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第五章 リュータと異国の塔
第五十二話 リュータとオーブと神の戸惑い
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明けて翌日、俺は気が付けば九階に辿り着いていた事を知った。
「いつの間に上がってきたのかは分からないけど、いいか」
俺の感覚が狂った理由は、フロアが今までよりも広かったことにある。今までのフロアはマップを見ると全て同じ大きさだった。学校の運動場くらいのサイズで、罠や壁を考慮しても半日あれば次の階段へと進める程度。それが八階では倍の広さになっていた。
「上に行くにつれて、広くなっているのか?」
塔の高さからするとまだ序の口のはず。この時点でこの広さでこれだけ時間がかかっているとなると、頂上まで一体何年かかるか分かったものじゃない。
「でも、地道に駆けあがるしかない!」
ちなみに一人で入った時と、複数人で入った時では内部構造が違う。
これはダンジョンが意図的に大人数になるほど難易度をあげているようで、だからこそこの国の重鎮たちもソロ攻略を勧めたい考えだと言うのは兵士の誰かから聞いた覚えがある。
だだ、ソロで生きて帰ってきた者たちはほとんどいない。最初の頃に送り込んだ数名が帰ってきた程度で、ソロ攻略時の情報がほとんどないそうだ。唯一、複数人よりも楽だったとの報告をされた後で、その帰ってきた者たちは処刑されたそうだ。
「酷い話だな。なんでそんな事をしたのか」
そうぼやきつつも、俺はマップを見てあることに気が付いた。
八階は広かったが、それでも半分近くの場所はマップが埋まっていない。部屋があるのは見かけたが、入らなかったからだ。それに隠し部屋もあるかもしれない。
「もしかすると、こういう場所に攻略のヒントみたいなものが落ちていたのかもしれないな」
今までは先を急ぐあまり最短ルートに近い道を『調査』と『鑑定』で進んできたけど、これ以降はある程度探検もしていくべきだ。これ以降の階層は、複数人で徒党を組んでいた時でも上った事のない階層だ。
そう思い歩くと、何やら気になる丸い何かが落ちているのに気が付いた。一見すると薄汚れたガラス玉。
「気になるし、魔物もいないから、『鑑定』」
記録のオーブ
- 映像と音声を記録する事が出来るオーブ。再生も可。
- 危険はない。
「記録のオーブ? カメラみたいなものか」
その中に映像は・・・、あるみたいだ。一から三十九番まである。
俺はそれを、周囲を警戒しながら再生させた。
最初に出てきたのは戦士のような人。そして魔法使いのような人に、騎士のような人。それと荷物持ちらしき奴隷が一人の合計四人のパーティが映し出された。映像は立体映像で、これだけを見ると地球の文明を凌駕している。こんな時でなければ感動したのだろうけど、今の俺にそこまでの余裕はなく、淡々と映像を確認した。
彼らはダンジョンの仕掛けを解いたり、罠を解除したりを録画していた。もしかすると塔から戻った際に報告する為に記録を取っていたのかもしれない。そうして見ていて気付いたが、彼らはいわゆるプロの調査隊のようだ。
「へぇ。つまりこの国も最初は彼らのようなプロを雇って攻略する気だったんだな」
それにしても、この映像で流れている仕掛けや罠の解除方法はとてもタメになるな。
「おお、そもそもこんな所に仕掛けが? え? それ罠だったの? 浣腸の罠? なにそれ!? ヒリヒリする水が真下から噴水のように噴き出して二日間、お尻が荒れて大なる便でひどい目にあう? なんだそりゃ、おそろすしぎるだろ! 中には魔物でさえ真っ二つにするほどの激流が下から噴き出してくる!? 殺人ウォッシュレットかよ!!」
こ、これはとてもタメになるぞ・・・。『生活魔法』の『メモ』にしっかりとメモを残そう。
***
罠解除 Lv1/10 NEW
罠感知 Lv1/10 NEW
罠解析 Lv1/10 NEW
・・・。
「ん? んん?」
何度も映像を再生し、詳細なメモを取っていたらスキルが生えてきた。まぁ、気にしても仕方がないか。それよりもまだ映像は二割だ。続きを見よう。
そして俺は映像を半分ほど見て学習し、それぞれのスキルがLv2になったのを確認した。
