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第三章
55.桜花
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病室の窓から、美しい星空と桜の雨を眺めていたリアの元に、一匹の猫がやってきた。
紫水晶の如き美しい瞳に真っ白でふわふわとした毛並み。愛くるしいラグドールが気配もなくリアの傍にいた。
「……ミーミス様」
リアが優しく彼女の背を撫でると、ミーミスは気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らした後変化を解いた。ゆったりと白いローブが、リアの毛布の上に波のように広がった。
「今日は服を着ていらっしゃるのですね」
「ああ。春といえども夜は冷えるからね。さすがに全裸はきついよ」
ミーミスは星空を見上げた後、美しいねと呟いた。
「リア、私は明日王都を発つ。君の出産までは王都にいたかったのだが、なにぶん任務漬けの身でね」
「ミーミス様……。お世話になりました。あなたは忙しい中、頻繁に治療を施してくださった。私がここまで快復出来たのは、ミーミス様のお陰です」
リアは頭を下げた。ミーミスはゆっくりと目を瞬いた後、赤い髪を撫でた。
「私は君に治療くらいしかしてやれなかった。だから、もうひとつやっておきたいことがある」
「……?」
ミーミスはリアの顔の前に指を置き、空に描いた魔法陣をなぞるように、白魚のような美しい指を動かした。リアの身体に、火のような温かさが灯っていく。そしてそれはリアの内にある勇気を鼓舞するような力強さもあり、リアは自分に力が漲っていくのをはっきりと感じた。
「エルフの古い呪いだ。病や悪い出来事から君たちを遠ざける。君と子に幸があるようにと、そう願った」
「……ありがとうございます」
胸に抱える意志が殊更強く固まっていく。早くゼルドリックと話をしたいと、心が逸る。そんなリアの気持ちを見抜いてか、ミーミスは眉を下げリアをそっと抱き締めた。
「リア。今日の昼間、リンデの子と話をしていたね」
「リンデ?」
「ああ。私の元同僚でね。多産と豊穣のリンデ。彼女は子が多くて、あの子は何と言ったか……? そうだ、確かアンジェロだ。十二番目の息子だ」
「え? なぜご存知なのですか?」
リアがミーミスの顔を見ると、彼女は猫目をすっと細めた。
「猫に化けて外で桜を見ていたんだ。上った屋根から君たちの姿が見えた。それにしても君はよく食べるんだね」
「は、はい……」
リアは居心地悪そうに身を捩った。大泣きしながら何皿もタルトを平らげる姿をミーミスに見られていたなんて信じたくなかった。
「君はゼルドリックに会いに行くのかい」
ミーミスはリアの目をじっと見つめた。表情がないその顔からは、彼女が何を考えているのか読み取ることが出来ない。リアもミーミスの猫目を見つめ肯定の返事をした。
「はい。会いに行きます。私のことを思い出してもらえるように傍で話しかけ続けます」
「リア。アンジェロは君の後押しをしたようだが、私が施した遮蔽魔術はほぼ解けないと考えていい。君のことを中途半端に思い出せば、また恋情に狂って君や周囲を傷付けるかもしれないと思ったからね。彼に近づくのは止めなさい。もう一度言う。彼はもう、君を思い出すことはない」
「……」
「君にも見せただろう、契りの薔薇を。ゼルドリックは薔薇を受け取ってもらえなかったという苦しみから死にかけた。君を思い出すということは、あの耐え難い苦しみもまた思い出してしまうということだ」
「……それでも」
「リア」
「それでも諦めたくないのです」
リアは首を横に振った。
「ゼルが私のことを思い出せなくても、もう一度私のことを好きになってもらいます。もし私を思い出した時は、彼の創った契りの薔薇を受け取ります。ゼルの魂を傷付けてしまった償いに、私の命が続くまでずっと……ずっと傍にいます。彼の傍にいたいのです……」
ミーミスはリアの答えに僅かに目を見開いた。
「リア。薔薇の花が一度咲いてしまったら、如何なる理由でも決して契りは棄てられない。君の魂はずっとゼルドリックに縛り付けられるのだよ」
「……はい」
「君は私に、ゼルドリックを愛していると言ったね。だがリア、ゼルドリックは契りの薔薇抜きにしても危険な気質を持った男だ。君に狂い、数多の罪を犯した。いくら愛していると言っても、彼の執着が、彼の罪が……君をずっと苦しめ続けるかもしれないよ」
「……覚悟の上です」
「嫉妬から、君の周囲の者を殺そうとするかもしれないよ?」
「させません。彼が嫉妬に苦しむ間も無いくらい私が愛を注ぎます」
「君たちは強烈な差別に苦しむかもしれない。それでも?」
「心配要りません。王都で暮らせないなら私の住んでいた村に戻ります。ゼルも、お腹の子も。きっと村の人達は受け入れてくれる」
「……そうか」
ミーミスはリアから身体を離し、暫しぼんやりと星空を見つめた。
「…………リア。これは万が一の話だ」
低くも透き通った美しい声が、リアの耳を打った。
「君がゼルドリックに会いに行ったことで、もしも万が一、彼が君を思い出してしまったのなら。その時は薔薇を受け取るか、薔薇を潰すか選びなさい。君が君の責任で選ぶのだ。中途半端は無しだよ」
「それはどういう……?」
「胸に抱える契りの薔薇を持て余す限り、ゼルドリックはまた同じことを繰り返す。だから君が終わらせるのだ。君が薔薇を受け取り彼に己の魂を捧げるか。あるいは……彼の薔薇を散らし、魂を潰えさせるか」
(魂を潰えさせるって……ゼルを殺すってこと……?)
