修羅場を観察していたら巻き込まれました。

夢草 蝶

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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

銅貨二枚の貸し

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「・・・・・・あんにゃろ」
「おーい、どしたー?」

 判明したネジ変形事件の犯人に、私はテーブルに突っ伏して恨みがましい声を上げる。
 エリックさんは私の反応を確認するように、目の前で手をぶんぶん振っている。

「心当たりあるのか?」
「えーと・・・・・・その、ですねぇ。色々あってですね、内緒というか、守秘義務というか──」
「あー、うん。言えないのは分かった。訊いたら面倒臭そうだからいいや」

 昨日のあれ、狙いはマリス嬢だったみたいだけど、ギーシャが巻き込まれたり、主犯が魔法管理局の関係者だったりしたから、当然詳細は口外無用にされている。
 エリックさん的にも、裏に厄介な事情があるのを悟ったらしく、巻き込まれたくないのか詮索はされなかった。
 それにしても、イクスだ。
 すでに、愉快犯という印象が深層心理にまで定着してしまったのか、脳内で勝手に「あはは~」と呑気に笑ってダブルピースをしてくるイクスが浮かんでくる。
 思わぬところで二次被害を食らってた。とはいえ、イクスのこのことは知らないだろう。この件に関しては悪気ないんだろうけど、それでも腹立つわー。

「でも、この調子だと他の聖光石の部品もダメになってるだろうから、一旦分解して総入れ換えするわ。これ、一旦猫の爪に持ってっていいか? すぐ済むから」
「はい。よろしくお願いします。溶けてしまった聖光石の弁償をしたいので、請求書を頂けますか?」

 これは当然、シーエンス家の修繕費に上乗せして請求する。絶対にだ。
 にしても、聖光石。お値段が怖い。

「ん? 別にいらないけど」
「何言ってるんですか。こちらの過失ですので支払わせて下さい」
「いや、確かに変形したし、聖光石の性質からして元の形には戻せないだろうけど、浄化すれば魔法核として充分に使えるから別に──」
「そういう訳にはいきません。けじめはつけておかないと」

 食い下がる私に、エリックさんは困った顔をして頭を掻いた。

「分かった。俺、金の話は興味ないし、する気もないから、そういう話はロイドにしてくれ」

 エリックさんはずずーっとストローでアイスチョコレートを最後まで飲み干し、話はここまでと立ち上がった。

「じゃ、猫の爪に行くぞ」
「は、はい。ちょっと待って下さい!」

 私は温くなってしまった紅茶を一気に飲んで、エリックさんの後に着いて行った。
 店を出る前に、カウンターでお会計を済ませる。が、問題が発生した。

「紅茶とアイスチョコレート。合わせて白爪草の銅貨一枚ね」
「えーと、割り勘すると私が菫の銅貨二枚で、エリックさんが菫の銅貨三枚ですね」

 メニュー表に書かれていた金額を思い出して、ポケットに手を突っ込み、財布を取り出そうとする──が。

「・・・・・・あ」

 お財布、忘れた。
 さーっと血の気が引く。
 今朝、寝坊しかけてバタバタしたから、お財布持ってくるの忘れてた。ど、どうしよう。

「どうしたんだ? 急にわたわたし出して」
「いえ! 大丈夫です! 何でもないです!」

 と、とりあえず、一旦外に出て、御者さんに借りよう! それなら、帰ってすぐにお返し出来るし。

「ひょっとして、財布忘れたとか?」

 ぎくり。

 図星を突かれて、固まってしまった。
 だらだら汗をかいていると、エリックさんは巾着型の財布を取り出すと中から白爪草の銅貨を一枚出して、カウンターに置いた。

「じゃ、これで」
「え? え?」
「ありがとうございましたー! またお越し下さいませ」

 店員さんのきらきらスマイルに見送られ、私たちは店を出た。

「エリックさん、すみません。あの代金・・・・・・今、お財布なくて」
「別にいいって言っても、あんた気にしそうだな。これは貸しにしとくわ」
「貸し」
「そ、どうせ、これ返却する時にもう一度来るだろ? そん時でいいから、利子つけて返して」
「利子ですか。何パーセントでしょうか?」
「いや、金じゃなくて、レイセンの女が気に入りそうなもん教えて欲しい」
「レイセンの女性が?」

 突然の要求に私は首を傾げた。

「うん。今流行っている装飾品のデザインとか、人気の魔法道具とか」
「あ、ひょっとして新商品のための調査ですか?」
「ああ。俺は装飾品とかはあんま作んないけど、仲間に専門にしてる奴がいて、レイセンの人間に直接訊きたがってたから。公爵令嬢なら、そういうの詳しいだろ?」
「私はあまり流行に敏感な方ではないんですけど──お母様とお姉様がそういうの詳しいので、訊いてみます」
「頼む。銅貨二枚にしては高い利子だけど」
「お安いご用です! 立て替えて頂いて、ありがとうございます」
「どーいたしまして」

 エリックさんにお礼を告げて、私たちは馬車に乗り込んだ。
 馬車は走り出して、猫の爪に向かう。

 猫の爪。

 昨日、ギーシャやお父様が猫の爪のことを気にしていたのを思い出して、私は世間話の体でエリックさんに訊ねた。

「エリックさん、猫の爪って今までどんな国で商売をしてたんですか?」
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