のない貴族出身の部下を伴って、あちらこちらに視察に行かなければならないというのは中々苦労した。

 特に、王都から遠く離れた「はずれの村」の視察を命じられた時は、流石に気が滅入った。調べれば、農地以外は何もないという田舎の小村なのだという。

 住民の大半が自給自足で暮らす、そのような田舎の村に視察に行かずとも何ら影響はないと思ったが、命令なので、仕方なくアンジェロを連れ添ってはずれの村に向かった。

 はずれの村に着いた時は夕暮れ時で、辺り一面が赤く染まりきっていた。

 村の住民は物珍しさから村の案内を申し出てきたが、さして関心のないことであったので、とりあえず、机仕事を兼ねているという自警団の事務所に案内する様に命じた。

 朽ちかけた木製の小屋。耳障りな音を立てる扉を開けた時、俺は信じられないものを見た。


 心の内に住む女が、目の前に立っていたのだ。


 最初は強い夕日に目が眩み、その結果見間違えたのだと思った。
 だが瞬きを何度しても、目を擦っても、見えるものは同じだった。

 愛おしくて愛おしくて堪らない女。
 百年余り恋焦がれ続け、毎日女神に巡り合える様祈り続けた女。
 精神世界に建造した魔力の城に、共に住むことを願い続けた赤い髪の姫君。

 彼女だ。
 彼女が、今、俺の目の前にいる。

 リア=リローランと赤髪の女は名乗り、俺に柔らかく微笑んだ。

 その声さえも、微笑みも、顔の造形も、体型も背の高さも。
 心の内に住む赤い髪の姫君、そのものだった。

 何という奇跡だろうか?

 女神は、俺の願いを聞き入れてくださったのだ!

 白く、小さな手と握手をすれば、彼女の温度がじんわりと伝わった。彼女は本当にここに存在している。実体を伴って、俺と同じ世界に生きている!

 動く度に揺れる真っ赤な髪に触れたい、その身体を抱きしめて、彼女の柔らかさを確かめたい、もっと声を聞きたい、彼女と話して、距離を縮めていきたい...…。

 彼女はどんなことを考えているのだろう? 
 彼女はどんなことが好きなのだろう?
 彼女は、リアは……。知りたいことが、泉のように湧き出てくる。

 世界が変わった気がした。世界に色が付いた。

 これは運命だ、これは奇跡だ。
 一生を報われぬ恋に苦しみながら過ごしていくのかと、静かに絶望していた俺へ女神が下さった奇跡なのだ。

 彼女と出会ったその日から、忽ち生きることが楽しくなった。これからは、リアの為に生きるのだと決めた。


 ――――――――――


 一週間に一度の、はずれの村への視察日。
 リアに会えるのだと思うと、面倒な視察も楽しく素晴らしいものに思えた。

 リアとどう距離を縮めたら良いのか、毎日悩んだ。

 愛しくて愛しくて堪らないのに、彼女は俺の気持ちに気が付いていない。視察に訪れるただのエルフの役人から、彼女の恋人になるまでに、どのような手順を踏んでいけばいいのかさっぱり分からなかった。

 ――エルフたるもの常に優秀であれ、決して侮られてはならぬ。

 そう教育された俺は、気恥ずかしさや恋愛経験の無さを隠し、彼女に会えた嬉しさを押し殺そうとしたせいで、ややひねくれた態度で彼女に接してしまった自覚があった。

 リアを前にすると、色々な感情が溢れてくる。

 リアに会えて嬉しいという感情。
 リアをもっと苛んでやりたいという感情。
 反対にたっぷりと甘やかしてやりたいという感情。
 俺の気持ちも知らずに能天気に笑うリアに対する恨みのような感情。
 リアにはもしかしたら既に男が居るのではないかという焦りの感情。
 要らぬ言葉をかけてでも彼女と話したいという子供のような感情。

 反省した。

 だが、どうしても染み付いた習慣や口癖は簡単に直らない。彼女を前にすると、何か話さないとと焦り、つい余計なことまで口走ってしまう。もっと甘く、素直な言葉を彼女にかけたいと思うのに、自分の口は相反することばかり言ってしまう。

 だから、話さずとも彼女に自分の想いに気がついて欲しくて。毎週会う度に、何かしらの品を彼女に手渡した。女に何を贈れば良いのか分からなかったから、アンジェロに教えを請うた。

 彼女は喜んでくれるだろうか?
 ひとつひとつの品に込めてきた俺の魔力、俺の想いに気がついて、いつか受け入れてくれたら嬉しい。

 彼女に振られるのが一番怖い。素気なくされてしまったら絶対にその場にくずおれてしまう。

 だから卑怯にも、魔法を使って彼女との距離を縮めることにした。自分でも危ういことをしているという自覚はあった。俺は、中央政府の役人という立場を利用しながら、任務外で魔術を施してリアに接触している。公私混同も良いところだ。