リアはミーミスの提案にふるりと肩を震わせた。
「怖ろしいかい?」
「はい」
「だが、契ることもまた……怖ろしいよ」
ミーミスは薄く微笑んだ後、己の胸に手を差し込み黒い契りの薔薇を取り出した。
夜闇よりも昏く黒い、孤高を感じさせる漆黒の薔薇。
「かつて私にこの薔薇を贈った者がいた。私もまた彼へと薔薇を贈り、契りを交わし、己の魂を捧げあったが……。薔薇から流れ込んでくるのだよ、彼が私に向ける感情が。汚泥のような、底なし沼のような、恨みが入り混じった愛が……。そして彼にも伝わっているだろう。私が抱える、この薄暗い感情が」
黒い薔薇に視線を落とし、ミーミスは呟いた。
「そのような感情を味わううちに、お互いに狂っていくような気がするのだ。もっともっと相手が欲しい、このままでは足りない。いっそこの手にかけて、相手の身体を肉の一欠片残らず貪り食い、一つに溶け合ってしまおうかと」
ミーミスは透き通る美しい声に怖ろしい言葉を乗せた。
「リア。契りを交わせば、君の胸にゼルドリックの感情が流れ込んでくる。その感情は、やがて君の人格や思考をすっかり変えてしまう。ゼルドリックが君を想って狂ったように、君もまた彼を想って狂う日が来る。それでも契ることを望むのかい? 後戻りは出来ないよ。契って己が狂うことを選ぶか。契らずに彼を殺すことを選ぶのか。よく考えなさい。どちらも選べないならば、彼に会いに行くのはやめなさい」
胸に黒い薔薇を戻し、ミーミスはリアに訊いた。
赤い瞳を覗き込み、そしてその瞳に宿る灯火のような意志を認め、彼女は僅かに微笑みを浮かべた。
「君は、ゼルドリックに会いにいくことを選ぶようだね」
「はい。彼に会い、薔薇を受け取ってきます。彼の傍にいられるのなら狂ってもいい。彼を心から愛しているから、どうなったって後悔はありません。狂うよりも怖ろしいのは、彼にこの気持ちを伝えられないまま死ぬことです」
リアは力強く答えた。
「私、彼に好きだって言えなかったことをずっと後悔していたのです。好きだと、私と家族になってとゼルに伝えたいのです。この子と、ゼルと、私と。仲良く暮らしていく夢を諦めきれない。後押ししてくれる人たちと出会ってはっきりとそう自覚しました」
「そうか」
「ミーミス様。先程の魔法……あれは私を応援してくださったのでしょう? 勇気や希望のような前向きな感情が、私の中に強く巡りはじめたのです。あなたは、私が何を考えてどんな選択をするのか分かっていたのですね」
リアが微笑むと、ミーミスはさあねと一言だけ返した。
「ありがとうございます、ミーミス様」
ミーミスは微笑んだ後、猫の姿に戻り、リアの膝の上に勢いよく乗った。柔らかなラグドールの背を撫でながら、リアはゼルドリックとの思い出をミーミスに話した。出会いから共に暮らした日々のことを詳細に聞かせると、ミーミスが器用に尻尾を振り相槌を打つ。それは夜が更け、朝日が昇るまで続いた。
ミーミスは出立の際、リアをしっかりと抱き締めた。
「君の選択に幸あれ」
そして彼女はリアの前から音もなく、すっとその場から消え去った。
――――――――――
麗らかな春の日だった。
桃色の花びらがひとひら、またひとひらと美しく舞い、人々の心を躍らせる。花びらは降り積もり、人々の足元を淡く柔らかな桜色で彩っていく。花びらの雨が降り注ぐ中、リアはゆっくりとした足取りで大通りを歩いていた。大通りを歩き続けていると、見慣れた建物や街路樹が見えた。それは工場からゼルドリックのばら屋敷へ向かう際に頻繁に目にした景色で、リアは込み上げる懐かしさに胸を詰まらせた。
人間も、オークもエルフも獣人も妖精も、道行く者は皆笑顔で、待ち望んだ春の到来を楽しんでいる。幸せそうに空を見上げる者たち、春の美しさを讃え談笑する者たち。各々が晴れやかな顔をしている中で、リアだけが強張った顔をしていた。
王都は春が一番美しいのだとゼルドリックから聞いたのはいつだったか。リアはそんなことを思いながら、桜の花びらが舞う空を見上げた。
(美しい、か)
桃色の花びらは確かに綺麗だった。だが今のリアにとっては、桃色の雨は特別美しいと思えるものでもなかった。桃色の雨がどこか色褪せて見える。通りすがりの幸せそうな顔たちが鬱陶しく、遠ざけたくなる。
(この桜の雨を、ゼルと一緒に見ようって約束したんだよね)
どうしても思い出してしまう。幸せな冬の日の約束を。花びらが降り注ぐ中、ゼルドリックと共に手を繋いで歩く夢を。ずきり、とリアの胸が鋭く痛む。脳裏に過ぎったダークエルフの優しい微笑みを、リアは自分の頭の中に焼き付けるように何度も何度も繰り返し思い出した。
(あなたがいないから、美しい景色も色褪せて見える……)
リアがゼルドリックを思い出して胸を痛めていると、背後から優しく声を掛けられた。
「お嬢ちゃん、ちょっといいかい」
「……?」
リアに声を掛けたのは、人の良さそうな老婆だった。杖をつきながら、ゆっくりとリアに近づいてくる。リアはその老婆を、どこかで見たことがあったかもしれないと思った。
老婆は急に呼び止めて悪いねと言いつつ、時間をかけてリアの赤い髪をまじまじと見た。自分の髪をじっと見られているにも拘らず、リアは不思議と嫌悪を感じなかった。それは、皺の刻まれた目元に優しさを感じ取ったからかもしれなかった。
「あんた、髪を染めなかったんだね。良かったよ」
「あなたは、確か染料店の……?」
リアは老婆の一言で思い出した。エルフ達から髪を揶揄されて傷付いた日に、衝動的に立ち寄った染料店の店主だ。老婆はにこりと笑い、ふわふわと春の風に揺れるリアの赤い髪を優しく見つめた。
「あたしのことを覚えててくれたのかい? 嬉しいね」
老婆は嗄れた笑い声を上げた。
「お嬢ちゃん、あたしはね。ずっとあんたのことを気にしてたんだ」
「え?」
老婆は優しく目を細めた。
「あんたに髪染めを売っておいて何だけどね、あの後売らなきゃ良かったって後悔したのさ。あんたのその綺麗な赤い髪には、どんな染料も敵いやしないと思ったからね」
「……」
リアはゆっくりと話す老婆の言葉に、静かに耳を傾けた。
「あの日、お嬢ちゃんは泣きそうな顔で、あたしから髪染めを買ったね。とぼとぼと歩く後ろ姿を見て悔やんだんだ。あの子は誰かにつまらないことを言われて、そのせいでせっかくの綺麗な髪を染めてしまうのかもしれない。あんたにはその色が一番似合うんだって言ってやるべきだった。強く引き止めれば良かったってさ」
「お婆さん……」
老婆は歯の欠けた口を見せて笑った。
「お嬢ちゃん。あんたは本当に素敵な髪を持ってるんだ。髪を褒めてくれる男に出会ったら、その男を放すんじゃないよ。がっしり捕まえて大事にしな」
「あ……」
――夕日を溶かしたような、繊細で美しい色。君の髪が風に揺られていると、つい触れたくなってしまう。
かつてのゼルドリックの声が、リアの内に響く。リアは自分の目がみるみる潤むのを感じ、目を閉じて老婆に頭を下げた。
「お婆さん、ありがとうございます」
頭を下げたリアに優しく別れの声を掛けた後、老婆は去っていった。リアは腰の曲がった老婆の後ろ姿をぼんやりと見て、ひとつ涙を流した。美しい桜吹雪の中に、自分の流す涙はどこまでも似合わない気がして、リアは隠すようにまた俯いた。自分の赤い髪が垂れ下がる。あのダークエルフから、散々パルシファーの綿毛のようだと評された髪。貶されていると思っていたのに、褒められているのだと知った時は大きく心が揺れた。
――俺は大好きなんだ、君の赤い色が……。
「ゼ、ル……」
掠れた声が、思わず唇から漏れてしまう。赤い髪を愛おしく撫でられた思い出が蘇る。
リアは流れる涙を静かに拭い、またゆっくりと歩を進めた。
歩を進めるうちに、リアはとうとうゼルドリックのばら屋敷の前まで来てしまった。
ごくりと唾を飲み込んで、リアは門の前で立ち止まった。
(ゼルに会ったら、何から話し始めよう)
この屋敷の主は自分を認識できない。自分が見えたとしても、自分に関する記憶を何も思い出せない……。
(駄目ね、私。すごく緊張してる……怖いのだわ、彼の中から私が失われたって認めることが)
リアは心の痛みから目を瞑った。ゼルドリック=ブラッドスターの中から、自分はすっかり失われたのだと改めて思うと、どうしようもない喪失感が込み上げた。
春薔薇の咲く頃だというのに、屋敷の薔薇は一輪も咲いていなかった。葉の落ちた薔薇の蔓は元気が無く萎びて見える。壮麗だった屋敷はどこかくすんで見えた。少し崩れた外壁や噴水が、はっきりと手入れされていないことを物語っていた。
枯れかけた蔓に付く鋭い薔薇の棘を見る度に、リアの心に小さな傷が付く。薔薇の棘で指を傷付けた日に、ゼルドリックから手ずから軟膏を塗り込まれた感触が蘇ってくるようで、リアは自分の手をそっとなぞった。
「お姉さん、こんにちは」
遠慮がちに話しかけられる。可愛らしい声の主は、獣人の女性だった。ゼルドリックと共によく寄った菓子屋の店員が、猫耳をひくひくと動かしながらリアを見つめていた。
「こんにちは。素敵な日ですね」
リアは挨拶をした。麗らかな春の日を心から素敵だと思うことはなかったが、リアは緊張を誤魔化すように薄く微笑んだ。
獣人の女性はそれから何を言うわけでもなく、リアと共に枯れかけた薔薇をぼんやりと見ていた。時折、リボンを付けた猫耳がぴくりと動く。
(この人……どうしたんだろう? 確か活発な人だったよね?)
