風紀委員長は××が苦手

混沌を極める2学期

十八話

どんどん遠くなっていく正木の後を柏木は急いで追いかけた。
「おい、恭治！ちょっと待てよ！」
しかし、正木は止まる事なく歩みを進めていく。すると柏木は駆け出し一気に正木との距離を詰めた。そして、その腕をガシッと捉える。
「待てって言ってんだろ。」
強引な柏木の行動に正木が大きな溜息を吐く。
「今は1人になりたいからあそこから出てきたんだよ。それくらい葵にも分かるだろ？」
イライラを出来るだけ柏木にぶつけないよう正木が声をおとして話した。
「1人になったからって解決する問題なのか？人に話したほうが楽になることもあるだろ！」
「人に話すような問題じゃない。」
「何だよそれ･･･なぁ、教えてくれよ。」
何時になく強引な柏木に正木が顔を顰める。
「おい、もうー」
柏木を止めようと正木が声をかけた途端、被せるように柏木が話し出した。
「体調が悪いのか？それともクラスで何かあった？生徒会の仕事の事か？」
立て続けに質問してくる柏木に正木はさすがにうんざりする。
無視してその場を去ろうとした時、
「それとも姫ちゃんの事？」
と柏木が言った。その言葉に反応したように、正木がガバッと振り向いた。
その反応を見て柏木は正木からは見えないよう俯きながらニヤッと笑った。そして、正木に向き直ると少し困ったような顔をして見せた。
「何だよ。なんでお前の口から姫川の名前が出るんだ？」
「いや、最近恭治は姫ちゃんと仲良いからその事で悩んでるのかなって思って･･･。俺心配だよ。姫ちゃんの事で恭治がこんなに悩むなんて。姫ちゃんはクラスの奴ともあんなに仲良さそうにしてるのに･･･」
「何？どういう意味だ？葵は何を知っている？」
柏木の含みのある言い方に正木が激しく反応する。
「いや･･･その、何でもない。忘れて･･･」
意味深なその言葉を正木は無視することも出来ず今度は逆に柏木の腕を掴んで鋭い視線を向けた。
「隠そうとせずにきちんと説明しろ。」
一層声が低くなった正木が柏木にそう言うと、観念したかのように柏木が手を挙げた。
「分かったよ。」
そしてそう呟くと、ゆっくり口を開いた。
「俺、こんな性格だからか誰とでもすぐ友達になれるんだ。だからその姫川のクラスの奴とも何人か知り合いがいてそいつらが話してたんだ。」
正木は知らず知らずのうちにゴクっと唾を飲んだ。手にはしっとり汗をかき、心臓が一度ドクンっと跳ねた。
「最近、山田喜月っていう生徒と仲がいいんだって。ほらっ、去年まで姫ちゃんと寮で同室だった男だよ。」
正木はギュッと拳を握りしめた。この前教室で姫川を見て笑っていた男の顔が自然に浮かんできた。
そして、そう言えばテスト前に話していた男もその山田とかいう奴だったと突然思い出した。柏木は更に話を続ける。
「それで、その友達の話だとなんか友達と呼ぶには距離が近いみたいで•••俺、恭治の姫ちゃんへの想いは何となく知ってるし、姫ちゃんって押しに弱いところあるから恭治傷つくんじゃないかと思って言えなかったんだ。」
姫川が自分に見せるような顔や反応を他の男にも簡単に見せているかもしれないと思うと、正木は怒りで目の前が真っ赤に染まる様だった。
確かに、姫川は正木とまだ付き合っているわけではなく、その思いに答えてくれた訳でもない。しかし、少しずつ姫川が心を開いてくれている気がして、正直自惚れていた。
「わかった･･･その話は覚えておく。もう1人にしてくれないか？」
暗い瞳で柏木を見た正木はそう言った。
「えっ？でも･･･」
「頼むから！」
それでも食い下がろうとする柏木を強い言葉で正木が制す。
「う、うん。」
柏木が驚いたように返事をするのを聞くとそのまま踵を返して、正木は1人で歩いて行った。

正木が去った後の廊下を見て、柏木は静かに呟いた。
「はぁ、恭治もダメじゃん。好きなやつの事はちゃんと信じていやらないと･･･」
その目は仄暗く、いつもの柏木からは想像もつかない顔だった。