最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~

gagaga

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第五章 リュータと異国の塔

第五十三話 リュータと便器と九階

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「なんでこんな所に便器が・・・」

 八階を探索し、俺はマップを埋めていた。八階はそれまでの広場のような大味な階層と異なり、大部屋に小部屋と廊下がある普通な作りをしていたので、探索にかなり時間がかかった。途中で犬型のゴーレムと言うかガーゴイルを見たけど、こちらから手を出さなければ襲ってこないようだったので放置した。『調査』によると、その犬型ガーゴイルは石像ごっこがマイブームらしい。

 なお、中央の大部屋には常に一体の魔物がいて、それがおよそ30分ごとに湧いて出てくる。楽に倒せたので興味は沸かなかったが、何度も出会ううちに弱点でも調べておこうと思ったら、これだよ。


 ラトピーコック Lv22
 HP 0/111
 MP 0/21
 属性:風

 物理攻撃力 39
 魔法攻撃力 24
 物理防御力 21
 魔法防御力 16

 スキル:バードスクリーム、クチバシアタック、蹴り
 ドロップ:クジャク肉、ラトピーコックのクチバシ、ラトピーコックの足、発情の種
 生態:クジャクのような外見をしており、尾を広げていかくをする。しかし本能が強化されている為か、いかくをするのに夢中でほとんど反撃してこない。偶に求愛目的で尾を広げてくるが、その相手は必ず同性である。そして執拗に迫ってくる上にストーキングまで行なうので、男性は注意すべし。特に尻。



「しかも鳴き声がイヤーン、バカーンってね。何だろう、これ」

 先のゾンビ戦の時のしんみりとした空気は、こいつのせいで木っ端みじんに打ち砕かれた。

「ダンジョンって、良く分からん」

 そうぼやいて俺は残る小部屋を次々と覗いた。中にはモンスターハウス、大量の魔物や魔獣がひしめき合っている部屋もあったが、共食いしていたのでそっと扉を閉めて『生活魔法』の『瞬間接着剤』で扉を固定しておいた。

 そして何度も小部屋を覗いては大部屋に戻り、時々沸くラトピーコックを退治して、俺はとうとう最後の小部屋へと辿り着いた。
 そこは飾り気のない小さな空間で、右手の壁には金属の出っ張り、トイレットペーパーホルダーが見て取れた。なお、紙はない。人の心をもてあそぶひどい罠だ。

 そんなどう見てもトイレっぽいその部屋の中央に鎮座していたのが、トイレの象徴である、便器だった。


***

「まさに洋便器と言うたたずまいだけど、まさかこれが殺人ウォッシュレットなのか?」

 何だか違う気がする。そして冷静になって考えてみれば、こんな怪しいダンジョンのこんな怪しいトイレで用を足すなんて、殺してくれと言っているようなものだった。油断しすぎである。
 しかしそれはそれとして、やっぱり怪しい。

 『調査』をしてみると、その便器、なんと魔物。
 それも俺の『調査』を弾く高レベルっぷり。

 となると、このフロアのボスがこいつなのか?

「便器の攻略なんて、何をすればいいんだよ」

 ひとまずサン〇ール的な『生活魔法』である『酸化』を使ってみた。

「ギィヤアアアアアアアアアアア!!」
「うおおお!?」

 便器が悲鳴を上げた。

 俺は何を言っているのだろうか。

「この塔と言う閉鎖空間で、俺もいよいよおかしくなったか?」

 真っ白い陶器製の全身に、座る便座部分とその下にくびれた排水部分、そして上部は水を溜めるタンクがつながっており、俺から見て右側面には水を流す為のレバーが付いている。

 眼前でのたうち回る洋便器は、間違いなく洋便器だった。

「何度見ても絶対に洋便器なんだけど、なんだこれ」

 床に下部を付けたまま、ビッタンビッタンと洋便器が右へ左への大暴れ。中から汚物が出てくるとイヤなので部屋を出て陰に隠れたが、それからしばらくしても音はまだ続いていた。

