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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
お父様の質問
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予想もしていなかった展開に私はびっくりした。
「え、えっと。シュナイザー家から婚約保留の申し込みがあったんですか?」
「うん」
「なんでまた」
自分の娘が王子妃になれるというなら、親なら絶対にそのチャンスを逃すまいとしそうだけど。
そんな疑問にお父様は、
「シュナイザー夫人がね、人様に迷惑をかけるような真似をする娘を王子の妃にする訳にはいかないって。一から教育し直すから婚約の件は一度なかったことにして欲しいって」
「成程。でも、さっきリンス嬢は何も」
「この話はシュナイザー嬢と一緒に登城してきたシュナイザー夫妻がミリア達が話している時にベルクにしたそうだから、シュナイザー嬢はまだ知らないのかもね」
ベルクというのは王様の第一補佐官のベルク・ハイヤード様のことだ。
多分、王様がお父様のところにいたからベルク様が代わりにその話を聞いて、王様を仕事に連れ戻す際にお父様にその話をしたのだろう。
ちなみに、お父様の役職は第二補佐官だ。体が弱く、王様の希望もあって医療設備の整っている王宮に滞在しているお父様だが、それでも体調の良い日は仕事がしたいと書類整理などを手伝っている。
「でも、そうすると婚約破棄の話の方は一応落ち着きますね」
「うん。破棄を言い渡された側から保留を申し出てきた訳だから、これ以上蒸し返さない方が賢明だろうね」
シュナイザー家からの申し出のおかげで一番ややこしかったものは何とかなりそうだ。
残るは──
「後は三人に対する罰をどうするかですね」
「そうだね。ミリアは何か案は浮かんだ?」
「いえ。匙加減がわからなくて」
私が首を横に振るとお父様は人差し指を立ててこう言った。
「じゃあ、色々と整理してみようか。僕が質問をするからミリアはそれに答えて」
「はい」
「じゃあ、一。ミリアが今するべきことは?」
「ギーシャ王子、リンス嬢、マリス嬢が起こした騒ぎの罰を決めることです」
私が答えるとお父様は頷いて指をピースのように二本立てる。
「二。その騒ぎとは?」
「ギーシャ王子のリンス嬢に対する婚約破棄宣言とマリス嬢とリンス嬢が私闘を起こし、私が怪我をしたことです。前者はシュナイザー家の婚約保留の申し入れでほぼ解決ですが」
「そうだね。じゃあ、私闘に重点を置いてみようか。三。私闘が起きた場所は?」
「フレイズ学園のパーティーホールです」
「四。そこでは何が行われていたか?」
「? 中等部の卒業パーティーですよ」
だんだんとお父様の質問の意図が分からなくなってきて、首を傾げるが、お父様は構わずに質問を続ける。手は開かれ、パーの形になっていた。
「私闘が行われた際に、そこには誰がいたか?」
「中等部の卒業生や一二年生。中には後輩を祝いに来た高等部生もいましたね」
そこまで答えると、お父様は手を下ろした。
「六。今回の件で被害を受けたのは誰?」
「えっと、怪我をした私──あと──あ、あの場にいた人達?」
あの私闘で実害を被ったのは私だけど、卒業パーティーを楽しんでいたあの場にいた生徒達だってある意味被害者ではある。
私は気絶して途中退場してしまったけど、卒業パーティーはあの後どうなったんだろう? 一応予定の時間までは行われたそうだけど、あんな事があって皆心から楽しめたのだろうか?