リアは大人しく横にいる獣人の女性を不思議に思った。彼女は口を噤んだ後、遠慮がちに口を開いた。
「あーその……。私の家から、門の前に立っているお姉さんが見えたんです。だからここに来ました。最近お見かけしなくて、どうしたのかなあと思って」
猫耳がひくりと震えるのを、リアは視界の端で捉えた。この獣人の女性は、自分とゼルドリックの関係がどうなったのか気にしてここまで来たのかもしれないとリアは察した。
「ありがとうございます、気にしてくれたんですね」
「お姉さん。私、ダークエルフのお兄さんが庭に出ているのを窓から見かけることがあるんです」
獣人の女性は屋敷の荒れ果てた庭を見て顔を歪めた。
「元気が無くて、とにかく辛そうで、すごく悲しそうで、ずっと思いつめた必死な顔をしています。お姉さん、今はお兄さんと一緒に暮らしていないんですよね? どうしちゃったんですか? あんなに幸せそうだったのに……」
「……それは」
「お兄さんに会いに来たんですよね? 早く会いに行ってあげて下さい。あ、それから……これ受け取ってください!」
女性はリアの手に紙袋をしっかりと握らせると、眉を下げて微笑んだ。
「これはお兄さんがよく買ってくれたお菓子です。一緒に食べて仲直りしてくださいね。そしてまた、私の働くお店に二人で来てください。よく食べるあなたたちが来てくれないと、売上が上がらないので! それではっ!」
彼女は一気にそう言うと、リアに背を向けて勢いよく走り出した。足の速い獣人はあっという間にリアの前から姿を消した。紙袋の中身を確認し、リアはぽつりと呟いた。
「ブールドネージュだ。あの女の人、わざわざ作ってくれたんだ……私と、ゼルのために……」
(優しい。……あのお婆さんも、あの女の人も……。私を気にしてくれた。私とゼルのことを気にかけてくれる人たちがいる。迷ってる暇なんてない。いつまでも迷っていたら、その人たちに申し訳ないわ。ここにはゼルに会いに来たのでしょう?)
ぐっと歯を食いしばった後、リアは意を決して屋敷の門を開いた。
(ゼル、今会いに行くわ……)
リアが門を押すと、ぎいと耳障りな音がした。荒れ果てた庭を歩み、荘厳な正面玄関を目指す。鍵が掛けられていない扉をリアは躊躇いなく開けた。
「……」
屋敷の中は荒れていた。シャンデリアに明かりはなく薄暗い。見事な階段には本や紙くずが散らばり、白い柱に巻き付いていた赤と桃色のつる薔薇は萎れていた。ふかふかとした赤いカーペットには染みが付き、辺りには空の酒瓶が転がっている。
リアは薄暗い屋敷の中を歩き、そして自分の住んでいた部屋の扉を開けた。
「やっぱりここにいたのね」
リアの部屋は特に荒れていた。クローゼットの中に仕舞われていた化粧品や本が床に転がり、広い部屋だというのに足の踏み場もないほど散らかっている。リアは空の酒瓶や散らばる服に足を取られないようにしながらゼルドリックに近づいた。
「……これも、これもだ……いつ揃えたのか分からない……俺は誰と住んでいた? 何を忘れた……?」
ぶつぶつと呟きながら必死の形相でリアの服や化粧品を手に取るゼルドリックは、それらの品を食い入るように見つめた後、失意を露わに首を振った。
「……駄目だ、どうしても思い出せない……」
床に座り込むゼルドリックの背に、リアはそっと手を添えた。
「ゼル、会いに来たわよ」
だがリアの存在が認識できないゼルドリックは、後ろを見ることなくまた床に散らばる品を手に取った。
「くそ、分からない……どうしてだ!」
「こっちを見て。私の声を聞いて」
「何故思い出せない!? 俺は何かを大切にしていたはずなのだ! これほどの品を揃えていたのに思い出せない!」
「ゼル、思い出して……。目を凝らして。私はここにいるのよ、あなたの傍にいるの。こっちを見て……?」
リアがゼルドリックの正面に回り、彼と目線を合わせるようにしゃがむ。そして彼のこけた頬に手を添え青い瞳を見つめたが、彼は頬に添えられたリアの手も何もかも認識できないようで、リアを無視してひたすら床に散らばる品を物色した。
彼はもう、君を思い出すことはない。
そう言ったミーミスの言葉が頭の中で響く。
(私に関する何もかもを、あなたは本当に認識できなくなってしまったのね。それでも……諦めない)
リアはゼルドリックを抱き締めた。ゼルドリックは自分の身体に僅かな異変を感じたのか身を捩ったが、リアは強い力でそれを押さえ込んだ。
「っ……何だ? 何かが俺の身体に……」
「ゼル……ゼル。私を見て。あなたが捜しているものは目の前にあるわ」
「……?」
ゼルドリックの手が前に伸ばされる。リアはその手を取り、己の指を絡めた。
「あなたは私の手を何度も握ってくれたわね。薔薇の棘で傷つくたび、この手に軟膏を塗り込んでくれた」
「何だ……?」
「私の手が、私の髪が大好きなんだって。そう言ってくれたわよね? ゼル。ここにあるわ。あなたが求めているものはここに全部……。ねえ、よく見て……」
ゼルドリックは目を凝らして目の前を見た。
「赤い、色……?」
朧げながら、赤い色が自分の前に揺らめいている。自分の手に、何かが絡みついているような気がする。
ゼルドリックは困惑の中その正体を探ろうとした。
「そうよ、ゼル。もっと私を見て。私の声を聞いて……」
リアはゼルドリックの耳に顔を寄せ、そっと囁いた。
「薔薇を受け取れなくてごめんなさい。たくさん傷付けてごめんなさい。臆病でごめんなさい……。私の想いを、もっと早く伝えておけばこんなことにはならなかった。あなたをいたずらに苦しめることもなかった。ねえ、ゼル。伝えるのが遅くなってしまったけれど、あなたに私の想いを伝えたくてここに来たの」
「何かが、俺の近くに……」
「……大好き。あなたのことが大好きよ、私の王子様……。あなたを、愛しているわ……」
そしてやがて、ゼルドリックは目の前にいるものの正体を掴んだ。朧げな赤が形を伴い、一人の女が目の前に現れる。涙を流しながら、自分を抱き締める赤い髪の女。女はゼル、ゼルと繰り返し自分を呼び、涙で潤む赤い瞳をこちらに向けた。
(……誰だ……?)
