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第五章 リュータと異国の塔
第五十四話 リュータと朽ち果てた・・・
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小物を粗方倒した俺は、意を決して階段を駆け上った。『調査』と『罠感知』により罠の可能性はないのが見えたからなのと、グズグズしていると石で出来た階段が崩れ落ちそうだったから。
実際に駆けあがる途中で階段脇の石の一つが階下へと転がり落ちていったのも見た。だけどそれで肝が冷えて、頭も冷えた。ここは慎重になりすぎても、慌てすぎてもいけないのだと悟った。
「だとしても、時間がないんだ!」
階段を登り切った後で、俺は一度落ち着く為に自分の頬を叩いた。ペチン、と言う情けない音が響いた。
すると、その音を聞いたからか、突然右上の梁の陰から何かが飛び出して来た。
「ギャピエー!!」
「早速のお出迎えか! この野郎!」
俺は飛んできたコンドルのような魔物を我虎牙棍を振り回して迎撃しようとするが、それを空中で身を捻ったコンドルに難なくかわされてしまう。
「こいつ! 今までの魔物とは違う!」
「ギャピエー! ギャピピピピ!!」
今までも空を飛ぶ魔物には何度か遭遇した事がある。コウモリ型にフクロウ型、ワシ型なんてものあった。
しかし今回のヤツは程度が違う! なんで空中で体を畳んでラグビーボールみたいな形になって、そこからさらに全身を捻って回避する鳥類がいるんだ! 羽がフワリと体に巻き付いて華麗に回避って、ガッ〇ャマンかよ!
コンドル野郎は長い首を振り回し、鋭いクチバシで何度も攻撃をしてくる。かと思えば飛び上がって棍を足でけり上げたり、俺が反撃しようとすると俺の手が届かない場所まで華麗なステップと空中舞踏で逃げる。
足場は先ほどの通りモロい石段だから非常に悪い上に、時折横から作動したトラップに殺されかける。ヤツを追いたくても、ブラブラと揺れる振り子ガマがそれを許さない。俺が歯噛みしてヤツを睨むと、それを見てニンマリとコンドルが笑った。
「まさか、罠の位置まで誘導してたのか!?」
こいつがそうなるように誘導していたのに気が付いて、背筋が凍った。
頭もいい。動きも素早い。しかも攻撃力が高く、万が一にもあのクチバシをまともに食らったら、俺は間違いなく一撃で死ぬだろう。決して見た目だけで油断していい相手じゃなかった。
「なんでこの世界は、ハゲているヤツが軒並み強いんだ!!」
そう、相手は頭部装甲のない、いわゆるハゲタカだった。
だからなのか、滅茶苦茶強い。
よく考えれば俺が初めて出会ったゴブリンは、髪の毛生えてたらしいしな!! 五分刈りみたいな短髪で当時は気が付かなかったけど、真紅さんがそう主張していたのを思い出した。
いや、それを思い出したところで、どうしようもないんだけどさ。
「クッ! この! 当たるかよ!」
ヤツは強敵だ。しかし一方で俺も負けてはいないはずだ。
パワーアップした『流体感知』で空気の流れを読んで、ヤツの行動の先手を打つ。左へ行くとフェイントしつつ右へ行こうとしているのが羽の動き、いや、そこから流れてくる空気で分かる。感じ取った風を頼りに右へ我虎牙棍を見舞った。
「死ねぇええ! ぐあ、かてぇ!」
ガキン、と言う音と共にヤツの羽と接触した棍が弾かれた。見た目に反して羽部分が非常に硬いようだ。しかもワチャクチャ動いているから、棍を接触させて『生活魔法』で焼き払う事が出来ない。
「『火』を出しっぱなしにして叩くか?」
思い立ったが吉日だ。
言葉の使い方を間違えた気がするけど、それを考えている余裕がない。
俺は再びヤツの動きを先読みする。上昇し、急降下をすると見せかけて、目標地点は・・・、背後!?
