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第六章 リュータと神と勇者の秘密
第六十四話 姫と密林
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やってまいりました、密林。
目の前には、密林。
そして人影まったく見えません。
「神よ!! 俺が何をしたと言うのですか!?」
おっと、この展開にはデ・ジャ・ビューを感じるよ?
てな訳で、現在地、密林。
「大丈夫か? リュータ殿」
阿呆な事を言っていたら、アンリエット様に心配されてしまった。
己の奇行を顧みて、思わず苦笑いが漏れる。
「フ、フヒヒ。大丈夫だよ?」
「それはそやつのいつもの病気だ。気にする必要はないぞ、おば上」
「ひどい!?」
エルフの里から戻ってからと言うものの、仕事を押し付けていたが故に不機嫌続きのウィルのそんな鋭い一言に思わず胸を抑える俺と、どうしてか絶句した様子のアンリエット様。
「・・・オバ? ふむ、君は物覚えが良い方だと思っていたのだが、実に残念だ。『ストーンシュート』!」
「ちょっ、まっ、あっ! フゲェ!?」
チュドンなんて着弾音と共に、怒りのアンリエット様から発射された小粒に当たって吹き飛ぶウィル。
言葉を選ばなかったが故なので自業自得ではあるが、インドア派の彼が木に激突して衝撃で目を回しているのにはさすがに同情する。
失言の小ささの割に、被害甚大だ。
アンリエット様は、父親であるオーリム王子の妹なんだから、立場上「おば」と言うのは間違っていないんだが、昨日のやり取りを知っているくせになんともウカツだったな。
ひとまず『生活魔法』の『応急手当』を使いウィルの頭に出来ているタンコブを治す。
最近まで引きこもっていたが為に、ウィルの対応能力は割と低い。今の不意打ちをノーガードで食らうのは、この場ではウィルだけだ。クンフー足りてないぞ、ウィル。
なんて自分の事を棚上げして失礼な事を考えながら、ウィルが立ち上がるのに手を貸しつつ、昨晩の事を思い出す。
そもそも、なぜ俺がホッカ街の南に位置する密林ダンジョンにいるかと言えば、もう面倒くさい事情が色々とあるのです。
面倒くさい事情。
例えば、元勇者ことワン君(本名、伊藤剛君)の元婚約者であり、彼がこの国を去る原因となった人がなんとアンリエット様だったとか。
その事で夕食時の顔合わせでひと悶着あり、急ぎ席を設けて話し合いを行なった。
すると、婚約自体は白紙になったし復縁させる気も無いのの、逃げた責任だけは取れと言う話となり、ワン君の勇者の力を密林ダンジョンで奮うように要請されたり、それが飼い主であるミチルさんの責任問題になったり
ミチルさんが
「私はもう、リュータさん無しでは生きていけません。だからリュータさんがいない所へは行きたくありません」
と、誤解を招くことを言い出したり。
とかく、色々あったのです。
なお、シルちゃんはミチルさんの言葉に対して
「英雄色を好むと言うでの。結構なことじゃ」
等と申しておりました。
いや、ミチルさんはああ見えて生活能力皆無だから、俺や『レッドキャップ』たちの家事全般に頼り切りだって話なんだけどね。
元々お嬢様で温室育ち(ただし剣術は師範代クラス)みたいだし、高校生くらいだと家事ってあんまやらないよねって感じで今まで面倒見てきた弊害が今、遺憾なく、いや、俺的には遺憾アリアリなんだが、とにかく発揮されてしまったのである。
なお、ワン君と二人で旅をしていた頃に自力でなんとかしようとした結果、どうしようもないと言う結論に至った模様。
ワン君には下着を洗わせられないが、俺ならいいらしい。彼女なりの何かがあるようだが、それが断じて恋心的なものでないのは確かだ。
悪い意味で依存されてしまっている。
俺は君のオカンではないんだよ?
