風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

第十二話

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それからの正木の行動は早かった。
まず、他のメンバーも引き連れて生徒会に行き、皆で並んで謝罪をした。伊東はもともと生徒会のメンバーに帰って来て欲しかったので、悪態を吐きつつも最終的には受け入れた。
その後は親衛隊との話し合いも設けた。伊東を除くメンバーごとに部屋を分けて親衛隊が納得するまで話をした。以前の力尽くとは違いきちんとした話し合いが設けられたことで、親衛隊も一応納得した形となった。
流や津田や戸田は柏木との時間が減る事に不満を持っていたが、正木に押し切られる形で渋々生徒会の仕事をこなす日々だった。
新入生歓迎会のスポーツ大会についてはこの前姫川が伊東達と作成した書類を基に話が進められていた。筈だったが・・・

「今何て言った?」
風紀委員室に突然やってきた正木の言葉に姫川が眉間に皺を寄せて聞き返す。
「だから、今年のスポーツ大会は例年通りでなく、少し趣向を変えると言ったんだ。」
特に顔色も変えず、さっき言った言葉をもう1度繰り返す正木を姫川が睨む。
「ふざけるなよ。只でさえお前たちのせいで準備が遅れてるんだ。これ以上準備を遅らせる訳にはいかない。」
「まぁ聞けって。趣向を変えると言っても、そんなに激しく変更する訳じゃない。只今年はお前たちもスポーツ大会に出場してもらおうと思っただけだ。」
それを聞いて姫川だけでなく、今までこちらを気にしながら作業していた風紀委員の他のメンバーも一斉に正木を見る。
姫川は大きく溜息を吐くと正木に言う。
「お前なぁ、俺たちは当日の見回りや案内、それにボランティアに指示も出さなきゃならない。とても競技に参加してる時間はない。お前も分かってる筈だろ。」
「だから、その見回りや案内をもうボランティア達に任してしまえばいいだろ。」
「今から更にプラスでボランティアの人数を募るのは無理がある。只でさえ申し込んでくれる学生は少ないんだぞ。それにボランティアをしてくれる人達にも競技には出場してほしい。そうなると実際に見回りや案内に割ける時間は限られる。」
姫川は表情一つ変えずに正木を言い負かすよう言葉を捲し立てる。その様子をハラハラしながら周りの委員達が見ていた。
「俺たちの親衛隊にボランティアを頼む事にした。」
正木の突然の言葉に姫川は目を丸くする。
「親衛隊?ついこの前まで揉めてませんでした?」
親衛隊との間に入って右往左往した佐々木が額に青筋を浮かべて正木に詰め寄る。
「そんな綺麗な顔で睨むなよ。親衛隊もタダじゃ動いてくれねぇよ。だから、俺たちを商品にした。」
「何?」
意味がわからないと言う様に姫川が聞き返す。佐々木は綺麗と言われて、顔を引き攣らせている。
「だから、ボランティアに参加した親衛隊の中から抽選で一名様に俺たちとのデート券プレゼントって言う事にしたの。もう話はついてるから。多分ボランティアの人数殺到すると思うぞ。俺たち人気だからな。」
そこまで聞いて流石に姫川は戸惑いを感じた。
「お前、どうしてそこまでして俺たちを競技に参加させたいんだ?」
半ば呆れたように姫川が正木に問う。
「だって、お前達生徒から嫌われてるだろ。行事に何も参加せず、生徒を取り締まるだけだからそうなるんだ。だから、こういうのに参加して少しでも生徒達との交流を深める機会になればと思って。」
目の前にいる人物が数日前までの正木と同一人物とは思えない。姫川だけではなく他の委員もポカンとした顔を正木に向けた。今まで風紀を目の敵にしていた奴の言う言葉とは思えなかった。
「随分優しいだな。どういう風の吹き回しだ?」
姫川が怪しむように正木に問いかける。
「いや、俺も風紀については色々誤解もあったと反省してるんだよ。それにー」
と正木は一旦言葉を切って、妖しい顔つきで姫川を見る。それが数日前の正木の姿と重なって姫川が固まる。
「俺とお前の仲だろ?」
そう言って姫川の腕をスーッと撫でた。
「っ!?」
バッと反射的に姫川が腕を上げる。少し顔が赤くなっていた。
「お前、ふざけるなよ。」
上目遣いに睨めば正木が満足そうに笑う。周りもそんな2人から目が離せず、正に釘付け状態だった。
「まぁ、じゃあそういうことだから~。」
突然軽い口調に戻った正木はそのまま手をヒラヒラさせて風紀委員室を出ようとした。しかし、扉の前で一旦止まると牧瀬の方に向いた。
「牧瀬、俺たちの仕事をやらせてしまって悪かったな。ありがとう。」
と、優しく微笑んで言った。初めて向けられた正木の笑顔に牧瀬は顔を真っ赤にして
「いえ、気にしないで。」
と一言返すのが精一杯だった。そしてそのまま正木は風紀委員室を出て行った。
今までだったら風紀委員室にも寄りつかなかったであろう正木の急な態度の変化に風紀委員全員、只々戸惑うだけだった。
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