 もう十分以上ものたうち回っているのだろうか。それはあまりに酷いな。どうしよう。ここまで苦しめる気はなかったんだけど。

「ひとまずあれか、中和するか。えい、『アルカリ化』」

 ハイ〇ー的な『生活魔法』を使ってみた。あ、そう言えば酸性洗剤と塩素系洗剤を混ぜたら危険なんだっけか。
 前に土を中和する時に使った時は危険な事は起きなかったし、さすがに魔法だからそう言うのはないと思うけど、トイレや風呂のような密閉空間で混ぜると超危険だって言うしな。いやでも、まさかな・・・

「ギ、ギィ、ギャアアアアアアアア!!」
「ホワッ!?」

 何か黄色い煙が出てきた!? くせぇ!
 ナンデ? ナンデナン!?
 ヤッパリ混ぜたらアカンカッタン!?

「ぬおお!? やばいよやばいよ! こっちにまで煙が来た!? どうするよ!」

 こういう時は何だっけ? じっちゃん家でやっちゃったときは・・・そうだ!

「換気だ! 換気をしないと!」

 風呂場やトイレと言った密閉空間で塩素ガスが発生したら、とにかくそのガスを吸わない事と、換気をしていち早く薄める事、だったはず。しかしこのトイレ、窓がない!

 するとそんな俺の意思を感じ取ってくれたのか、『生活魔法』が『換気』をし始めた。しかし密閉された塔の中での換気。それはつまり、他の部屋へ空気を移動させると言う事だった。
 幸いにも俺を避けて空気の流れを作ってくれているようだが、俺を避けたからと言ってその塩素ガスが消えてなくなった訳ではない。そのガスは、八階のフロアへと広がり、俺のMPをガンガンと消費して、最終的にはどうにか消え去ったようだった。

「魔物の悲鳴が聞こえたから魔物に対して有効だったみたいだけど、罪悪感がハンパない」

 確かに生きるか死ぬか、食うか食われるかの状況だった。しかしそれでも、これはあんまりだと思う。状況は、『芳香剤:カメムシ』よりも悲惨なものだった。カメムシ臭はまだ生物に対してのみ有効だったが、この塩素ガスのようなものはゴーレム的な無機物の魔物に対しても有効だったようで、ガラガラと犬型ガーゴイルが崩れる姿が目に映った。この時点で塩素じゃない気はする。

 そして、そもそも以前獣人王国で使った際はこんな事にはならなかったのに、どうして今はこんな事になったんだろうか。

「発生しているのは塩素じゃないんだろうけど、じゃぁ何が起こったのかと聞かれても全く分からない。しかし、これ、本当に『生活魔法』なのか? ある意味で毒ガス攻撃だよな」

 『生活魔法』は生活を豊かにするための魔法だ。だからなのか、特に人間に対しては危害を加えないような安全装置的なものがある。しかし、今回はそれが働いていないように見える。

「考えても分からない、か」

 『生活魔法』の安全装置を過信しないようにしよう。

 なお、音がしなくなった段階でボス洋便器はどうやらお亡くなりになっていたようで、『換気』を施した時にはすでに死体がダンジョンに取り込まれていなくなっていた。

「カメムシの香りがする芳香剤も変だが、この『混ぜるな危険』も大概だな。まるで生活感を感じない」

 どちらかと言うとお笑い方面の力な気がする。それにしてはとんでもない威力だが、これはあの神様の仕業だろうか。もしかすると、俺が振るうハリセンは聖剣なみの破壊力があったりするのだろうか。

 いや、今はどうでいいか。
 とにかく目の前に現れた階段を登って、それから色々と考えよう。このフロアには、苦い思い出が多すぎる。

「しかし狭い階段だな。今までのお城のエントランスにありそうな階段とは違って、まるで個人宅の階段のようだ」

 しかも手すりがない。このダンジョンは欠陥住宅か?

「なんてね。はぁ、しかし結構長いな。五十段くらいあるんだが、この先は何があるんだ?」

 次が九階なのは間違いないだろうが、八階の状況を考えるとこの先も今までのようなだだっ広いだけのフロアではないよ・・・な!?