ゼルドリックは縋り付く女に見覚えが無かった。だが女の姿を捉えた途端、焦りや怒り、悲しみ、苦しみが凄まじい勢いで込み上げてきて、ゼルドリックは激情のまま女の肩を掴んだ。
「ひっ……!?」
リアは床に勢いよく押し倒された。痛みに呻くリアの上に、ゼルドリックがのしかかって来る。
「誰だ、お前は」
「……あ」
氷のような青い瞳。剣の切っ先のような鋭く、冷たい声。ゼルドリックが自分の姿を認識できたのだという喜びは霧散し、彼の警戒を露わにした表情にリアの心が冷えていく。
「何故俺の屋敷にいる? 何故俺の前に突然現れた?」
「う、あ……ぜる……」
腕と首に手を掛けられ力を込められる。敵意を剥き出しにしたゼルドリックを前に、リアは必死に首を振り、言葉を紡いだ。
「私……のことを……思い出して、ほしいの……」
「思い出す?」
ゼルドリックの青い瞳が近づいてくる。かつて甘さを宿していたその瞳には一切の温度が感じられず、リアはゼルドリックの欠落をはっきりと見た。
「俺はお前のことなど知らぬ。こんな真っ赤な髪の女など、俺の近くにいた覚えもない」
「っ……」
リアの心にひびが入る。ゼルドリックの言葉は想像以上に堪えた。
「いいえ、ゼル。私はあなたの傍にいたのよ……この屋敷で一緒に暮らしていたの。思い出して……」
「しつこい。お前のような女を飼っていた記憶はない。一体何を企んでいるかは知らんが、俺は今機嫌が悪いのだ。殺されたくなければ今すぐ立ち去れ!」
ゼルドリックの大きな声がびりびりと鼓膜を震わせる。リアは怯えつつも、必死にゼルドリックに呼びかけた。
「ねえ、思い出して? 私のこの髪を、パルシファーの綿毛みたいだって言ってくれたじゃない……。この屋敷の中で一緒に食事をして、庭の薔薇を見て、何度も身体を重ねたじゃない……!」
ぽろぽろと涙を流すリアを忌々しそうに見つめた後、ゼルドリックはリアの身体を持ち上げ、そして床に打ち付けた。リアはとっさに腹を庇ったが、肩から腕にかけて鋭い痛みが襲いかかる。
「ぐ、あっ!?」
「何故だろうな、お前を見ていると苛々して仕方ない。怒りや苦しみのような感情が一気に込み上げてくる。とても不快だ。こんなに俺を不快にさせる女が、俺の傍にいたはずがない……!」
「う、ううっ……」
リアは自分の額に手をやり、そして掌に赤いものが付いていることに気が付いた。床に身体を打ち付けられた際、近くに転がっていた鋭い本の端で切ってしまったようだった。
「これが最後だ。ここを立ち去れ、そして二度と俺の前に現れるな」
「……いや」
「何?」
「嫌よ。あなたが私を思い出してくれるまで、何度だってここに来るわ」
リアは血を流す額を押さえながら、ふらふらと立ち上がった。
「…………」
ゼルドリックはそこで初めて、目の前の女をじっと見つめた。
(なんだこの女は? 見ていると苛々して、たまらなく苦しくて、不快だ……なのに……)
血を流す女を掻き抱き、額の傷を癒やしたくなる。
女の涙を見るたびに心が抉られるような気がする。
ゼルドリックは自分の感情に強い戸惑いを覚えた。
(それにこの女から、強い魔力の気配がする……)
目の前の女はエルフではないのに、魔力の器には膨大な魔力が渦巻いている。
(これは俺の魔力だ)
どく、どくと強く胸が跳ねる。ゼルドリックは食い入るようにリアを見つめた。
(真っ赤な髪だ。……確かに、パルシファーの綿毛のような……)
「お前は、一体……?」
「リア=リローランよ。ゼル。ゼルドリック=ブラッドスター。……早く、私を思い出して」
リアは微笑み、血の付いた手をゼルドリックの胸へ伸ばした。リアの手は彼の硬い胸に阻まれる。
「私はエルフではないから、あなたの胸の奥には触れられないわね。私も魔法を使えたら良かったのに」
「……何を、言っている」
「この胸に手を差し込んで、あなたの胸の奥に眠る薔薇に触れてみたかったわ」
「薔薇だと?」
「ええ、薔薇よ。契りの薔薇」
リアは胸から手を放し、そしてゼルドリックの胸元に光るものに気が付いた。
「嬉しい。私が贈ったブローチを、あなたはまだ身に着けてくれていたのね」
ゼルドリックは胸元に留められたブローチに視線を落とした。鷹の羽の意匠が施された美しいブローチ。自分の瞳によく似た青の貴石が嵌められた見事な造りのそれを見て、ゼルドリックはあともう少しで何かを掴めるような気がした。冥闇の中に沈み込んだそれを、必死に探っていく。
「はは、大した傷じゃないのに、なんだかふらふらしてきたわ……。駄目ね、思い出してくれるまでここを離れないつもりだったけど、限界かも……」
リアはずきずきと痛む頭を押さえ、放り投げられた紙袋を掴みゼルドリックに押し付けた。
「はい、これ。あなたと私がよく行ったお菓子屋さんのクッキーよ。あなたはよくこれを買ってきてくれたわよね? 獣人の店員さんにお礼を言わなくてはね」
「おい、先程からお前は何を……」
「あなたはまだ痩せてるわ。これを食べて少しは肉を付けて。それではね、ゼル。また来るわ……」
リアは目眩を堪えながら屋敷を後にした。
桜の花びらがひらひらと舞っている。リアはぼんやりとそれを眺め思考を巡らせた。
(私の何もかもを忘れてしまったって。そう頭では分かっていたのに、ゼルからお前なんて知らないって言われた時、驚くほど心が痛くなった)
リアは額の血を布で拭った。
彼が自分に血を流させたという事実が、ずきずきとした痛みを胸にも与えてくる。
(でも諦めない。傷付いたって諦めない。悲しいけれど、嬉しかったのよ。あなたは私の姿を捉えてくれたから。それだけでも大きな収穫だわ)