「まさか映像で学習するだけでスキルを取得できるとは」
理屈は分からないけど、もらえるものならもらっておこう。ただ、料理も同じように『メモ』を取っていたけどスキルは取得できなかった。シルちゃんは『料理』のスキルを持っているそうだからスキル自体はあるようだけど、この差は何なのだろうか。
「くっ、シルちゃん・・・っ」
ダメだ。シルちゃんの事を不意に思い出したら泣きたくなってきた。ここに来た当初は彼女の心配をしてたけど、どうやら今は俺の方が精神的にマズいみたいだ。
「くそーー!!」
叫んだ。
すると魔物が現れた。当然だった。
「やってやるよ!! うおおお!」
現れた魔物はゾンビだった。どこかで見た事がある姿だったけど、怒りに染まった俺の頭ではそれが誰かを考える事が出来なかった。
ゾンビが緩慢な動きで俺を捕まえようとする。それをバックステップで下がり、我虎牙棍をゾンビの胸に突き刺す。ズブリ、と表面から少しめり込んだが、構わずゾンビは前進してきた。そこで火十連を使うが、腐った肉が焼け焦げた臭いがしただけで、特に効果はなかった。
「スケルトン師匠も火はほとんど効かなかったしな!」
かつて「原初の黒のダンジョン」での剣豪スケルトン師匠も、火はさほど利かなかった。全くの無傷ではないものの、それよりは光十連の方が効いた。ただ、光十連は消費MPが5と、なんと火の五倍。それでいて効果はよくて二倍なのだから、俺が火を愛用するのは無理のない話なのだ。
「だが、ゾンビ相手なら出し惜しみは出来ないか。お前の仲間になる気はないんだ!!」
俺はヤツの頭部目掛けて棍を横薙ぎに払いながら光十連を使った。
こめかみに棍がめり込み、そこから光があふれ出たその瞬間、そのゾンビが笑ったような気がした。その直後に、ゾンビの顔はきれいさっぱりとこの世から消え去った。
後に残った身体が前のめりに倒れ、その手は天を求めるかのように伸ばされ、そのままゾンビは消えた。
「もしかして・・・」
その笑顔には見覚えがあった。
先ほどの映像の、記録を取っていた荷物持ちの奴隷のものである。
その奴隷は、映像を見る限りでは他の三人にとても大切にされていたと思う。だから俺とは違う境遇に少しばかり嫉妬心も湧いていたが・・・
「でも、こんなのはあんまりだ・・・」
この塔の中で彼の身に何があったのかは分からない。でも、今のゾンビがあの奴隷だった人だと言うのなら、俺は初めて人を殺したのかもしれない。それも、この映像を残してくれていた恩人と呼べそうな人をだ。
それに、彼がああなったというのなら、俺ももしかするとああなってしまうのかもしれない。未だに攻略者が現れないのは、ダンジョンが人間を取り込んで魔物化させてしまうからなのかもしれない。
悪い想像が頭の中を回り、吐きそうなほどの感情が胸の内を埋め尽くしたが、吐くようなものは食べていない。そもそもこの二日、ほとんど食べ物を口に入れていない。水が切れたからだ。
「うっ、おえっ・・・ゲホッ」
それでも俺は、懺悔するように、許しを乞うように、床に手をついて何度もえずいた。
***
「身内がいないっすか?」
「@;*・++」
地球の名も無き神にリュータについて尋ねた「自称笑いの神」は困惑した。彼には血のつながった肉親はいないと聞いたからである。
「彼が時折言っているじっちゃんとは、誰っすか?」
そんな疑問が当然のように出てきたが、地球の名も無き神はその回答を持たなかった。身振り手振りで知らない事をアピールしてくるその神に、自称笑いの神は礼を言ってからその場を去った。
「おかしいっすよ。彼には父親も母親もいたはずっす」
転移させる者たちの人選をする際に仲間と共に集めた「神☆名簿」にも、両親の名前が記載されている。それなのに肉親がいないとなれば、彼が孤児だった可能性が出てきた。
だが、可能性が出てきただけで、何も分からない。仕方なく自称笑いの神は、彼の地球での生活の足跡を追う事にした。
まず最初に向かったのは、彼が以前住んでいたアパート。
そこには何もなかった。彼が行方不明になってからすでに一年以上も経っていたので、部屋の中のものは当然全て捨てられていた。
「手がかりとなりそうなものは、何もないっすね」
念のために近隣の小さき神々に尋ねていたが、そこでも成果は得られなかった。
これはもう、ほぼ唯一と言っていい手がかりの、彼のじっちゃんと言う人物を探すしかないと考えた自称笑いの神は、力ある存在と接触する事にした。