「なんだこれ!?」

 確かに九階は今まで通りじゃなかった。
 でも、何と言うか、どこのアトラクション施設なんだと思うような、奇妙な仕掛けが数多く目に付いた。

 まず目の前には通路が広がっているが、そのうちの右半分は途中で大きな階段となっている。ただし相変わらず手すりなど一切なく、石積みをただ並べただけの、日本のお城にありそうな階段だった。しかも半ば朽ちていて、登るのは遠慮したくなる。
 だが、その先にはあからさまに次の行き先を示す矢印が自己主張していた。
 そして階段の上にある通路には、巨大な振り子ガマがブラブラしているのが下からでも見えた。

 次に俺は階段の左側、その階段の行き先から見ると下側に位置する通路を見た。そこにはトゲのついた道や、時折火を吹き出す床などがあった。

「ゲームでこんなの見た事あるぞ。上から足を踏み外して落ちたら、この罠満載の道を通ってスタート地点である階段に戻らないといけないヤツだ」

 アクションゲームによくある展開だが、それを生身でやれと?

「なんて悪趣味な」


 そもそも階段の一番上は俺の身長の五倍、つまり十メートル以上も高さがある。およそ五階建てのマンションのベランダから落ちるくらいの高さだ。そこから落ちたらまずタダでは済まないのに、その上で落下した先には罠が満載とか、絶対にやり直しさせる気がない。

「人間をゾンビにしたり、乗り越えられないような罠を仕掛けたり、便器を動かしたり、クジャクがホモホモしかったり、仕掛けに性格の悪さがにじみ出ている。俺はここのダンジョンコアとは仲良くなれないかもしれない」

 いや、そもそも今までがおかしかったんだ。

 ダンジョンと人は本来なら相容れない存在のはず。それなのにダンジョンコアの妖精さん、元神様の彼女らは時々助言をくれたり、ダンジョン攻略の手助けをしてくれたりと、致せりつくせりだった。
 ただそれも、ここに飛ばされてきてからは、彼女らは沈黙している。オビヒロ市にいた時は俺の『ステータス』をチャット代わりに会話していたと言うのに、今は『ステータス』にはなにも表示されていない。
 特にソラミちゃんは何かとかいがいしく世話をやこうとしてくる。彼女が実在の人間だとしたら、間違いなくダメ男製造機だ。そんな彼女が今の俺の状況を見て放置するはずがなかった。

「つまり、最悪な状況に思えても、今はまだ大丈夫だと判断しているのか」

 それは信頼なのか、試練を与えようと言うダンジョンの意思なのか。


 そう言えば、彼女らについて、俺はほとんど何も知らなかったんだった。一番付き合いが長くて気さくな真紅さんの事でさえ、全く何も知らなかった。なんであんなパンクロックな格好をしているのか、疑問に思いはしてたけど、聞いたこともなかった。

 まぁ、元神様と言うけど彼女たちにその神様だった時の記憶はないらしいから、詳しく聞くのを遠慮していたんだけど、せめて好きな食べ物くらいは聞いておくべきだったな。あれだけ助けてもらっていたのに、俺も案外薄情な男だ。

「いや、待てよ。記憶がない? それ、どこかで聞いたことがあるな」

 そうだ。うちの主神様も記憶がないと言っていたけど、何か繋がっていたりするんだろうか。

「考えるのは、とりあえず目の前の魔物を倒してからにするか」

 遠目に見えていた、ゴブリンのような二足歩行する人型の魔物が接近してきたので、ひとまず意識を戦闘用に切り替える。
 我虎牙棍を構え、近づいてくる人型に向けて・・・、おや?

「小さい?」

 てっきりすごく遠くにいるから小さく見えていたのだと思っていたけど、歩いてきた魔物は十センチほどの大きさの何かだった。念の為に棍で小突いてみたが、それだけでご臨終なされました。

「弱っ!」

 その後もワラワラと湧いてくるけど、蹴るだけでお亡くなりになっていきました。
 先ほどまでの階層ではそれなりに苦戦したし、MPの節約を考えたりで大変だったけど、これなら多少体力は温存できるかもしれない。

「でも、水がもうないんだよな」

 『収納室』に入れていた水が切れた。たぶん、今日中に水を確保できなければ俺は生きて帰れないかもしれない。

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