リアは桜の花びらがやってくる方向へ、ゆっくりと歩き始めた。ゼルドリックと共に見ることを約束した大樹。
ふと、あの桜の大樹が満開になっているところを見たいと思った。
紫水晶の如き美しい瞳に真っ白でふわふわとした毛並み。愛くるしいラグドールが気配もなくリアの傍にいた。
「……ミーミス様」
リアが優しく彼女の背を撫でると、ミーミスは気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らした後変化を解いた。ゆったりと白いローブが、リアの毛布の上に波のように広がった。
「今日は服を着ていらっしゃるのですね」
「ああ。春といえども夜は冷えるからね。さすがに全裸はきついよ」
ミーミスは星空を見上げた後、美しいねと呟いた。
「リア、私は明日王都を発つ。君の出産までは王都にいたかったのだが、なにぶん任務漬けの身でね」
「ミーミス様……。お世話になりました。あなたは忙しい中、頻繁に治療を施してくださった。私がここまで快復出来たのは、ミーミス様のお陰です」
リアは頭を下げた。ミーミスはゆっくりと目を瞬いた後、赤い髪を撫でた。
「私は君に治療くらいしかしてやれなかった。だから、もうひとつやっておきたいことがある」
「……?」
ミーミスはリアの顔の前に指を置き、空に描いた魔法陣をなぞるように、白魚のような美しい指を動かした。リアの身体に、火のような温かさが灯っていく。そしてそれはリアの内にある勇気を鼓舞するような力強さもあり、リアは自分に力が漲っていくのをはっきりと感じた。
「エルフの古い呪いだ。病や悪い出来事から君たちを遠ざける。君と子に幸があるようにと、そう願った」
「……ありがとうございます」
胸に抱える意志が殊更強く固まっていく。早くゼルドリックと話をしたいと、心が逸る。そんなリアの気持ちを見抜いてか、ミーミスは眉を下げリアをそっと抱き締めた。
「リア。今日の昼間、リンデの子と話をしていたね」
「リンデ?」
「ああ。私の元同僚でね。多産と豊穣のリンデ。彼女は子が多くて、あの子は何と言ったか……? そうだ、確かアンジェロだ。十二番目の息子だ」
「え? なぜご存知なのですか?」
リアがミーミスの顔を見ると、彼女は猫目をすっと細めた。
「猫に化けて外で桜を見ていたんだ。上った屋根から君たちの姿が見えた。それにしても君はよく食べるんだね」
「は、はい……」
リアは居心地悪そうに身を捩った。大泣きしながら何皿もタルトを平らげる姿をミーミスに見られていたなんて信じたくなかった。
「君はゼルドリックに会いに行くのかい」
ミーミスはリアの目をじっと見つめた。表情がないその顔からは、彼女が何を考えているのか読み取ることが出来ない。リアもミーミスの猫目を見つめ肯定の返事をした。
「はい。会いに行きます。私のことを思い出してもらえるように傍で話しかけ続けます」
「リア。アンジェロは君の後押しをしたようだが、私が施した遮蔽魔術はほぼ解けないと考えていい。君のことを中途半端に思い出せば、また恋情に狂って君や周囲を傷付けるかもしれないと思ったからね。彼に近づくのは止めなさい。もう一度言う。彼はもう、君を思い出すことはない」
「……」
「君にも見せただろう、契りの薔薇を。ゼルドリックは薔薇を受け取ってもらえなかったという苦しみから死にかけた。君を思い出すということは、あの耐え難い苦しみもまた思い出してしまうということだ」
「……それでも」
「リア」
「それでも諦めたくないのです」
リアは首を横に振った。
「ゼルが私のことを思い出せなくても、もう一度私のことを好きになってもらいます。もし私を思い出した時は、彼の創った契りの薔薇を受け取ります。ゼルの魂を傷付けてしまった償いに、私の命が続くまでずっと……ずっと傍にいます。彼の傍にいたいのです……」
ミーミスはリアの答えに僅かに目を見開いた。
「リア。薔薇の花が一度咲いてしまったら、如何なる理由でも決して契りは棄てられない。君の魂はずっとゼルドリックに縛り付けられるのだよ」
「……はい」
「君は私に、ゼルドリックを愛していると言ったね。だがリア、ゼルドリックは契りの薔薇抜きにしても危険な気質を持った男だ。君に狂い、数多の罪を犯した。いくら愛していると言っても、彼の執着が、彼の罪が……君をずっと苦しめ続けるかもしれないよ」
「……覚悟の上です」
「嫉妬から、君の周囲の者を殺そうとするかもしれないよ?」
「させません。彼が嫉妬に苦しむ間も無いくらい私が愛を注ぎます」
「君たちは強烈な差別に苦しむかもしれない。それでも?」
「心配要りません。王都で暮らせないなら私の住んでいた村に戻ります。ゼルも、お腹の子も。きっと村の人達は受け入れてくれる」
「……そうか」
ミーミスはリアから身体を離し、暫しぼんやりと星空を見つめた。
「…………リア。これは万が一の話だ」
低くも透き通った美しい声が、リアの耳を打った。
「君がゼルドリックに会いに行ったことで、もしも万が一、彼が君を思い出してしまったのなら。その時は薔薇を受け取るか、薔薇を潰すか選びなさい。君が君の責任で選ぶのだ。中途半端は無しだよ」
「それはどういう……?」
「胸に抱える契りの薔薇を持て余す限り、ゼルドリックはまた同じことを繰り返す。だから君が終わらせるのだ。君が薔薇を受け取り彼に己の魂を捧げるか。あるいは……彼の薔薇を散らし、魂を潰えさせるか」
(魂を潰えさせるって……ゼルを殺すってこと……?)