とにかくこの結果、俺、ミチルさん、ワン君に、ダンジョンの管理者であるシルちゃん、責任者としてウィル、あとアンリエット様の六人で密林ダンジョンの調査をするハメになったのである。
ちなみに六人である理由は、これ以上増えると奥にいる強い魔物を刺激してしまうから。
***
俺たちはまず、拠点としているホッカ街から門前町ムーラヌまで馬車で移動。
昼過ぎに到着して、ご飯を食べてからすぐに出発しダンジョンへと侵入。
夕方にモノリスでキャンプを張ると言う計画を、昨晩遅くまで立てていた。
前々回、俺とシルちゃんが建てた愛の小屋は、前回の時には既に消失していた。だから現地で改めてテントを張る必要がある。
その為に急ぎ足となっているが、唯一の不安であったウィルは魔道具を使って体力を底上げしているのでギリギリ間に合いそうだ。
それでも道中、ウィルが吹き飛ばされたり、ワン君とアンリエット様のチクチク口撃合戦(本当に仲が悪いのね)と言う妙なアクシデントがあったりしたものの、移動中に出た魔物はザコのデモンリーフ、30cmもある巨大な葉っぱを手裏剣みたいに飛ばしてくるが射程1mもない所詮は草、がメインで、ゴブリンやオークは前々回、つまり最初の調査時にはいたものの、前回と今回では見かけなかったので、戦闘力が過剰な事もあり、かなり順調に進んでいる。
「植生も大分変わってて、このダンジョンも随分と穏やかになっているなぁ」
「そうなのか。それは実に興味深い話だ。それで他に違いはないか? 何でもよい、遠慮なく申すがいい」
そう問われ、俺が前回と前々回と今回の違いを話すと、口調とは裏腹にだいぶ食い気味でアンリエット様が追加で訊ねてきた。
そこで俺とシルちゃん二人でアレが違うコレが違う、あんなものはなかったこんなものは前からある、と雑多に色々な情報を話してみれば、アンリエット様は嫌な顔一つせず適度に相槌を打ち、時にこちらに質問を投げかけてくる。
アンリエット様の人柄と言うか、気質が良く分かる会話だった。
アンリエット様は研究者気質の人で、でも良くあるテンプレートなルーズタイプではない。生真面目で自分から冗談はほぼ言わないけど、冗談には理解がある。
ウィルとは真逆だな。
それでいて本人は超優秀な兵士でもある。
先ほどウィルを撃った『ストーンシュート』も、本来の威力はもっと大きく、あの距離ならウィルの耐久力では骨を砕かれてもおかしくはない。それを最小限の力にまで抑え込み、力を分散させるように柔らかい石を飛ばした辺りに、魔力制御の技術の高さだけでなく、物理的な知識の豊富さも感じ取れた。
つまり、実践向きな研究をするのが好きなタイプなのだろう。
研究者気質と言う点ではウィルと同類だが、彼女はウィルとは正反対のアウトドア派だから、あれでいて夢見がちなインドア派のウィルとはちょっとソリが合わないみたいだ。
***
今回の元玄武ダンジョン跡の調査や、カメムシ洞窟の調査、密林ダンジョンの調査は自分の趣味と言うだけでなく、民の暮らしを脅かすかどうかについて調べるのも理由のようで、話をしていると公私を実にうまく使い分けているのが伝わってくるほどに如才がない人のようだ。
気安いお姉さんみたいな人だが、こういう所はとても貴族っぽい。
ここまでのアンリエット様を知ると、もし仮に彼女が俺の上司なら、かなり幸せかもしれないと言う結論に至った。
それとプライベートの部分に対する理解も深いし、うーん、恋人にするにしても素晴らしい人だとも思った。
「どうしてワン君は、そんなアンリエット様から逃げたんだろうか」
シルちゃんと魔物談義に花を咲かせているアンリエット様には聞こえない程度の小声で呟く。
するとその声を拾ったミチルさんが、声をかけてきた。
「そうですね。すごく素敵な人だから、私も不思議です」
「だよねぇ。昨日のやり取りも要領を得なかったし、単に馬が合わなかっただけなのかなぁ」
「うーん、どうでしょう。そう言う雰囲気でも無かった気がしますが」
自分で言っていて、確かに疑問だったけど、やっぱりミチルさんから見てもそんな理由で彼女を振るワン君は想像できないか。
「おい」
「ん? ああ、ワン君。どうしたの? 魔物でも出た?」
「いや、ちげぇ」
今まで一同のやや後方、アンリエット様と若干距離を取った位置にいたワン君が近寄ってきていた。
言いたいことでもあるのだろう。
あー、うー、お、おぅ、などと意味不明な単語を口から吐き出しつつ、あっちを見たりこっちを見たりして、やがて決心したのか、なぜ逃げたのかを教えてくれた。
「あいつ、今二十五歳なんだよ。五年前は二十歳だ。そして当時の俺様は、地球換算で十五だった」
「あ、うん。へー、アンリエット様はやっぱり若いんだな」
「出来る大人の女性だから、納得ですね」
しかし、当時ニ十歳ねぇ。
「もしかして年上だから、姉さん女房的なものが受け入れられなかったのか?」
「ちが・・・わなくもないが、それよりも問題があんだろ?」
問題。
なんだろうか。
ミチルさんに目配せするが、ハテナ? と首を傾げられてしまった。
「俺はこの世界に着いた当時から、この世界と前の世界の差は知ってたんだよ」
「ああ、前に言っていた神様に植え付けられた知識ってヤツね。俺にはなかったけど・・・」
「んだよ、話の途中で腐んな。いいか? 俺様はな、この世界と向こうの世界の一年の差を知っていたんだ」
一年の差。
えーと、確かこちらの一年は向こうの1.25倍なんだったっけ。
てーと、おや?