「何をする気か知らないけど、これでも食らえ! 火十連!!」
「ギャピエー!?」
俺の背後に回り込もうとしたコンドルを、俺は腕を引きながら俺から見て棍の後ろ側をヤツに叩き付けた。そして更に棍をはね上げて、錐もみ状態だったヤツの羽と羽の間に棍をねじ込む。それと同時に火十連をぶちかますが、どうやら思ったよりも効いていない。多少びっくりしたようだが、軽快なステップで俺から距離を取った後、平気そうな顔でヤツはこちらを見た。
「こいつ、火に耐性があるのか!?」
まさかオーガと同レベルの耐性持ちだったかと思ってみてみれば、俺の目の前にはヤツの羽根が落ちていた。なるほど、こいつをオトリにして俺の攻撃を防いだのか!
となると、こいつを倒すにはまず羽根を全部むしらないと・・・って、生えてくるのかよ!
「ギャピエエエエ~~」
地面に降り立ち、ユラユラとケツを振りながら生え変わった羽根を見せつけてくるコンドル。そしてお尻ペンペンって
「性格悪っ! すんげー性格悪っ!!」
もうこうなったら自爆覚悟でカメムシ使うか?
って、ちょっと待て! なんだよ今度は地上戦かよ!
「俺の攻撃が効かないと分かった途端にこれかよ」
ヤツは器用にも両方の羽を剣に見立てて打ち払ってくる。俺は我虎牙棍でいなし、時に大きく後退してかわすが、やばいもう後がない。
仕方がないので俺も攻勢に出る。
「食らえ! 『百烈棍』 ・・・あああああ!?」
なんだこいつ、三発同時攻撃を全部ブロッキングした!?
どこかで見たぞ、これ。
あ、ブレードタイガーと同じ動きか!
「ブロッキングに絶対の自信ありってか!?」
「ギャピエー、ギャプププ」
両方の羽を揺らして、オラ来いよ全部止めてやるぜと挑発してくる。
そうか、ブレードタイガーも同じような感じだったもんな。回避よりもブロッキングが好きなタイプなのか。
「なら遠慮なく、我虎牙棍!」 ガコガコン
ポチっと変形ボタンを押せば、いつもの音と共に我虎牙棍はサーベル杖モードに変形した。
リーチがだいぶ短くなったものの、コンドルは必ずブロッキングしてくる!
なら、その時がお前の最後だ!!
「滅びろクソ鳥! 『超振動』からの『金剛棍』!!」
俺は走りコンドルと距離を詰めながら『超振動』で刃を揺らして、そして命中補正が極めて高い『金剛棍』を使用した。
そんな俺の動きに合わせるように、両手、手? 両方の羽をクロスさせて十字斬りをカウンターで当ててきたコンドルの顔は、驚きに歪んでいた。
ヤツの翼が宙を舞う。
俺の『超振動』が予想通りヤツの硬度を上回ったようで、ヤツの翼が中ごろから切れた。その翼は回転しながら俺の後方の床に突き刺さったらしく、ザシュと言う音が二つ聞こえた。
しかし、浅かった。
我虎牙棍サーベル杖モードはリーチが短いから、ヤツの首を刎ねるにはもう一歩が必要だった。
ならどうするか。
今でしょ!
「逃がすかよ! うおおおおおおお!!」
慌てて飛んで逃げようとするヤツは、翼が短くなっているために飛びたてず、俺の一撃で絶命した。
***
「はぁっ、はぁっ。ん、ぐあ。もうダメだ」
二日もほぼ水分なしで動き回っている。脱水症状だろう。
コンドル型の魔物との激戦を終えて集中力が切れた途端に、意識がもうろうとしてきた。
「緊張の糸が切れるって、こういう事か」
たぶん、ここまで頑張ったのは生まれて初めてだろうな。今までも命の危険を感じる事はあったけど、こうやって消耗戦を強いられることは・・・あれ?