リアはミーミスの提案にふるりと肩を震わせた。
「怖ろしいかい?」
「はい」
「だが、契ることもまた……怖ろしいよ」
ミーミスは薄く微笑んだ後、己の胸に手を差し込み黒い契りの薔薇を取り出した。
夜闇よりも昏く黒い、孤高を感じさせる漆黒の薔薇。
「かつて私にこの薔薇を贈った者がいた。私もまた彼へと薔薇を贈り、契りを交わし、己の魂を捧げあったが……。薔薇から流れ込んでくるのだよ、彼が私に向ける感情が。汚泥のような、底なし沼のような、恨みが入り混じった愛が……。そして彼にも伝わっているだろう。私が抱える、この薄暗い感情が」
黒い薔薇に視線を落とし、ミーミスは呟いた。
「そのような感情を味わううちに、お互いに狂っていくような気がするのだ。もっともっと相手が欲しい、このままでは足りない。いっそこの手にかけて、相手の身体を肉の一欠片残らず貪り食い、一つに溶け合ってしまおうかと」
ミーミスは透き通る美しい声に怖ろしい言葉を乗せた。
「リア。契りを交わせば、君の胸にゼルドリックの感情が流れ込んでくる。その感情は、やがて君の人格や思考をすっかり変えてしまう。ゼルドリックが君を想って狂ったように、君もまた彼を想って狂う日が来る。それでも契ることを望むのかい? 後戻りは出来ないよ。契って己が狂うことを選ぶか。契らずに彼を殺すことを選ぶのか。よく考えなさい。どちらも選べないならば、彼に会いに行くのはやめなさい」
胸に黒い薔薇を戻し、ミーミスはリアに訊いた。
赤い瞳を覗き込み、そしてその瞳に宿る灯火のような意志を認め、彼女は僅かに微笑みを浮かべた。
「君は、ゼルドリックに会いにいくことを選ぶようだね」
「はい。彼に会い、薔薇を受け取ってきます。彼の傍にいられるのなら狂ってもいい。彼を心から愛しているから、どうなったって後悔はありません。狂うよりも怖ろしいのは、彼にこの気持ちを伝えられないまま死ぬことです」
リアは力強く答えた。
「私、彼に好きだって言えなかったことをずっと後悔していたのです。好きだと、私と家族になってとゼルに伝えたいのです。この子と、ゼルと、私と。仲良く暮らしていく夢を諦めきれない。後押ししてくれる人たちと出会ってはっきりとそう自覚しました」
「そうか」
「ミーミス様。先程の魔法……あれは私を応援してくださったのでしょう? 勇気や希望のような前向きな感情が、私の中に強く巡りはじめたのです。あなたは、私が何を考えてどんな選択をするのか分かっていたのですね」
リアが微笑むと、ミーミスはさあねと一言だけ返した。
「ありがとうございます、ミーミス様」
ミーミスは微笑んだ後、猫の姿に戻り、リアの膝の上に勢いよく乗った。柔らかなラグドールの背を撫でながら、リアはゼルドリックとの思い出をミーミスに話した。出会いから共に暮らした日々のことを詳細に聞かせると、ミーミスが器用に尻尾を振り相槌を打つ。それは夜が更け、朝日が昇るまで続いた。
ミーミスは出立の際、リアをしっかりと抱き締めた。
「君の選択に幸あれ」
そして彼女はリアの前から音もなく、すっとその場から消え去った。
――――――――――
麗らかな春の日だった。
桃色の花びらがひとひら、またひとひらと美しく舞い、人々の心を躍らせる。花びらは降り積もり、人々の足元を淡く柔らかな桜色で彩っていく。花びらの雨が降り注ぐ中、リアはゆっくりとした足取りで大通りを歩いていた。大通りを歩き続けていると、見慣れた建物や街路樹が見えた。それは工場からゼルドリックのばら屋敷へ向かう際に頻繁に目にした景色で、リアは込み上げる懐かしさに胸を詰まらせた。
人間も、オークもエルフも獣人も妖精も、道行く者は皆笑顔で、待ち望んだ春の到来を楽しんでいる。幸せそうに空を見上げる者たち、春の美しさを讃え談笑する者たち。各々が晴れやかな顔をしている中で、リアだけが強張った顔をしていた。
王都は春が一番美しいのだとゼルドリックから聞いたのはいつだったか。リアはそんなことを思いながら、桜の花びらが舞う空を見上げた。
(美しい、か)
桃色の花びらは確かに綺麗だった。だが今のリアにとっては、桃色の雨は特別美しいと思えるものでもなかった。桃色の雨がどこか色褪せて見える。通りすがりの幸せそうな顔たちが鬱陶しく、遠ざけたくなる。
(この桜の雨を、ゼルと一緒に見ようって約束したんだよね)
どうしても思い出してしまう。幸せな冬の日の約束を。花びらが降り注ぐ中、ゼルドリックと共に手を繋いで歩く夢を。ずきり、とリアの胸が鋭く痛む。脳裏に過ぎったダークエルフの優しい微笑みを、リアは自分の頭の中に焼き付けるように何度も何度も繰り返し思い出した。
(あなたがいないから、美しい景色も色褪せて見える……)
リアがゼルドリックを思い出して胸を痛めていると、背後から優しく声を掛けられた。
「お嬢ちゃん、ちょっといいかい」
「……?」
リアに声を掛けたのは、人の良さそうな老婆だった。杖をつきながら、ゆっくりとリアに近づいてくる。リアはその老婆を、どこかで見たことがあったかもしれないと思った。
老婆は急に呼び止めて悪いねと言いつつ、時間をかけてリアの赤い髪をまじまじと見た。自分の髪をじっと見られているにも拘らず、リアは不思議と嫌悪を感じなかった。それは、皺の刻まれた目元に優しさを感じ取ったからかもしれなかった。
「あんた、髪を染めなかったんだね。良かったよ」
「あなたは、確か染料店の……?」
リアは老婆の一言で思い出した。エルフ達から髪を揶揄されて傷付いた日に、衝動的に立ち寄った染料店の店主だ。老婆はにこりと笑い、ふわふわと春の風に揺れるリアの赤い髪を優しく見つめた。
「あたしのことを覚えててくれたのかい? 嬉しいね」
老婆は嗄れた笑い声を上げた。
「お嬢ちゃん、あたしはね。ずっとあんたのことを気にしてたんだ」
「え?」
老婆は優しく目を細めた。
「あんたに髪染めを売っておいて何だけどね、あの後売らなきゃ良かったって後悔したのさ。あんたのその綺麗な赤い髪には、どんな染料も敵いやしないと思ったからね」
「……」
リアはゆっくりと話す老婆の言葉に、静かに耳を傾けた。
「あの日、お嬢ちゃんは泣きそうな顔で、あたしから髪染めを買ったね。とぼとぼと歩く後ろ姿を見て悔やんだんだ。あの子は誰かにつまらないことを言われて、そのせいでせっかくの綺麗な髪を染めてしまうのかもしれない。あんたにはその色が一番似合うんだって言ってやるべきだった。強く引き止めれば良かったってさ」
「お婆さん……」
老婆は歯の欠けた口を見せて笑った。
「お嬢ちゃん。あんたは本当に素敵な髪を持ってるんだ。髪を褒めてくれる男に出会ったら、その男を放すんじゃないよ。がっしり捕まえて大事にしな」
「あ……」
――夕日を溶かしたような、繊細で美しい色。君の髪が風に揺られていると、つい触れたくなってしまう。
かつてのゼルドリックの声が、リアの内に響く。リアは自分の目がみるみる潤むのを感じ、目を閉じて老婆に頭を下げた。
「お婆さん、ありがとうございます」
頭を下げたリアに優しく別れの声を掛けた後、老婆は去っていった。リアは腰の曲がった老婆の後ろ姿をぼんやりと見て、ひとつ涙を流した。美しい桜吹雪の中に、自分の流す涙はどこまでも似合わない気がして、リアは隠すようにまた俯いた。自分の赤い髪が垂れ下がる。あのダークエルフから、散々パルシファーの綿毛のようだと評された髪。貶されていると思っていたのに、褒められているのだと知った時は大きく心が揺れた。
――俺は大好きなんだ、君の赤い色が……。
「ゼ、ル……」
掠れた声が、思わず唇から漏れてしまう。赤い髪を愛おしく撫でられた思い出が蘇る。
リアは流れる涙を静かに拭い、またゆっくりと歩を進めた。
歩を進めるうちに、リアはとうとうゼルドリックのばら屋敷の前まで来てしまった。
ごくりと唾を飲み込んで、リアは門の前で立ち止まった。
(ゼルに会ったら、何から話し始めよう)
この屋敷の主は自分を認識できない。自分が見えたとしても、自分に関する記憶を何も思い出せない……。
(駄目ね、私。すごく緊張してる……怖いのだわ、彼の中から私が失われたって認めることが)
リアは心の痛みから目を瞑った。ゼルドリック=ブラッドスターの中から、自分はすっかり失われたのだと改めて思うと、どうしようもない喪失感が込み上げた。
春薔薇の咲く頃だというのに、屋敷の薔薇は一輪も咲いていなかった。葉の落ちた薔薇の蔓は元気が無く萎びて見える。壮麗だった屋敷はどこかくすんで見えた。少し崩れた外壁や噴水が、はっきりと手入れされていないことを物語っていた。
枯れかけた蔓に付く鋭い薔薇の棘を見る度に、リアの心に小さな傷が付く。薔薇の棘で指を傷付けた日に、ゼルドリックから手ずから軟膏を塗り込まれた感触が蘇ってくるようで、リアは自分の手をそっとなぞった。
「お姉さん、こんにちは」
遠慮がちに話しかけられる。可愛らしい声の主は、獣人の女性だった。ゼルドリックと共によく寄った菓子屋の店員が、猫耳をひくひくと動かしながらリアを見つめていた。
「こんにちは。素敵な日ですね」
リアは挨拶をした。麗らかな春の日を心から素敵だと思うことはなかったが、リアは緊張を誤魔化すように薄く微笑んだ。
獣人の女性はそれから何を言うわけでもなく、リアと共に枯れかけた薔薇をぼんやりと見ていた。時折、リボンを付けた猫耳がぴくりと動く。
(この人……どうしたんだろう? 確か活発な人だったよね?)