しかし結果は門前払いである。
ただしその理由は責められるものではなかった。
「アースガルズに関わっている神々との接触を禁ず、っすか」
現在荒れに荒れ、滅びの道を行くアースガルズ。それも上位神の道楽の末に引き起こされたとなっては、確かに真っ当な管理をしている他世界の神々からすれば、そう言う対応をせざるを得ないだろう。辛うじて死ぬ運命にある魂を転移や転生させる事には同意しているが、だからと言ってその魂の身辺調査を行なわせるなどは許容できないようだ。それは、こいつの身内だからこっちも頂戴、と言われるのを恐れての事だった。
「むむう。これは困ったっす」
力は地球の神々の方が完全に上だと、自称笑いの神は理解している。それは己の力が弱いというだけでなく、地球の神々は下位神なのに誰も彼もが強いのである。
最も、力がなければアースガルズの戦いに引き込まれていたので、当然と言えば当然だろう。
では何故そのような神々が、死ぬ運命にあるとは言え、貴重な資源でもある魂を譲り渡すような真似をしているかと言えば・・・
「厄介払いっすか。ここの世界の神様も中々に根性腐れが多いっすね」
死ぬ運命にある魂の中でも、特に問題を起こしそうな魂を譲っているのである。
自分たちは厄介払いを出来て、他世界では魂の補充が出来る。
とても合理的だが、生命を愛する自称笑いの神にとっては不愉快な話だった。とは言え、それを利用している自分を棚上げしてまで憤ったりはしない。
「正当化するつもりはないっす。でもそうなると、なおさら彼の力になりたいっすね」
意外にもリュータは信心深く、何かいいことがあれば神に感謝の祈りを捧げる。そんな使徒の純粋な思いに応えないなど、神の名折れであると考えていた。
「その為にも彼について知らないといけないっすが、どうにも無理そうっすね」
神と人の時間は同じではない。気が付けば人の時間で半年が流れているなどとはザラである。その為に自称笑いの神は早く力になりたいと思っていたが、あまりにも謎が多いリュータにお手上げだった。
「仕方がないっす。彼がポロリと過去話を漏らすまでは我慢するっす」
そうして自称笑いの神は、大勢の仲間を引き連れて再びアースガルズへと戻る準備を始めた。
「いつの間に上がってきたのかは分からないけど、いいか」
俺の感覚が狂った理由は、フロアが今までよりも広かったことにある。今までのフロアはマップを見ると全て同じ大きさだった。学校の運動場くらいのサイズで、罠や壁を考慮しても半日あれば次の階段へと進める程度。それが八階では倍の広さになっていた。
「上に行くにつれて、広くなっているのか?」
塔の高さからするとまだ序の口のはず。この時点でこの広さでこれだけ時間がかかっているとなると、頂上まで一体何年かかるか分かったものじゃない。
「でも、地道に駆けあがるしかない!」
ちなみに一人で入った時と、複数人で入った時では内部構造が違う。
これはダンジョンが意図的に大人数になるほど難易度をあげているようで、だからこそこの国の重鎮たちもソロ攻略を勧めたい考えだと言うのは兵士の誰かから聞いた覚えがある。
だだ、ソロで生きて帰ってきた者たちはほとんどいない。最初の頃に送り込んだ数名が帰ってきた程度で、ソロ攻略時の情報がほとんどないそうだ。唯一、複数人よりも楽だったとの報告をされた後で、その帰ってきた者たちは処刑されたそうだ。
「酷い話だな。なんでそんな事をしたのか」
そうぼやきつつも、俺はマップを見てあることに気が付いた。
八階は広かったが、それでも半分近くの場所はマップが埋まっていない。部屋があるのは見かけたが、入らなかったからだ。それに隠し部屋もあるかもしれない。
「もしかすると、こういう場所に攻略のヒントみたいなものが落ちていたのかもしれないな」
今までは先を急ぐあまり最短ルートに近い道を『調査』と『鑑定』で進んできたけど、これ以降はある程度探検もしていくべきだ。これ以降の階層は、複数人で徒党を組んでいた時でも上った事のない階層だ。
そう思い歩くと、何やら気になる丸い何かが落ちているのに気が付いた。一見すると薄汚れたガラス玉。
「気になるし、魔物もいないから、『鑑定』」
記録のオーブ
- 映像と音声を記録する事が出来るオーブ。再生も可。
