修羅場を観察していたら巻き込まれました。

夢草 蝶

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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

長い一日は終わらない

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「ギーシャ王子」
「ミリアか。どうした」

 夕方、私は言った通りにもう一度ギーシャ王子のいる物置部屋に顔を出した。
 木箱や行李の配置はさっきギーシャ王子が動かしたまま変わってなかったので、簡単にギーシャ王子の元まで辿り着いた。

 ギーシャ王子は相変わらず、木箱を並べて作った即席ベッドの上で毛布にくるまっている。ただ、今はベッドの上にティーポットや縁が薔薇柄のソーサー、透明で中の角砂糖が見えるシュガーポット、角砂糖を混ぜて溶かすためであろう銀のティースプーンなどが乗っかったトレイが置かれている。肝心のティーカップはギーシャ王子が持っており、熱いのか、ふーふーと何度も息を吹きかけながらちびちびと慎重に飲んでいる。
 そういえば、ギーシャ王子って冷え性で猫舌だったっけ。なんてことを思いながら、さっきと同じようにギーシャ王子の前に腰を下ろした。

「お茶をしていたのですね。侍女の方が持ってきてくれたんですか?」
「いや、侍女は基本食事の時間しか来ない。これはギルハードがさっき差し入れてくれた」

 謹慎中だから必要以上に外には出られないし、見たところ呼び鈴とかもないから人とはほとんど接していないのだろう。ギーシャ王子の性格からしてその方が楽だろうし。
 今日は花冷えするし、ギルハード様なりの配慮だろう。

「ミリアも飲むか? ああ、でもカップが一つしかないな」
「では、カップをお借りして来ますね」

 ティーポットを掲げて紅茶を勧めてくるギーシャ王子が一つしかないカップを見て眉を下げたので、私は物置部屋を出てティーカップを借りようと、厨房か給湯室に向かった。
 しかし、道に迷ってしまった。

「しまった・・・・・・ここどこだろ?」

 私はがっくりと肩を下ろした。
 完全に迷子だ。
 どうしよう。このまま歩いても物置部屋に戻れる気がしない。
 私は途方に暮れてしまった。
 はぁー。さっきまで色んなところを駆けずり回ってて流石に疲れている。他にも、色んな人と話して心身共に疲労困憊だ。
 だから、お茶の一杯でも飲んで、ティーブレイクしながらギーシャ王子と話そうと思ったのに、迷子になるなんて・・・・・・ツイてない。
 とぼとぼ歩いていると、気づいたら私は一階に着いてしまった。
 あ、これから入り口からスタート出来るじゃん。
 そう思ったが、まずはティーカップを借りねば。このまま蕾宮を探してもどうせ迷子になるだろうし、王宮の方の食堂から借りて来よう。
 あまりギーシャ王子を待たせるのも悪いので、私は足早に蕾宮を出て、王宮までの渡り廊下を進んだ。
 すると、後から追って来たのか、後ろから声をかけられて思わず足を止めた。

「やぁ、ミリア。まだいたんだ」

 振り返りたくはなかったが、無視する訳にもいかないので、私は嫌々振り向いた。
 最初に目に入ったのは本来は金をしているが、今は黄昏の色を浴びて輝いている髪。奈落の底のような暗い藍の瞳。
 穏やかな口調と柔らかな眼差し。どこかお父様を彷彿とさせる雰囲気。しかし、この人のそれはお父様とは違う、どこかわざとらしさの含まれた養殖ものだ。
 ああ、私的にはマリス嬢とリンス嬢との対峙がラスボス戦だと思ってたけど、真のラスボスはこの人だ。今の赤ゲージ状態で遭遇したくはなかった。

「ごきげんよう、テルファ様」

 私は引きつりながらもその人──レイセン王国第一王子にして、王太子であるテルファ・ライゼンベルトの名を呼んだ。
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