リアは大人しく横にいる獣人の女性を不思議に思った。彼女は口を噤んだ後、遠慮がちに口を開いた。
「あーその……。私の家から、門の前に立っているお姉さんが見えたんです。だからここに来ました。最近お見かけしなくて、どうしたのかなあと思って」
猫耳がひくりと震えるのを、リアは視界の端で捉えた。この獣人の女性は、自分とゼルドリックの関係がどうなったのか気にしてここまで来たのかもしれないとリアは察した。
「ありがとうございます、気にしてくれたんですね」
「お姉さん。私、ダークエルフのお兄さんが庭に出ているのを窓から見かけることがあるんです」
獣人の女性は屋敷の荒れ果てた庭を見て顔を歪めた。
「元気が無くて、とにかく辛そうで、すごく悲しそうで、ずっと思いつめた必死な顔をしています。お姉さん、今はお兄さんと一緒に暮らしていないんですよね? どうしちゃったんですか? あんなに幸せそうだったのに……」
「……それは」
「お兄さんに会いに来たんですよね? 早く会いに行ってあげて下さい。あ、それから……これ受け取ってください!」
女性はリアの手に紙袋をしっかりと握らせると、眉を下げて微笑んだ。
「これはお兄さんがよく買ってくれたお菓子です。一緒に食べて仲直りしてくださいね。そしてまた、私の働くお店に二人で来てください。よく食べるあなたたちが来てくれないと、売上が上がらないので! それではっ!」
彼女は一気にそう言うと、リアに背を向けて勢いよく走り出した。足の速い獣人はあっという間にリアの前から姿を消した。紙袋の中身を確認し、リアはぽつりと呟いた。
「ブールドネージュだ。あの女の人、わざわざ作ってくれたんだ……私と、ゼルのために……」
(優しい。……あのお婆さんも、あの女の人も……。私を気にしてくれた。私とゼルのことを気にかけてくれる人たちがいる。迷ってる暇なんてない。いつまでも迷っていたら、その人たちに申し訳ないわ。ここにはゼルに会いに来たのでしょう?)
ぐっと歯を食いしばった後、リアは意を決して屋敷の門を開いた。
(ゼル、今会いに行くわ……)
リアが門を押すと、ぎいと耳障りな音がした。荒れ果てた庭を歩み、荘厳な正面玄関を目指す。鍵が掛けられていない扉をリアは躊躇いなく開けた。
「……」
屋敷の中は荒れていた。シャンデリアに明かりはなく薄暗い。見事な階段には本や紙くずが散らばり、白い柱に巻き付いていた赤と桃色のつる薔薇は萎れていた。ふかふかとした赤いカーペットには染みが付き、辺りには空の酒瓶が転がっている。
リアは薄暗い屋敷の中を歩き、そして自分の住んでいた部屋の扉を開けた。
「やっぱりここにいたのね」
リアの部屋は特に荒れていた。クローゼットの中に仕舞われていた化粧品や本が床に転がり、広い部屋だというのに足の踏み場もないほど散らかっている。リアは空の酒瓶や散らばる服に足を取られないようにしながらゼルドリックに近づいた。
「……これも、これもだ……いつ揃えたのか分からない……俺は誰と住んでいた? 何を忘れた……?」
ぶつぶつと呟きながら必死の形相でリアの服や化粧品を手に取るゼルドリックは、それらの品を食い入るように見つめた後、失意を露わに首を振った。
「……駄目だ、どうしても思い出せない……」
床に座り込むゼルドリックの背に、リアはそっと手を添えた。
「ゼル、会いに来たわよ」
だがリアの存在が認識できないゼルドリックは、後ろを見ることなくまた床に散らばる品を手に取った。
「くそ、分からない……どうしてだ!」
「こっちを見て。私の声を聞いて」
「何故思い出せない!? 俺は何かを大切にしていたはずなのだ! これほどの品を揃えていたのに思い出せない!」
「ゼル、思い出して……。目を凝らして。私はここにいるのよ、あなたの傍にいるの。こっちを見て……?」
リアがゼルドリックの正面に回り、彼と目線を合わせるようにしゃがむ。そして彼のこけた頬に手を添え青い瞳を見つめたが、彼は頬に添えられたリアの手も何もかも認識できないようで、リアを無視してひたすら床に散らばる品を物色した。
彼はもう、君を思い出すことはない。
そう言ったミーミスの言葉が頭の中で響く。
(私に関する何もかもを、あなたは本当に認識できなくなってしまったのね。それでも……諦めない)
リアはゼルドリックを抱き締めた。ゼルドリックは自分の身体に僅かな異変を感じたのか身を捩ったが、リアは強い力でそれを押さえ込んだ。
「っ……何だ? 何かが俺の身体に……」
「ゼル……ゼル。私を見て。あなたが捜しているものは目の前にあるわ」
「……?」
ゼルドリックの手が前に伸ばされる。リアはその手を取り、己の指を絡めた。
「あなたは私の手を何度も握ってくれたわね。薔薇の棘で傷つくたび、この手に軟膏を塗り込んでくれた」
「何だ……?」
「私の手が、私の髪が大好きなんだって。そう言ってくれたわよね? ゼル。ここにあるわ。あなたが求めているものはここに全部……。ねえ、よく見て……」
ゼルドリックは目を凝らして目の前を見た。
「赤い、色……?」
朧げながら、赤い色が自分の前に揺らめいている。自分の手に、何かが絡みついているような気がする。
ゼルドリックは困惑の中その正体を探ろうとした。
「そうよ、ゼル。もっと私を見て。私の声を聞いて……」
リアはゼルドリックの耳に顔を寄せ、そっと囁いた。
「薔薇を受け取れなくてごめんなさい。たくさん傷付けてごめんなさい。臆病でごめんなさい……。私の想いを、もっと早く伝えておけばこんなことにはならなかった。あなたをいたずらに苦しめることもなかった。ねえ、ゼル。伝えるのが遅くなってしまったけれど、あなたに私の想いを伝えたくてここに来たの」
「何かが、俺の近くに……」
「……大好き。あなたのことが大好きよ、私の王子様……。あなたを、愛しているわ……」
そしてやがて、ゼルドリックは目の前にいるものの正体を掴んだ。朧げな赤が形を伴い、一人の女が目の前に現れる。涙を流しながら、自分を抱き締める赤い髪の女。女はゼル、ゼルと繰り返し自分を呼び、涙で潤む赤い瞳をこちらに向けた。
(……誰だ……?)
