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家族を思い出して泣いてしまった。
しおりを挟むこの世界に来てから、ひと月が過ぎようとしていた。
私はセディとアランのおかげで片言だけど、意思疎通できる程度には言葉が話せるようになって来た。
そこで今日は、団長のローランド様とセディのふたりから、調書を取らせて欲しいと言われた。
「ゆい、緊張しなくても大丈夫だよ。わかる範囲でいいから、ゆっくり質問に答えてくれ」
セディがリラックスするよう優しく言ってくれたので、私はこくんと頷いた。
「じゃあ、まず、ゆいの元いた国の名前は?」
「日本、です」
「ニホン?」
頷く。
「ゆいの家族は?」
「パパとママ、それからお姉ちゃんと私の4人家族、です」
「家族の名前は?」
「花野伸、信子、弥生……」
「すまない、聞き取れなかった。もう一度ゆっくり言ってくれるか?ゆい」
「花……野、しん、のぶこ、やよ……い」
私は家族の名を言いながら、ポタポタと涙が溢れている事に、今更気がついた。
気づいてしまうと怒涛の如く感情が押し寄せて来て涙が止まらない。
「パパ!ママ!お姉ちゃん…… ‼︎ 」
会いたい、会いたいよ~!
帰りたい、おうちに ‼︎
私が顔を覆って涙を流していると、セディが背中をさすりながら声をかけて来た。
「すまない、大切な家族の事を思い出させてしまって。調書の聞き取りはまたにしよう。部屋へ帰って休むといい」
私はセディから差し出されたハンカチで、涙を拭いながら客室を出た。
セディが私に付き添ってくれて部屋の入り口に辿り着いた。
ドアを開けて部屋へ入ろうとする。
でも、これでセディが階下へ戻ってしまうのかと思うと、ひとりになるのが寂しくてたまらない。少しだけ、側にいて欲しい……。
そんな気持ちを言葉に出来ず、仕方なく部屋に入ろうと足を一歩踏み入れると、背後からセディの声がした。
「ゆい、扉は開けたままにするし、決してゆいに触れたりしない。だからしばらく、側にいさせてくれないか?ゆいをひとりにするのが心配でたまらないんだ」
私はセディの心遣いがとても嬉しかった。
「ありがと、セディ」
お礼を言って、招き入れるように扉を開いてセディが入って来るのを待つ。
セディは側にあった置物を扉に咬まし、完全に閉まらないようにして部屋に入った。
「さあ、横になるといい」
セディは私をベッドに誘導してくれた。
私がベッドに横になると、セディは椅子を近くに持って来て座った。
「俺の事は気にせず、少しだけ眠るといい。悲しみが少しは癒えるだろうから」
「セディ、おしごと、だいじょぶ?」
「ああ、ゆいが眠ったのを見届けたら仕事に戻るよ」
「きょう、わたしのちょうしょ、できなくて、ごめんなさい」
私は横になったまま、手を合わせるようにして謝った。
「いいんだ。また、落ち着いたら、続きをやればいいんだから。さあ、目を閉じておやすみ」
私はさっきまでの不安と悲しみが、セディの優しさで少しずつ流れていくのを感じながら目を閉じた。
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