「いや、何か、いつかどこかで・・・」
ぼんやりとしたカスミがかった記憶が俺の中にある。その中に、良く分からないが追いつめられていた俺がいる。その俺は幼く、見た所五歳くらいだろうか。はっきりと見えないのに、それでも死にそうな弱弱しさを感じる。
「なんだこれ!? 俺にはこんな覚えがないぞ!!」
ちくしょう、いきなり何なんだ。
いや、待て。
「これはこのダンジョンの精神攻撃か!?」
記憶にない光景を見せてきて、俺を惑わそうと言うんじゃないだろうか。
「冗談じゃない! 早くダンジョンコアの元へ行って、それを叩き壊さないと!」
この性悪ダンジョンは、精神攻撃まで仕掛けてくるのか。
「ちくしょーー!!」
俺はこの時、肉体的にも精神的にも追いつめられ、錯乱していたんだと思う。
どこをどう走ったのか分からない。
気が付けば、階層不明の小部屋に来ていた。
「ここ、どこだ?『ステータス』にもないし、地図も完全に孤立した島みたいになってるぞ」
もし島なら、これは単なる岩じゃないのか? と言ってしまうほど小さいんだけど・・。
なんて思って周りを見渡すと、俺の腰ほどの高さしかない、斜めにえぐれた岩のような何かがあった。
「なんだこれ・・・、すごい見覚えがあるような、ないような」
ヒントを探してあちこち見てみたら、すぐに答えは出た。その岩の根本にポコポコと湧き出すヘドロが・・・。
「汚れてるし、壊れているけど、これ、モノリスか」
この石板でも壊れる事があるのか。
いや、待てよ? これ、もしかしてこいつの所為で閉じ込められたパターンか?
「いしの なかに いる」
口に出して後悔した。もう後悔しかなかった。
でも、かえって冷静になれた。
「そうか。俺の旅もここで終わりなのか」
そう思うと、・・・、思うとなんだか部屋が汚れているのが気になった。
「人間、死に際が大事って言うしな。閉じ込められたんならもう、ここを掃除して最後を待つしかないか」
ならお掃除のお時間です。
俺は『生活魔法』を駆使してこの小部屋の掃除を始めた。
「まず手始めに、換気か。ほい『換気』」
体力が減っているからか、魔法を使うたびにちょっとずつフラつくけど、仕方がない。
「そして次は、水洗いか」
『生活魔法』で『魔法水』を出して全体を洗う。『ジェット水流』と『スチーム』もついでに駆使しする。こいつらを使うと汚れが落ちるのも早い早い。しかしそう言えば、さっきの『換気』した空気もそうだけど、汚れた諸々はどこに行ってるんだ?
「まぁ、いいか」
お次はヘドロと化した湧き水だけど、これは『ろ過』すればOK。でもこれは飲めなさそうだな。念の為に『鑑定』してみたら、全力で止められた。ただ、この口調はなんなのか。
汚染された神の湧き水
-神力を元に生成された清らかな水だったもの。
-口に含むと魔物化の可能性が極めて高くなるので絶対に口にしないように。マジヤベェ! チョ、マジヤベェッスヨ!!
「おいおい」
とは言え、確かにヤバそうだから口にはしない。最後まで希望は捨てない。いやさっき捨ててた気がするけど、掃除してたら気分も落ち着いてきた。あの気の抜けた『鑑定』結果の影響もあるかもしれない。
「これで、終わりか」
モノリスだった岩を磨いて、俺は最後に雑巾を洗って掃除を終えた。
するとモノリスがわずかに光り出した。
「え? なんだこれ!」
そして眼前に巨大なメッセージ。
あ、これ『ステータス』か。
[真紅:今すぐ記憶のオーブを破壊しなさい!]
[藍子:殴るのよ]
[クロノ:そしたらシルビィエン(略)に『電話』]
「え? ええ!?」
いきなりの妖精カルテット、いやソラミちゃんがいないけど、とにかく今の今まで沈黙していた彼女たちからのメッセージが見えた。
そして俺は咄嗟にこのダンジョンで拾ったオーブを『収納室』から取り出して、殴った。
堅い・・・。でも、やるしかっ。
「うおおおおおお!!」
何度も何度も殴った。それでも割れずに最後は噛んだ!
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ!!」
パキ、バギン!
「ブッジャー!」
口の中、たぶん血まみれ。しかしそれにも構わず俺は少し欠けたオーブを口から離して再び殴って、完全に真っ二つにした。
「ヤッハホー!」
って、なんかモノリスが超光ってるんですけど!?