「五年前の当時、地球換算で二十五歳、つまり俺様は十歳年上のババァと結婚させられかけたんだよ・・・」
二十五歳でババァとはずいぶんな物言いだと思ったけど、当時十五歳の高校生だったワン君がそう思うのは無理もないか。
いや、こちらで八百歳、地球換算で千年以上生きているシルちゃんを普通に受け入れてる事から考えても、ちょっと引っかかるな。
そもそもワン君はファンタジー大歓迎なタイプだし、年齢差が理由になるのか?
更にはこっちの人と向こうの人とじゃ、まず平均寿命から違うのに・・・。
何か、違和感がある。
なんて考えて、思わずジト目をワン君に向けていると、ウッと呻いた後で、絞り出すような声でワン君は答えた。
「いや、そのな。俺のアネキにそっくりなんだ、あいつ」
「お姉さんに?」
突如出てきた新キャラ情報に、俺とミチルさんが顔を合わせる。
一体それの何が問題なんだろうか。
「あのするどい顔つきも、強引かつ合理的すぎる性格も、何もかもソックリなんだ! そんなアネキは、俺をいじくり回すのが大好きだったんだ」
ああ、うん。
そう言う事ね。
どうやらワン君は、実の姉から受けたトラウマが出て、アンリエット様から逃げたようだ。
「それはまぁ、しょうがないのかなぁ・・・?」
「しょうがねぇんだよ・・・」
「人それぞれですからね。こればかりは私も無理に我慢しろとは言えません」
なんとも釈然としない理由だけど、当人にとっては大問題なんだろうなぁ。
ほんの少し話しただけなのに、そのアネキさんとやらを思い出して非常に落ち込んでいるワン君の煤けた背中を見ながら、その後俺とミチルさんはキャンプ予定地のモノリスまで無言で歩いたのだった。
目の前には、密林。
そして人影まったく見えません。
「神よ!! 俺が何をしたと言うのですか!?」
おっと、この展開にはデ・ジャ・ビューを感じるよ?
てな訳で、現在地、密林。
「大丈夫か? リュータ殿」
阿呆な事を言っていたら、アンリエット様に心配されてしまった。
己の奇行を顧みて、思わず苦笑いが漏れる。
「フ、フヒヒ。大丈夫だよ?」
「それはそやつのいつもの病気だ。気にする必要はないぞ、おば上」
「ひどい!?」
エルフの里から戻ってからと言うものの、仕事を押し付けていたが故に不機嫌続きのウィルのそんな鋭い一言に思わず胸を抑える俺と、どうしてか絶句した様子のアンリエット様。
「・・・オバ? ふむ、君は物覚えが良い方だと思っていたのだが、実に残念だ。『ストーンシュート』!」
「ちょっ、まっ、あっ! フゲェ!?」
チュドンなんて着弾音と共に、怒りのアンリエット様から発射された小粒に当たって吹き飛ぶウィル。
言葉を選ばなかったが故なので自業自得ではあるが、インドア派の彼が木に激突して衝撃で目を回しているのにはさすがに同情する。
失言の小ささの割に、被害甚大だ。
アンリエット様は、父親であるオーリム王子の妹なんだから、立場上「おば」と言うのは間違っていないんだが、昨日のやり取りを知っているくせになんともウカツだったな。
ひとまず『生活魔法』の『応急手当』を使いウィルの頭に出来ているタンコブを治す。
最近まで引きこもっていたが為に、ウィルの対応能力は割と低い。今の不意打ちをノーガードで食らうのは、この場ではウィルだけだ。クンフー足りてないぞ、ウィル。
なんて自分の事を棚上げして失礼な事を考えながら、ウィルが立ち上がるのに手を貸しつつ、昨晩の事を思い出す。
そもそも、なぜ俺がホッカ街の南に位置する密林ダンジョンにいるかと言えば、もう面倒くさい事情が色々とあるのです。
面倒くさい事情。
例えば、元勇者ことワン君(本名、伊藤剛君)の元婚約者であり、彼がこの国を去る原因となった人がなんとアンリエット様だったとか。
その事で夕食時の顔合わせでひと悶着あり、急ぎ席を設けて話し合いを行なった。
すると、婚約自体は白紙になったし復縁させる気も無いのの、逃げた責任だけは取れと言う話となり、ワン君の勇者の力を密林ダンジョンで奮うように要請されたり、それが飼い主であるミチルさんの責任問題になったり
ミチルさんが
「私はもう、リュータさん無しでは生きていけません。だからリュータさんがいない所へは行きたくありません」