- 危険はない。
「記録のオーブ? カメラみたいなものか」
その中に映像は・・・、あるみたいだ。一から三十九番まである。
俺はそれを、周囲を警戒しながら再生させた。
最初に出てきたのは戦士のような人。そして魔法使いのような人に、騎士のような人。それと荷物持ちらしき奴隷が一人の合計四人のパーティが映し出された。映像は立体映像で、これだけを見ると地球の文明を凌駕している。こんな時でなければ感動したのだろうけど、今の俺にそこまでの余裕はなく、淡々と映像を確認した。
彼らはダンジョンの仕掛けを解いたり、罠を解除したりを録画していた。もしかすると塔から戻った際に報告する為に記録を取っていたのかもしれない。そうして見ていて気付いたが、彼らはいわゆるプロの調査隊のようだ。
「へぇ。つまりこの国も最初は彼らのようなプロを雇って攻略する気だったんだな」
それにしても、この映像で流れている仕掛けや罠の解除方法はとてもタメになるな。
「おお、そもそもこんな所に仕掛けが? え? それ罠だったの? 浣腸の罠? なにそれ!? ヒリヒリする水が真下から噴水のように噴き出して二日間、お尻が荒れて大なる便でひどい目にあう? なんだそりゃ、おそろすしぎるだろ! 中には魔物でさえ真っ二つにするほどの激流が下から噴き出してくる!? 殺人ウォッシュレットかよ!!」
こ、これはとてもタメになるぞ・・・。『生活魔法』の『メモ』にしっかりとメモを残そう。
***
罠解除 Lv1/10 NEW
罠感知 Lv1/10 NEW
罠解析 Lv1/10 NEW
・・・。
「ん? んん?」
何度も映像を再生し、詳細なメモを取っていたらスキルが生えてきた。まぁ、気にしても仕方がないか。それよりもまだ映像は二割だ。続きを見よう。
そして俺は映像を半分ほど見て学習し、それぞれのスキルがLv2になったのを確認した。
「まさか映像で学習するだけでスキルを取得できるとは」
理屈は分からないけど、もらえるものならもらっておこう。ただ、料理も同じように『メモ』を取っていたけどスキルは取得できなかった。シルちゃんは『料理』のスキルを持っているそうだからスキル自体はあるようだけど、この差は何なのだろうか。
「くっ、シルちゃん・・・っ」
ダメだ。シルちゃんの事を不意に思い出したら泣きたくなってきた。ここに来た当初は彼女の心配をしてたけど、どうやら今は俺の方が精神的にマズいみたいだ。
「くそーー!!」
叫んだ。
すると魔物が現れた。当然だった。
「やってやるよ!! うおおお!」
現れた魔物はゾンビだった。どこかで見た事がある姿だったけど、怒りに染まった俺の頭ではそれが誰かを考える事が出来なかった。
ゾンビが緩慢な動きで俺を捕まえようとする。それをバックステップで下がり、我虎牙棍をゾンビの胸に突き刺す。ズブリ、と表面から少しめり込んだが、構わずゾンビは前進してきた。そこで火十連を使うが、腐った肉が焼け焦げた臭いがしただけで、特に効果はなかった。
「スケルトン師匠も火はほとんど効かなかったしな!」
かつて「原初の黒のダンジョン」での剣豪スケルトン師匠も、火はさほど利かなかった。全くの無傷ではないものの、それよりは光十連の方が効いた。ただ、光十連は消費MPが5と、なんと火の五倍。それでいて効果はよくて二倍なのだから、俺が火を愛用するのは無理のない話なのだ。
「だが、ゾンビ相手なら出し惜しみは出来ないか。お前の仲間になる気はないんだ!!」
俺はヤツの頭部目掛けて棍を横薙ぎに払いながら光十連を使った。
こめかみに棍がめり込み、そこから光があふれ出たその瞬間、そのゾンビが笑ったような気がした。その直後に、ゾンビの顔はきれいさっぱりとこの世から消え去った。
後に残った身体が前のめりに倒れ、その手は天を求めるかのように伸ばされ、そのままゾンビは消えた。
「もしかして・・・」
その笑顔には見覚えがあった。
先ほどの映像の、記録を取っていた荷物持ちの奴隷のものである。
その奴隷は、映像を見る限りでは他の三人にとても大切にされていたと思う。だから俺とは違う境遇に少しばかり嫉妬心も湧いていたが・・・
「でも、こんなのはあんまりだ・・・」
この塔の中で彼の身に何があったのかは分からない。でも、今のゾンビがあの奴隷だった人だと言うのなら、俺は初めて人を殺したのかもしれない。それも、この映像を残してくれていた恩人と呼べそうな人をだ。
