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第二話 初めての友達
しおりを挟む十八時になると大家さんの声が外から聞こえてきた。
「夕飯の準備が出来ましたよ~」
ドアを開けた私は大家さんと目が合った。彼女はニコリと微笑んで「食堂にいらっしゃい」と言って階段を降りていく。私は鍵を閉めて食堂へ向かった。
食堂は階段を降りて数メートル歩いた本棟の中にある。スライドドアを開ければ、木製の床にテーブルが七つ。壁側に大きなテレビが一つと水道、コンロが二つある台所、扉を隔てて厨房では大家さんが寮生たちへ食事を提供していた。
「はい、今日はカレーですよ」
そう言いながらカレー皿とサラダを渡してきた。受け取って空いている席に腰かけた私はテーブルに置いてあるスプーンと箸を取る。スパイシーな香りが実家のカレーと異なり新鮮な気持ちになる。スプーンで掬って口に運べば甘くないカレーの味。
(美味しい……)
食べ進めながら周りを見れば、男性の他に女性の姿を見つけて安堵する。けれど、同じ学年なのか判断がつかない私は話し掛ける勇気が持てず黙ってカレーを食べ進めた。食事が終われば残っていても仕方ないので、自室に帰るだけだ。空になった皿を大家さんへ「ごちそうさまでした」の言葉と共に返して扉を開ける。外は暗くなっており、食堂から零れる灯りが道を照らしていた。
「あ、ねえ!」
歩き出した私に声が掛かる。振り向けば、可愛らしい女性が立っていた。
「あなた、新入生でしょ?」
問われて素直に頷くと、相手は表情を輝かせて詰め寄ってきた。肩まで伸びた黒髪が綺麗な印象のその子はニコリ、と笑みを向ける。
「私は伊澤千帆。同じ新入生」
あなたは? と促されて私も遅れて自己紹介をする。
「えっと、汐崎和。よろしく」
少し照れながら言うと相手はにへら、と緩く笑った。
「よかった。新入生の女の子がいなかったらどうしようかって不安だったんだぁ~」
同じ不安を抱えていた身としては彼女の言葉に深く頷く。先ほどまで同じ不安を抱えていて、これからの寮生活で孤独だったらどうしようと思っていた矢先、こうして話しかけてくれる相手に出逢えて本当に嬉しい。
「わ、私も……さっきまで同じこと考えていたから、嬉しい」
「えへへっ。あ! 私のことは好きな呼び名で呼んで」
人懐っこい性格なのか、ニコニコと笑みを零しながら言う相手に私も緊張が解れていくのを感じてつられて笑みを向けた。
「じゃあ、千帆ちゃん。私の事も好きに呼んで」
「分かった! んー、和ちゃんって呼ぶね。これからよろしく」
差し出された手を握り返して互いに照れたように笑い合う。知らない土地で出来た初めての友達に嬉しさが込み上げてくる。先ほどまでの不安はとっくに消えていた。
「あ! お風呂の事聞いた?」
千帆ちゃんからの問いに首を傾ける。そう言えば場所くらいしか聞いてない。首を左右に振ると彼女は「よかった」と零してルールを説明してくれた。
女子風呂は本棟の少し先にあり、予約制となっているらしい。玄関横にあるホワイトボードに書かれている時間の横に自分の名前を書いてその時間に入るのだ、と私よりも数日前からここにいる千帆ちゃんは教えてくれた。
「せっかくだから予約していかない?」
彼女の誘いに頷くと、千帆ちゃんは歩き出した。その隣を私も歩く。
女子風呂のある別棟へ向かっていた私たちの視線の先に一匹のネコが座っていた。
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