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しおりを挟むわたくしは、物が溢れる賑やかな街に住まい、美しい着物を着せられて、豪華なお屋敷の一番奥で、大切に育てられました。
わたくしには何人もの付き人がいて、わたくしの安全を守るための武人の伴もつけていてくれます。ですから私は何不自由なく、何もかも、思い通りに暮らすことができるのです。
けれど、わたくしの心はどうにも寂しくて、切なくてたまらないのです。そんな心を紛らわそうと、琴をかき鳴らしてみたり、唄を歌ってみたりしますが、ちっとも心は晴れないのです。まわりに侍る付き人達だけが、うっとりと幸せそうにわたくしの方を見つめるだけ。
みながわたくしを褒め称え、愛してくれるというのに。わたくしはそれでも何かが足りないなんて、自分の愚かさに悲しくなり、そしてさらに寂しくなってしまう心を持て余しておりました。
日に日に元気がなくなるわたくしを見て、父上と母上がなんとか慰めようと、旅芸人を呼び寄せたり、街で人気の楽団を呼び寄せたりしてくれます。けれどもわたくしの心は、やはり何者にも満たされないのでありました。
そんなある日、両親は、最近街にやって来たという語り部の噂を耳にしました。その語り部は、占いもやるという。その占いはよく当たり、どこぞの病人を何人も治したと評判なのでした。それを聞いた両親は、早速家来に命じて、その語り部をお屋敷に連れて来させました。
両親は語り部を、わたくしの元へ連れて来ました。その者は、頭から被るような風変わりで黒い外套を着ており、その隙間からギョロリと大きな瞳を覗かせる不気味な人でした。最初は恐ろしいと感じましたが、その語り部は優しい物言いで挨拶したので、わたくしは安心して、ホッと吐息を漏らしたのです。
両親が見守る中、わたくしは語り部からいくつかのお話を聞きました。語り部のお話は、どれも似たようなものばかり。ある知恵者が豊かになって喜んだり、とある女性が金持ちの優しい殿方に愛され、玉の輿に乗る話など、人気の物語ばかりでした。
しかし、わたくしには、このような話が面白いとは思えないのです。語り部に感想を問われたので、わたくしは正直に、小さなため息をこぼしながら、そのようにお答えしました。
両親に、娘の占いをしてほしいと頼まれていた語り部は、私の感想を聞き終えると悲痛な面持ちで両親に告げました。
「このお嬢さまは、このままにしておけば、嫁入りすることなく亡くなってしまうでしょう」
驚いた両親は、その後、憤慨して怒りました。そして、語り部を怒鳴りつけました。
「そのような酷い占いをするとは! 何を根拠にそのようなことを!!」
けれども語り部は、怯むことなく言いました。
「このお嬢さまの命の灯火が、小さくなり消えかかっておられるのです。今すぐどうにかしないと、本当に、じきに亡くなってしまわれます。もしくは、生きる人形になってしまいます。そうなってしまえば、一生、このお嬢様が微笑まれることはないでしょう。それがお嫌ならば、この国の、一番北の地へお引っ越しなさいませ」
そう言い置いて、語り部はまだ報酬も受け取っていないのに、玄関に向かってさっさと出て行ってしまいました。ハッと我に帰った両親が、すぐに後を追いかけました。家来も一緒に探し回ったのですが、語り部の姿は消えるようになくなっていたのです。
翌日、語り部を探して、もう一度話をしようとした両親でしたが、驚いたことに、誰も語り部のことを知りません。噂を直接聞いた、屋敷に出入りしている魚屋まで知らないというから、両親は驚愕しました。
まるで魔法でもかけられていたような不思議な状況に、これはあの語り部のいう通りにしなければなるまいと、両親は泣く泣く娘のわたくしを北の土地へ移すことに決めました。
この国の北の地は、貧しく寂しい土地でした。森が茂っているだけで、そこに住む人々はよそ者には愛想がなく冷たいとの話でした。そのため、両親、ことに母親は別れを悲しみながら見送ってくれました。けれども私は不思議と恐れはなく、数人の家来を伴に連れて引越しをしたのです。
驚いたことに、5日間の旅を得て、北の地へ着きますと、あの、真っ黒な外套を着た語り部が待っていたのです。ニヤリと口元を綻ばせたその者は、わたくしに言いました。
「よくぞ来てくださいました、お嬢さま。もうそろそろご到着されると思い、住処を整え待っておりました」
伴の者がついて行って良いのかと心配そうにわたくしに聞きましたが、わたくしは語り部の言うままについて行くことにしました。なぜならわたくしを、あの苦しさから救ってくれたからです。あの寂しい日々を、ここに来るまでの5日間、忘れることができたのです。きっと何かが起きる。わたくしにはそのような、希望のような光が見えたからです。
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