それに、彼がああなったというのなら、俺ももしかするとああなってしまうのかもしれない。未だに攻略者が現れないのは、ダンジョンが人間を取り込んで魔物化させてしまうからなのかもしれない。
悪い想像が頭の中を回り、吐きそうなほどの感情が胸の内を埋め尽くしたが、吐くようなものは食べていない。そもそもこの二日、ほとんど食べ物を口に入れていない。水が切れたからだ。
「うっ、おえっ・・・ゲホッ」
それでも俺は、懺悔するように、許しを乞うように、床に手をついて何度もえずいた。
***
「身内がいないっすか?」
「@;*・++」
地球の名も無き神にリュータについて尋ねた「自称笑いの神」は困惑した。彼には血のつながった肉親はいないと聞いたからである。
「彼が時折言っているじっちゃんとは、誰っすか?」
そんな疑問が当然のように出てきたが、地球の名も無き神はその回答を持たなかった。身振り手振りで知らない事をアピールしてくるその神に、自称笑いの神は礼を言ってからその場を去った。
「おかしいっすよ。彼には父親も母親もいたはずっす」
転移させる者たちの人選をする際に仲間と共に集めた「神☆名簿」にも、両親の名前が記載されている。それなのに肉親がいないとなれば、彼が孤児だった可能性が出てきた。
だが、可能性が出てきただけで、何も分からない。仕方なく自称笑いの神は、彼の地球での生活の足跡を追う事にした。
まず最初に向かったのは、彼が以前住んでいたアパート。
そこには何もなかった。彼が行方不明になってからすでに一年以上も経っていたので、部屋の中のものは当然全て捨てられていた。
「手がかりとなりそうなものは、何もないっすね」
念のために近隣の小さき神々に尋ねていたが、そこでも成果は得られなかった。
これはもう、ほぼ唯一と言っていい手がかりの、彼のじっちゃんと言う人物を探すしかないと考えた自称笑いの神は、力ある存在と接触する事にした。
しかし結果は門前払いである。
ただしその理由は責められるものではなかった。
「アースガルズに関わっている神々との接触を禁ず、っすか」
現在荒れに荒れ、滅びの道を行くアースガルズ。それも上位神の道楽の末に引き起こされたとなっては、確かに真っ当な管理をしている他世界の神々からすれば、そう言う対応をせざるを得ないだろう。辛うじて死ぬ運命にある魂を転移や転生させる事には同意しているが、だからと言ってその魂の身辺調査を行なわせるなどは許容できないようだ。それは、こいつの身内だからこっちも頂戴、と言われるのを恐れての事だった。
「むむう。これは困ったっす」
力は地球の神々の方が完全に上だと、自称笑いの神は理解している。それは己の力が弱いというだけでなく、地球の神々は下位神なのに誰も彼もが強いのである。
最も、力がなければアースガルズの戦いに引き込まれていたので、当然と言えば当然だろう。
では何故そのような神々が、死ぬ運命にあるとは言え、貴重な資源でもある魂を譲り渡すような真似をしているかと言えば・・・
「厄介払いっすか。ここの世界の神様も中々に根性腐れが多いっすね」
死ぬ運命にある魂の中でも、特に問題を起こしそうな魂を譲っているのである。
自分たちは厄介払いを出来て、他世界では魂の補充が出来る。
とても合理的だが、生命を愛する自称笑いの神にとっては不愉快な話だった。とは言え、それを利用している自分を棚上げしてまで憤ったりはしない。
「正当化するつもりはないっす。でもそうなると、なおさら彼の力になりたいっすね」
意外にもリュータは信心深く、何かいいことがあれば神に感謝の祈りを捧げる。そんな使徒の純粋な思いに応えないなど、神の名折れであると考えていた。
「その為にも彼について知らないといけないっすが、どうにも無理そうっすね」
神と人の時間は同じではない。気が付けば人の時間で半年が流れているなどとはザラである。その為に自称笑いの神は早く力になりたいと思っていたが、あまりにも謎が多いリュータにお手上げだった。
「仕方がないっす。彼がポロリと過去話を漏らすまでは我慢するっす」
そうして自称笑いの神は、大勢の仲間を引き連れて再びアースガルズへと戻る準備を始めた。
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