「じゃあ、最後の質問だよ。ミリアはどうしたかった?」
「えっと・・・・・・」
「素直に言っていいんだよ。ミリアには怒る権利も我儘を言う権利もある。それに今聞いてるのは僕だけだから」
「私は・・・・・・最後まで卒業パーティーに出たかった、です。皆と楽しみたかったです」
口にしたことで、それが心残りだったことを自覚した。
そういえば、キリくんが卒業パーティーの時におめでとうって言いに来てくれようとしてたって言ってた。まだ、話せていない後輩達もいたし、高等部に上がるだけとはいえ、三年間一緒に過ごした友達ともっとはしゃぎたかった。
それがあの件でダメになってしまった。
そう思うとなんだか──むかっ腹が立ってきた。
まだご馳走だって残ってたし、その後に出てくるデザートバイキングだって楽しみにしてたのに。
あー! 思い出すとやりたいことが色々浮かんで来て腹が立つ。折角のパーティーだったのに勿体ない!
私が負のオーラ全開でぶつぶつと言っていると、お父様に現実に引き戻された。
「ミリア。ミリアはどうしたいの? 何がしたい? それを三人に言ってみればいいよ」
「え? でもそれじゃあ──」
「自分勝手? でも先に巻き込まれたのはミリアだよ。悪いことをされたら慰謝料を請求出来る。勿論、要求するのはお金じゃなくていいけど。ミリアには三人に罰を与える権利と義務があるんだよ」
それを言われてぐうっと押し黙った。権利だけならともかく、義務という言葉を出されては断れない。
「私のやりたいことですか」
私のやりたいこと。
今、やりたいこと。
卒業パーティーがしたい。今度はちゃんと、皆で楽しみたい。
でもそれをどう罰と結びつければ?
んー。あ、そうだ!
私の中で一つの閃きが生まれた。
後から考えてみれば、大分素っ頓狂なアイディアだったけど、この時は大名案だと思えた。
私が思わず立ち上がると、お父様が私を見上げる。相変わらず、我が子を見守る優しい顔をしていた。
「何か思いついたの?」
「はい! 早速準備に取りかかりたいと思うので、失礼しますね。お父様、体調管理にはお気をつけください」
「うん。お母さんと子供達によろしくね」
「はい!」
手を振るお父様に会釈をして、私は急ぎ足で城門を潜ると馬車に飛び乗り、御者さんに言った。
「シーエンス子爵家に向かってください!」
「え、えっと。シュナイザー家から婚約保留の申し込みがあったんですか?」
「うん」
「なんでまた」
自分の娘が王子妃になれるというなら、親なら絶対にそのチャンスを逃すまいとしそうだけど。
そんな疑問にお父様は、
「シュナイザー夫人がね、人様に迷惑をかけるような真似をする娘を王子の妃にする訳にはいかないって。一から教育し直すから婚約の件は一度なかったことにして欲しいって」
「成程。でも、さっきリンス嬢は何も」
「この話はシュナイザー嬢と一緒に登城してきたシュナイザー夫妻がミリア達が話している時にベルクにしたそうだから、シュナイザー嬢はまだ知らないのかもね」
ベルクというのは王様の第一補佐官のベルク・ハイヤード様のことだ。
多分、王様がお父様のところにいたからベルク様が代わりにその話を聞いて、王様を仕事に連れ戻す際にお父様にその話をしたのだろう。
ちなみに、お父様の役職は第二補佐官だ。体が弱く、王様の希望もあって医療設備の整っている王宮に滞在しているお父様だが、それでも体調の良い日は仕事がしたいと書類整理などを手伝っている。
「でも、そうすると婚約破棄の話の方は一応落ち着きますね」
「うん。破棄を言い渡された側から保留を申し出てきた訳だから、これ以上蒸し返さない方が賢明だろうね」
シュナイザー家からの申し出のおかげで一番ややこしかったものは何とかなりそうだ。
残るは──
「後は三人に対する罰をどうするかですね」
「そうだね。ミリアは何か案は浮かんだ?」
「いえ。匙加減がわからなくて」
私が首を横に振るとお父様は人差し指を立ててこう言った。