いや、そんな事よりシルちゃんに『電話』だ!!
プルルルル、ガチャッ。
受話器が持ち上げられる音を聞いたと共に、俺の意識は光に包まれた。
実際に駆けあがる途中で階段脇の石の一つが階下へと転がり落ちていったのも見た。だけどそれで肝が冷えて、頭も冷えた。ここは慎重になりすぎても、慌てすぎてもいけないのだと悟った。
「だとしても、時間がないんだ!」
階段を登り切った後で、俺は一度落ち着く為に自分の頬を叩いた。ペチン、と言う情けない音が響いた。
すると、その音を聞いたからか、突然右上の梁の陰から何かが飛び出して来た。
「ギャピエー!!」
「早速のお出迎えか! この野郎!」
俺は飛んできたコンドルのような魔物を我虎牙棍を振り回して迎撃しようとするが、それを空中で身を捻ったコンドルに難なくかわされてしまう。
「こいつ! 今までの魔物とは違う!」
「ギャピエー! ギャピピピピ!!」
今までも空を飛ぶ魔物には何度か遭遇した事がある。コウモリ型にフクロウ型、ワシ型なんてものあった。
しかし今回のヤツは程度が違う! なんで空中で体を畳んでラグビーボールみたいな形になって、そこからさらに全身を捻って回避する鳥類がいるんだ! 羽がフワリと体に巻き付いて華麗に回避って、ガッ〇ャマンかよ!
コンドル野郎は長い首を振り回し、鋭いクチバシで何度も攻撃をしてくる。かと思えば飛び上がって棍を足でけり上げたり、俺が反撃しようとすると俺の手が届かない場所まで華麗なステップと空中舞踏で逃げる。
足場は先ほどの通りモロい石段だから非常に悪い上に、時折横から作動したトラップに殺されかける。ヤツを追いたくても、ブラブラと揺れる振り子ガマがそれを許さない。俺が歯噛みしてヤツを睨むと、それを見てニンマリとコンドルが笑った。
「まさか、罠の位置まで誘導してたのか!?」
こいつがそうなるように誘導していたのに気が付いて、背筋が凍った。
頭もいい。動きも素早い。しかも攻撃力が高く、万が一にもあのクチバシをまともに食らったら、俺は間違いなく一撃で死ぬだろう。決して見た目だけで油断していい相手じゃなかった。
「なんでこの世界は、ハゲているヤツが軒並み強いんだ!!」
そう、相手は頭部装甲のない、いわゆるハゲタカだった。
だからなのか、滅茶苦茶強い。
よく考えれば俺が初めて出会ったゴブリンは、髪の毛生えてたらしいしな!! 五分刈りみたいな短髪で当時は気が付かなかったけど、真紅さんがそう主張していたのを思い出した。
いや、それを思い出したところで、どうしようもないんだけどさ。
「クッ! この! 当たるかよ!」
ヤツは強敵だ。しかし一方で俺も負けてはいないはずだ。
パワーアップした『流体感知』で空気の流れを読んで、ヤツの行動の先手を打つ。左へ行くとフェイントしつつ右へ行こうとしているのが羽の動き、いや、そこから流れてくる空気で分かる。感じ取った風を頼りに右へ我虎牙棍を見舞った。
「死ねぇええ! ぐあ、かてぇ!」
ガキン、と言う音と共にヤツの羽と接触した棍が弾かれた。見た目に反して羽部分が非常に硬いようだ。しかもワチャクチャ動いているから、棍を接触させて『生活魔法』で焼き払う事が出来ない。
「『火』を出しっぱなしにして叩くか?」
思い立ったが吉日だ。
言葉の使い方を間違えた気がするけど、それを考えている余裕がない。
俺は再びヤツの動きを先読みする。上昇し、急降下をすると見せかけて、目標地点は・・・、背後!?
