若草寮の寮生と茶白猫の茶々さん

第一話 出会い

　桜が咲く季節。高校を卒業すれば、進学する者、就職する者と進路が分かれる。進学を決めた中には親元を離れて暮らすことになる者だって少なからずいるだろう。アパート、寮、下宿と数ある選択肢の中で汐崎和は寮を選択していた。理由は簡単。食事に困らないからだ。
　三月下旬、私は大学近くの寮の一つである若草寮へと引っ越してきた。本棟と二つの別棟に別れている寮で私は別棟の二階の真ん中の部屋へと割り当てられた。階段を上ってすぐだ。部屋は四畳半の畳部屋で押し入れ付き。業者によって運び込まれたコタツやラックを組み立てて、荷物を片付ければ数時間で終わった。
　「はぁー、終わった……。疲れた」
　愚痴を零しながら窓を開けた。三月下旬とは言ってもまだ寒い。冷たい風が和の頬を撫でていく。近くに植えられた桜が風に揺らされているのを見ていた私の視線の先に一匹の茶白の猫が歩いて行くのが見えた。少し遠いけれど、軽い足取りで歩いて行く猫はすぐに見えなくなった。
　「野良猫かな……？　ここ猫がいるんだ」
　猫好きな身としては嬉しい。また会えるだろうか、と心躍らせながら私は窓を閉めた。今日から寮生たちは希望すれば食事が提供される。引っ越したばかりで誰が同じ学年なのか分からないが、同じ年の友達が出来ればいいな、と私は小さな期待を胸に抱いた。