「じゃあ、色々と整理してみようか。僕が質問をするからミリアはそれに答えて」
「はい」
「じゃあ、一。ミリアが今するべきことは?」
「ギーシャ王子、リンス嬢、マリス嬢が起こした騒ぎの罰を決めることです」
私が答えるとお父様は頷いて指をピースのように二本立てる。
「二。その騒ぎとは?」
「ギーシャ王子のリンス嬢に対する婚約破棄宣言とマリス嬢とリンス嬢が私闘を起こし、私が怪我をしたことです。前者はシュナイザー家の婚約保留の申し入れでほぼ解決ですが」
「そうだね。じゃあ、私闘に重点を置いてみようか。三。私闘が起きた場所は?」
「フレイズ学園のパーティーホールです」
「四。そこでは何が行われていたか?」
「? 中等部の卒業パーティーですよ」
だんだんとお父様の質問の意図が分からなくなってきて、首を傾げるが、お父様は構わずに質問を続ける。手は開かれ、パーの形になっていた。
「私闘が行われた際に、そこには誰がいたか?」
「中等部の卒業生や一二年生。中には後輩を祝いに来た高等部生もいましたね」
そこまで答えると、お父様は手を下ろした。
「六。今回の件で被害を受けたのは誰?」
「えっと、怪我をした私──あと──あ、あの場にいた人達?」
あの私闘で実害を被ったのは私だけど、卒業パーティーを楽しんでいたあの場にいた生徒達だってある意味被害者ではある。
私は気絶して途中退場してしまったけど、卒業パーティーはあの後どうなったんだろう? 一応予定の時間までは行われたそうだけど、あんな事があって皆心から楽しめたのだろうか?
「じゃあ、最後の質問だよ。ミリアはどうしたかった?」
「えっと・・・・・・」
「素直に言っていいんだよ。ミリアには怒る権利も我儘を言う権利もある。それに今聞いてるのは僕だけだから」
「私は・・・・・・最後まで卒業パーティーに出たかった、です。皆と楽しみたかったです」
口にしたことで、それが心残りだったことを自覚した。
そういえば、キリくんが卒業パーティーの時におめでとうって言いに来てくれようとしてたって言ってた。まだ、話せていない後輩達もいたし、高等部に上がるだけとはいえ、三年間一緒に過ごした友達ともっとはしゃぎたかった。
それがあの件でダメになってしまった。
そう思うとなんだか──むかっ腹が立ってきた。
まだご馳走だって残ってたし、その後に出てくるデザートバイキングだって楽しみにしてたのに。
あー! 思い出すとやりたいことが色々浮かんで来て腹が立つ。折角のパーティーだったのに勿体ない!
私が負のオーラ全開でぶつぶつと言っていると、お父様に現実に引き戻された。
「ミリア。ミリアはどうしたいの? 何がしたい? それを三人に言ってみればいいよ」
「え? でもそれじゃあ──」
「自分勝手? でも先に巻き込まれたのはミリアだよ。悪いことをされたら慰謝料を請求出来る。勿論、要求するのはお金じゃなくていいけど。ミリアには三人に罰を与える権利と義務があるんだよ」
それを言われてぐうっと押し黙った。権利だけならともかく、義務という言葉を出されては断れない。
「私のやりたいことですか」
私のやりたいこと。
今、やりたいこと。
卒業パーティーがしたい。今度はちゃんと、皆で楽しみたい。
でもそれをどう罰と結びつければ?
んー。あ、そうだ!
私の中で一つの閃きが生まれた。
後から考えてみれば、大分素っ頓狂なアイディアだったけど、この時は大名案だと思えた。
私が思わず立ち上がると、お父様が私を見上げる。相変わらず、我が子を見守る優しい顔をしていた。
「何か思いついたの?」
「はい! 早速準備に取りかかりたいと思うので、失礼しますね。お父様、体調管理にはお気をつけください」
「うん。お母さんと子供達によろしくね」
「はい!」
手を振るお父様に会釈をして、私は急ぎ足で城門を潜ると馬車に飛び乗り、御者さんに言った。
「シーエンス子爵家に向かってください!」
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