と、誤解を招くことを言い出したり。
とかく、色々あったのです。
なお、シルちゃんはミチルさんの言葉に対して
「英雄色を好むと言うでの。結構なことじゃ」
等と申しておりました。
いや、ミチルさんはああ見えて生活能力皆無だから、俺や『レッドキャップ』たちの家事全般に頼り切りだって話なんだけどね。
元々お嬢様で温室育ち(ただし剣術は師範代クラス)みたいだし、高校生くらいだと家事ってあんまやらないよねって感じで今まで面倒見てきた弊害が今、遺憾なく、いや、俺的には遺憾アリアリなんだが、とにかく発揮されてしまったのである。
なお、ワン君と二人で旅をしていた頃に自力でなんとかしようとした結果、どうしようもないと言う結論に至った模様。
ワン君には下着を洗わせられないが、俺ならいいらしい。彼女なりの何かがあるようだが、それが断じて恋心的なものでないのは確かだ。
悪い意味で依存されてしまっている。
俺は君のオカンではないんだよ?
とにかくこの結果、俺、ミチルさん、ワン君に、ダンジョンの管理者であるシルちゃん、責任者としてウィル、あとアンリエット様の六人で密林ダンジョンの調査をするハメになったのである。
ちなみに六人である理由は、これ以上増えると奥にいる強い魔物を刺激してしまうから。
***
俺たちはまず、拠点としているホッカ街から門前町ムーラヌまで馬車で移動。
昼過ぎに到着して、ご飯を食べてからすぐに出発しダンジョンへと侵入。
夕方にモノリスでキャンプを張ると言う計画を、昨晩遅くまで立てていた。
前々回、俺とシルちゃんが建てた愛の小屋は、前回の時には既に消失していた。だから現地で改めてテントを張る必要がある。
その為に急ぎ足となっているが、唯一の不安であったウィルは魔道具を使って体力を底上げしているのでギリギリ間に合いそうだ。
それでも道中、ウィルが吹き飛ばされたり、ワン君とアンリエット様のチクチク口撃合戦(本当に仲が悪いのね)と言う妙なアクシデントがあったりしたものの、移動中に出た魔物はザコのデモンリーフ、30cmもある巨大な葉っぱを手裏剣みたいに飛ばしてくるが射程1mもない所詮は草、がメインで、ゴブリンやオークは前々回、つまり最初の調査時にはいたものの、前回と今回では見かけなかったので、戦闘力が過剰な事もあり、かなり順調に進んでいる。
「植生も大分変わってて、このダンジョンも随分と穏やかになっているなぁ」
「そうなのか。それは実に興味深い話だ。それで他に違いはないか? 何でもよい、遠慮なく申すがいい」
そう問われ、俺が前回と前々回と今回の違いを話すと、口調とは裏腹にだいぶ食い気味でアンリエット様が追加で訊ねてきた。
そこで俺とシルちゃん二人でアレが違うコレが違う、あんなものはなかったこんなものは前からある、と雑多に色々な情報を話してみれば、アンリエット様は嫌な顔一つせず適度に相槌を打ち、時にこちらに質問を投げかけてくる。
アンリエット様の人柄と言うか、気質が良く分かる会話だった。
アンリエット様は研究者気質の人で、でも良くあるテンプレートなルーズタイプではない。生真面目で自分から冗談はほぼ言わないけど、冗談には理解がある。
ウィルとは真逆だな。
それでいて本人は超優秀な兵士でもある。
先ほどウィルを撃った『ストーンシュート』も、本来の威力はもっと大きく、あの距離ならウィルの耐久力では骨を砕かれてもおかしくはない。それを最小限の力にまで抑え込み、力を分散させるように柔らかい石を飛ばした辺りに、魔力制御の技術の高さだけでなく、物理的な知識の豊富さも感じ取れた。
つまり、実践向きな研究をするのが好きなタイプなのだろう。
研究者気質と言う点ではウィルと同類だが、彼女はウィルとは正反対のアウトドア派だから、あれでいて夢見がちなインドア派のウィルとはちょっとソリが合わないみたいだ。
***
今回の元玄武ダンジョン跡の調査や、カメムシ洞窟の調査、密林ダンジョンの調査は自分の趣味と言うだけでなく、民の暮らしを脅かすかどうかについて調べるのも理由のようで、話をしていると公私を実にうまく使い分けているのが伝わってくるほどに如才がない人のようだ。
