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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

猫の爪

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「いらっしゃいませ。どんな品をお求めですか?」
「あ、このカタログに乗っている──」

 店員さんと思わしき人物に持ってきたカタログを広げ、目当ての商品を伝えようとしたが、何故かギーシャが私を庇うように店員さんとの間に立った。

「ギーシャ?」

 ギーシャの行動を不思議に思い、呼び掛けるがギーシャは店員さんに探るような視線を向けている。

「何か?」
「申し訳ないが、話の前にそのモノクルを外して貰えるか」
「ほう」

 店員さんが面白そうにギーシャを見つめる。
 モノクル?

「ギーシャ、急にどうしたの? いきなりモノクルを取れなんて」
「ミリア、魔法視を使ってみろ」
「え? うん・・・・・・あっ!」

 ギーシャに促されるまま、私は魔法視を発動させた。
 魔法視というのは、目に魔力を集中させて魔力の流れや魔法の属性を調べる魔法だ。イメージとしては魔法専用の眼鏡を作る感じ。
 魔法視を発動させると、ギーシャの目元に集まっている魔力が可視化された。ギーシャも魔法視を使っていたようだ。私はそのままギーシャの目線を追い、思わず目を見開いた。
 全然気づかなかったけど、魔法視のおかげでギーシャが店員さんに対して何故モノクルを外すよう言ったのかがわかった。

 ・・・・・・あのモノクル、魔法道具だ。
 しかも、魔力の動きからして発動している。魔法を使う際は魔法光と呼ばれる光が見えるものだけど、一流の魔法道具技師なら魔法視を使わなければ目に見えないほど魔法光を抑えられると訊いたことがある。よほどの匠の作なのだろう。
 モノクルが纏っている魔力は紫色をしていた。あれは精神系統の魔法光だったはず。

「発動状態の魔法具、それも精神系統・・・・・・商人だったらどういう思惑で使用しているか察するが、こちらとしてはそのモノクルを外す気がないのなら、相応の対処をせざるを得ないのだが」
「それは失礼しました。レイセン王国第三王子ギーシャ・ライゼンベルト様」

 店員さんは意外なほどあっさりとモノクルを外した。それを少し手のひらで転がすように遊ばせて、そのまま近くのテーブルの上に置く。
 私は店員さんがギーシャの名を呼んだことに一歩後ずさった。

「ああ、そう警戒しないでください。ミリア・メイアーツ様」
「や、無理です」

 私はギーシャの腕を両手でしっかと掴み、首をぶんぶん横に振った。
 なんでこの人、ギーシャだけじゃなくて私の名前まで知ってるの。ギーシャは人前に姿を出すのを好ましく思わないから、ここら辺の人がギーシャの姿を知ってるわけないし、私だってこの人にあった覚えも、顔を覚えられる場所に出た記憶もない。
 可能性としてはあの精神系統の魔法道具だけど、というか、それしか考えられない。
 魔力の高い人間に精神系統の魔法は効きにくいのに・・・・・・。

「貴方、何者ですか? 出で立ちからしてレイセン王国民ではないように見えますが、一体どこからこれほどの魔法道具を仕入れているのですか?」
「知りたいですか? 知りたいんですね? 企業秘密です!」

 おちょくってるのかな? 
 少しかちんと来たけど、まぁレイセンでは競争率の激しい魔法道具の仕入れ先を開示しないというのは珍しいことではないし、魔力持ちなら手に取れば品質を大体測ることもできるから製造元がわからなくても支障ないけど。
 そう考えて仕方ないと思った。が。

「なーんて、冗談です! 実はうちの商品はうちで作ってるんですよ!」

 前言撤回。やっぱりこの人、からかってきてる。

 自分の機嫌が急降下するのを感じながらも私は、猫ではなく魔物の口に飛び込んでしまったのではないかという気になってきた。

 なんで、卒業パーティーに使う魔法道具を買いに来ただけなのにこんなことになってんだ?
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