 だが、悪いことをしているという自覚はあるのに、罪悪感は一切無かった。百年以上恋焦がれ続けた姫君に、やっと出会えたのだ。彼女以上に優先されるべきものなんてない気がした。

 真っ赤な髪と真っ赤な目、充分に成熟した混ざり血の女。
 俺のただひとりの姫君。契るのなら、リア以外に考えられない。

 契って、愛を得て、いつか彼女と温かい家族を作りたい。

 自分が深みに嵌っていくのを感じる。

 リアのことしか考えられない。


 ――――――――――


 俺の魔力に犯され熱を出したリア。

 苦しそうに喘ぐその姿はかわいそうで、早く熱を取ってやらなければならないのに、ずっと見ていたいと思うほどに蠱惑的だった。

 自分の中の仄暗い感情。嗜虐欲や征服欲とでもいうべきものが、リアに対して物凄い勢いで募っていく。

 彼女の柔らかく微笑む顔が、とても好きだったはずなのに。
 強い快楽に啜り泣いて、我慢できないという風に俺に懇願する彼女の必死な顔が、ずっと頭から離れなかった。

 もっとあの顔を見たい。見て言葉で苛んでやりたい。想像する度に頭が熱くなり、自身が勃ち上がる。
 唇に口付けた時、肌を暴いた時。あの快楽に溺れ、力なく啜り泣く顔を見た時。

 顔を真っ赤にして感じ入るリアを見て、俺の常識や理性というものにひびが入ってしまった。
 ひびは大きくなり、中に抑え込んでいたものが勢いよく溢れ出す。決壊して、もう二度と元には戻らない。

 今まで、リアの甘さを知らずに、どうやって生きてきたのか思い出せなかった。彼女のためなら破滅さえ厭わない。
 彼女を得るためなら、どんなことだって出来そうな気がする。

 今の俺は、自分の中から溢れ出る衝動に生かされている。自分がすっかり生まれ変わった気がした。

 そして、良い考えを思いついた。

 彼女の中に、「魔力の器」を作ってしまおう。

 魔力を操れぬ種族は、魔力を体内に溜めておくための器を持たない。
 だが、常に他者からの魔力に晒され続けていることで、その器が形作られ、だんだんと身体に魔力を溜め込んでいくようになるのだ。

 つまり、俺と同じ魔力を纏うことになるから、俺の精神世界にやがてリアを連れて行くことができるはずだ。

 手渡す品に魔力を込め、彼女に緩やかに纏わせていくなど、わざわざそんな遠回しなことはしなくとも、俺がこの身体と魔力を使って彼女を犯してしまえば良い。そうすれば、彼女に俺の魔力を効率的に注ぎ込むことが出来る。

 魔力を注ぎ、リアが熱を出せば吸い出し、また注ぎ、また吸い出し、そうやって繰り返して彼女を篭絡する。あのいやらしい身体を堕としきり、自分を満たすのは俺しかいないのだと彼女に思わせる。

 そして、リア自身を魔力に慣れさせ、大きな「魔力の器」を作り、限界まで満たす。

 彼女が俺を心から求めてくれるのを待っていては、あの愛おしい女はもしかしたら、俺の手を離れてどこかに行ってしまうかもしれない。

 そんなことは、絶対にさせない。彼女が俺を受け入れざるを得ない状況に持っていってしまえば良いのだ。

 そうだ。彼女が寝たら、これからも幻惑魔法をかけ、彼女の「夢」の中に顔を出してやろう。
 毎夜毎夜犯し、昼夜問わず魔力を使って彼女の敏感な部分をねぶり、彼女の身体を作り変え、彼女が異変に気が付いたとしても手遅れの状況にする。

 魔力の操作に自信のある俺なら、魔力に縛られた彼女をどうにだってできるのだ。
 俺は、力も財力も立場もあるダークエルフだ。混ざり血の女をひとり囲っておくことなど造作もない……。

 リアの身体の奥底に溢れるようになったら、俺の魔力を鍵としてしか向かうことのできない精神世界に引きずり込み、彼女を想いながら建てたあの城で、誰からも邪魔をされることなく、二人でずっと暮らしていくのだ。

 永遠に。永遠に……。

 大事に閉じ込め、彼女が外に逃げられない状況で求愛して、それから彼女の愛を得るのでも良いはずだ。

 ああ……良い考えだ。
 あの城にリアと住むことを想像すると胸が躍る。

 自分を突き動かす強い力を得た。

 これは愛だ。これこそが愛なのだ。
 リアの全てを得るためなら、俺が持つ全てを捧げてもいい。

 何を賭しても、リア=リローランを自分のものにする。
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