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第三話 命名、茶々さん
しおりを挟む女子風呂のある別棟へ向かう途中の本棟玄関前に一匹の茶白のネコが座っていた。昼間に見たネコとそっくりだ。
「あ! ネコだ」
千帆ちゃんがネコの元へと駆け寄る。私も彼女の後に続いてネコの傍まで近寄った。
「ニャア」
逃げるわけでもなく、威嚇するのでもなくそのネコは一鳴きする。
「逃げないね。人慣れしてるのかな?」
「そうかも」
手を伸ばせば怯えることなく触らせてくれた。首輪は付いていないため野良ネコなのだろうが、人慣れしているようで自分からすり寄ってくる。
「野良……だよね?」
「たぶん」
私たちは互いに顔を見合わせた。
「野良ネコさん~君はとても可愛いね。でも、餌はあげられないんだよ」
千帆ちゃんがそう言いながらネコを撫でている。野良ネコに餌をあげることは出来ない。この子はどこに住んでいるのだろうか、と疑問がいくつも浮かんでくる中、千帆ちゃんが「あ」と声を上げた。
「どうしたの?」
首を傾けると、彼女は「名前を決めよう!」と言い出した。まあ、私たちの間で分かる共通の名前と言うことなんだろうけど、たしかに名前がなければ少し不便かもしれない。私も名前を付けるのは賛成だ。きっとこのネコは色々なところで様々な人にそれぞれの名前で呼ばれているんだろうな。
「名前、何にする?」
ネコを撫でながら聞いてみると、千帆ちゃんは「ん~」と少し上を向きながら考える仕草をする。ネコが顔を上げて私たちをジッと見つめた。
「茶白のネコだから、茶々さんっていうのはどう?」
「安直だね~」
そう言うと千帆ちゃんが「分かりやすいでしょ」と笑いながら言う。茶々さんを見れば特にリアクションもないままこちらを見ていた。
「あ、そうだ。そろそろお風呂の予約!」
千帆ちゃんが立ち上がった。それに合わせるように茶々さんも前脚を伸ばして伸びをした。座っていて気付かなかったが、茶々さんの尻尾の先が曲がっていて鍵尻尾だということに気付く。茶々さんは軽い足取りで本棟の玄関前から去って行った。
「行っちゃったね。でも、また会えそうな気がする」
「そうだね。茶々さんの縄張りっぽいし」
私たちは互いに顔を見合わせるとふっ、と笑いあった。
――きっとまた明日も会える気がする。
これが茶々さんと私たちの四年間の始まりだった。
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