風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

四十八話

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「なんか姫川、顔色悪くない?」
風紀委員室で書類を整理していると、横から佐々木に声を掛けられた。
「いや、少し疲れが溜まってるだけで大丈夫だ。」
いつもの態度を出来るだけ心掛け、答える。
「そう?あんまり無理するなよ。」
特に怪しまれる事なく佐々木は自分の持ち場に戻った。あれこれ詮索されなかった事に姫川はふぅと安堵の息を吐いた。
姫川が話した心証では柏木は完全にクロだった。流の件も正木の怪我も確実に柏木が関与していると姫川は確信した。しかし、何の目的があるのかが姫川には全然理解できなかった。
あの時の柏木の様子を思い出すと、背中に変な汗をかく。誰かに相談しようかとも考えたが、今は未だ何の証拠もないし、自分と柏木を比べると柏木の方が圧倒的に人望があった。特にテストで学年1位を取ってからは、2年の間で急激に好感度も上がっており、誰とでも親しく接する柏木にはどんどん新しい友人が増えていた。
少し様子を見るしかないな。
仕方なくそう結論付けると、姫川は立ち上がった。
「少し生徒会に行って、終業式の事を打ち合わせしてくる。」
「いってらっしゃーい。」
笑顔で自分を見送る佐々木達を見て、少し安堵する。今日ばかりはこのメンバーが自分の仲間で良かったと心から思った。
風紀委員室を後にすると、早速生徒会室に向かった。途中の廊下で梓と優木に会った。不思議な組み合わせに首を傾げる。
「今からそちらに行こうと思っていたんです。」
優木が姫川の姿を確認すると、声を掛けてきた。
「何か用か?」
姫川が尋ねると梓が心底嫌そうな顔で話を切り出す。
「僕たち柏木に関わるのは、もう止めるから。」
その言葉に姫川は僅かに目を見開いた。確かに問題は起こすなとは言ったが、それで納得するような奴らじゃないと知っていたからだ。必ず制裁を柏木に加えようとすると思っていた。
「それはいい事だが、急にどういう風の吹き回しだ?」
「マジであいつは悪魔だよ。流や恭治の心を完全に掴んでる。この前のことで僕たちはかなり2人の信頼を失ったからね。」
自嘲気味に梓が話すが姫川は話が読めなくて困惑する。
「脅されたんですよ。俺に手を出したら、どうなるかわかってる?これ以上嫌われたら大変だよね。って廊下ですれ違いざまに、私も柊も柏木に忠告されました。姫川も本当にあいつには気をつけた方がいいです。此処にきて、あいつの信者みたいなのもでき始めてますから。」
それを聞いて姫川は頭が痛くなってきた。自分を牽制しただけでなく、この2人の事も完全に制圧した柏木に姫川は恐ろしさを覚えずにはいられなかった。
「わかった。後のことは俺が何とかするから。」
それだけ言うと、2人の脇をすり抜けた。
「あんた1人でどうにかなるような奴じゃないと思うよ。精々泣かされないように気をつけなよ。」
捨て台詞の様に言った梓の言葉に一瞬ドキッとした姫川だったが、態度に出さないように無言で歩き続けた。

気分が落ち込んだまま生徒会室に着いた。
ドアを開けると正木が嬉しそうな顔で姫川を見ていた。
「よぉ、どうした?何かあったか?」
正木の優しい声音に少し気分が落ち着く。横に目を向けるとそこには流の姿があった。気まずいのか、あまり目を合わせようとしない。そんな流を一瞥して2人の仲が修復したことに安堵しながら、姫川は正木に向き直る。
「急に押しかけてすまない。もうすぐ終業式があるからそれの打ち合わせをしに来た。当日の流れと時間を確認してもいいか?」
姫川が話しかけている間も、正木はジッと姫川の方を見ていた。
「それは構わないけど、なんかお前顔色悪くないか?なんか悩んでるなら聞くけど。」
正木が姫川を気遣うように言葉をかける。
「あぁ、実は柏木が・・・」
「おぉ、あいつならこれから此処に来るけど?また姫川に何か嫌がらせをしたのか?」
姫川は柏木の事を全く疑っていない正木に無意識に相談しようとしていることに気づいて、慌てて口を噤んだ。
「いや、何でもない。あいつに絡まれて少し疲れてただけだ。」
と適当な言葉で誤魔化す。
「そうか?あいつも姫川にちょっかいばっかり出そうとするからな。」
と少し怪訝そうな顔をしながらも正木が言葉を返す。そんな様子を伊東が心配そうに見ていた。

少しの間、打ち合わせをし姫川は直ぐに生徒会を去ろうとした。すると、流が何か言いたそうにゆっくり姫川に近づいてきた。その事に気づいた姫川は流が話出すのを待った。
「あの、こ、今回は貴方にも迷惑をかけてしまって、その、すみませんでした。」
普段は絶対に姫川に頭など下げない流がこうして声を掛けてくれた事が嬉しくて姫川は少し微笑んだ。
「よかったな。また正木と仲良くなれて。」
仲良くという言葉が恥ずかしかったのか、流の顔が真っ赤になった。その新鮮な反応にまた姫川が笑う。
すると後ろから正木が声を掛けてきた。
「今日お前の部屋に行くからな。例の約束、よろしく頼むぞ。」
正木が姫川の部屋に行くと聞いて他の生徒会メンバーが固まった。
「お前、俺の体調を気にしてたんじゃないのか?」
呆れたように姫川が返すと、
「ズルズル日にちが経つとそのまま夏休みになっちまうだろ。少し話したいこともあるし。でも、本当に体調が悪いなら無理はしなくていい。」
今日は本当だったら、もう自室に帰ってゆっくり休みたい気分だが、先延ばしにしてもずっと頭につくので、姫川は渋々了承する。
「いや、大丈夫だ。じゃあまた夜にな。」
それだけ言うと姫川は生徒会室のドアを閉めた。
そんな2人の会話を異様なものを見るように他のメンバーが表情を強張らせて見ていた。
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