「何をする気か知らないけど、これでも食らえ! 火十連!!」
「ギャピエー!?」
俺の背後に回り込もうとしたコンドルを、俺は腕を引きながら俺から見て棍の後ろ側をヤツに叩き付けた。そして更に棍をはね上げて、錐もみ状態だったヤツの羽と羽の間に棍をねじ込む。それと同時に火十連をぶちかますが、どうやら思ったよりも効いていない。多少びっくりしたようだが、軽快なステップで俺から距離を取った後、平気そうな顔でヤツはこちらを見た。
「こいつ、火に耐性があるのか!?」
まさかオーガと同レベルの耐性持ちだったかと思ってみてみれば、俺の目の前にはヤツの羽根が落ちていた。なるほど、こいつをオトリにして俺の攻撃を防いだのか!
となると、こいつを倒すにはまず羽根を全部むしらないと・・・って、生えてくるのかよ!
「ギャピエエエエ~~」
地面に降り立ち、ユラユラとケツを振りながら生え変わった羽根を見せつけてくるコンドル。そしてお尻ペンペンって
「性格悪っ! すんげー性格悪っ!!」
もうこうなったら自爆覚悟でカメムシ使うか?
って、ちょっと待て! なんだよ今度は地上戦かよ!
「俺の攻撃が効かないと分かった途端にこれかよ」
ヤツは器用にも両方の羽を剣に見立てて打ち払ってくる。俺は我虎牙棍でいなし、時に大きく後退してかわすが、やばいもう後がない。
仕方がないので俺も攻勢に出る。
「食らえ! 『百烈棍』 ・・・あああああ!?」
なんだこいつ、三発同時攻撃を全部ブロッキングした!?
どこかで見たぞ、これ。
あ、ブレードタイガーと同じ動きか!
「ブロッキングに絶対の自信ありってか!?」
「ギャピエー、ギャプププ」
両方の羽を揺らして、オラ来いよ全部止めてやるぜと挑発してくる。
そうか、ブレードタイガーも同じような感じだったもんな。回避よりもブロッキングが好きなタイプなのか。
「なら遠慮なく、我虎牙棍!」 ガコガコン
ポチっと変形ボタンを押せば、いつもの音と共に我虎牙棍はサーベル杖モードに変形した。
リーチがだいぶ短くなったものの、コンドルは必ずブロッキングしてくる!
なら、その時がお前の最後だ!!
「滅びろクソ鳥! 『超振動』からの『金剛棍』!!」
俺は走りコンドルと距離を詰めながら『超振動』で刃を揺らして、そして命中補正が極めて高い『金剛棍』を使用した。
そんな俺の動きに合わせるように、両手、手? 両方の羽をクロスさせて十字斬りをカウンターで当ててきたコンドルの顔は、驚きに歪んでいた。
ヤツの翼が宙を舞う。
俺の『超振動』が予想通りヤツの硬度を上回ったようで、ヤツの翼が中ごろから切れた。その翼は回転しながら俺の後方の床に突き刺さったらしく、ザシュと言う音が二つ聞こえた。
しかし、浅かった。
我虎牙棍サーベル杖モードはリーチが短いから、ヤツの首を刎ねるにはもう一歩が必要だった。
ならどうするか。
今でしょ!
「逃がすかよ! うおおおおおおお!!」
慌てて飛んで逃げようとするヤツは、翼が短くなっているために飛びたてず、俺の一撃で絶命した。
***
「はぁっ、はぁっ。ん、ぐあ。もうダメだ」
二日もほぼ水分なしで動き回っている。脱水症状だろう。
コンドル型の魔物との激戦を終えて集中力が切れた途端に、意識がもうろうとしてきた。
「緊張の糸が切れるって、こういう事か」
たぶん、ここまで頑張ったのは生まれて初めてだろうな。今までも命の危険を感じる事はあったけど、こうやって消耗戦を強いられることは・・・あれ?