ゼルドリックは縋り付く女に見覚えが無かった。だが女の姿を捉えた途端、焦りや怒り、悲しみ、苦しみが凄まじい勢いで込み上げてきて、ゼルドリックは激情のまま女の肩を掴んだ。
「ひっ……!?」
リアは床に勢いよく押し倒された。痛みに呻くリアの上に、ゼルドリックがのしかかって来る。
「誰だ、お前は」
「……あ」
氷のような青い瞳。剣の切っ先のような鋭く、冷たい声。ゼルドリックが自分の姿を認識できたのだという喜びは霧散し、彼の警戒を露わにした表情にリアの心が冷えていく。
「何故俺の屋敷にいる? 何故俺の前に突然現れた?」
「う、あ……ぜる……」
腕と首に手を掛けられ力を込められる。敵意を剥き出しにしたゼルドリックを前に、リアは必死に首を振り、言葉を紡いだ。
「私……のことを……思い出して、ほしいの……」
「思い出す?」
ゼルドリックの青い瞳が近づいてくる。かつて甘さを宿していたその瞳には一切の温度が感じられず、リアはゼルドリックの欠落をはっきりと見た。
「俺はお前のことなど知らぬ。こんな真っ赤な髪の女など、俺の近くにいた覚えもない」
「っ……」
リアの心にひびが入る。ゼルドリックの言葉は想像以上に堪えた。
「いいえ、ゼル。私はあなたの傍にいたのよ……この屋敷で一緒に暮らしていたの。思い出して……」
「しつこい。お前のような女を飼っていた記憶はない。一体何を企んでいるかは知らんが、俺は今機嫌が悪いのだ。殺されたくなければ今すぐ立ち去れ!」
ゼルドリックの大きな声がびりびりと鼓膜を震わせる。リアは怯えつつも、必死にゼルドリックに呼びかけた。
「ねえ、思い出して? 私のこの髪を、パルシファーの綿毛みたいだって言ってくれたじゃない……。この屋敷の中で一緒に食事をして、庭の薔薇を見て、何度も身体を重ねたじゃない……!」
ぽろぽろと涙を流すリアを忌々しそうに見つめた後、ゼルドリックはリアの身体を持ち上げ、そして床に打ち付けた。リアはとっさに腹を庇ったが、肩から腕にかけて鋭い痛みが襲いかかる。
「ぐ、あっ!?」
「何故だろうな、お前を見ていると苛々して仕方ない。怒りや苦しみのような感情が一気に込み上げてくる。とても不快だ。こんなに俺を不快にさせる女が、俺の傍にいたはずがない……!」
「う、ううっ……」
リアは自分の額に手をやり、そして掌に赤いものが付いていることに気が付いた。床に身体を打ち付けられた際、近くに転がっていた鋭い本の端で切ってしまったようだった。
「これが最後だ。ここを立ち去れ、そして二度と俺の前に現れるな」
「……いや」
「何?」
「嫌よ。あなたが私を思い出してくれるまで、何度だってここに来るわ」
リアは血を流す額を押さえながら、ふらふらと立ち上がった。
「…………」
ゼルドリックはそこで初めて、目の前の女をじっと見つめた。
(なんだこの女は? 見ていると苛々して、たまらなく苦しくて、不快だ……なのに……)
血を流す女を掻き抱き、額の傷を癒やしたくなる。
女の涙を見るたびに心が抉られるような気がする。
ゼルドリックは自分の感情に強い戸惑いを覚えた。
(それにこの女から、強い魔力の気配がする……)
目の前の女はエルフではないのに、魔力の器には膨大な魔力が渦巻いている。
(これは俺の魔力だ)
どく、どくと強く胸が跳ねる。ゼルドリックは食い入るようにリアを見つめた。
(真っ赤な髪だ。……確かに、パルシファーの綿毛のような……)
「お前は、一体……?」
「リア=リローランよ。ゼル。ゼルドリック=ブラッドスター。……早く、私を思い出して」
リアは微笑み、血の付いた手をゼルドリックの胸へ伸ばした。リアの手は彼の硬い胸に阻まれる。
「私はエルフではないから、あなたの胸の奥には触れられないわね。私も魔法を使えたら良かったのに」
「……何を、言っている」
「この胸に手を差し込んで、あなたの胸の奥に眠る薔薇に触れてみたかったわ」
「薔薇だと?」
「ええ、薔薇よ。契りの薔薇」
リアは胸から手を放し、そしてゼルドリックの胸元に光るものに気が付いた。
「嬉しい。私が贈ったブローチを、あなたはまだ身に着けてくれていたのね」
ゼルドリックは胸元に留められたブローチに視線を落とした。鷹の羽の意匠が施された美しいブローチ。自分の瞳によく似た青の貴石が嵌められた見事な造りのそれを見て、ゼルドリックはあともう少しで何かを掴めるような気がした。冥闇の中に沈み込んだそれを、必死に探っていく。
「はは、大した傷じゃないのに、なんだかふらふらしてきたわ……。駄目ね、思い出してくれるまでここを離れないつもりだったけど、限界かも……」
リアはずきずきと痛む頭を押さえ、放り投げられた紙袋を掴みゼルドリックに押し付けた。
「はい、これ。あなたと私がよく行ったお菓子屋さんのクッキーよ。あなたはよくこれを買ってきてくれたわよね? 獣人の店員さんにお礼を言わなくてはね」
「おい、先程からお前は何を……」
「あなたはまだ痩せてるわ。これを食べて少しは肉を付けて。それではね、ゼル。また来るわ……」
リアは目眩を堪えながら屋敷を後にした。
桜の花びらがひらひらと舞っている。リアはぼんやりとそれを眺め思考を巡らせた。
(私の何もかもを忘れてしまったって。そう頭では分かっていたのに、ゼルからお前なんて知らないって言われた時、驚くほど心が痛くなった)
リアは額の血を布で拭った。
彼が自分に血を流させたという事実が、ずきずきとした痛みを胸にも与えてくる。
(でも諦めない。傷付いたって諦めない。悲しいけれど、嬉しかったのよ。あなたは私の姿を捉えてくれたから。それだけでも大きな収穫だわ)
リアは桜の花びらがやってくる方向へ、ゆっくりと歩き始めた。ゼルドリックと共に見ることを約束した大樹。
ふと、あの桜の大樹が満開になっているところを見たいと思った。
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