気安いお姉さんみたいな人だが、こういう所はとても貴族っぽい。
ここまでのアンリエット様を知ると、もし仮に彼女が俺の上司なら、かなり幸せかもしれないと言う結論に至った。
それとプライベートの部分に対する理解も深いし、うーん、恋人にするにしても素晴らしい人だとも思った。
「どうしてワン君は、そんなアンリエット様から逃げたんだろうか」
シルちゃんと魔物談義に花を咲かせているアンリエット様には聞こえない程度の小声で呟く。
するとその声を拾ったミチルさんが、声をかけてきた。
「そうですね。すごく素敵な人だから、私も不思議です」
「だよねぇ。昨日のやり取りも要領を得なかったし、単に馬が合わなかっただけなのかなぁ」
「うーん、どうでしょう。そう言う雰囲気でも無かった気がしますが」
自分で言っていて、確かに疑問だったけど、やっぱりミチルさんから見てもそんな理由で彼女を振るワン君は想像できないか。
「おい」
「ん? ああ、ワン君。どうしたの? 魔物でも出た?」
「いや、ちげぇ」
今まで一同のやや後方、アンリエット様と若干距離を取った位置にいたワン君が近寄ってきていた。
言いたいことでもあるのだろう。
あー、うー、お、おぅ、などと意味不明な単語を口から吐き出しつつ、あっちを見たりこっちを見たりして、やがて決心したのか、なぜ逃げたのかを教えてくれた。
「あいつ、今二十五歳なんだよ。五年前は二十歳だ。そして当時の俺様は、地球換算で十五だった」
「あ、うん。へー、アンリエット様はやっぱり若いんだな」
「出来る大人の女性だから、納得ですね」
しかし、当時ニ十歳ねぇ。
「もしかして年上だから、姉さん女房的なものが受け入れられなかったのか?」
「ちが・・・わなくもないが、それよりも問題があんだろ?」
問題。
なんだろうか。
ミチルさんに目配せするが、ハテナ? と首を傾げられてしまった。
「俺はこの世界に着いた当時から、この世界と前の世界の差は知ってたんだよ」
「ああ、前に言っていた神様に植え付けられた知識ってヤツね。俺にはなかったけど・・・」
「んだよ、話の途中で腐んな。いいか? 俺様はな、この世界と向こうの世界の一年の差を知っていたんだ」
一年の差。
えーと、確かこちらの一年は向こうの1.25倍なんだったっけ。
てーと、おや?
「五年前の当時、地球換算で二十五歳、つまり俺様は十歳年上のババァと結婚させられかけたんだよ・・・」
二十五歳でババァとはずいぶんな物言いだと思ったけど、当時十五歳の高校生だったワン君がそう思うのは無理もないか。
いや、こちらで八百歳、地球換算で千年以上生きているシルちゃんを普通に受け入れてる事から考えても、ちょっと引っかかるな。
そもそもワン君はファンタジー大歓迎なタイプだし、年齢差が理由になるのか?
更にはこっちの人と向こうの人とじゃ、まず平均寿命から違うのに・・・。
何か、違和感がある。
なんて考えて、思わずジト目をワン君に向けていると、ウッと呻いた後で、絞り出すような声でワン君は答えた。
「いや、そのな。俺のアネキにそっくりなんだ、あいつ」
「お姉さんに?」
突如出てきた新キャラ情報に、俺とミチルさんが顔を合わせる。
一体それの何が問題なんだろうか。
「あのするどい顔つきも、強引かつ合理的すぎる性格も、何もかもソックリなんだ! そんなアネキは、俺をいじくり回すのが大好きだったんだ」
ああ、うん。
そう言う事ね。
どうやらワン君は、実の姉から受けたトラウマが出て、アンリエット様から逃げたようだ。
「それはまぁ、しょうがないのかなぁ・・・?」
「しょうがねぇんだよ・・・」
「人それぞれですからね。こればかりは私も無理に我慢しろとは言えません」
なんとも釈然としない理由だけど、当人にとっては大問題なんだろうなぁ。
ほんの少し話しただけなのに、そのアネキさんとやらを思い出して非常に落ち込んでいるワン君の煤けた背中を見ながら、その後俺とミチルさんはキャンプ予定地のモノリスまで無言で歩いたのだった。
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