「いや、何か、いつかどこかで・・・」
ぼんやりとしたカスミがかった記憶が俺の中にある。その中に、良く分からないが追いつめられていた俺がいる。その俺は幼く、見た所五歳くらいだろうか。はっきりと見えないのに、それでも死にそうな弱弱しさを感じる。
「なんだこれ!? 俺にはこんな覚えがないぞ!!」
ちくしょう、いきなり何なんだ。
いや、待て。
「これはこのダンジョンの精神攻撃か!?」
記憶にない光景を見せてきて、俺を惑わそうと言うんじゃないだろうか。
「冗談じゃない! 早くダンジョンコアの元へ行って、それを叩き壊さないと!」
この性悪ダンジョンは、精神攻撃まで仕掛けてくるのか。
「ちくしょーー!!」
俺はこの時、肉体的にも精神的にも追いつめられ、錯乱していたんだと思う。
どこをどう走ったのか分からない。
気が付けば、階層不明の小部屋に来ていた。
「ここ、どこだ?『ステータス』にもないし、地図も完全に孤立した島みたいになってるぞ」
もし島なら、これは単なる岩じゃないのか? と言ってしまうほど小さいんだけど・・。
なんて思って周りを見渡すと、俺の腰ほどの高さしかない、斜めにえぐれた岩のような何かがあった。
「なんだこれ・・・、すごい見覚えがあるような、ないような」
ヒントを探してあちこち見てみたら、すぐに答えは出た。その岩の根本にポコポコと湧き出すヘドロが・・・。
「汚れてるし、壊れているけど、これ、モノリスか」
この石板でも壊れる事があるのか。
いや、待てよ? これ、もしかしてこいつの所為で閉じ込められたパターンか?
「いしの なかに いる」
口に出して後悔した。もう後悔しかなかった。
でも、かえって冷静になれた。
「そうか。俺の旅もここで終わりなのか」
そう思うと、・・・、思うとなんだか部屋が汚れているのが気になった。
「人間、死に際が大事って言うしな。閉じ込められたんならもう、ここを掃除して最後を待つしかないか」
ならお掃除のお時間です。
俺は『生活魔法』を駆使してこの小部屋の掃除を始めた。
「まず手始めに、換気か。ほい『換気』」
体力が減っているからか、魔法を使うたびにちょっとずつフラつくけど、仕方がない。
「そして次は、水洗いか」
『生活魔法』で『魔法水』を出して全体を洗う。『ジェット水流』と『スチーム』もついでに駆使しする。こいつらを使うと汚れが落ちるのも早い早い。しかしそう言えば、さっきの『換気』した空気もそうだけど、汚れた諸々はどこに行ってるんだ?
「まぁ、いいか」
お次はヘドロと化した湧き水だけど、これは『ろ過』すればOK。でもこれは飲めなさそうだな。念の為に『鑑定』してみたら、全力で止められた。ただ、この口調はなんなのか。
汚染された神の湧き水
-神力を元に生成された清らかな水だったもの。
-口に含むと魔物化の可能性が極めて高くなるので絶対に口にしないように。マジヤベェ! チョ、マジヤベェッスヨ!!
「おいおい」
とは言え、確かにヤバそうだから口にはしない。最後まで希望は捨てない。いやさっき捨ててた気がするけど、掃除してたら気分も落ち着いてきた。あの気の抜けた『鑑定』結果の影響もあるかもしれない。
「これで、終わりか」
モノリスだった岩を磨いて、俺は最後に雑巾を洗って掃除を終えた。
するとモノリスがわずかに光り出した。
「え? なんだこれ!」
そして眼前に巨大なメッセージ。
あ、これ『ステータス』か。
[真紅:今すぐ記憶のオーブを破壊しなさい!]
[藍子:殴るのよ]
[クロノ:そしたらシルビィエン(略)に『電話』]
「え? ええ!?」
いきなりの妖精カルテット、いやソラミちゃんがいないけど、とにかく今の今まで沈黙していた彼女たちからのメッセージが見えた。
そして俺は咄嗟にこのダンジョンで拾ったオーブを『収納室』から取り出して、殴った。
堅い・・・。でも、やるしかっ。
「うおおおおおお!!」
何度も何度も殴った。それでも割れずに最後は噛んだ!
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ!!」
パキ、バギン!
「ブッジャー!」
口の中、たぶん血まみれ。しかしそれにも構わず俺は少し欠けたオーブを口から離して再び殴って、完全に真っ二つにした。
「ヤッハホー!」
って、なんかモノリスが超光ってるんですけど!?
いや、そんな事よりシルちゃんに『電話』だ!!
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